宙畑 Sorabatake

衛星データ入門・基礎

GOSAT-GW(いぶきGW)の打上げはH-IIAロケットのラストフライトで! GOSAT-GWのスペックと役割

2025年6月29日、種子島宇宙センターからH-IIAロケット50号機で打ち上げ予定の地球観測衛星「GOSAT-GW」について、その概要と役割を紹介します。

2025年6月29日(日曜日)、種子島宇宙センターから、環境省・国立環境研究所・JAXAが共同で進める最新型地球観測衛星「GOSAT-GW」(正式名称:温室効果ガス・水循環観測技術衛星、愛称はいぶきGW)が、H-IIAロケット50号機により打ち上げられます。

ちなみに、H-IIAロケットは今回がラストフライトとなり、後継機となるH3ロケットに基幹ロケットの座を譲ることとなります。

GOSAT-GWを打上げる目的とスペック

では、GOSAT-GWはどのような目的をもった衛星なのでしょうか?

GOSAT-GWのGWとは、「温室効果ガス(Green House Gass; GHG)」と「水循環(Water cycle)」を同時に観測できるハイブリッド衛星で、「いぶき」シリーズと「しずく」シリーズの後継機にあたります。温室効果ガスと水循環を観測するため、2つのセンサを搭載しています。

上の丸い大きなアンテナがついているのAMSR3で1.5秒に一回転します。下の大きな四角い穴空いているのがTANSO-3です。

1.温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)

GOSAT-2で採用していたフーリエ変換分光計(FTS)方式ではなく、回折格子方式を採用したことが大きな変更点です。

詳細は公式HPを見ていただければと思いますが、FTS方式では近赤外から熱赤外までの広い波長域で高い分光分解能を得られることに対して、回析光子方式では、詳細な排出源近傍の観測において必須となる高空間分解能化、及び広い観測幅での温室効果ガス濃度の画像化の実現が目指されました。

数値としては、最大で911kmの広域観測(10km解像度)と、3km解像度で90km幅の精密観測が可能。地上の排出源の分布や濃度を高精度観測できる大きな進化となります。

2.高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)

雲や雨雪を透過し、水蒸気・降雪など水循環に関わる情報を24時間・全天候でとらえます。従来のAMSR2に比べ、波長分解能の拡張を行なったセンサーとなっています。

具体的には166GHz帯・183GHz帯の観測機能を新搭載したことで、精度と観測可能項目が拡張され「降雪や陸上水蒸気の観測が可能」になりました。

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以上がGOSAT-GWに搭載された2つのセンサです。

衛星自体は質量約2,600 kg(燃料込み)、設計寿命7年、発生電力約5.0–5.3 kW、太陽同期準回帰軌道・高度666 km・昇交点13:30±15分通過という仕様で、一般的な大型の地球観測衛星といえます。

高度は、すでに打上げられ、今もなお運用中のGOSATシリーズ「いぶき」と同じ高度で運用されます。

過去の地球観測衛星からのアップデートは? スペック比較

すでに打ち上がっている地球観測衛星とGOSAT-GWのスペックを比較した結果は以下の通りです。

いぶきシリーズ(GOSAT/GOSAT-2)との比較

従来のGOSAT〜GOSAT-2では、CO₂・CH₄の観測でしたがGOSAT-GWではそれらに加え、二酸化窒素(NO2)も観測します。

NO2は化石燃料の燃焼時にCO2と共に排出されるため、NO2を同時に測定することで、人為起源のCO2排出源を特定し、排出量を高精度に推定することが可能になると期待されています。

また、点での観測は10km解像度・6日間隔で行ってしていましたが、TANSO-3は広域モードで10km解像度かつ911km幅を、精密モードでは3km解像度で90km幅を面観測できる方式に進化しました。これにより、観測データ数は従来シリーズの100~1,000倍に増加し、排出量推定の精度と透明性が飛躍的に向上します。

しずくシリーズ(GCOM-W/AMSR2)との比較

GOSAT-GWは温室効果ガスのみならず、水循環の観測も行います。同様な観測をする地球観測衛星「しずく」は、海面温度、降水量、水蒸気を軌道高度約700 km・回帰日数16日、設計寿命5年で観測していました。

その点、GOSAT-GWは軌道高度666 km・回帰日数3日・軌道寿命7年となり、大幅な性能向上を果たしています。

GOSAT-GWは私たちの生活にどのような影響・メリットがある?

では、GOSAT-GWが打ち上がることで、私たちの生活にどのようなメリットが期待されているのでしょうか?

例えば、GHGSatが展開する超小型衛星による高解像度のメタン検出(20 m分解能)は、非常に局所的な排出源を特定できます。このデータをGOSAT-GWの観測と連携させることで、「面(広域)×点(局所)」のハイブリッド監視が可能になります。

具体的には、油ガス施設や石油パイプラインなどの大規模排出源を、GHGSatが発するアラート(Tips)をもとに、GOSAT-GWがCueとして広域モニタリングシステムの構築が期待されます。

このようなサービスは、GHGSat・三菱UFJ銀行・衛星データサービス企画が協業して進めており、オイル・ガスセクター、天然ガス事業者、自治体向けの排出量可視化・モニタリング・削減支援に提供できる展開が見込まれています。

実績のある共通バス採用で信頼性を確保しつつコスト削減

GOSAT-GWは従来のGOSAT-2で実績がある衛星バス(人工衛星の基本的な機能を担う部分)を使用しています。

2つのセンサの土台となっているのが、GOSAT-2でも実績がある衛星バス

さらに共通バスの上にGOSAT-GW用の2つのセンサAMSR3とTANSO-3を載せることで過去資産を活用しつつ、センサーの相乗りでの運用が可能になっています。センサーを複数搭載することで、これまで起きなかった振動の問題などを解決する必要があったとのことです。

最終的には設計寿命の延長(5→7年)や、相乗り構成によるコスト削減も達成しており、安定長期観測を支える信頼性に優れた衛星に仕上がったと言えるでしょう。

広域観測で世界の環境監視基盤に

GOSAT-GWは単なるGOSATシリーズやGCOMシリーズの後継機ではなく、グローバルな環境観測や気候変動対応の基盤を強化する役割を持つ衛星です。

広域モードと過去資産を活用した長期的なデータ提供でいつでも地球全体を網羅しつつ、精密モードで重点地域を高空間解像度でとらえる方式により、CO₂・CH₄・NO₂といった主要温室効果ガス(GHG)の時空間分布を高頻度に把握できます。

これにより、以下の3点で国際的な役割を担っていくことになります。
1.国別・地域別排出量の客観検証が可能となり、国際的なグローバル・ストックテイクへの貢献を強化
2.油ガス、発電所、農業/埋立地などの大規模排出源の動向監視により、排出削減への政策・事業者対応支援が充実
3.異常値アラームやリアルタイム可視化により、企業や自治体向けの環境マネジメントサービス展開

実際に2025年06月23日には、LNG産消会議2025において、国連環境計画の国際メタンガス排出観測所等と、GOSAT-GWを活用することが合意されたとの発表もありました。

これらの役割を充分に果たせれば、気候政策・脱炭素社会などの分野の研究結果の解像度が増すこととなるでしょう。6月29日の打上げとその後のGOSAT-GWの活躍にぜひご注目ください。