宙畑 Sorabatake

企業人インタビュー

「共感できるかどうか」Frontier Innovationsの西村竜彦氏・浜野豊氏が明かす、スタートアップ投資・支援で大切にしていること【後編】

日本の宇宙産業の10年の変化とエコシステムの発展について、Frontier Innovationsの西村竜彦さんと浜野豊さんにお話を伺った特別インタビューの後編。投資判断の具体的なプロセスや第2世代・第3世代の宇宙スタートアップに対する期待について伺いました。

前編では、日本の宇宙産業の10年の変化とエコシステムの発展について、Frontier Innovationsの西村竜彦さんと浜野豊さんにお話を伺いました。

後編では、投資判断の具体的なプロセスに焦点を当てます。上場を果たした5社への投資を決定する際、何を最も重視したのか。また、IPOとM&Aという2つのEXITの選択肢、大企業との協業のあり方、そして第2世代・第3世代の宇宙スタートアップに対する期待についても詳しくお伺いしました。

「この人を応援したい」と思えるかどうか

宙畑:上場を果たした宇宙スタートアップ6社のうち、西村さんは5社に投資してきています。どのような基準で投資を判断されていたのでしょうか。定量的な面と定性的な面、両方からお聞かせください。

西村:定量的な評価はもちろん行いますが、定性的な要素も非常に重要です。シードやアーリーステージでリード投資家として投資する際は、経営陣を見て「この人たちを応援するべきか、応援したいか」という判断が最も重要になります。

宇宙・ディープテックであればすばらしい技術を持っていることは前提ですが、技術や研究開発は人に依存するものでもあります。その人たちが過去に手がけてきた実績を見て、熱量を感じ取り、「今度挑戦しようとしている研究開発も、この人たちなら必ずやり遂げてくれるだろう」と判断しています。

開発のリスクを理解したうえで、成功の可能性が十分にあるかどうか。要素を分解して考えながら、投資実行を決めていますね。

宙畑:人を見るというのは、具体的にどのような点を見ているのでしょうか。

西村:難しい領域になぜ挑戦するのか、どこに情熱を燃やしているのか、その情熱の背景は何なのか。そのうえで、私たちが共感できるか、その人を応援したいと思うかということです。

我々が応援したいと思うということは、これからさまざまな人を巻き込んで難しいチャレンジを乗り越えていくときに、「この人なら共感を呼んで、それぞれのステージで適切な応援者を巻き込めるだろう」と期待できますよね。

宙畑:上場した5社は事業内容が大きく異なりますが、起業家に共通する資質はありますか。

西村:皆さんに共通しているのは、その人が持っているストーリーです。アストロスケールホールディングスの岡田さん(創業者兼CEO岡田光信氏)やispaceの袴田さん(代表取締役CEO&Founder袴田武史氏)は、自身の挑戦に対する明確なストーリーを持っています。そして普通の人では思いつかないし、躊躇してやらないようなことに挑む背景として、努力してきたことや信念、蓄積してきたネットワーク、知見がある。そういった話を聞くと、困難なチャレンジでも、「この人ならやってくれそうだ」と思えます。

QPS研究所の大西さん(代表取締役社長CEO大西俊輔氏)の場合、八坂先生(ファウンダー九州大学名誉教授八坂哲雄氏)の研究室で学び、九州大学大学院を修了して就職先に選んだのが、定年退職した先生方3人(当時の平均年齢は70歳超)で構成され、当時3人が引退するときには店じまいを考えていた同社でした。八坂先生も最初は別の道を勧めたそうですが、大西さんが「九州に宇宙産業を根付かせたい」「このつながりを継続させたい」と直訴し、最終的に入社を認めてもらったんです。そして入社からわずか半年後に社長に就任することになりました。

そこまでしてやりたいと思う気持ちは、やはり応援したくなりますよね。

2025年11月に開催された、QPS 研究所ファウンダー八坂哲雄先生の国際宇宙航行連盟(IAF)「Hall of Fame (殿堂入り)」受賞記念イベントでの1枚。西村さんがファシリテーターとなり、QPS研究所の八坂先生、大西社長の歩みが語られました。

西村:特に、私が在籍していたINCJは政府系ファンドなので、投資までのプロセスは非常に厳格でした。税金をお預かりして運用していますし、当然のことだと思います。投資委員会や投資検討の過程で、さまざまな質問や指摘を受けるため、ディールチームも多角的に検証し、すべてを深く理解していないと説明ができません。

そうした重いプロセスを受け入れて、大きな成長資金を獲得し、自分たちのビジョンに向かって進んでいく——そのような厳しい過程を一緒に乗り越えることで、経営者の本気度やパッションが見えてきましたね。

共感できるかどうかは非常に大切な要素です。現在のFrontier Innovationsの投資先も、経営チームの皆さんを応援したいと心から思える、共感できる方々ばかりですので、そこは最も重視している点ですね。

事業計画よりも大切なこと

宙畑:定量的な評価についても教えていただけますか?

西村:基本的な事業計画と財務状況はもちろん見ます。ただ、スタートアップの事業計画は事業が進捗すれば変わっていく事が当然ですし、その意味で、宇宙産業に限らずこれまで投資してきたスタートアップで事業計画どおりになった会社は一つもありません。

むしろ重要なのは、経営に対する考え方です。どのように事業を運営していくつもりか、資金をどれぐらい必要と考えているか、それをどうやって調達する計画か、事業を加速させるとしたらどのような方法を考えているか、正しくリスク認識しているか、……そうした点を重視しています。

宙畑:資金の使い方を重視されているということですね。

西村:例えば、QPS研究所の前代表取締役副社長COO、市來敏光さんは、こんなに信頼できる経営者はなかなかいないと思うような方で、全てにおいて真剣勝負でした。例えば、事業計画や資本政策のすべてが予定どおりに進むということはなかったのですが、支出の金額がびっくりするぐらい予定どおりなのです。これほど精緻な予実のコントロールは、スタートアップ業界では見たことがありません。

金額が何パーセントずれているかという、数字の正確性を重視しているのではありません。そういった経営管理能力や、真剣勝負の眼差し、経営者として約束したことを必ず守るという姿勢に、本当にしびれますね。最大限にリスペクトできるからこそ、心の底から応援したいと思いますし、「この人に成功してもらいたい」という気持ちで一緒に取り組んできました。

宙畑:アストロスケールの岡田さんから1年目と2年目は黒字だったということも伺ったことがあります。

西村:スタートアップとしては事業への投資で赤字が先行する事が当然である為、初期から黒字であるということというよりは、岡田さんがそうした意識を持って経営していることはすばらしいと思いました。投資家の目線を意識したり、チームをまとめるために黒字を目標にしたりという、経営者としての姿勢をリスペクトしています。結果そのものではなく、そういう意識を持って経営されていることが重要なのです。

IPOは通過点、上場後も挑戦は続く

宙畑:ファンドの償還期間を15年(注:ファンド期間は12年+最大3年の延長)に設定されているのも、Frontier Innovationsの特徴的な点だと思います。その背景をあらためて教えていただけますか。

西村:宇宙やディープテック分野は技術的に難しく、計画が遅れがちで必要資金も増える傾向があります。そのため投資から上場やM&Aといったマイルストーンに到達するまでには、長い時間がかかると考えています。

そうすると一般的なVCファンドの10年という償還期間では時間が足りないため、LPの皆さんにご理解いただき、最大15年という長めの期間を設定しています。

宙畑:IPOを目指す場合、経営陣が意識すべきポイントは何でしょうか。

西村:IPOはあくまで通過点なので、その先を意識して持続的な成長を目指していかなければいけません。上場する前は我々のようなVCをはじめとする応援者やサポーターと頑張れば良いのですが、上場後は機関投資家や個人投資家といった一般の投資家と向き合うことになります。

つまり、必ずしも自分たちのファンではない人たちを相手にする必要があるということです。そうなると、本質的なプロダクト、技術、チーム、業績……これらすべてが大切になってきます。そこを強く意識すべきだと思います。

私は現在もQPS研究所とRidge-iで社外取締役を務めていますが、スタートアップは上場後もさまざまな課題に直面します。上場は大きな節目ですが、それで経営が楽になるわけではありません。むしろ四半期決算短信や適時開示、株主への説明など、新たな責務が加わります。上場してからも継続的に成長し、投資家の期待に応え続けることが求められるわけです。

宙畑:M&Aという選択肢についてはいかがでしょうか。

西村:Ridge-iは、INCJの投資から上場まで3年という短期間で成果を生むことができた事例です。

一方で、INCJとしては事業会社に持分譲渡をしてExitすることで、スタートアップ・事業会社がWin-Winになった事例です。まず、INCJの持分の一部を、AIスタートアップと資本業務提携の要望があった東証プライム上場の素材製品メーカー、バルカー様にお譲りしました。その後、バルカー様とRidge-iの協業が順調に進展したことで、先方から「もっと資本関係を深めたい」というご要望があり、我々としても協業・資本関係を更に深めて頂く事がRidge-iの事業や企業価値向上に資すると考え、経営陣とも相談の上、最終的には残りの持分もすべてお譲りする形となりました。その後、Ridge-iの経営陣は見事に、予定通りの2023年にIPOを成功させています。

Ridge-iは最終的にIPOとなりましたが、このようにしっかりと付加価値を創造して認めてもらえれば、M&AによるEXITも選択肢になりうると思います。

そして、アメリカほど簡単ではないにしても、研究開発で積み上げた価値をしっかりと伝えられれば、宇宙・ディープテック分野のM&Aも増えてくると思います。成功事例が増えれば、「そういう選択肢もある」ということに多くの人が気づくでしょう。

また、M&Aを成功させるには、買い手側にも大切なポイントがあります。まず、スタートアップの価値を正しく評価すること。そして研究開発段階の企業であれば、買収後もその研究開発や事業運営を現場のチーム主導にするなど、スタートアップの良さを活かすことです。

そうした懐の深さを持って買収・協業していくことが、本当の意味での成功につながっていくものと思います。

大企業とスタートアップの理想的な協業

宙畑:大企業とスタートアップの協業についてはどう見られていますか。

西村:スカパーJSATとQPS研究所の取り組みは、大企業とスタートアップの象徴的な協業事例だと思います。

2021年12月にQPS研究所はスカパーJSATおよび日本工営それぞれと衛星データ事業での戦略的業務提携を発表

西村:まず、シリーズBラウンドで事業会社がリード投資家として参画すること自体、日本では珍しいケースです。しかも、米倉社長(スカパーJSATホールディングス代表取締役社長米倉英一氏)が「QPSと一心同体だ」と言われるほど、トップダウンでもさまざまな支援を行っていました。

結果として、お互いのビジネスが成長するシナジーを築けています。これこそ、理想的な組み方だと思いますね。

宙畑:スタートアップが大企業に期待することは何でしょうか。

西村:大企業は、大企業の方にとっては当たり前であっても、スタートアップからするとのどから手が出るほどほしい豊富なリソースを持っています。少し力を借りるだけで、大きなレバレッジがかかる可能性もあります。

大企業のリソースを活用させてもらい、Win-Winとなる関係を築きながらスタートアップが成長していく。そのような協業に前向きな大企業が増えなければならないですし、そのためにも従来より一歩二歩早い段階でリスクを取ってもらわなければいけないと考えています。

人材の循環がエコシステムを成長させる

宙畑:これからの日本の宇宙スタートアップはさらにもりあがりそうでしょうか?

西村:「この人たちは上手くいくだろう」「技術が素晴らしい」と思う第2世代、第3世代の会社は多いと思います。本当にすばらしい会社があるので、宇宙スタートアップの成功は一定程度続いていくと期待しています。

もちろんマーケットには浮き沈みがありますし、まだ課題もありますが、本質的にしっかり取り組んでいる経営者たちが実際に成果を出し続けています。こうした状況を見る限り、引き続き成長していくでしょう。

宙畑:現在の日本の起業環境についてはいかがですか。

西村:日本の環境は決して悪くありません。例えばispaceは創業以来、資金調達額としては700億円を超えています。これを海外の宇宙ベンチャーと比較してみると、ニュージーランド発のロケット開発企業(現在は様々な宇宙事業を垂直統合)のRocketLabは、上場までの調達額が当時のレートで500億円弱です(2026年1月12日時点の時価総額は約470億米ドル)。

アメリカの巨大なベンチャーエコシステムと比べれば規模は小さく見えるかもしれませんが、十分に立派な水準です。政府の皆さんからの力強い支援もあります。実際、このような資金をベースに研究開発を進めて成果を上げ、次のステージに進んでいる会社が数多くあります。

日本の起業環境は決して劣っていません。むしろ、この環境でリスクを取って本気で挑戦する起業家には、大きな成功のチャンスがあると思います。

宙畑:エコシステムの人材の循環についてはいかがでしょうか。

西村:一つの例として、スカパーJSATからQPS研究所に出向されていた方が、その経験を生かして新たな宇宙スタートアップのキーパーソンの一人になっています。同社からカーブアウトして創業されたOrbitalLasersという会社で、レーザーによるスペースデブリ除去に挑戦しているのです。

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西村:こうした人材の動きも含めて、エコシステムの成長を実感していますね。

「リスクがあるところにこそリターンがある」

宙畑:最後に、宇宙ビジネスでの起業を考えている方々へのメッセージをお願いします。

西村:確かに難しいチャレンジですが、リスクがあるところにこそリターンがあります。宇宙ビジネスはグローバルな挑戦で、大きなやりがいもあるので、ぜひチャレンジしてもらえたらと思います。

私たちは幸運なことに、IPOを成功させた日本の宇宙スタートアップ全6社(シンスペクティブ含む)の経営者の皆さんを知っていますが、それぞれが本当に志高く、愚直に、情熱を持って取り組んでいらっしゃいます。そうした先輩方に続く起業家が増えることを心から願っていますし、新たな成功事例を生み出して、さらに次世代につなげていってほしいと思っています。

浜野:しっかりと意志を持って挑戦している方々は、いつでも歓迎です。挑戦する上で課題があれば、私たちが喜んでサポートします。一緒に宇宙産業を盛り上げていきましょう。

Frontier Innovationsが主催する宇宙スタートアップ 起業家・CXO 育成プログラム

Frontier Innovationsでは、宇宙領域での起業やCXOとしての経営参画を目指す方を対象とした育成プログラムを開催予定とのこと。

受講期間は2026年3月12日から5月28日まで、隔週木曜日の19:00~21:00開催で全6回のプログラムとなっています。募集人数は最大30名で申込の〆切は2月27日まで。

ご関心のある方は、ぜひこちらよりプログラム内容を確認してみてはいかがでしょうか。