宙畑 Sorabatake

安全保障

QPS、Synspective、アクセルスペースに注目!防衛省による5年で2,831億円という大規模衛星コンステレーション事業の3つのポイント【宇宙ビジネスニュース】

防衛省が2,831億円の衛星コンステレーション事業を契約。政府が大口顧客となり国産コンステレーションを育成する仕組みや参画企業を解説します。

2026年2月20日、防衛省は「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」の契約内容を公表しました。

契約金額は2,831億円(税込)です。契約相手は三菱電機、スカパーJSAT、三井物産の3社が設立した特別目的会社「トライサット・コンステレーション」です。契約期間は2031年3月31日までの約5年間となっています。

宙畑メモ:特別目的会社(SPC)とは
特定の事業を遂行するためだけに設立される会社のこと。本事業では防衛省がSPCの設立を入札要件として指定しています。親会社の経営状況から事業を切り離すことで、長期にわたる安定的なサービス提供を担保する仕組みです。

本事業の目的は、スタンド・オフ防衛能力の実効性確保に必要な画像情報を高頻度かつ優先的に取得することです。

宙畑メモ:スタンド・オフ防衛能力とは
脅威圏外の離れた位置から目標に対処することで、外部からの攻撃を効果的に阻止する能力のこと。自衛隊員のリスクを低減しつつ効果的な防衛を可能にします。

2025年7月に防衛省が公表した「宇宙領域防衛指針」では、この能力の実効性確保のため衛星コンステレーションによる情報収集能力強化を掲げています。

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現状の民間商用の地球観測衛星では、国が求める頻度やタイミングで画像を取得できるとは限りません。

商用衛星は複数の顧客からの撮像依頼を受け付けており、国が特定のタイミングで画像を必要としても、他の顧客の予約が優先される場合があります。また、高頻度での同一地点観測には多数の衛星が必要ですが、現状の衛星機数では限界があります。他国政府によるシャッターコントロールで有事の際に画像が入手できなくなるリスクもあります。

本事業では国が撮像優先権を有する国産衛星でこうしたリスクを回避します。

宙畑メモ:シャッターコントロールとは
商用衛星の撮像やその利用(特に政府が購入したデータの配布)を、政府が安全保障上の理由などで制限する措置。米国では、政府が安全保障上の理由から商用衛星の撮像を制限できる仕組みが存在するとされています。ただし、実際の発動は極めて限定的とされています。

日本が海外衛星に依存していると、有事や国際情勢変化により衛星画像の入手が制限されるリスクがあります。そのため、本事業では国産衛星による画像取得を重視しています。

2,831億円、政府の長期需要、大企業×スタートアップ連携の3つの注目点

本事業にて押さえておきたいポイントは3つだと考えられます。

1. 5年間で2,831億円、国内宇宙産業に大きなインパクト

Xバンド防衛通信衛星「きらめき」のPFI事業は約18年間で約1,220億円でしたが、本事業は約5年間で2,831億円 (税込) です。

参画する宇宙スタートアップ3社(いずれもすでに上場しているSynspective、QPS研究所、アクセルスペース)の直近売上高合計は約60億円。本契約は上記規模を大きく上回っており、国内宇宙産業にとって大きなインパクトを持ちます。

2. 政府が長期需要を約束、国産コンステレーションの成長基盤に

本事業では、政府がアンカーテナント(大口顧客)となるPFI方式を採用しています。

宙畑メモ:PFI(Private Finance Initiative)とは
民間の資金やノウハウを活用して公共施設の整備・運営を行う手法。従来の公共事業と異なり、民間事業者がサービス提供の主体となり、官はサービスの購入者となります。

宙畑メモ:アンカーテナンシーとは
政府が民間サービスの大口顧客(アンカーテナント)となることで、民間事業を経済的に成り立たせる調達手法。NASAなどが民間宇宙企業の育成に活用してきました。NRO(米国国家偵察局)も同様の考え方で商業画像契約を拡大しています。

本事業では民間企業が衛星を保有・運用し、国は撮像優先権を確保します。国が使わない時間帯は民間への販売も可能です。政府が長期安定需要を約束することで、スタートアップは事業基盤を強化しながら民間市場も開拓できます。

米国でも同様のモデルが機能しています。NROは2022年、Maxar、BlackSky、Planetと10年間で数十億ドル規模の商業画像契約を締結しました。

本事業も同様の考え方です。2,831億円・約5年という長期コミットメントにより、スタートアップ3社は事業基盤をより強固なものにすることが可能となりました。

3. 三菱電機・スカパーJSAT・三井物産とスタートアップ3社の連携

また、本事業に関連する契約座組を以下にまとめています。

冒頭で紹介した通り、三菱電機、スカパーJSAT、三井物産の3社がSPC「トライサット・コンステレーション」を設立。このSPCが防衛省と契約を締結し、事業全体を管理します。

SPCは各社と業務委託契約を締結しており、公表資料で金額が確認できる主な契約は下記の通りです。

◆トライサット・コンステレーション、三菱電機、Synspective:契約額1,056億円 (税込)
◆トライサット・コンステレーション、スカパーJSAT、QPS研究所:契約額697.3億円 (税抜)
◆トライサット・コンステレーション、三井物産エアロスペース、アクセルスペース:契約額480.7億円 (税込)

各社には長年の関係があり、今回の契約はその連携が結実した形です。

三菱電機は2024年にSynspectiveへ出資しパートナーシップを締結しました。スカパーJSATは2021年からQPS研究所に出資・協業しています。三井物産エアロスペースの親会社である三井物産も2015年にアクセルスペースへ出資し、業務提携を開始しました。

衛星で撮って、地上に届ける。事業を支える3つの業務

本事業は3つの業務で構成されています。

画像データ取得業務

本事業の中核となる業務です。この業務には、衛星コンステレーションの整備(衛星の製造・打上げ)と、整備した衛星からの画像データ取得の両方が含まれます。

コンステレーションは、新規調達衛星を基本としつつ、条件を満たす既存衛星の活用も可能で、SAR衛星はSynspectiveとQPS研究所が、光学衛星はアクセルスペースが担います。SAR衛星と光学衛星については下記を参照ください。

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業務要求水準書では、複数の要件が定められています。例えば、空間分解能(どれくらい小さなものまで識別できるか)、観測幅・観測領域(1回の撮影でカバーできる範囲)、撮像から画像提供までの時間、再訪頻度(同じ場所を何時間おきに撮影できるか)などです。

繰り返しになりますが、防衛省は「撮像優先権」を持ち、国が使わない時間帯は民間販売も可能です。

専用地上施設運用等業務

本業務では、撮像した画像を受信・処理し、防衛省に届けるための地上インフラを整備・運用します。この業務は大きく2つに分かれます。

1つは「統合運用システム等」の整備・運用です。防衛省が撮像要求や撮像指示を行い、最適な撮像計画を自動立案し、取得した画像データを表示・配信する機能を担います。防衛省側に設置した端末から操作できる仕組みです。

もう1つは「専用地上局」の整備・運用です。衛星から送られてくる画像データを受信するアンテナ設備で、国内に新設または既存施設の増築等により整備されます。

全般管理業務

SPCが担当する事業全体のマネジメント業務です。

SPCは、画像データ取得や地上施設運用を担う各社の進捗・品質管理、防衛省との調整、リスク管理などを行います。

なお、防衛省も業績監視や撮像指示の発出、飯岡地上局の維持管理、通信回線の提供などを担い、官民の役割分担が明確に設計されています。

2026年度始動、2027年度末から本格運用の5年プロジェクト

上記3つを5年かけて進めることになります。スケジュールは下記のように2段階に分けられます。

◆2026年4月1日~2028年3月30日:段階的運用期間(コンステレーションを段階的に整備しながら運用)
◆2028年3月31日~2031年3月31日:本格的運用期間(所要の衛星機数が揃った状態で運用)

以上が本事業の全体像です。

大企業とスタートアップの長年の連携を土台に、政府がアンカーテナンシーで長期安定需要を約束する。政府が目指してきた安全保障と宇宙産業の発展の好循環がさらに加速します。国内コンステレーション企業は事業基盤を固め、さらなる成長へと踏み出せます。

また、この取り組みは、安全保障にとどまらず、日本の衛星コンステレーションが強くなり、防災・農業・物流など衛星データを必要とする民間市場へと広がり、経済界全体へと還元されていく。その好循環の第一歩に期待したいと思います。

参考資料

衛星コンステレーションの整備・運営等事業 事業契約の内容の公表について

衛星コンステレーションの整備・運営等事業 業務要求水準書

衛星コンステレーションの整備・運営等事業 実施方針

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