2000億円規模の第3期宇宙戦略基金19テーマ発表。AI・量子技術、衛星開発効率化、民間ロケット実証、制度改善を解説【宇宙ビジネスニュース】
累計8000億円に到達した宇宙戦略基金。第3期の技術開発テーマ3つの特徴と、制度・運用面の改善ポイントを整理しました。
2026年2月、内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省は宇宙戦略基金の第3期技術開発テーマを発表しました。総額2000億円で19テーマを設定し、累計で約80件程度の採択を予定しています。
発表されたテーマは以下の通りです。
第3期の発表により、宇宙戦略基金で発表された技術開発テーマの累計支援総額は8000億円となりました(宇宙戦略基金全体の支援総額は10年で1兆円となっています)。
では、第3期はどのような宇宙技術の開発に焦点が当たったのか。
今回の特徴は「他分野技術との連携・融合による宇宙分野での実証」「宇宙技術の統合による実証の加速」「輸送技術の実証加速・商業化支援」という3点で、2030年代早期に宇宙関連市場を4兆円から8兆円へ拡大するという目標達成に向けた重要な施策となっています。
第1期から第3期までの宇宙戦略基金による支援の全体像を以下の図に示します。
図中の円の大きさはおおよその支援金額規模を表し、オレンジが第1期、青が第2期、緑が第3期です。第3期では特に通信、輸送・射場、軌道上サービス、地球低軌道分野等で投資を加速していることが分かります。
本記事では、第3期の技術開発テーマにおける、先に上げた3つの特徴それぞれの紹介と、制度・運用面の改善について解説します。
第3期の技術開発テーマ、3つの特徴解説
1. 他分野技術との連携・融合による宇宙分野での実証
まずは、宇宙以外の先端技術を積極的に取り込むという特徴についてです。
例えば、「衛星応用に向けた光・量子センシング技術」(150億円程度)では、従来型センサより2桁以上の性能向上により、高精度モニタリングや重力異常検出等のブレイクスルーを目指します。
宙畑メモ:量子センシングとは
量子力学の原理を活用し、従来のセンサーでは難しかった微弱な信号を超高精度で測定する技術のこと。磁場や重力、時間などを桁違いの精度で計測でき、GPSが届かない場所でのナビゲーションや資源探査などへの応用が期待されています。
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宙畑メモ:重力異常検出とは
地球の重力は場所によってわずかに異なります。この違い(重力異常)を検出することで、地下の鉱床や空洞、マグマの動きなどを把握できます。衛星から広域を観測すれば、資源探査や火山活動の監視に役立ちます。
また、「物理AI等による宇宙システムの革新技術」(80億円程度)では、地上での発展も著しいAI技術を宇宙に応用します。
宙畑メモ:物理AIとは
現実世界の物理法則を理解した上で、運動や操作などの行動・判断を実行する人工知能のこと。自動運転やドローン制御などで活用が進んでいます。
具体的には、宇宙機のドッキングやロボットアーム作業の自動化など、軌道上サービスの安全性・効率性向上が期待されています。こうした技術は、宇宙機の航行や軌道上での回避行動など、リアルタイムで高度な判断が求められる場面にも応用が広がる可能性があります。
2. 宇宙技術の統合による実証の加速
続いての特徴は、複数の宇宙技術を統合し、開発から実証までのプロセスを効率化する取り組みです。
例えば、「デジタル技術を前提とした衛星開発・製造プロセスの刷新及び機能高度化の技術開発・実証」(230億円程度)は、衛星メーカー間でアーキテクチャ・インターフェース・モデルを標準化し、費用・工数を1/4〜1/3削減することを目標としています。
宙畑メモ:アーキテクチャ・インターフェース・モデルとは
衛星開発における3つの重要な設計要素のこと。「アーキテクチャ」はシステム全体の設計思想や構造を指します。「インターフェース」は異なる機器やシステム同士をつなぐ接続仕様のことです。「モデル」は設計情報をデジタル化したもので、コンピュータ上で衛星の形状や動作を再現し、実物を作る前にシミュレーションで検証できます。
これらを衛星メーカー間で標準化すれば、部品の共通利用や開発効率の向上につながります。
加えて「宇宙交通管理を見据えた自律性確保に資する事業化加速」(150億円程度)では、衛星やデブリの衝突リスクに対応する観測システム等を開発します。
宙畑メモ:宇宙交通管理(STM)とは
増加する人工衛星やデブリの安全な運用を確保するため、軌道情報の共有や衝突回避を調整する仕組みのこと。航空機の航空管制に相当する概念です。
直近では、SpaceXがStarlinkに搭載されているスタートラッカーのデータを用いて衛星同士の衝突を回避する仕組みの構築に寄与していることが話題になっていました。
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3. 輸送技術の実証加速・商業化支援
3つ目の特徴は、民間ロケットの事業化を強力に後押しする点です。
「民間ロケット打上げ実証加速化」(240億円程度)では、事業化初期段階の民間ロケット打上げ事業者に対し、最大6回の打上げ実証を支援するとしています。
これは第1回航空・宇宙ワーキンググループでも議論された課題に応えるものです。
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さらに「打上げシステムへの洋上活用技術」(90億円程度)では、洋上打上げ・回収システムにより飛行経路の柔軟性向上を図るなど、日本から宇宙への輸送能力の向上に資する技術開発が求められています。
宇宙産業強化に向けた制度・運用の進化
宇宙戦略基金は、単に技術開発を支援するだけでなく、日本の宇宙産業全体を強化する起点として位置づけられています。
上図は産業強化の全体像です。採択案件からステージゲート審査で有望な成果を見極め、政府と民間が両輪となって「世界で勝つプレイヤー」の育成を目指します。
宙畑メモ:ステージゲート審査とは
技術開発の進捗を段階(ステージ)ごとに評価し、次の段階に進むか判断する仕組みのこと。有望なプロジェクトに資源を集中させる効果があります。
この全体像を実現するためには、技術開発テーマの設計だけでなく、制度・運用面の継続的な改善が不可欠です。第3期の基本方針改定では、第1期・第2期の運用を通じて得られた提言への対応が盛り込まれました。
第1期・第2期の知見を第3期に活かす
第1期・第2期の運用を通じて得られた提言と、それらが第3期の基本方針にどのように反映されたかを以下にまとめました。
今回新たに追加反映された項目としては、海外市場獲得と民間資金導入の促進があります。相手国の宇宙機関等からも同様に資金支援を受けた民間企業等との国際共同事業を支援する「Co-funded事業推進枠組み」が基本方針に明記されました。
宙畑メモ:Co-funded事業推進枠組みとは
2025年9月にJAXAが公表した、民間企業による国際市場獲得に向けた国際共同事業を支援する枠組みのこと。海外パートナーとの共同資金による事業推進を後押しします。
JAXAの役割についても整理が進み、「JAXA全体(人員・リソース等)と基金の関係」が示され、柔軟な対応や将来的な調達・協力を見据えた意思疎通、審査会への情報提供も盛り込まれました。
また、有望課題への集中投資や政府調達との連携の仕組みについては、現時点では特段の追加反映がありませんでしたが、全体概要にて「ステージゲート評価に基づく追加原資の調整を関係府省で検討推進」「官側によるアンカーテナントを想定したテーマ設定」という対応方針が示されました。これらは実際の運営の中で反映が進む見込みです。
なお、第3期における基本方針の改定内容の全体像は以下のとおりです。
上記以外にも、支援期間の明確化、支援対象機関の表記変更、大企業子会社の区分整理、研究セキュリティ強化など複数の変更が行われています。
第3期宇宙戦略基金の特徴は、技術面と制度面の両輪で宇宙産業の強化を図る点にあります。
技術面では、量子センシングや物理AIなど他分野の先端技術を積極的に取り込み、衛星開発の標準化や民間ロケットの打上げ実証を加速します。制度面では、Co-funded事業推進枠組みの新設やJAXAの役割明確化により、技術開発から海外展開までの一貫支援体制が整いつつあります。
引き続き、宇宙戦略基金が、日本の宇宙産業を次のステージへ押し上げる原動力となるか注目されます。

