人工衛星から人は見える?~衛星別、地上分解能・地方時まとめ~
衛星画像から人は見えるのか? 衛星画像のスペックを知るための指標「地上分解能」「回帰日数」「地方時」についても合わせて紹介します。
私達にとって一番なじみのある衛星といえば、気象衛星でしょうか。
気象衛星は、地上約35,800km(ちょうど地球一周分)のところから、私達に天気情報を送ってくれています。
そして、最近は地上1,000kmより低いところを人工衛星がバンバン飛んでいることをご存じですか?
気象衛星よりも35倍以上近いところを飛ぶ衛星からは何が見えるのかーー。
もしかして、人の数も数えられるの? いつ撮影しているの?
人工衛星から見えるものと撮影時刻について、主要な衛星それぞれの性能も合わせてご紹介します。
(1)衛星の視力「地上分解能」とは
衛星から何が見えるかを知る前に、衛星それぞれに「地上分解能」という個体差があることをご紹介します。
地上分解能を理解するためには実際に衛星画像を見ていただくことが近道なので、まずは簡単なクイズを。
下の画像は地上700kmを周回するLandsat-8から撮影された衛星画像です。以下の画像の赤丸部分に何があるか分かりますか?
次に同じ場所の写真がこちら。地上786kmを飛ぶSentinel-2から撮影された衛星画像です。なんとなく形が見えてきました。
最後にこちらの写真を。地上500 kmを飛ぶDoveから撮影された衛星画像です。もうおわかりですね。
そうです、正解は飛行機でした。
今回のクイズを通して、地上からの距離が同程度であっても、衛星によって見えるもの・分かることが異なるとお分かりいただけたでしょうか。
そこで、衛星の性能を測る指標としてよく用いられるのが「地上分解能 = GSD(Ground Sampling Distance)」です。
上図のようにISS Flock(Dove)のスペックを見ると3mGSDと説明されています。これは「画像中の1ピクセルで、地上における3mの情報を撮影している」ということを表します。
(カメラの仕組みにも依りますが)地上で3mほどの大きさがある物体を認識可能である、という言い方でも良いかもしれません。
では、地上分解能について学んだところで、本記事のタイトルにあった「人工衛星から人は見える?」について次の章で答え合わせをしましょう。
(2)世界最高峰の人工衛星WorldView4から人は見える!
答えからお伝えすると、現在地球を周回している人工衛星には、人を認識できるほどの地上分解能を持ったものが存在します。
世界最高峰のWorldView4(0.3mGSD)でようやく人が確認できるほどで、以下の衛星画像の黒いぽつぽつが人です。
では、0.61mGSDになるとどうかというと、下の衛星画像のように、ビーチパラソルは見えているのに人がいないという摩訶不思議な画像になってしまいます。
ここでもう一つクイズです。人が見える程度の地上分解能を持つ「WorldView4」の画像を購入するためにはいくら必要だと思いますか?
詳しくは「衛星画像・データの価格まとめと今後の展望」で紹介していますが、最低でも55万円が必要です。
……お高い。購入価格を超えるほどの価値を見出せなければなかなか手が出せる価格ではありません。
そのため、上のイラストは一例ですが、地上分解能別に見えるものを知ること・発見することが重要になります。良く見えるにこしたことはないものの、良く見える画像ほど購入費用が高くなるため、目的に応じて購入する衛星の地上分解能を選べるようになると、衛星利用の幅が広がります。
価格については(6)補足:各衛星画像の購入価格でもご紹介します。
では、WorldView4以外の衛星のスペックはどれほどなのか。主要な衛星の地上分解能、撮影頻度、撮影タイミングを次の章以降でご紹介します。
(3)主要衛星別、地上分解能x観測幅
まず、衛星ごとの地上分解能を知る前に、「観測幅」という指標をご紹介します。
衛星は軌道の進行方向に対して、垂直方向にスキャンしながら撮影します。図に示すように、この際のスキャンする幅のことを観測幅(swath)と呼びます。
観測幅について理解したところで、各衛星の可視光撮影時の「地上分解能」と撮影時の「観測幅」の関係を図示してみたのが以下になります。
上の図を見て、WorldView4は、1 mよりも細かいものも見えてなかったっけ?と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。実は地上分解能を上げるカラクリがあるのです。
もう一つ、地上分解能と観測幅の関係を図示したものが上図になります。こちらはパンシャープンの画像と言って、カラーな可視光の画像に対して、より細かく見えているパンクロ(白黒)画像をかけ合わせることで、疑似的に高分解能なカラー画像を作り上げたものとなっています。パンクロ画像は白黒な分、可視光よりも細かいものが見れるようになっているのです。
1枚目と比べると、1 mよりも細かいものが見れる衛星数が増えているのが分かると思います。
参考までに、SAR衛星による撮影情報も加えてみました。
たとえば、パンクロの画像を利用することで、30 mGSDであるLandsat-8号の写真も、15 mGSD程度の写真になり、パンシャープンの画像の方がよりくっきりしていることが分かります。
(4)衛星の撮影頻度「回帰日数」とは
次に、どのぐらいの頻度で撮影できるの?ということをまとめたのが以下の図。
衛星が同じ地点に戻ってくる頻度のことを、回帰日数と言うため、縦軸には回帰日数と書いています。
SkySat、RapidEye、Flock/Doveが突出して回帰日数が短いのは、複数機打ち上げられており、撮影頻度が非常に高くなっているためです。具体的には13機のSkySats、5機のRapidEye、そして130機を超えるFlock/DovesがPlanet社により運用されています。
目安と書いている理由については、衛星が真上にいなかったとしても、斜めから撮影することで、同一地点を撮影することが可能になることもあるからです。
ただし、斜めから撮影しすぎると、画像が歪む、地上分解能が悪くなる、などの弊害もあるため、各衛星によって限度が存在します。
(5)衛星の撮影タイミング「地方時」とは
最後に衛星のスペックを比較する指標として知っておくと良いのが「地方時」です。
地方時は「いつの時間帯の写真を撮影できるのか?」ということを表します。それをまとめたのが以下の図。
ご覧いただくとわかる通り、各衛星でほぼ同じ時間帯(10~11時頃)で撮影しています。
この理由については、大気が温まる午後になると、水蒸気が発生してモヤが出るため、衛星から写真を綺麗に撮影することが難しい、ということが言われています。
そのため、だいたいの衛星画像は10-11時ころの地上の様子を撮影したものになってしまいます。
また、TeLEOS-1については極軌道ではないため、様々な時間帯に撮影されている可能性が高いです。
(6) 補足:各衛星画像の購入価格
今回、購入可能な画像について紹介しました。
前回の宙畑の記事でも紹介したように、各衛星には最低購入面積が存在します。
これを踏まえて最低購入金額(参考)をまとめてみると、このようになります。
今回は近い過去までのアーカイブデータから画像を購入することを想定し、価格を調べてみました。
やはり、地上分解能の良い画像については、価格が高くなるということが分かります。
(7) まとめと衛星画像スペックの今後の展望
今回は各衛星の地上分解能と、頻度、撮影タイミングについてまとめてみました。
今回の記事を読んで、現状では衛星画像から取得できる情報は、撮影頻度や地上分解能が高い衛星の数が少ないなど、物足りないと思われる方も多いと思います。
撮影頻度の課題については、planet社のような衛星コンステレーションを今後各社が構築することで、撮影間隔は非常に短くなっていくと考えられています。これは時間の問題でしょう。そして、多数の衛星があがることで、撮影される時間帯にも徐々に幅が出てくるはずです。
地上分解能の課題については、1 mを切ることができる小型衛星がちらほらとでてきたことから、技術的なハードルは非常に低くなってきていると思われます。
さすがに0.36 m程度の能力を有する衛星数はそう多くは増えないと思われますが、1 mを切るような小型衛星は今後多数あがっていくでしょう。
つまり、今後数年も経てば、ある場所にある1 m程度の物体については、1日に何度か衛星から撮影することで変化が確認できるような世の中になっていくと考えられます。
重要なのは、このぐらいの地上分解能であればどのような変化が認識できるのかを把握し、その変化からわかる情報をどう活かすことができるのか、ということです。
ぜひ1mGSDの衛星から観測できるものには、今回紹介したもの以外に何があるのか。常日頃から考えながら、どのようなサービスを提供できるようになるか、ぜひ今から構想を膨らませてみてください。
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