宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

ワードクラウドで見る、各国宇宙政策比較(日本、アメリカ、ヨーロッパ)

宇宙開発は、規模の大きい事業であり、かつては、国が主体となって進められるものであった。一民間企業が推し進めるには、技術的・金額的な負担が大きいためである。

はじめに~宇宙ビジネスと国家政策の切っても切れない関係~

宇宙開発は、規模の大きい事業であり、かつては、国が主体となって進められるものであった。一民間企業が推し進めるには、技術的・金額的な負担が大きいためである。しかし、近年では、技術の進歩や投資家からの注目により、民間企業の活躍が目覚ましくなってきている。宇宙業界でのこの新しい動きを”NEW SPACE”という。「民間企業が宇宙ビジネスをする時代」がまさに始まろうとしてる。

では、宇宙ビジネスを考える時、国の影響力が薄くなったかというと、実際のところ、そうでもない(もちろん昔よりは影響は小さいが)。宇宙ビジネスを始めるためには、ロケット開発や衛星開発など大きな初期投資を必要とするものが多く、開発期間が長いため投資回収の時間が長く自社投資も簡単にはいかない場合もある。また、現時点で成立している大きい市場が安全保障、つまり、顧客は結局政府機関であったりする。

各国ではこのような制約のなか、少しでも宇宙ビジネスを発展させるために、様々な政策を打っている。本記事では各国の政策を比較しながら、日本の現状について、考察していく。

なお、各国の政策に関する文書は多岐にわたり、ページ数も多いため、本記事ではワードクラウドで可視化し、全体像をつかむことにチャレンジしてみる。
解析にあたっては、日本語のワードクラウドを『User Local』のテキストマイニングツールを、英語版はtagcrowdを用いている。

日本の宇宙政策、ビジョン~宇宙産業ビジョン2030、宇宙基本計画~

我が国の衛星を打ち上げたい日本

宇宙産業ビジョン2030(2017) Credit : 宙畑

図は、2017年に宇宙政策委員会が発表した宇宙産業ビジョン2030のワードクラウドである。文字の大きさは、文章中に登場した回数の多さを示している。最も大きなワードは”衛星であり、続いて”打上げる”、”宇宙””我が国”となっている。

これだけでは、今までの日本の宇宙開発と大きな変化は見られない。しかし、次に大きな文字群に目を向けると”ニーズ”、”データ”の文字が見えてくる。衛星を打ち上げて、終わりではなく、必要とされるミッションを創出し、衛星データの利用を進める意思が感じられる。(その割には”利用”の文字は小さいが…)

また、”事業者”、”産業”、”ベンチャー企業”など、民間企業に関するワードも見つけることができる。今まで政府機関主導の宇宙開発からの脱却を狙う方向だ。

宇宙基本計画は安全保障に重点が置かれる

宇宙基本計画(平成28) Credit : 宙畑

一方で、平成28年(2016)に改定された、日本の宇宙計画を定める宇宙基本計画のワードクラウドを見てみると、”宇宙””我が国”以外でひときわ目立つのが”安全保障”という言葉だ。JAXAの上位官庁である”文部科学省”よりも大きな存在となっている。あまり知られていないが、今の宇宙基本計画では一つの大きな柱として”安全保障”が位置付けられているのである。

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情報収集衛星を打ち上げるのは何のため? ~用途、予算、今後~

JAXA長期ビジョンは"有人"宇宙開発に注力していた

ちなみに、宇宙基本計画が出るよりもずっと前、平成17年(2005)に出されているJAXA長期ビジョンについても見てみると、図の通り、”有人”、すなわち有人宇宙開発に注力していこうという姿勢が感じられる。
この長期ビジョンが発表された3年後、平成20年に宇宙基本法が制定され、宇宙の”安全保障”での利用が明記された。10年以上後の宇宙基本計画と比べると、状況が大きく異なることが分かる。

JAXA長期ビジョン(2005) Credit : 宙畑

アメリカの宇宙政策、ビジョン~政府が民間利用を明言することで民間投資も集める~

では、アメリカはどうだろうか、アメリカの場合、宇宙開発に関わる機関は多岐にわたる。

オバマ前大統領も商用化を促進

National Space Policy(2010) Credit : 宙畑

もっとも広範囲に及ぶと思われるものは、大統領名で出されているNational Space Policyだ。2010年にオバマ前大統領名で発表されている。ワードクラウドを見てみると、比較的大きく”commercial ” (商用)という言葉が目に付く。これまでの政府主導の宇宙開発から脱却し、民間がきちんと利益を確保しながら宇宙開発を進めていく、そしてそれを政府が支援する姿勢を打ち出している。冒頭でみた、日本の宇宙産業ビジョン2030と同様の方向性だろう。

NASAは探査と有人宇宙開発

NASAでもStrategic Plan 2014という計画が発表されている。”development” (開発)を重視すること、また、アメリカの中でも特に”exploration” (探査)を担当する機関である。また、国際宇宙ステーション”ISS”などに”human” (人)を送り込むのもNASAの役割である。

アメリカでは安全保障分野も商用化を進める

National Security space strategy(2011) Credit : 宙畑

また、安全保障関連で見てみると、アメリカ国防総省とアメリカ国家情報長官の連盟で、National Security space strategyが2011年に出されている。こちらもワードクラウドで頻出単語を見ていくと、国防でありつつも”internatiolnal” (国際的な) 連携を図っていきたい方針がうかがえる。”responsible” (責任がある(負うべき)) などは、国の安全に対する責任がある立場ならではと言えるだろう。また、小さくはなるがここでも”commercial” (商用の) が出てくる点は興味深い。

一例として、アメリカ国家地球空間情報局(National Geospatial-Intelligence Agency:NGA)では、2015年10月COMMERCIAL GEOINT STRATEGYの中で、NGAが使える民間の超小型衛星画像サービスは積極的に利用していく方針を打ち出している。こうすることで、ビジネスが上手くいけば政府が顧客になってくれるという確証が得られ、それを期待してさらに民間の投資も集まるという上手いサイクルになっている。

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アメリカの情報機関が選んだ宇宙ベンチャーとは

以上、大まかなアメリカの宇宙関連の文書を見てきた。全体を通して、”capabilities” (能力)という言葉もよく出てくることが分かる。宇宙に関する様々な能力を維持し高めていくことにアメリカは感心があるということだろう。

ヨーロッパの宇宙政策ビジョン~インフラは政府が整備、民間は利用拡大に注力~

最後にみるのは、ヨーロッパの宇宙政策・ビジョンである。

EUとESAが共同で2003年にEuropean Space Policyを、2016年にはSpace Strategy for Europeを発表している。

ヨーロッパはいち早く産業の発展に寄与することを宣言

European Space Policy(2003) Credit : 宙畑

宇宙利用を促すためのインフラはヨーロッパ政府が用意

Space Strategy for Europe(2016) Credit : 宙畑

日本やアメリカで見てきた資料よりもずいぶん前の2003年の文書ですでに、”commercial” (商用)”や”competitiveness” (競争力のある)、”industry” (産業)などの文言が出てきているのがヨーロッパの特徴と言える。いち早く、宇宙産業を民間で発展させることに注力しようとしているのである。

2016年に発表されたSpace Strategy for Europeではさらに ”data” (データ)、 ”investment” (投資)、 ”market” (市場)、 ”needs” (需要)、 ”user” (利用者) など、衛星から得られた情報をいかに使っていくかにフォーカスしている。

“copernicus”とはかの有名な天文学者の名前だが、ヨーロッパではこの名前を冠した地球観測データプラットフォームの構築を行っている。CopernicusはSentinelと呼ばれる6機の地球観測衛星と地上データからなり、ヨーロッパ以外の国も含めて”誰でも”、”無料”で、”自由に”データを利用することができる(一部安全保障関係で制約はあるが。)。驚いたことに、ヨーロッパはこのデータを2030年まで提供し続けることを約束しており、このデータによって産業が大いに発展することを狙っている。プラットフォームには様々な解析ツール(例えば、土地被覆分類など)も用意されているのである。

また、衛星には寿命があり、軌道によっても異なるが、数年で大気圏に落ちて使えなくなってしまう衛星が多い。そうなると、いざ民間企業が投資を集めて衛星を製造し、打ち上げ、データを使い始めても、次の衛星を打ち上げるだけの費用を再び捻出しなければならず、継続性の観点で不安の残るものとなっていた。Copernicusはこのような問題に、政府が衛星自体は用意し、ある範囲でデータの継続性を約束することで応えたのである。

まとめ~日本の宇宙ビジネスは今がチャンス~

日本でも、2018年3月安倍首相が今後5年間に宇宙ビジネスに対して1000億円規模のリスクマネーを供給すること発表した。各国の政策を参考に、政府の支援すべきこと、民間が自ら投資しやるべきことをきちんと整理し、昨今の宇宙への投資熱をバブルで終わらせないことが求められている。

冒頭でも述べた通り、今回は全体像をつかむことを目的としたため、各文書の詳細な内容には踏み込んでいない。もちろん、きちんと理解するためには文脈まで確認する必要がある。興味を持たれた文書は実際に本文を読まれることをお勧めする。

【関連記事】

■ 今回解析した文書

宇宙産業ビジョン2030(日本、2017)

宇宙基本計画(日本、2016)

JAXA長期ビジョン(日本、2005)

National Space Policy(アメリカ、2010)

National Security space strategy(アメリカ、2011)

COMMERCIAL GEOINT STRATEGY(アメリカ、2015)

European Space Policy(ヨーロッパ、2003)

Space Strategy for Europe(ヨーロッパ、2016)