宇宙二法とは~国際的な背景と各法律の概要、今後の課題~

宇宙というフィールドに魅了されてきたのは、何も科学技術者だけではありません。

1910年にはベルギーの法学者であるエミール・ロードが宇宙空間の問題に関する論文を出版しています。彼は科学の進歩により宇宙を規律する特別な法制度が必要であると確信していたひとり。

より本格的な研究は、1932年にウラジミール・マンドルにより「宇宙法-宇宙飛行の問題点」という論文で発表されましたが、当時は極めて冷淡に受け止められ、わずか数部しか売れなかったという話も[1]。

しかしながら、宇宙利用が現実味を帯びてきた現代において、各国は法律の整備を急いでいます。

そしていよいよ日本におていも、2016年11月9日、「宇宙二法」と呼ばれる「宇宙活動法」と「衛星リモンセン法」からなる具体的な国内法が成立されるに至りました。この法律は、今後日本で宇宙開発を行う際の重要な基本ルール。

そこで今回は、日本の宇宙開発を規律するこの2つの国内法に焦点を当て、どういった法律なのかについて、大まかな紹介をします。

【目次】
(1) 宇宙空間を規律する国際的な取り決め -国際宇宙法-
(2) 国内法の必要性の高まり
(3) 宇宙二法とは
(3-1) 宇宙活動法
(3-2) 衛星リモートセンシング法
(4) 今後の課題とまとめ

   

(1)宇宙空間を規律する国際的な取り決め -国際宇宙法-

”宇宙法”
宇宙条約と各国の加入状況
Image Credit: sorabatake

宇宙空間は、伝統的な陸・海・空に次ぐ「第4の戦場」として、その重要性が年々増してきています。

特に、圧倒的経済力を誇った米ソによる宇宙開発競争の過熱に対する危機感が高まっていた時期は、宇宙の平和利用への世界的取り決めの必要性高まっていました。

こうした流れの中、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)は1960年代から1970年代にかけて、基本的な4つの条約を作成。

宇宙の憲法といえる「宇宙条約」と、この宇宙条約の細則を定めた「宇宙救助返還条約」、「宇宙損害責任条約」、「宇宙物体登録条約」(以下これら4つを「宇宙諸条約」と略す)です。

現在、日本も上記4つの宇宙諸条約に加盟しており、上図は2017年1月1日時点での各条約への加入状況です[2]。

これに加え、天体の資源開発などを規律した「月協定」も発効されましたが、アメリカ、ロシア等、主要な宇宙先進国のほとんどは批准していません。
   

(2)国内法の必要性の高まり

1967年に宇宙条約が締結されてから約40年後の2008年、日本はようやく国内の宇宙開発の基本的な方針を定めた「宇宙基本法」を制定しました。

なぜ40年も経過してから必要になったのでしょうか。

宇宙開発は莫大な予算と長期間による研究開発が必要な分野で、どの国も、主に国(政府)が主導して研究開発を担っています。

これは日本においても例外ではなく、長らく大学やJAXA等の公的機関が日本の宇宙開発を主導。

従来、日本において宇宙開発とは、国が主導し監督する活動しか想定してきておらず、特段の国内法の整備は必要ないと考えられてきました。

具体的には、宇宙条約第6条には、民間宇宙活動に対して国の許可及び継続的監督を必要とすることが規定されています。

従来の日本の考えからすると、日本においては必ず国が何らかの形で宇宙開発に関わることになるため、国が自分自身へ許可を与えたり監督することはありえなく、そうした国内法の整備も特段必要ないことになるのです。

しかしながら、民間による宇宙開発の機運の高まりや、宇宙開発利用政策も従来の研究開発中心から商業利用へシフトしてくると、民間の活動をより具体的に規律するための国内法を整備する必要性が高まっています。

特に、宇宙基本法35条では、宇宙活動に関する法制整備をすみやか行うことを規定しており、日本が批准している宇宙諸条約の履行の担保、さらに安全保障や宇宙産業振興のため、これらの条約とも整合する国内法の整備は急務となりました。

そのため、宇宙諸条約を具体的に履行するためには、各国において、国際宇宙法に準じた国内法を整備していくことが重要となっているのです。

また、民間企業としても、規則が不明瞭だと罰則を受けてしまうことが分からず、新しいチャレンジに足踏みしてしまうのです。

こうした流れの中で、2016年11月9日、日本の宇宙開発における具体的な規律として、「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28 年法律第76 号)(宇宙活動法)」と「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱の確保に関する法律」(平成28 年法律第77号)(衛星リモセン法)」の2つの国内法(宇宙二法)が成立し、同月16日に公布。

次の章で、それぞれの法律について概要を紹介します。
   

(3)宇宙二法とは

具体的に宇宙二法はどんなルールを定めたものなのでしょうか?

その概要を見ていきます。
    

〇宇宙活動法[3]

”宇宙法,宇宙活動法”
宇宙活動法の概要
Image Credit:内閣府

まずは「宇宙活動法」から紹介します。

■概要

宇宙活動法は、ロケットや人工衛星の打上げについて許可制度とすることで国が管理し、さらに打上げ事故に伴う賠償の指針を定めた内容となっており、以下の3点からなります。

①人工衛星およびその打上げ用ロケットの打上げに係る許可制度
②人工衛星の管理に係る許可制度
③第三者損害の賠償に関する制度
   

■定義規定(2条各号)

それぞれの内容を紹介する前に、まずは「定義」について確認しましょう。第1条にはこの法律の目的、2条には用語の定義が定められており、特に定義はこの法律の適用範囲とも深く関わってくるため、とても重要です。

普段あまり意識することのない定義について、法律ではどのように決められているのか、見てみましょう。
   

・人工衛星の定義

この法律での「人工衛星」とは、「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」をいう(2条2号)。つまり、地球や他の天体を周回することのない、例えば弾道飛行などは、この法律の対象とはならない。
    

・人工衛星等の打上げの定義

「人工衛星等の打上げ」については、「自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で…これを発射して加速し、…当該人工衛星を分離すること」をいう(2条5号)。
例えば、ある企業がJAXAの射場を利用して衛星を打上げようとする場合、この法律の適用対象となるが、上記「人工衛星」の定義に該当しない物体を搭載した場合は、この法律の適用対象とならないことを意味している。
その他、「人工衛星管理設備」や「ロケット落下等損害」等について定義されており、これらの定義に当てはまらないものは、この法律の対象から除外されます。
   

■宇宙活動法における3つの制度

では、宇宙活動法における3つの制度について、それぞれ見ていきましょう。
   

①人工衛星等の打上げに係る許可制度

主にロケットや打上げ施設に関する許可制度です。国内に所在、もしくは日本国籍を有する船舶や航空機に搭載された打上施設を用いて人工衛星等を打ち上げる場合、その都度、内閣総理大臣の許可を受ける必要(同4条)。その許可基準は同6条に定められており、、JAXAが行う人工衛星等の打上げについては、申請手続きが簡略化されることとなっています(同19条)。
   

②人工衛星の管理に係る許可制度

人工衛星を管理(同2条7号)する者に対する許可制度です。国内に所在する人工衛星管理設備(同2条6号)を用いて人工衛星の管理(同2条7号)を行う場合は、人工衛星ごとに許可を受ける必要があります(同20条)。こちらは、同22条にその許可基準が定められています。

人工衛星については、型式認定や適合認定のような事前の認定制度がないため、管理する人工衛星毎に、その都度許可基準に適合しているかの審査を受ける必要があり、事業者にとって、この許可基準が重要となってきますが、本記事では割愛させていただきます。詳細は、内閣府の各種ガイドラインをご参照ください※4
   

③第三者損害賠償制度

宇宙開発事業は、その開発過程においても莫大な資金を必要としますが、打上げ失敗等による被害も甚大となることが多く、その経済的リスクが民間参入への大きな障壁となってきました。

そこで、大きく2つケース(ロケット落下と人工衛星落下)における責任の所在を想定し、さらに保険契約を必須とすることで、上記経済的リスクへの予測可能性と緩和が行われています。

1.ロケット落下等による損害賠償責任   
人工衛星等の打上げを行う者は、ロケット落下等により損害を与えた時は、過失の有無にかかわらずその損害を賠償する責任を負うことになっています(無過失責任、同35条)。

そして、その賠償責任は、打上げ実施者が負い、打ち上げを行う者以外はその責任を負わない(責任集中、同36条)とし、製造物責任法の適用は排除(同35条2項)。

もっとも、責任集中といっても、打上げを行うものが一時的に全責任を負うもので、一定要件の下求償権は認められています(同38条1項)。
 
2.人工衛星落下等による損害賠償責任
一方、人工衛星落下については責任集中の原則は適用されていません(同53条)。したがって、人工衛星の管理者や製造者が責任を追求されることになります。

さらに、これらの責任に加え、打上げには保険の締結等の義務付けも規定されています(同9条、同39 条、同40条)。

人工衛星等の打上げを行うものは、損害賠償を担保する措置として、①ロケット落下等損害賠償責任保険契約(同39条)及び、②ロケット落下等損害賠償補償契約(同40条2項)を締結することを義務付けられました。

基本的には保険により損害賠償がカバーされることになりますが(①による補償)、保険契約の対象とならない特定ロケット落下等損害や、カバーしきれない損害について、一定要件の下、政府が補償することが想定されています(②による補償)。
   

■ その他罰則等

この法律に違反した行為を行なったものについては、同60条にて罰則規定が設けられています。たとえば、上記各種許可を得ることなく打上げや人工衛星管理を行なった場合、「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」されることになります。

   

〇衛星リモートセンシング法[5]

”宇宙法,宇宙活動法”
衛星リモセン法の概要
Image Credit:内閣府

   

■概要

人工衛星に搭載された装置により得られたデータの取り扱いに関する法律です。

衛星データは、農業、防災、社会インフラの整備等の幅広い分野での利用が期待される一方、悪用を防ぐ仕組整備が必要とされてきました。

そこで、適正な取扱いを確保するため、大きく以下の3点を規律しています。
 ①衛星リモセン装置の使用に係る許可制度
 ②衛星リモセン記録保有者の義務
 ③衛星リモセン記録を取り扱う者の認定

さっそく3つの規律について、その概要を紹介していきます。
   

①衛星リモセン装置の使用に係る許可制度

衛星リモセン法4条では、

国内に所在する操作用無線設備を用いて衛星リモートセンシング装置の使用を行おうとする者…は、衛星リモートセンシング装置ごとに、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

と規定しています。

つまり、衛星リモセン装置の使用者(主に衛星メーカー)は、国に許可されたものに限られるということ。

そして許可された者は、許可されていない者の使用防止措置(同8条)、装置が想定軌道を外れた時の機能停止(同9条)、許可に係る受信設備以外の使用の禁止(同10条)、使用状況の帳簿記録(同12条)、装置終了措置(同15条)等の義務が課されます。

もっとも、ここでいう「衛星リモートセンシング装置」とは、高分解能の衛星リモセン装置のことをさしており、対象物判別制度が車両、船舶、航空機その他の移動施設の移動を把握するのに足りる高性能なもので、国がその基準を定めています(同2条2号)。

たとえば、標準データで

光学センサーにより記録されたものにあっては、対象物判別精度が二十五センチメートル未満のものであること

など。

そして、この基準に満たないものであれば適用対象となりませんらない。

その他の基準が気になる方は、内閣府のガイドラインを参照ください[6]。
   

②衛星リモセン記録保有者の義務

衛星リモセン記録とは、衛星リモセン装置を用いて取得した記録のうち、対象物判別制度、加工処理レベル、記録からの経過時間等を勘案し、国際社会の平和確保等に支障を及ぼすおそれがあるとして内閣府の定める基準に該当するものを指します(同2条6号)。
※この基準の詳細についてもで内閣府のガイドラインに記されています[6]

そして、上記衛星リモセン記録については、提供先は認定を受けた者、または特定取扱機関に限られます。
※衛星リモセン記録保有者の代表例として、RESTECやPASCOが挙げられます

提供する際には、認定証の確認、暗号化による相手方以外の者の取得・利用に対する防止措置が義務付けられています(同18条)。

さらに、記録の漏洩等について必要かつ適切な措置を講じる義務も課せられています(同20条)。

もっとも、ここでの衛星データとは、生データ、もしくはジオメトリ処理等行なった一時処理データを対象としているのであって、地図と重ねわせることができるなどの高付加価値データについては適用対象外であり、使用に関して許可は必要ありません。

高付加価値データは、生データや一時処理データとは違い、ある程度処理済みのデータであるため、悪用の危険性が排除されていると考えられているから。

したがって、販売・公開されているようなデータを使用する分については許可は不要です。ただし、その利用方法によっては、プライバシーや著作権等に抵触する可能性があるため、今度は衛星リモセン法ではなく、情報法や知的財産法が問題となってくることには注意が必要になります。
   

③衛星リモセン記録を取り扱う者の認定

衛星リモセン記録を取り扱う者は、衛星リモセン記録を適切に取り扱うことができるものと認められる旨の内閣総理大臣の認定を受けることができます(同21条1項)。

そして、認定を受けるためには申請書の提出が必要となっています(同21条2項)。認定を受けた者へは、衛星リモセン記録の取扱い状況についての帳簿記録義務が課されることになります(同23条)。
   

■その他罰則等

本法律には罰則も規定されている。例えば、内閣総理大臣の許可なく衛星リモセン記録を、認定をうけていないものに提供した場合、「三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」こととされています(同33条)。
   

(4) 今後の課題とまとめ

以上、日本においても、本格的に民間による宇宙開発事業への参入のための法整備が行われてきました。

しかしながら、まだまだ整備が必要な部分も多く、たとえば以下の3点が指摘されています[7]。

一つは、宇宙二法における許可・認可の審査基準についてである。この基準のいかんによっては事業者に大きな負担をかけることになってしまうこと。
さらに、こうした審査基準は国内だけにとどまらず国際社会の動向にも注視していくことが必要不可欠です。

宇宙開発は国際競争であり、どの国も自国に有利な基準の標準化を見据えています。こうした標準化戦略で失敗しないよう、日本の事業者における技術レベルの適切な継続的把握はとても重要です。

二つ目は、衛星データについて、衛星リモセン法で定める規律が及ぶ範囲はごく限られており、情報法や知的財産法による問題が起こり得ることが予測されること。

昨今の急速な科学技術の発展により、こうした先端的法律はいままさに成長中であるところ、宇宙分野にどのように適用されていくかについては、まだ未知の部分が大きく、今後も整備が必要となる可能性があります。

三つ目は、宇宙二法と隣接する法制度との調整が予測されること。特に、今後メガコンステレーション等が提案されているなか、周波数利用についての整備が必要になる可能性が指摘されています。

もちろん、国内法としては電波法がありますが、これはITU(国際電気通信連合)による国際調整枠に置かれており、これには高度に政治的戦略が必要です。

と、このように、まだまだ課題はありますが、宇宙二法が制定された意義はとても大きいものです。

高度に科学技術的専門分野がより発展するためには、法整備側と科学技術側との緊密な連携に基づく深い相互理解が、今後より一層重要となります。

そして、より高度な科学技術の発展とともに宇宙ビジネスが盛り上がり、人々の暮らしもより楽しく豊かなものになるよう、宙畑では衛星データの利用事例や宇宙ビジネスのHOTトピックなど、これからも情報を届け続けます。

1... ボガート,E.R.C.(栗林忠男監訳)『国際宇宙法』信山社(1993)
2... 小塚壮一郎=佐藤雅彦『宇宙ビジネスのための宇宙法入門【第2版】』有斐閣(2018)参照。
3... 行松泰弘『人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)の概要について』ジュリスト No.1506(5月号)、27-33頁(2017)及び、内閣府「宇宙2法の制定について」を参照。
4... 宇宙活動法について内閣府HPにまとめられています
5... 佐藤耕平『衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(衛星リモセン法)の概要について』ジュリスト No.1506(5月号)、34-38頁(2017)及び、新谷美保子「衛星リモートセンシング法の概説と衛星データ活用の未来」NBL1109号(2017)を参照。
6...衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律に基づく措置等に関するガイドライン
7...小塚荘一郎=青木節子「宇宙2法の背景と実務上の留意点」NBL1090号、33-34頁(2017)を参照。

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