欧州有望宇宙ベンチャーThrustMeって?
ThrustMeは、フランスの研究者2人が立ち上げたスタートアップ。一体何を行っている会社なのか。ヒントはその企業名??
世界の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部が、易しく解説!
1.9億円の投資を集めた宇宙ベンチャーThrustMe
ThrustMeは、フランスの研究者2人が立ち上げたスタートアップで、超小型衛星向けの新しい”電気推進システム”を開発している。今回ThrustMeは、170万ユーロ(日本円で約1.9億円)の投資を獲得した。
電気推進とは
衛星における“推進”とは、衛星の姿勢の変更や軌道の変更を行う機能である。
従来は化学推進と言われるような、衛星の中に燃料を搭載し、必要なタイミングで燃焼させることによって推力を得て、衛星の姿勢や軌道を変更する推進方法が中心であった。しかし、衛星の重量に対し燃料が占める割合が高く、衛星のサイズをも左右する問題であった。
一方、”電気推進”とは推進剤をイオン化し(プラスとマイナスに分け)その粒子を加速させながら宇宙空間に放出することによって進むシステムだ。 電気推進は化学推進に比べ、出せるパワーは小さいが効率が良いという特徴がある。厳密には異なるが、ガソリンエンジンの車と電気自動車をイメージしていただくと良いかもしれない。
衛星の場合、搭載する燃料(電気推進の場合は燃やさないので厳密には”燃”料ではないが)が少なくて済む。つまり、衛星を小型化・長寿命化できるという利点があるのだ。
この”オール電化衛星”のトレンドはすでに大型の通信衛星の分野で盛んになっており、衛星製造の老舗ボーイング社などがこぞって開発・打ち上げを行っている。
ThrustMeが狙う宇宙ビジネス市場
ThrustMeがターゲットにしている超小型衛星の市場では、電気推進はあまり用いられてこなかった。電気推進に必要な機器が小型衛星にとっては大きく、採用が難しいためだ。前述した化学推進も、ミッション期間分の燃料が衛星のサイズに比べ大きいため、搭載している衛星は限られている。また、超小型衛星はロケットに相乗りすることが多いが、相乗りの条件として、推進系の搭載が基本的に認められていないケースが多いが、近年は認められるケースも多くなってきた。
ThrustMeが、超小型衛星向けの新しい電気推進システムの開発に成功すれば、世界中の機関・企業の超小型衛星の設計に採用される可能性が高まる。超小型衛星の推進系システムの主導権を握ることができるのだ。
同じように超小型衛星向けの電気推進システムを開発する会社としてはBUSEKがある。こちらは電気推進システムの開発に25年以上の歴史を持っており、NASAの衛星への搭載実績を持ち、2014年ごろから超小型衛星向けの電気推進システムの開発を行っている。
ThrustMeは新時代を作ることができるのか、注目だ。
今週の英語フレーズ
ThrustMe gives small satellites increased possibilities in space.
ThrustMeは小型衛星の可能性を増大させる。
出典元
2017/06/16, SPACE NEWS, French startup raises $1.9 million for smallsat electric propulsion
http://spacenews.com/french-startup-raises-1-9-million-for-smallsat-electric-propulsion/
ThrustMe ウェブサイト
http://thrustme.fr/
2014/08/11, SPACENEWS, Cubesats Driving Big Developments in Small Propulsion Systems
http://spacenews.com/41549cubesats-driving-big-developments-in-small-propulsion-systems/
2014/08/25, SPACENEWS, Spotlight | Busek Co. Inc.
http://spacenews.com/41665spotlight-busek-co-inc/
2017/5/18, Boeing, Boeing All-Electric Satellite for SES Will Help Improve In-Flight Connectivity and Enable Other Traffic-Intensive Data Applications
http://boeing.mediaroom.com/2017-05-18-Boeing-All-Electric-Satellite-for-SES-Will-Help-Improve-In-Flight-Connectivity-and-Enable-Other-Traffic-Intensive-Data-Applications#assets_117:20191