神戸の夜景は何万ドル?衛星データを使って実際に計算してみた
「100万ドルの夜景」の元となったと言われる神戸の夜景。実際にいくらなのか衛星データで計算してみました!
2022年8月31日以降、Tellus OSでのデータの閲覧方法など使い方が一部変更になっております。新しいTellus OSの基本操作は以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/tellus_os/start_tellus_os.html
「100万ドルの夜景」という言葉を聞いたことがあることも多いでしょう。たくさんの光が輝くまばゆい夜景の代名詞ですよね。
しかし、この「100万ドル」とはいったいどういう意味なのか。また、本当に「100万ドル」なのか、宇宙の視点から徹底検証します!
1.100万ドルの夜景の由来
まずは100万ドルの夜景の「100万ドル」とはどういう意味なのかについて。
書籍によると、100万ドルの夜景とは、神戸の六甲山からみた夜景が起源で、六甲山から見える電灯の数を算出し、その電気代を換算すると100万ドルになったとのこと。
このフレーズが全国に広まり、神戸の夜景以外でも素晴らしい夜景の代名詞として「100万ドルの夜景」という言葉が使われるようになったそうです。
1953年(昭和28)年、当時の電力会社の副社長が、六甲山から見る夜景のすばらしさに感動。その感動が忘れられなかった彼は、なぜか山頂から見える大阪・尼崎・芦屋・神戸の電灯の数を計算したという。すると、その数は496万7000個で、その電気代はひと月で4億2900万円。これを当時の1ドル=360円で計算すると、100万ドル強になったのである。
偶然にもアメリカではすでに「100万ドル分の宝石をちりばめたような」という枕詞が、美しい夜景をさすものとして使われており、神戸の夜景のキャッチフレーズが「100万ドルの夜景」とされたのだ。
話がはずむ「ムダ知識」(PHP研究所)
しかし、電気代の計算が行われたのは1953年。当時よりも街は発展し、物価は上昇し、為替レートも変わっているはず…
同じようなことを考える人は他にもいるようで、再調査された結果によると2005年のレートでは721万ドル、2010年には1000万ドルを超えているとされているようです。
ということで、これは衛星データの出番では!となった宙畑編集部。
今回は、宇宙の視点、すなわち衛星データを用いて現在の神戸の夜景が何万ドルなのか、調査していきたいと思います!
2. 現在の一戸あたりの電気代を調べる
まずは、現在の一戸あたりの電気代を調べてみます。
神戸港の付近は工場地帯も数多くありますが、今回は簡単のために、すべて住居と仮定して進めていくことにします。
様々なサイトで世帯あたりの電気代がまとめられていますが、今回はこちらのサイトを参考に2人以上の平均月間電気代を11,000円とします。
3.六甲山の展望台から見えている建物の数を調べる
3-1. 調査手法
- 1.神戸市の建物の位置情報(緯度経度)をデータをOpenStreetMapから取得します。
- 2.取得した各建物と六甲山展望台の見通しをこの記事のコードを使って確認していきます。https://sorabatake.jp/12087/
3-2. 見通しを計算する
まずは、見通し計算に必要なコードを用意します。
- 1.下のURLよりZIPファイルをダウンロード。
- 2.ファイルを解凍します。
- 3.Tellusの開発環境を開き、/work/ ディレクトリに、kobe_night_view というディレクトリを作成。
- 4.解凍したファイルの中身を、kobe_night_view ディレクトリにアップロード。
【ダウンロードURL】
https://github.com/sorabatake/article_15363_kobe_night_view/archive/main.zip
開発環境を申し込んでない方は、下のURLを参考に申し込んでください。https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/dev/install_development_environment.html
3-2-1. 任意の二地点間の見通しを計算
サイドバーの los-check.ipynb をクリックしファイルを開いてください。
まず、必要な情報を指定していきます。
YOUR-TOKEN をご自身のTellus開発環境のトークンに置き換えて下さい。
参考:APIキーの取得方法
#ご自身のTellus開発環境のトークンを設定してください
TOKEN = 'YOUR-TOKEN'
#地球の半径(km)
EARTH_RADIUS = 8494.666; #光の屈折を踏まえた地球の半径4/3倍(ここでは光の屈折率を電磁波と同じと見なす) (実際の半径は6371km)
#見通し判定する座標1を指定
OBSERVER = [34.751888,135.237224] #六甲山展望台
#見通し判定する建物があるエリアをOpenStreetMapのデータから指定。
TARGET_AREA = "example.pbf"
#タイル座標のズームレベルを12に指定
ZOOM_LEVEL = 12
計算を実行すると、los_true.geojson, los_false.geojsonという、見通せる/ 見通せない建物の位置情報のgeojsonが生成されます。
デフォルトのexample.pbfでは、六甲山展望台からタイル座標( Z=12, X=3586, Y=1626 ) という範囲にある建物の見通しを計算できます。
3-3. 計算結果
今回は上記の手順で、神戸市を中心とした、下記の範囲の見通しを計算しました。
これでざっくりとですが、六甲山展望台からの見える建物の件数が取得できました。
見通し可能な建物: 458601
見通し不可な建物:94569
ちなみにですが、筆者が六甲山から見通せる建物の計算を行った所、5日間まるまるかかりました……。
取得したGeoJSONを加工して描画してみました。
3-4. 任意の見通し範囲を指定する(オプション)
任意の見通し範囲を指定する方法についても解説します。
3-4-1. OpenStreetMapのデータをダウンロード
http://download.geofabrik.de/asia/japan.html より、OpenStreetMapのデータをダウンロードします。
世界地図レベルになると52GB程になってしまうので、上のサイトの Sub Regionsから 任意の地域(関西、関東、九州など)を指定してデータをダウンロードします。
3-4-2. 任意の範囲を切り出し
それでもまだデータが大きいので、検証したい範囲を osmium-tool (MacOS, Linux)を使って切り出します。
MacではHomebrewを使って下のようにインストールできます。
$ brew install osmium-tool
下の様に引数を渡すことで、指定範囲を切り出します。
$ osmium extract --bbox 左上の経度,左上の緯度,右下の経度, 右下の緯度 -o 出力したいファイル名.pbf 元のファイル名.osm.pbf
例:$ osmium extract --bbox 135.190208,34.732968,135.337493,34.710675 -o kobe.osm.pbf kansai-latest.osm.pbf
切り出したファイル名を TARGET_AREA と置き換えます。コードを実行すると切り出した範囲にある建物の見通しを計算します。
OBSERVERを変更することで、見通し判定の観測点を変更できます。
#見通し判定する座標1を指定
OBSERVER = [34.751888,135.237224] #六甲山展望台
#見通し判定する建物があるエリアをOpenStreetMapのデータから指定。
TARGET_AREA = "example.pbf"
4.六甲山から見える夜景の電気代をざっくり計算する
ここまでの結果をまとめると、以下の通りです。
①1戸あたりの電気代:11,000円(2人以上の平均月間電気代)
②六甲山展望台から見通し可能な建物:458,601 戸
Open Street Map上に全ての建物が記述されているわけではないですし、1つの建物の中にマンションのように複数戸ある場合も数多くなります。
したがって、正確な値とはいきませんが、今回は簡単のために①1戸あたりの電気代と②六甲山展望台から見通し可能な建物を掛け合わせることによって、六甲山から見える夜景の月間の電気代を算出してみることにします。
①1戸あたりの電気代:11,000円×②六甲山展望台から見通し可能な建物: 458,601 戸=約50億円
また、本記事を書いている2020年10月2日現在、円ドルのレートは100円=0.95ドルのため、ドルに換算すると4800万ドルとなり、100万ドルよりもかなり大きな値となることが分かりました!
大きくなった要因を考えてみると、
①為替レートの差
100万ドルの計算をした1953年の為替レート(1ドル=360円)と現在の為替レート(1ドル=105円)は、3倍ほど異なり、ドルとしての金額が3倍高くでる要因となりそうです。
②物価の差
1953年の物価と2019年の物価を比較すると、一概には言えないようですが、日本銀行のサイトで発表されている消費者物価指数を使うと
102.3(令和元年)÷16.1(昭和28年)=6.4倍
となり、こちらも6倍ほどドルとしての金額が高くでる要因となりそうです。
③人口(世帯数)の増加
住んでいる人の数もかなり増えているものと思われます。
六甲山展望台から正面に見える神戸市東灘区を例に取ると、昭和50年の国勢調査における世帯数は57,348戸だったのに対し、最も新しい平成27年の国勢調査を見ると97,265戸と1.7倍程度増えていることが分かります。
④そもそも数えているものが電灯の数と世帯の消費電力で異なる?
冒頭で説明した「六甲山から見えていた電灯の数を数えた」という時の「電灯」が、家庭内の電灯ではなく街灯だったとすると電気代はグッと少なくなると考えられますが、この部分については真相は分からないので、今回は触れずにおきます。
以上、①②③を掛け合わせると、1953年からおよそ30倍程度は夜景の価値が上がっていてもおかしくはないと考えられ、単純計算で100万ドルの夜景が3000万ドルの夜景になっているということになります。
3000万ドルという値は、今回衛星データを使って算出した4800万ドルに桁数も近いと考えられ、おおよその推定としては遠からずなのではないかと考えられます。
ただし、本章の冒頭で申し上げた通り、Open Street Mapの建物が完全ではないことや、集合住宅を考慮していないことから、実際の値はさらに上振れするものと思われます。
5.まとめ
検証結果としては、神戸の夜景は 「100万ドル もしくはそれ以上」でした。当時の電力会社の副社長の慧眼には恐れ入りますね。
また自分も機会があれば、六甲山展望台に「100万ドル以上の夜景」を見に行ってみたいと思います。
今回は六甲山で検証しましたが、富士山やスカイツリーなど他のものでも試せますので、みなさんのお気に入りの夜景が何万ドルなのか、ぜひ計算してみて下さい。
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