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モルガンスタンレーがSpaceXの評価額を発表。【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/10/19〜10/25】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

モルガンスタンレーがSpaceXの評価額を発表

米国の世界的な金融機関グループであるモルガンスタンレーが、SpaceX: Raising Valuation Scenarios Following Key Developments というレポートを10月22日に公開し、SpaceXの長期的評価額を引き上げ、同社には少なくとも1010億ドルの価値があると発表しました。1000億ドル級の企業とは、日本でいうと株式会社キーエンス株式会社NTTドコモに相当し、海外ではStarbucks Corporationが同規模です。

7月にモルガンスタンレーが発表した額の2倍となり、具体的には以下の通りです。

  1. ・ロケット打ち上げ事業:117億ドル
  2. ・通信衛星(Starlink)事業:809億ドル
  3. ・宇宙旅行事業:87億ドル

人工衛星を輸送するロケット打ち上げ事業は、顧客が限定的ですが、通信衛星サービスであるStarlinkの顧客は多くの一般ユーザーを対象として市場も拡大傾向であるため、このようにStarlink事業の評価額が高くなっていると言えるでしょう。

今回の評価額の上昇には、
・NASAの宇宙飛行士のISSからの帰還の成功
・国防総省の数億ドルの契約の獲得
・数百基以上のStarlink衛星の軌道投入およびシステムの動作を実証
・Starshipの2回のテスト飛行の成功
などが寄与していると、モルガンスタンレーのアナリストAdam Jones氏は語っています。

ロケット打ち上げ事業

SpaceXは2020年に既に18のミッションに成功しており、ここ数年の世界の衛星打ち上げ市場の大部分を占めています。さらに、SpaceXはロケット第一段の再利用も継続的に成功しており、これまでに55回の再着陸、40回の再飛行に成功してきました。

SpaceXの打ち上げ頻度は現在、2週間半に1回程度ですが、モルガンスタンレーのケースでは、「SpaceXは2040年までに1日1回の打ち上げを達成する」と想定されています。しかし、この数値目標の達成は現在開発中のStarshipの早期成功に大きく依存しています。

SpaceXの主力ロケットFalcon 9の100回目の打ち上げの様子 Credit : SpaceX

通信衛星(Starlink)事業

SpaceXの評価額の中で一番高い割合を占めるのが、Starlink事業です。Starlinkは、数千基もの通信衛星を使って相互接続されたネットワークを構築し、地球上のどこでも高速インターネットが利用できる世界を実現しようとしています。

モルガンスタンレーのレポートによると、Starlink事業のキャッシュフローが黒字化すると予想されている2030年には、Starlinkの潜在的な加入者数は2億3500万人から3億6400万人になると予想されています。この時期のStarlinkを利用するユーザーの月額金額は約21ドルと見積もられているため、単純計算するとStarlinkの収益は592億ドルから917億ドルとなります。同レポートでは、2030年には固定費を考慮してもStarlink事業だけで300億ドル程度の収益を上げると見積もられています。

投資銀行Jefferiesの報告によれば、SpaceXの2018年の収益は約20億ドルとなっています。想像が難しい金額ではありますが、今後10年でSpaceXの売り上げも更に伸びると予測されています。

SpaceXはまだ未上場企業ですが、SpaceXからStarlinkのみ分社化させIPOをする可能性も、過去に言及されています。(参考:SpaceXのStarlinkがIPOの可能性を示唆!【週刊宇宙ビジネスニュース 2/3〜2/9】)

世界を代表する企業となったSpaceXの今後の動きが楽しみです。

Starlinkの軌道上での展開の様子 Credit : SpaceX

Nokiaが月面における4Gネットワーク開発に着手

フィンランドに本社を置く通信インフラベンダーNokiaのアメリカ支社であるNokia of Americaが、NASAから約15億円を獲得し月面4Gネットワーク開発に着手することを発表しました。開発は、Nokiaの子会社でもあるBell Labsが担当します。

今回の契約は、NASAがアルテミス計画の一環として15社に授与したTipping Point Selectionsの一つとなっています。15社には、宇宙関連の大手企業や宇宙ベンチャーだけでなく、Nokiaのような非宇宙企業も選ばれています。

Bell Labsは、月面で初の超小型・低消費電力・耐久性に優れた4Gネットワークを構築し、2028年の展開を目指し、5Gへの移行も視野に入れているとのことです。月面向けの4Gネットワークは、地球上とは異なる宇宙空間の極端な温度・放射線・真空状態および月面への打ち上げや着陸時の大きな振動衝撃に耐えられるように特別に設計される予定です。

今後、月面着陸船や宇宙服モデリングサービスを開発するIntuitive Machinesと連携し、月面探査機の制御や月面でのリアルタイム地理ナビゲーション、映像ストリーミングなどのデータ転送アプリの開発に着手するとのことです。これらの通信アプリケーションはすべて、人類が月面に長期的に生活するために不可欠なものです。

NokiaのCTOであり、Bell Labsの所長でもあるMarcus Weldon氏は、今回の契約について以下のコメントを出しています。

Reliable, resilient and high-capacity communications networks will be key to supporting sustainable human presence on the lunar surface. By building the first high performance wireless network solution on the Moon, Nokia Bell Labs is once again planting the flag for pioneering innovation beyond the conventional limits.”
(訳:信頼性が高く復元性もある大容量の通信ネットワークは、月面での持続的な有人宇宙開発を支える鍵となります。月面で初の高性能ワイヤレスネットワークソリューションを構築することで、Nokia Bell Labsは、先駆的な技術革新の旗を再び打ち立てます。)

今後の月面開発でも重要な役割を果たすであろう月面通信ネットワークに今後も注目です。

月面で4Gネットワークを利用するイメージ図 Credit : Nokia Bell Labs

NASAと米国エネルギー省が基本合意書を発表

NASAと米国エネルギー省(DOE)は10月20日に、今後の包括的な協力に向けてMOU(基本合意書)を発表しました。このMOUにはNASAのJim Bridenstine長官とエネルギー省のDan Brouillette長官が署名し、宇宙開発における両機関の協力を、原子力発電の利用以外の用途にまで拡大することを目的としています。

両機関は、探査機ボイジャー1号2号に搭載したRTG(放射性同位体熱電気転換器)以降、50年以上協力関係を保っています。

今回のMOUと当時に、

  1. ・月面インフラ
  2. ・宇宙原子力発電と原子力推進
  3. ・宇宙セキュリティと惑星防衛

の3つのワーキンググループが設立されることも発表されました。

Brouillette長官は、

From achieving a better understanding of the Moon, to providing the nuclear fuels to propel Voyager 1 and 2 into space, DOE and NASA have been strong collaborators in our nation’s space mission for decades. This new memorandum of understanding will continue our esteemed work together as this Administration strives to reach the next generation of space innovations and exploration.
(訳:月の理解を深めることから、ボイジャー1号2号の推進剤となった核燃料の提供に至るまで、DOEとNASAは何十年にも渡りわが国の宇宙ミッションにおいて強力な協力関係を築いてきました。今回の新しいMOUは、次世代の宇宙開発に向けてトランプ政権が奮闘する上で、我々の確固たる協力関係を表すものである。)

とコメントを出しています。

NASAがアルテミス計画の実現に向けて構築する、産業界と政府のパートナーとの協力体制に引き続き注目です。

月面での原子力発電のイメージ図 Credit : NASA

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