千葉市民の“困った”を直接行政に届ける「ちばレポ」! 行政xオープンデータ先行事例の今
街で見つけた課題をスマホから役所に報告できる取り組み「ちばレポ」。データ活用術を伺いました。
安全で快適な街をつくろう! 市民と行政をつなぐ“次世代型”ツールとは
街中の“困ったこと”を市役所に窓口に行くでもなく、電話するでもなく、直接報告したい、と思ったことはありませんか?方法を知っていますか
じつは今、日本各地の自治体で、街で見つけた課題をスマホから役所に報告できる取り組みが少しずつ広まっています。
その先駆けとなったのが千葉県・千葉市! 2014年から「ちばレポ」というシステムの運用をスタートさせ、今では「My City Report(マイシティレポート)」という全国版のシステムへと進化し、多くの自治体で利用されている、日本の自治体におけるオープンガバメント施策の代表例になっています。
「ちばレポ」では、自分が暮らす地域で発見した“困った”を報告すると、市民と市役所の間で共有され、問題の解決に向けて市民協働で動く仕組みが作られています。
さて、具体的にはどのように動いているんでしょう? また、実際にどのくらい使われているのでしょうか。
今回ご登場いただくのは、そんな「ちばレポ」を運用する千葉市・広報広聴課の吉原さん。宙畑編集長・中村が「ちばレポ」のデータ活用術を伺いました。
【プロフィール】
千葉市市民局市民自治推進部広報広聴課 上席
1980年、千葉市入庁。情報部門などを主に37年間勤務し、2017年に定年退職。再任用により現職。
千葉市民たちの“困ったこと”ってどんなこと?
中村:吉原さん、「ちばレポ」では普段、どのようなレポートが上がってくるのでしょう?
吉原:「ちばレポ」にはいろんなレポート機能があるのですが、最も使われているのが「こまったレポート」です。
たとえば、「道路が傷んでいる」「公園の遊具が壊れている」「公園のベンチが壊れていて座れない」、「壁に落書きされている」、「街路樹が茂りすぎて歩行者が見えにくい」といった報告が日々上がってきています。
吉原:こうしたことは見つけてもわざわざ市役所に連絡するのは面倒だったりしますよね。このアプリなら、休日でも深夜でもピッと送るだけで大丈夫。必ず3日以内に受け付けをして、緊急度によって優先位をつけて順次対応していきます。
中村:市民協働ということですが、市民の方がお手伝いされることもあるんですか?
吉原:はい、レポートの内容を見て、市民の方のご協力をいただいて協働で解決できそうな課題だった場合、それをイベントとして立ち上げて参加者を募る「サポーター活動」という機能があります。また、歩道の伸びた雑草とか公園に落ちているごみとかを見つけた市民の方が、これくらいなら市に通報するまでもないとご自分で解決してくださった場合にその活動をレポートしていただく「かいけつレポート」という機能もあります。
中村:アプリの現在のダウンロード数はいくつですか?
吉原:累積で、約2万4000件程度。ユニークユーザーは6897人です(※2020年11月末時点)。利用率としては、千葉市の人口の1%弱ですね。毎月のレポート数は150件程度で、平日の方が多い傾向があります。
中村:“困った”ことが毎月150件、それは大変ですね!
吉原:いや、これは少ない方なんですよ。電話でも受け付けているのですが、電話は毎月1200件ほどあります。もちろん、こうしたご連絡を待つだけではなく、私たちの方でも巡回や点検を定期的に行っています。でも、やっぱり目が行き届かないこともあるから助かりますね!
イギリスの取り組みをヒントに誕生した「ちばレポ」
中村:そもそもこのアプリ、リリースにはどんな背景が?
吉原:2013年に、毎年世界中で開催されているオープンデータに関するイベント「インターナショナルオープンデータデイ」を千葉でも開催しようということで非営利活動法人Code for Chibaから千葉市も参加しませんかとお誘いがあり、参加したことがきっかけでした。
そのイベントでは「子育てに優しい街になっているかどうか」を点検する街歩きを行ったのですが、その時に使用したツールが、イギリス発祥の「FixMyStreet(フィックスマイストリート)」です。イギリスには、市民がインフラなどの不具合を見つけた時に公開する仕組みがすでにありました。
街の点検を行うなかで、市民が“困ったこと”を見つけた時に「どこに通報したらいいかわからない」と思っていることがわかりました。同時に、「役所の対応を待つより早く自分たちで解決できるのに」と思っている問題もあることが明らかになってきたんです。
中村:そこで、実際に「ちばレポ」の運用をスタートされたんですね。メイン機能の「困ったレポート」はどんな仕組みで運用されているんでしょう?
吉原:レポートするときには、まず、レポートのジャンルとして「道路/公園/ゴミ/その他」の4つから選びます。
吉原:そのレポートが発信された位置情報をもとに、担当部署にレポートが振り分けられます。「その他」を選ぶと、すべて広報広聴課に届きます。
吉原:たとえば「道路」のマップを見ると、こんな風に、レポートの上がったポイントにアイコンが表示されます。アイコンをクリックすると、その内容が見られるようになっています。アイコンの色は、「対応前」は赤、「対応中」は黄、「対応済み」は緑です。
吉原:こまったレポートは、道路(72.5%)が最多で、ついで公園(17.8%)が多くなっています。レポートの約半数は7日以内に対応できていますね。
「ちばレポ」にはどんなデータが集まっているの?
中村:「ちばレポ」ではレポート内容のほかに取得しているデータはありますか?
吉原:レポートのカテゴリと報告内容のテキストデータと合わせて、「位置情報データ」、「写真データ」、「ユーザーの個人情報」です。個人情報は、「ニックネーム・氏名・メールアドレス・パスワード・電話番号・主な投稿先(千葉市)」までが必須入力項目。「郵便番号・住所・生年月日・性別・職業」は任意としています。
中村:個人情報をのぞくローデータ7000件を、すべてWEBでオープンにされていますよね。驚きました。
吉原:2013年、千葉市は福岡市、奈良市、武雄市の4市でオープンデータの推進にまつわる活動をスタートしました。積極的に情報を公開し、市民が行政に参加しやすい環境を目指す「オープンガバメント(開かれた政府)」の概念にのっとって、「ちばレポ」のデータをすべて公開しているんです。市民が自分たちの街のことをもっと知るための手がかりになるといいなと思いますね。
中村:とても興味深いデータです。公園と衛星写真の情報を組み合わせることによって、どの公園に課題報告が多いのかをマクロに見てみることもできそうです。
中村:他にも、テキストデータを可視化できるWebツール「ワードクラウド」を使って、公開されているコメントを入力してみたら、市民のみなさんがどんなことに悩まされているか、また、どのような問題は市民だけで解決できるのかが見えて今後の行政に反映できそうですね。
中村:例えば、上記は「困ったレポート」として報告が上がっているものをワードクラウドで可視化した見たのですが、「公園」のジャンルでは「放置」「遊具」「破損」など、「道路」のジャンルでは「街頭」「切れ」「放置」などが目立ちますね。千葉市内に限らず、全国的なデータも見てみたくなります。
吉原:私たちも、この取り組みが全国に広がるといいなと思っているんです。「ちばレポ」のスタート時は大きくマスコミに取り上げられたこともあり、今でも自治体の視察がとても多いんですよ。
私たちは「My City Report(マイシティレポート)コンソーシアム」という団体を作っており、参加団体が会費を出し合ってこの「ちばレポ」と同じシステムを利用できるようにしているのです。
小規模な自治体でも使えるように、価格設定は、1万人以下の自治体なら年額6万円ほど。実際に、石川県加賀市、長野県塩尻市、静岡県富士市など全10の地方自治体がすでに利用をスタートしています。
中村:今後、このシステムが全国の自治体に導入されたら、日本全体の行政の課題が明確になり、政策の精度も上がりそうです。ちなみに、アプリのユーザーはどんな方が多いんでしょう?
吉原:これまで、電話のみの受付だった頃は60代以上の高齢の方からの通報が多かった印象で、30-50代の人とはあまり接点がありませんでした。しかし、「ちばレポ」のユーザーをみると、30-50代が76%となっているんです。
吉原:つまり、こうした世代が「ちばレポ」によって、街づくりに参加してくれるようになったということ。これはとても意義のあることだと感じています。というのも、「ちばレポ」は単なる通報ツールではなく、市民協働を意識したツールだから。
毎年、利用者アンケートをとると、「『ちばレポ』を利用することによって街を見る視線に変化があった」と答える方が毎年70%前後いらっしゃるんです。自分の街に関心を持つようになった、道路に不具合がないかを見るようになってくれたんですね。これこそ「ちばレポ」の目指すところなので、うれしいです。
中村:アプリは運営側のマンパワーの削減などにもつながりましたか?
吉原:直接マンパワーの削減に繋がることはないと思います。というのも、電話なら状況を聞いてその場で終了なのですが、「ちばレポ」はコメントへの返信や対応後のフォローなども必要だからです。
とはいえ、アプリの方が位置が具体的で、現場の写真やテキストなども含めて送ってもらえるから状況を把握しやすいので迅速な対応に繋げられるというメリットは大きいです。このアプリは今後も活用を続ける見込みです。
絶滅危惧所も発見!? 「ちばレポ」の機能を応用した「いきもの探し」
中村:「困ったレポート」を見ていると、ほかにも様々な使い方ができそうですね。たとえば「テーマレポート」という機能も気になるのですが、これは?
吉原:これがまさに「困ったレポート」を応用したもので、市が設定した「テーマ」に沿ったレポートを期間限定で募集するものなんです。
テーマというのは、たとえば「曲がったカーブミラー」「照明の不点灯」などの“課題を発見するタイプ”、あるいは「おすすめ桜スポット」「身近ないきもの探し」といった“話題を発見するタイプ”の2種類があります。
中村:HPを見ると「身近ないきもの探し」では絶滅危惧種も発見されているようですね?
吉原:そうなんです。これは、環境保全課から「千葉市内の生き物を調査したい」という依頼があって生まれたプロジェクトで、今では年に4回ほど開催中。みんなで市内の生き物を探すイベントになっていますね。
上がってきたレポートはすべて、昆虫や鳥などの分野ごとに専門家に見てもらって、種を判定しています。私もいつも張り切って参加しちゃうんですよ。チョウトンボが撮れたときはうれしかったなぁ。
中村:専門家の鑑定とは本格的ですね! 子どもと一緒に参加して、千葉市で一番大きなカブトムシを獲った人に賞金を出す…なんて座組みもできたら楽しそうです。
吉原:宝探しのような感覚で盛り上がりそうですね(笑)! この企画では参加の御礼をご用意していないのですが、それでもこれほど情報をあげてもらえるのはありがたいこと。「テーマ」を決めて募るとより効率よく情報収集ができるということや、楽しみながらチャレンジしてもらえる仕掛けを作る大切さを感じましたね。
AIで道路損傷を発見!? 「ちばレポ」から広がる未来
中村:今後、「ちばレポ」で実装を予定されている機能はあるのでしょうか?
吉原:災害発生時における被災状況の把握に「テーマレポート」を活用しようと考えています。これは一刻を争う緊急の通報ではなく、「台風で電信柱が倒れている」「倒木が道をふさいでいる」といった災害復旧のための情報収集を想定しています。また、今はアプリのみですが、LINEでも簡単にレポートをあげられる仕組みも考案中ですね。
中村:では、データ活用の分野ではいかがですか?
吉原:以前、東京大学と「ちばレポ」で集まったデータの活用方法について共同研究していまして、その成果から、AIを使って道路の損傷を発見するためのツールが開発されることになりました。「ちばレポ」のデータをAIの教師データとして活用したわけです。
「My City Report for road managers(略称MCR for road managers/マイシティレポート・フォーロードマネジャーズ)」といって、車上から目視によって行っていた道路損傷確認をAI(人工知能)が行い、正確でスピーディに道路の損傷個所を検出できるというものです。すでに他市では実運用が始まっていて、おって千葉市でも本格運用が始まる予定ですよ。
中村:「ちばレポ」のデータが今、市の垣根を超えて日本のために役立ちつつあるんですね。全国の市町村でもこの動きが広がることをぼくたちも楽しみにしています。
ありがとうございました!
編集後記~衛星データとの連携~
「ちばレポ」では、市民が自発的に地域の問題やテーマに沿ったお題を投稿する仕組みが回っていました。「シビックテック」という、市民自らが、技術を使って社会課題を解決しようという取り組みが拡がる中で、ただ自治体に問題を上げるだけではなく、市民だけでもできることは市民で解決するという文化も根付くきっかけにも「ちばレポ」は寄与するように思いました。
また、これまでは地域の問題を電話で受けていたことがアプリを経由して得られるため、位置情報の取得が容易になっています。現在「MCR for Road Managers」では車載したスマホで撮影した画像データと掛け合わせて問題検知の効率化を実証中ですが、今後衛星データと掛け合わせることで公園の雑草状況の把握や道路陥没の検知といった地域課題の早期発見に繋げられる可能性があります。
加えて、テーマレポートで畑の生育状況や魚の漁獲情報を送ってもらうことで、1次産業における衛星データ活用の促進にも繋げられるでしょう。今後も「My City Report」が様々な地方自治体に導入が進むことがとても楽しみです。