宇宙で衛星を製造する“軌道上工場”プロジェクトにエアバスが選定。25年に実証へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/3/8〜3/14】
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ベータ版Starlink、欧州を中心に提供エリアを拡大
3月11日、SpaceXは小型通信衛星「Starlink」を新たに60機打ち上げ、軌道上のStarlinkは計1,200機となりました。さらに同日、SpaceXは欧州を中心にベータ版のインターネットサービスの提供エリアを拡大すると発表しました。
2020年10月末にサービス利用に使うアプリを公開したのを皮切りに、米国とカナダ、英国南部、ドイツ西部、ニュージーランド南部向けにサービスの提供が開始されていました。
今回の発表では、英国全域とウェールズ、スコットランドが提供エリアに加わることが明らかになりました。今後数週間でドイツとニュージーランドの提供エリアも拡大される予定です。
ベータ版サービスは、通信速度が50〜150Mbit/秒程度と遅く、通信が途切れることも予想されたため「Better Than Nothing Beta(ないよりはマシなベータ版)」と名付けられていました。SpaceNewsによると、実際は300Mbit/秒を超える通信速度が実現されているものの、断続的に通信の途切れが発生しているようです。
日本においても、近くサービス提供が開始するのではないかと考えられますが、国内ではモバイル通信サービスの人口カバー率が99%を超えています。どのようにStarlinkが日本市場に進出して来るのか注目していきたいと思います。
世界初の軌道上工場プロジェクトにエアバスが選定
大手航空機メーカーのエアバスは、軌道上で衛星の主要部品の製造と組み立てを行う研究開発プロジェクトの実施企業として、欧州委員会に選定されたことを発表しました。
同プロジェクトは、欧州の研究開発枠組みHorizon 2020の中の「PERASPERA In-Orbit Demonstration(ペル・アスペラ軌道上実証 通称、PERIOD)」によるもの。エアバスのほか、AIやロボット操作などを専門とする7社が参画しています。期間は2年間で、300万ユーロ(約4億円)相当の契約金が支払われる見込みです。
軌道上実証は、2025年にISSに設置されている欧州の曝露実験設備「バルトロメオ」を利用して行われます。現段階では、製造した衛星は地球低軌道(LEO)に投入されるようです。
軌道上での衛星製造が実現すれば、重量や強度などロケットでの打ち上げのためにクリアする必要がある制限が緩和されるため、設計の自由度が広がることが期待されます。
しかしながら、LEO上に投入する衛星となれば、静止軌道(GEO)と比較して、重量に対する打ち上げコストが安く、衛星の寿命が短いため、コストパフォーマンスは高いとは言い切れません。商業利用を想定するならば、LEOでどのようなメリットを創出していくか、将来的にGEOでのサービス提供を行う予定はあるのかがポイントになるのではないでしょうか。
ISSからベンチャー企業、大学、有志団体の衛星が放出
大阪府立大学、リーマンサット、ワープスペースらの衛星がISSから放出
3月14日、ISSのきぼう実験棟より以下の衛星が放出されました。
大阪府立大学・室蘭工業大学「OPUSAT-II(ひろがり)」 九州工業大学・パラグアイ宇宙庁・フィリピン大学「BIRDS-4」 リーマンサットプロジェクト「RSP-01」 ワープスペース「WARP-01」 テルアビブ大学「Tel-Aviv Univerity」 静岡大学「STARS-EC(三光)」
放出作業は、2020年11月よりISSに滞在している野口聡一宇宙飛行士が担当しました。放出の瞬間をとらえた写真が野口宇宙飛行士のTwitterに投稿されています。
ISSのきぼう実験棟では、JAXAが2012年に小型衛星放出技術実証を行って以来、これまでに200機以上の衛星の放出が実施されています。2018年には、三井物産と宇宙商社のSpace BDがサービス事業者として選定され、JAXAから民間企業へとノウハウの移管が進められています。
ISSからの衛星放出や相乗り打ち上げの価格も徐々に下がってきており、民間企業や有志団体による衛星の打ち上げを後押ししています。
サラリーマンによる宇宙開発団体「リーマンサット」2号機、初交信に成功
今回放出された衛星の一つ「RSP-01」は、社会人や学生による有志団体「リーマンサットプロジェクト」の2号機となる衛星です。14日20時20分頃に放出され、約1時間後に初信号を受信したことをリーマンサットプロジェクトがSNSで発表しました。
RSP-01のメインミッションは、伸縮アームを用いた衛星の自撮り。有志団体ならではの異色の衛星です。
衛星放出サービスを提供したSpace BD エンジニアリング事業部長・寺田 卓馬氏に、リーマンサットプロジェクトの取り組みについて聞くと、
リーマンサット様の衛星は、国内/海外を見渡しても「趣味」を目的とした衛星であり、これは従来の重厚長大な宇宙開発のイメージを大きく変えるきっかけの一つになると考えています。こういった視点で宇宙開発をより身近に感じていただき、「自分たちもチャレンジしてみたい」と新たに宇宙開発に参入する団体や企業が増えることで、宇宙産業の裾野が広がり、産業全体が更に活性化することを期待しています。
と、産業発展への寄与に期待されている様子が窺えました。Space BDは、リーマンサットプロジェクトの3・4号機にあたる、「RSP-02」および「RSP-03」向けにも、衛星放出サービスを提供することが決まっています。
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参考
Airbus pioneers first satellite factory in space
PERASPERA In-Orbit Demonstration
SpaceX launches Starlink satellites and expands international service