宙畑 Sorabatake

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タイガー魔法瓶の断熱容器が2度目の宇宙へ。ドラゴン補給船22号機の多彩なペイロード【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/5/31〜6/6】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

ISSに物資を運ぶ、SpaceXのドラゴン補給船運用22号機が6月4日午前2時29分(日本時間)に打ち上げられる予定です。

ドラゴン補給船22号機の多彩なペイロード

ドラゴン補給船には、ISSに滞在する宇宙飛行士向けの供給品のほか、新たに取り付けられる予定の太陽電池アレイや科学実験に用いられる機材などが3,300kg以上搭載されています。

今回打ち上げられる機材や物資を利用して、ISSでは以下のような科学実験が行われます。

・宇宙空間における、微生物とその宿主である動物の共生関係についての研究
・少量の水と農薬で栽培できる綿花の品種開発
・高ストレス環境な宇宙空間でのクマムシの適応と生存に関わる遺伝子の特定
・宇宙空間で超音波診断(医療機能)ができる携帯型装置の実証
・VRやハプティクス(触覚技術)を用いた、宇宙飛行士によるロボット操作の有効性調査

ダンゴイカ Credit : Jamie S. Foster, University of Florida

「宇宙空間における、微生物とその宿主である動物の共生関係についての研究」に用いられるのは、ダンゴイカとそれに生息する微生物です。

ダンゴイカは、微生物が定着すると、暗闇で発光する性質を持ちます。今回は宇宙空間でダンゴイカに微生物を摂取させることで、無重力環境で微生物がどのように振る舞うか研究するようです。

微生物はイカのみならず、人間の健康な消化器系や免疫系を維持する上で重要な役割を果たすため、長期宇宙ミッションにおける宇宙飛行士の健康を維持に役立てられるのではないかと考えれられます。さらに、微生物が動物とコミュニケーションをとる新しい経路の発見にもつながる可能性があります。

タイガー魔法瓶の「宇宙用断熱容器」第2弾が宇宙へ

さらに、今回打ち上げられるドラゴン補給船には、タイガー魔法瓶の「真空二重断熱容器」が搭載されています。これは、ISSで行った実験のサンプルを地上に持ち帰る際の格納容器として利用できるように実証が進められているものです。

真空二重断熱容器の開発プロジェクトは、JAXAからの問合せがきっかけでスタートしたと言います。極限の宇宙環境で利用される機材の開発は、簡単なことではありません。プロジェクト参画への思いを、タイガー魔法瓶の担当者は、このように語ります。

「『4度±2度の範囲で4日間以上の保冷。かつ最大40Gの負荷』という、通常の魔法瓶では考えられない極めて高度な要求に対し、当初は、技術者陣は困難と考えていましたが、『我々がやらなければこの計画自体がなくなってしまう』との思いから、参画を決意いたしました」

2015年12月に、タイガー魔法瓶とJAXA、構造解析を行うテクノソルバが共同で、真空二重断熱容器の開発をスタート。求められていた条件を達成し、さらに試作品から約45%軽量化したフライト品の開発に成功しました。

この真空二重断熱容器は、2018年に宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機で打ち上げられ、その後大気圏に再突入。要求温度を長期間維持し、内部の実験サンプルはダメージを受けることなく、無事地上に回収されました。

回収された真空二重断熱容器 Credit : JAXA

このときのことを、担当者は

「約1年半をかけて取り組んだ、タイガー魔法瓶にとっても歴史に残るプロジェクトになりました」

と振り返ります。

そして、今回打ち上げられる真空二重断熱容器の第2弾では、「打ち上げからISSまでの実験試料の温度維持のため、保冷剤を同梱することで20±2℃を12日間以上保つこと、また、ISSから地上に回収するまでの期間も、20±2℃で7.5日以上保つ」「真空断熱技術による高性能な保冷機能を保ちながら、容器の質量を3.16キロ以下と容器サイズをコンパクトに製作する」「長期的な利用を想定し、1回限りの使い切りではなく、3年以上または6回以上の再使用を可能にする」という厳しい条件が課されています。

さらに、今回は、日本実験棟「きぼう」で実施されるタンパク質結晶生成実験で結晶化したタンパク質サンプルを地上へと回収する予定です。

タイガー魔法瓶の担当者は、プロジェクトへの意気込みをこう語りました。

「近い将来、宇宙に普通の人たちが旅することができるようになると確信しています。そのときに、今、身近にある魔法瓶を宇宙でも普通に人が使える魔法瓶を作ってみたいですし、宇宙でいろんな分野で役立つ真空断熱容器を開発し、宇宙開発に貢献したいと考えております」

真空二重断熱容器の開発は、シビアな温度管理が要求される検体・試薬などの医療輸送、ハイブリッド車のエンジン冷却水蓄熱システム、南極などの過酷な気象条件でも性能劣化せず高断熱住宅を実現する次世代建材の開発など、時代をリードする最先端産業分野においても、技術を応用できる可能性があると言います。

このように、宇宙開発に取り組むことで、副次的に地上での暮らしを豊かにする技術が生まれることがあります。タイガー魔法瓶のようなモデルケースが出てくることで、高い技術力を持った企業の宇宙への関心がより一層高まるかもしれません。

タイガー魔法瓶の宇宙に関する取り組みは、こちら

今週の宇宙ニュース

参考

SpaceX CRS-22 Mission Overview

SpaceX’s 22nd Commercial Resupply Mission to Space Station Launches Water Bears, Squid, Solar Panels