宙畑 Sorabatake

衛星データ

理想の“くるキャン”スポットを衛星データで探せ!〜 Vol.2 車中泊スポットの理想条件を衛星データで分析する 〜

昨今ブームが起きつつある車中泊を、衛星データを使ってもっと快適に!?楽しむ車中泊、略して「くるキャン」を衛星データで最高の機会にするべく、理想条件を探りました。

素敵な車中泊スポットでくるキャンを楽しみたい!

コロナの影響もあり、密を避けた場所で車中泊を楽しむ人も増えてきています。昨今日本ではキャンピングカーの市場も盛り上がっており、今後も車中泊人口はもりもり増えていくのではないかと予想されます。

でも、人に邪魔されず、迷惑をかけず、快適に車中泊ができるスポットってどういうところなんだろう?せっかくだから星空や自然を楽しんだり、朝の爽やかな空気を感じたい…。
そんなわけで第一回の記事では、宙畑編集部の城戸がプロキャンパーのSAMさんに車中泊のルールやマナーを教えていただきました。

さて、ルールやマナーを学んで、早速車中泊にいくぞ!と意気込んでいるものの、「素敵な車中泊スポット」、どうやって探していけばいいんだろう?そうです、私はかねてより衛星データを使って彼氏を探したり、移住先を探してきているのだから、車中泊スポットも衛星データで探せばいいじゃない!
ということで、早速車中泊スポットを衛星データを使って探していくことにしました。

今回の衛星データ解析は、俺人さん(@Oregin2)にご協力をお願いしました!
俺人さんは、宙畑記事「Kaggleランカーの9人に聞いた、2020年面白かったコンペ9選と論文9選」でも回答いただいたほか、衛星データ解析コンペSolafuneの「衛星画像から空港利用者数を予測するコンペ」で2位になるなど、その他機械学習コンペにも積極的に参加されています。宙畑では以前、ロケ地探し企画にご協力いただきました。

良いくるキャン(車中泊)スポットの条件とは?

まずは、快適な「くるキャン」を行うための車中泊スポットの条件を洗い出してみたいと思います。

今回は、日本全国の車中泊スポット情報がまとまっているサイトの情報から、車中泊スポットとして「素晴らしい」場所はどんな条件なのか洗い出してみたいと思います。

車中泊まとめWiki

※サイト管理人様より記事へのデータ利用を快諾いただきました!さらに本サイトのデータ一覧も共有いただき、今回Tellus OSと重ね合わせるのに利用させていただきました。ありがとうございます!!

全国車中泊スポット

このサイトでは、車中泊スポットのランクをSランク、Aランクと切り分けています。

このランクSを「素晴らしい」、Aを「良い」と考えた時に、衛星データで設定した条件がそれぞれどのようなデータになるのかがわかれば、このマップにはまだ掲載されていない新しい車中泊スポット候補を、衛星データから日本全国で探すことができるのではないでしょうか!

ということで、SランクとAランク、それぞれの情報と照らし合わせる衛星データを考えていきたいと思います。

前回のSAMさんのアドバイスでは、夏は太陽があまり当たらず気温が低いところが良いと聞いたので、まず気温が低い場所が適しているはずです。
条件①:気温が低い

夏は暑いので、なるべく標高が高くて涼しそうな場所を選定するのが良さそうですね。
条件②:標高が高い

また、以前沖縄でキャンプをした時に、風が強すぎて車の中から全く出られないということがあったので、車中泊スポットでは、風が静かなところだと、車中泊に良さそうです。
条件③:風速が小さい

あと、絶対に外せないのは、夜に星が綺麗な場所!せっかく旅をするのだし、夜に綺麗な星空を眺めてゆったりしたい!
条件④:星空が綺麗

最後に、せっかく車中泊を楽しむなら、自然が豊かなところがいいですよね。
条件⑤:緑が多い

以上、まずは5つの条件をこれまでの経験やSAMさんのお話から考えることにしました。

条件を衛星データで可視化してみる

さっそく、5つの条件それぞれについて、衛星データやオープンデータを使うとしたらどのようなものが利用できるか、検討していきます。

条件①:気温が低い

衛星データであれば、温度はNASAの地球観測衛星Terra/Aquaに搭載されているNASA/GSFCが開発したセンサMODISのデータをJAXAが受信したものを、Tellus OSで確認することができます。

【Tellus公式】MODIS地表面温度

※Tellusで公開しているMODIS地表面温度のデータは、衛星から地表の温度を観測しているために、厳密には気温とは違う値になります。

APIで値をとり、しっかり解析を行いたい場合には、アメダス1分値のデータをTellusから参照することができそうです。データの取得は以下記事を参考にしました。

アメダスのデータをAPIを利用して取得する

条件②:標高が高い

標高については、Tellusで以下のようなデータが公開されています。
ASTER GDEM2
ASTER GDEM3
AW3D30
こちらは全て水平方向の解像度が30m程度で、高さ方向は5〜12mの精度のデータです。これらのデータは、Tellus OSでも見ることができます。

解析には、国土地理院のデータを利用しました。

条件③:風速が小さい

風速については、Tellusで提供しているアメダス1分値のデータを利用しました。

条件④:星空が綺麗

「星空が綺麗」という条件については、その日の天候や空気が澄んでいるかなど、日々変化する指標もありますが、あまり激しく変化しない条件として「光害」が挙げられます。「光害」は、照らす対象物のない灯りで、その視認範囲が広い投光器やサーチライトなどの照明が夜空を照らすために、街の夜間景観や天体観測において悪影響を与えている事象のことを指します。

環境省|光害について

「光害」の原因が夜間の灯りなのであれば、衛星から夜間の光を取得している「夜間光」のデータが利用できます。NASAのWorld Viewでは、Suomi NPPが取得している日々の夜間光データをブラウザ上で確認できます。また、VIIRSという衛星のデータを集計し、画素毎に1年間や1ヶ月間のうち雲の影響が無い日の観測の平均値などを計算したデータをColorado School of Minesが処理・配信しています。今回はこのVIIRSの夜間光データを使っていきたいと思います。
データはこちらからダウンロードしています

ちなみに、「星空が綺麗」という条件を最重要視して車中泊スポットを選ぶのであれば、今回参考にしている車中泊まとめWikiのサイトに「全国極上天体観測地マップ、比較的光害の少ない天体観測地まとめ」も存在します。

条件⑤:緑が多い

Tellus OSでは、Landsat-8やAVNIR-2などのデータで、植物がよく反射する近赤外領域を赤く色付けしたFalse Color画像を確認することができます。

また、よく使われている植生指標を使うのも効果的です。植生指標とは、植物による光の反射特性を生かし、簡易な計算式で植物の量や活性度合いを把握することを目的として考案された指標です。代表的な植生指標には、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)があり、IR(赤外線)を強く反射し、R(赤色)は葉緑素によって吸収されるという植生(緑葉)の反射特性を利用しています。

今回利用したのは、Tellusにも搭載されているLandsat-8のデータのNDVIです。

では、実際にデータをみてみましょう。

Tellus OSでざっくりと予想してみる

解析の前に、Tellus OSで可視化できるものを可視化してみて、傾向を確認してみたいと思います。

OSで可視化したデータをまとめると、以下のようになります。

表:Tellus OS可視化で使用したデータ

条件 使用するデータ
1 気温が低い 地表面温度データ(MODIS地表面温度)
2 標高が高い 標高データ(ASTER GDEM3)
3 風速が小さい
4 星空が綺麗
5 緑が多い 可視光のFalse Color画像(Landsat-8)

これに、管理人さんからいただいたSランク・Aランクの緯度経度情報をGeoJSONファイル化して重ねます。​​スプレッドシートのGeoJSON化は以下の記事を参考にしています。

条件① 気温が低い

地表面温度なので、正確には気温とは異なりますが、簡易的に傾向を見るためにMODIS地表面温度データと、管理人様からいただいた全国車中泊スポットのデータを重ねてみます。
2018年8月1日、真夏のデータを比較してみましょう。

真夏のSランク車中泊スポット
真夏のAランク車中泊スポット

Aランクの方が、35度以上を示す濃いピンク色に位置しているものが多いような気配はありそうです。

条件② 標高が高い

ASTER GDEM3のデータをTellus OSで表示させ、各ランクの傾向をざっくりと見てみたいと思います。

Sランク車中泊スポットと標高データ
Aランク車中泊スポットと標高データ

特段標高の高さには違いはなさそうに見えますが、これも後ほどきちんと解析しようと思います。

⑤ 緑が多い

こちらはLandsat-8のデータのプリセットを利用して、簡易的に植物がよく反射する近赤外領域を赤く色付けしたデータと重ねてみたいと思います。プリセットは、Landsat-8のデータを選んで、詳細ボタンから選択することができます。

プリセットを選択
Landsat-8のFalse Color画像とSランクスポット
Landsat-8のFalse Color画像とAランクスポット

SランクもAランクも、赤い領域のすぐそばのグレーなど植生が弱そうな領域に点在しているように見えます。

解析結果から条件を再定義

こちらの解析は、俺人さんにご協力いただきました!解析に使用したデータまとめると、以下のようになります。

表:解析に用いたデータ

条件 使用するデータ
1 気温が低い 気温データ(アメダス1分値)
2 標高が高い 標高データ(国土地理院)
3 風速が小さい 風速データ(アメダス1分値)
4 星空が綺麗 夜間光(VIIRS)
5 緑が多い NDVI(Landsat-8)

では、実際にデータをみてみましょう。

Sランクの場所の値を青色、Aランクをオレンジで表現し、ヒストグラムを作成しています。ただし、SランクとAランクでは、地点数が異なるため、縦軸は相対度数としています。

アメダス1分値で算出した気温のヒストグラム

条件①気温が低い

Sランクを表す青色が左側、オレンジが右側に偏っていることがわかります。青色は17度〜20度、オレンジは22〜26度付近に固まっています。Sランクが温度が低く、Aランクが高い傾向にあると読み取れます。涼しい車中泊スポットに高評価が集まっているように見えます。

Tellus OSでも、真夏の2018年8月1日に各ランクの気温がどのようになっているか、MODIS地表面温度でざっくりと傾向を見てみました。

国土地理院の標高データで算出したヒストグラム

条件②標高が高い

Sランクで標高が低い地点が多いように見えるものの、S、Aで大体同じような傾向になっています。つまり、標高では車中泊スポットの良さはそこまで変わらないということのようです。

アメダス1分値で算出した風速のヒストグラム

条件③風速が小さい

青色のSランクもオレンジのAランクも、傾向はほぼ変わりません。どうやら風速も、車中泊スポットの評価にはそこまで影響しないようです。(行く日によるから、といったところでしょうか)

夜間光のデータを使ったヒストグラム

条件④星空が綺麗

基本的にはSもAも左側に偏っていますが、Sランクの青色については右側、明るい場所もぽつぽつとあるように見えます。実際のデータを見ていると、サービスエリアやパーキングエリアなどの施設もスポットとして登録があるようで、その辺りが明るい場所として現れてきているのかもしれません。

Landsat-8のNDVI値で算出したヒストグラム

条件⑤緑が多い

SもAもともに低く止まっています。SとAで変化はほとんどないので、この条件も今回の車中泊スポットの評価にはあまり関係がなさそうです。また、NDVIの値が軒並み低いところから、森や茂った山の中というよりはもう少し開けて整備された地点が多いのかもしれません。

以上で、データの分析が完了しました。

今回の車中泊まとめwikiサイトのデータのSランクを「素晴らしい」場所、Aランクを「良い」の場所と仮定すると、条件は以下のようになります。

条件①気温:低い方が良い
条件②標高:あまり関係ないかも
条件③風速:あまり関係ないかも
条件④夜間光:基本的には暗いところが良い
条件⑤植生指数:低いところが車中泊スポットになっていることが多い

気温が低くて、場所によっては夜間が明るくて、植生指数が低いところがSランク車中泊スポットとなる可能性が高い場所のようです。

車中泊スポット探しの道のり

第一回で「①車中泊のルールやマナーをプロに学ぶ」を実施し、第二回となる今回は、俺人さんのご協力を得て「②車中泊スポットのオープンデータと衛星データの相関を分析」を行いました。次回は 「②車中泊スポットのオープンデータと衛星データの相関を分析 〜続編
」として、実際に車中泊スポットを体験し、本当にSランクの車中泊スポットが
・気温が低く
・夜間明るく
・植生指数が低い
場所なのかどうか、検証をしていきます!

その検証を経て条件をアップデートした暁には、衛星データから新たなSランク車中泊スポットを見つけ、そこで快適な車中泊もとい「くるキャン」をするのだ!!!!という思いを胸に、城戸の「くるキャン」への挑戦は続くのでした。

ご協力いただいた
車中泊まとめWiki 管理人様
俺人様、ありがとうございました!

(次回に続く)

過去、人生をかけてやってみたもの