「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」SPACETIDE 2021 WINTER/Day2 第1部レポート
2021年12月13~16日に開催されたSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。2日目のプログラム「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」の第1部「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」の内容をご紹介します!
一般社団法人SPACETIDE(以下:SPACETIDE)が2021年12月13~16日に開催したSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。その内のプログラムの一つ「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」は3部構成です。
プログラム全体を通じて衛星データのエンドユーザー・衛星データプロバイダー・衛星エンジニアの3つの視点から、それぞれが衛星データ市場を作る上で、今までのデータで行われてきたユースケースやお互いに求めていることは何かについて議論しました。
第1部では、「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」と題して、一般的に公開されているデータ以外のデータの総称である「オルタナティブデータ」としての衛星データを用いた事業例とオルタナティブデータの活用はどのようにする 必要があるのか、について議論します。
(1)登壇者と事業領域紹介
本セッションの登壇者は以下の3名です。
梅木 健一
損害保険ジャパン株式会社航空宇宙保険部長兼 ブローカー営業室長
1993年慶應義塾大学を卒業後、旧安田火災海上保険株式会社(現損害保険ジャパン株式会社)に入社。本店営業部にて主に製薬業界や石油業界のグローバル企業を担当した後、2009年に日本損害保険協会へ出向。同協会総合企画部にて協会長補佐業務を行いつつ、損害保険業界の発展に向けた業務品質向上、基盤整備などの事業に従事。その後、当社経営企画部において事業計画の策定・進捗管理、事業費戦略の構築・管理、危機対策、損害保険ジャパン株式会社と日本興亜損害保険株式会社の合併・統合対応等を担当。2015年に海外現地法人Sompo Seguros S.A.(ブラジル)に出向し、同社の経営戦略・企画を所管する取締役としてグループ海外事業の拡大を牽引。2019年4月に帰国後、航空宇宙保険部長兼ブローカー営業室長として着任。
宇宙・航空産業の企業に向けたリスクマネジメント・ソリューション提案や共創ビジネス構築などを統括。
長尾 真司
オービタルインサイトテクニカルアカウントマネージャー
2011年大学卒業後、日系不動産ディベロッパーに営業として入社。その後、外資系マーケティングリサーチ会社にて、データ分析・コンサルティング業務に従事。2019年より米シリコンバレーに本社を置く衛星画像分析データ解析企業・Orbital Insightでリモートセンシングや時空間データを活用したサービスのアジア太平洋地域での販売、カスタマー・パートナーサポートを行っている。
モデレーター 中村 友弥
衛星データプラットフォームTellusオウンドメディア「宙畑」編集長
2017年に宇宙に特化した宇宙ビジネスメディア「宙畑」を共同で立ち上げた後,2018年にTellusのオウンドメディアとなったタイミングで編集長に就任。
「メディアを通して宇宙ビジネスへの参加の敷居を下げることで参入者を増やし、業界を活性化する」ことをミッションに掲げ、デスク調査による記事企画・執筆のみならず、衛星データを利用した海釣りやロケ地探しなど、自らも衛星データを活用しながらそのノウハウを公開。宇宙に関連した企業へのインタビューも累計で50社を超える。1991年、熊本県熊本市生まれ。一橋大学法学部を卒業後、株式会社オールアバウト入社。同社ではWebメディアの企画、編集、広告業務に従事し、現在は動画コンテンツ制作や新規事業を推進。
中村:それでは、「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」と題しまして、金融産業と保険産業における衛星データ活用について、こちらに並ぶ損害保険ジャパンの梅木様、Orbital Insightの長尾様にお話を伺っていきたいと思っております。よろしくお願いします。では、まず簡単に梅木さんから自己紹介をお願いします。
梅木:私は損保ジャパンで現在、宇宙産業や航空産業を担当する営業部門の統括をしています。普段は宇宙保険の販売や宇宙産業の皆様にリスクマネジメントのソリューション提供をしています。昨今は、皆様のビジネスを社内に紹介して、損保ジャパンの中でどう活用するかといった議論をするために、社内に提案・紹介することも大きなミッションになっています。
中村:ありがとうございます。では、長尾さんお願いします。
長尾:私はOrbital Insightに約2年半前に入社しました。現職はアカウントマネージャーとして、基本的に日本のお客様のマネジメントをしています。日本だけではなく、最近ではシンガポールやオーストラリア、タイ、APACのお客様も担当させていただいています。今、日本では弊社はリセラーのパートナーで、伊藤忠商事さんや、スカパーJSATさんと提携を結んで、一緒に日本のビジネスを大きくしようという取り組みをしております。
中村:今回は、衛星データ活用の中でも、実際にさまざまな企業様に衛星データのソリューションを提供されているソリューションプロバイダーとして長尾さんに、梅木さんには実際に事業の中で衛星データ活用をされている、いわば衛星データのユーザーとして、今日はお話をいただければと思っております。
(2)オルタナティブデータの概要と現在の動向
中村:本題に入る前に、「オルタナティブデータとしての衛星データ」について説明します。「オルタナティブデータ」は、実際に直訳すると「代替のデータ」であり、いわゆる機関投資家さんが使っている伝統的なデータとは異なるデータのことの総称を「オルタナティブデータ」と呼びます。
今回のメインセッションである衛星データだけでなく、SNSのデータ・POSデータや経済ニュース記事というところもオルタナティブデータとしては扱われます。
伝統的なデータとオルタナティブデータとでは、更新頻度や取得コストであったり、実際に精度・信頼性みたいなところで比較されるケースが多いです。
衛星データの強みは、人が行かずとも広域に人間の目だけでは見えない種類のデータのところまで、定期的に均質に取得できるデータということでしょう。
では、実際にどのような「金融x衛星データ」の事例が生まれているのかについて、さっそくお話を伺っていきたいと思います。
まずは長尾さんからご説明をお願いいたします。
Orbital Insightの事例
長尾:簡単に弊社の概要を冒頭にご紹介しますと、現在様々な投資家さんからのご支援をいただいています。
例えば、Sequoia CapitalさんやGoogleベンチャーさんがメインの投資家になっています。日本では、伊藤忠商事さんやスカパーJSATさんも含まれています。
私たちはあくまでもソフトウェアの会社として、様々なパートナーシップを結び、それを一元的にプラットフォームに乗せることを1つの強みとしています。
そのため、Planet Labsさんだったり、Airbusさん、それ以外にESRIさんなどの複数のデータプロバイダーとも提携を結んでいます。
こちらが弊社創業者が思い描いていた、創業時のビジョンであります。創業時の2013年は、ちょうどAIやクラウドコンピューティングが出てきた頃です。あとは2010年創業のPlanetさんが、どんどん小型化で安価な衛星を打ち上げていた時代背景もあって、この3つが重なれば、世界でいったい何が起きているのか、ということが新たなデータとして分かってくるんじゃないのか、というところに着目して創業したのがOrbital Insightという会社です。
今弊社が思い描いているビジョンとしては、複数の地理空間データを統合して、お客様にプラットフォーム上でさまざまなデータソースにアクセスしていただき、そこから複合的にインサイトを得られる。そういったプラットフォームを目指しています。プラスαですと、弊社独自のAI、コンピュータービジョンまたは機械学習のアルゴリズムを開発して、それらを組み合わせて、地球で何が起きているのかを複合的に明らかにしようというのが、今の目指している先です。
「宇宙?すごいけど、うちではちょっと……」衛星データ解析のトップランナーOrbital Insightが乗り越えてきたデータ活用の障壁
簡単に金融関係のユースケースをご紹介させていただくと、現状はデータの制約もあるので、比較的ミクロな分析よりマクロ的な視点で金融を明らかにするというのが、使い方として多い印象があります。
例えば、現在コロナであまりオフィスに戻らなくなるということを受けて、弊社のGPSデータを使い、どれだけ人が戻ってきているのかをインデックス化して、アメリカのオフィスの今の稼働状況を把握するような取り組みが、ある企業様で行われています。
それ以外の事例では、自動車業界を金融機関の方が興味を持たれるケースがあります。アメリカの車工場をすべて分析対象として、自動車業界全体の稼働状況やメーカーごとの稼働状況がコロナの状況でどうなっているのかを解析しています。
見ていただくと、メーカーごとに戻り方が異なり、マクロ的な視点で自動車業界の変化を捉えようとする金融機関様もいらっしゃいます。
また、弊社には国際金融機関様がお客様でいますが、リサーチやインフラへの投資の効果を分析することもあります。例えば、衛星画像から弊社のアルゴリズムを使って、車が何台あるのかを分析出来ます。
これを使ってGDPとの相関や車の数字を見ることで、その国の景気の動向がどうなっているのかを明らかにする取り組みもあったり、いろいろな業界や大きな経済、国全体でのGDPのような、マクロ的な視点の分析が比較的多いです。
最後に、よりミクロな視点での分析の例として、オイル精製所をモニタリングしたケースがあります。何か問題が起きて止まっていないのかなどの異常検知といったことを、弊社のオルタナティブデータを使うことで、いち早く察知します。問題が起きると価格に影響されることが多いので、その価格変化にいち早く動けるように準備するという使い方も最近では見られます。
中村:長尾さん、ありがとうございます。全工場の車の数を数えるって人がやると一体いくらかかるんだ、ということが衛星データで出来るということですね。ありがとうございます。
Orbital Insightさんが2018年に初めての海外拠点を東京に置かれてから、実際に日本の企業でもオルタナティブデータを使おうという機運が高まっているのでしょうか。
長尾:そうですね。間違いなく2年半前に私が入ってから、年々日本の市場での盛り上がりを感じるところがあります。
中村:実際にそういった企業様にとって、今回のセッションが役に立つようなセッションになるように頑張っていきたいと思います。
それでは梅木さん、よろしくお願いいたします。
損保ジャパンの事例
梅木:当社の宇宙産業の発展に向けたチャレンジをご説明させていただきます。大きく2つのチャレンジをしておりまして、1つ目が保険会社としての挑戦。2つ目がユーザー、パートナーとしての挑戦というものがあります。
まず最初に保険会社としての挑戦ですが、現在、民間の企業様で宇宙開発が進んでいく中で保険ニーズが非常に高まっており、それぞれのビジネスにマッチした宇宙保険を提供していくことが大事です。
こちらの図を見ていただきますと、縦軸のところ、これまでは衛星を軌道上に打ち上げることが宇宙保険のメインリスクだったのですが、今後アルテミス計画等もあり月や火星に進出していくということで活動領域が広がっています。
一方で、横軸のほうを見ると、これまで衛星事業が中心だったのですが、宇宙旅行・デブリ除去や地上での衛星データ利活用といった形で、宇宙産業は多様化しています。
そんな中で、オレンジ色の部分が既存の保険でお引き受けできる部分ですが、赤い部分というのは、これから新たに保険を開発する必要のある部分でして、ここは保険会社としてチャレンジをして、皆様の宇宙事業拡大をサポートしていきたいと思います。これが1点目のチャレンジになります。
2つ目が、ユーザーもしくはパートナーとしてのチャレンジという形になりますが、保険会社にとって衛星データは本業でもかなり活用できると思っています。衛星データをうまく利活用することで、当社の事業効率化につなげたり、お客様のサービス向上に役立てていく。そうした取り組みを通して宇宙産業の発展にも寄与していきたい。これが2つ目のチャレンジです。
今日は、当社の2つ目のチャレンジである衛星データの利活用がメインテーマになりますので、当社の衛星データ利活用の取り組みをご紹介させていただきたいと思います。
こちらが私どもが洪水発生時の迅速な保険金のお支払いを目指して衛星データを活用している取り組み事例になります。
水害等の広域災害時の保険会社としての1番の使命というのは、保険金を早くお客様にお届けすることと、安心していただくことになります。そのためには災害地域における浸水被害状況をいち早くつかむことが大切なので、どうやってそれを実現するかというところで目をつけたのが衛星データの活用です。その実装に向けてこれまでSynspective様とPOC(Proof of Concept:概念実証)を行っております。
Synspective様はSAR衛星という合成開口レーダを用いて地上の状態を把握する衛星を持っていて、空が雲に覆われていても問題なく地表の状況というのをキャプチャーできます。ここに出ている地図のように災害地域の浸水状況を広域で観測し、迅速かつ効率的な災害対策本部の設置ができて、現地での査定もスムーズに行うことができて、迅速な保険金の支払いにつながります。
また、この衛星データを活用すると浸水の深さがセンチメートル単位で分かるので、今後は被害想定区域のお客様に、保険金の請求がなくても「もしかしたらお客様のところも保険金の請求ができるかもしれませんよ」というような勧奨を行っていったり、将来的には自動的に判断して保険金をお支払いするようなことまで実現するなど、いろいろな可能性を秘めていると考えています。
実際、その実現に向けてはまだまだデータの精度を上げていく必要があるので、これから当社が持っている事故データなどもうまく活用しながら、Synspective様と引き続き解析精度の向上に努めていきたいと思っています。
次の事例は、自治体のレジリエンス(回復力、復元力)の向上を目的とした災害予知の取り組み事例になります。この取り組みはビッグデータを最先端のAI技術やアルゴリズムにより解析して、災害発生前における被害予測を地図上に動的に表示することで都市の防災や減災に貢献しようという取り組みになっています。こちらは水害だけではなく地震も対象にしております。
現在、複数の自治体ともPOCを行って、タイムリーなソリューションを自治体に提供できる体制をパートナー企業であるOne Concern,Inc.と構築中です。こちらについても各種衛星データを教師データとすることで、今後シミュレーション等の精度向上も可能と考えております。
最後に、当社グループ事業における宇宙産業とのコラボレーションの可能性について触れたいと思います。私どもは損害保険事業をメインオリジンとしているグループですが、「Innovation for Wellbeing」をスローガンとして、安心・安全・健康に関わる分野の事業拡大を進めています。
横軸にあるとおり、損害保険だけではなく、ヘルスケア事業、モビリティ事業、さらにはアメリカのPalantirというデータ解析会社と組んでデータビジネスにも進出するなど、トランスフォーメーションを加速しています。この中ではインシュアテック、モビリティ、データプラットフォーム事業、このあたりが宇宙産業とのコラボレーションの可能性があると考えています。
こちらがその一例ですが、損保会社はその事業特性から多くのリアルデータを持っています。これらのデータと衛星データをうまく組み合わせることによって、新たなソリューションの提供ができるんのではないかと考えています。
例えば、先ほどご紹介した防災・減災の観点で言えば、当社が保有する契約データや事故データと、衛星観測のデータを組み合わせることで精緻なリスク判断も可能になりますし、我々にとっては新しい事業領域であるモビリティ分野においても、測位衛星との組み合わせによって新たなソリューション提供が可能かもしれません。
最後は農業ですね。ここはまだ日本ではニッチな分野ですが、農業保険においても気象衛星とか観測データを使うことで農家の皆さんに新しいソリューション提供もできると考えています。ぜひ私どもとしては宇宙産業の皆様と積極的なコミュニケーションを取って、新たなソリューションを構築していきたいと考えております。
中村:ありがとうございます。本当に衛星データ活用することで、災害後の迅速な保険金支払いだけではなく災害前の検知というところにも取り組まれているんですね。私「宙畑」の編集部でいろいろ記事を書かせていただいていますが、衛星データだけではなく機械学習の解析技術であったり、さまざまなトレンドの波が今うまく重なっているからこそ、今までだと夢物語だったことが少しずつ実現可能になる機運が高まってきていると思います。
(3)衛星データ活用の大事な4つのステップ
中村:今日は、視聴されている方の中にはおそらく衛星データをこれからどうやって使うんだろうなと思われている方が多いと思いますので、そういった方々にとってヒントになるようなことをお話できればなと思っております。
そこで、実際に企業の方が衛星データ活用をしようと思う際に、発生する4つのステップに分けて質問をお伺いしていこうと思っております。
課題の発見の仕方と衛星データをなぜ使うのか
では、まず課題がどのように発見され、衛星データがその解決策に繋がるとどのように気づかれたのかというところで、梅木さんから伺えればと思います。
梅木:先ほどご紹介した水害の保険金の支払いで衛星データの活用を検討していますが、課題は明確です。いかに早くお支払いできるかといったときに、現状だと台風が起きたあと災害対策本部は、自治体や気象庁の開示情報などの各種情報を参考に手探りで運営しています。
要は「どこが浸水域なのか」がタイムリーに見えない中で、一定の情報に基づき災害対策本部を立ち上げていますが、これではどうしても非効率さが残り、早くお客様に保険金をお支払いできません。何かより効率的なものはないかと、社内でも考えている中で、衛星データというのがピンときたということです。
当社の保存データや衛星データをうまく組み合わせて解析することで、より効率的・効果的な保険金の支払いにつながるのだろうと考えたのが、このプロジェクトが始まった経緯になります。
中村:ありがとうございます。「迅速に」保険金支払いをしなければならない状態で、人手を無制限に現場に向かわせることはできないというところで広域に状況の把握ができる衛星データに目を付けたのですね。
続いて長尾さんにお伺いします。実際にOrbital Insightさんに相談に来られる企業様の中で、どういった課題を持って来られる方が多いのでしょうか。また、衛星データのどういった点に可能性を感じているのでしょうか。
長尾:企業様によって全く異なりますが、共通して言えることはあります。1つ目は先ほどもあった「広域で見られる」という部分、あとは「人手をかけて見る必要のあるものをモニタリングできる」というところの魅力は大きいと思います。
あるアセットマネジメントの会社なんですけども、保有しているアセットを定期的に人を送って見に行っているらしいんですね。今回コロナをきっかけにそもそも行けない状況になって、どうしようかとなったときにたまたま弊社のことを知っていただいてご契約いただいたりとかもあります。この場合は、効率的に予算をかけずに人を送らずにモニタリングするというところが1つの課題解決につながっているケースです。
それ以外によくある問題としては、どの金融機関様も他の金融機関様と比べて一歩先に行きたい、自分たちだけ特別な何か付加価値を提供したいというのはあります。
多いケースだと、リサーチレポート、アナリストレポートを発行される中で、AIS(船舶自動識別装置)データのような船のデータや携帯端末のGPSデータを提供するなど、これらのデータを複合的に彼らのアナリストレポートにまとめていただく。そして、彼らのほうでデータから示唆を引っ張り出して他社様にはない特別な価値を提供するという使い方もあります。
中村:ありがとうございます。今のお話はすごく面白いなと思っていて、衛星データの活用を考えると「課題は何か」というところから始めることが多いんですけど、金融業界の場合は強いやりたいことが実際に衛星データ活用のきっかけになりうるということですね。
長尾:そうですね。そういったケースもあるんですが、多くのお客様は「とりあえずやってみよう」とか、「新しいデータを試してみよう」というような感覚で来て一緒にトライ&エラーをして発見することももちろんあります。
衛星データ利用を社内プロジェクトで通すために
中村:続いては、実際に社内でプロジェクト化をする上でのハードルがあるのかについてお伺いします。
梅木さんにこちらを伺いたいんですが、衛星データ活用プロジェクト自体はすんなりと社内の稟議が通ったのか、それとも「ちょっと説明してほしい」とかいろいろなハードルがあったのでしょうか。
梅木:衛星データだからどうというところは正直なくて、やっぱりプロジェクトを進める上で1番大事なのは「目的が何なのか」とか「課題が何なのか」ということだと思います。今回の水害保険金支払いの件というのは課題が明確だったので比較的スムーズにいったのかなと思っています。
ただ一方で、衛星データがどこまで本当に使えるのかというところは現時点でもこれからという部分があります。実際にPOCをしてみてデータの精度が改善できるいう部分もあります。
また、一定レベルにはもう到達していることも理解しているので、これからは先ほど申し上げた通り、当社が保有する様々なデータをうまく組み合わせることでより実装レベルに近づけていくこと。これができれば最終的に実装するという形になるのかなと思っています。
中村:よく手段が目的化してはダメだと言われますが、衛星データから入るというよりは、まずは目的が間違いなくあってそこに対して衛星データという手段がone of themの中にあるという形で今使われているということですね。
梅木:おっしゃるとおりです。
中村:続いて長尾さんにお伺いします。実際にソリューションプロバイダーとしてオルタナティブデータを活用する中で、社内プロジェクト化する上でクライアントさんをどう説得するかは大変なのでは?と思います。事業を進めるにあたって何か意識していることはありますか?
長尾:梅木さんからも少し話はありましたが、目的意識やどこを目標にするのかというのは、いずれはクリアにしなければいけない部分ですね。先ほど私が申し上げた通り、どうしても最初はフワッとした状況で進むケースというのはPOCでも多いです。
弊社はその事業のプロフェッショナルではないですが、オルタナティブデータを扱うプロフェッショナルとしていろいろな知見、他の業界の知見なんかもあります。それをインプットする一方で、実際のお客様が持つ専門知識をいかに弊社に共有しながら一緒にPOCを組み立てていくのか、そして一緒にどれだけ目的を明確化していくのかというのは、進めていく上でキーなのかなというのは感じます。
中村:ありがとうございます。すでに課題があるところからというよりは、実際に一緒に課題を見つけていきながらというところで進められているということですよね。
長尾:本当にそのとおりですね。
プロバイダーとユーザーが感じる衛星データ利用における課題
中村:では、次の質問が気になる方も多いかなと思います。衛星データ活用を実際に進めてみてどのような課題がでてくるのでしょうか。
まず長尾さんにお伺いします。衛星データを扱う際に、金融業界・保険業界で必ずといっていいほど出てくる課題ってあるでしょうか。
長尾:ちょっとネガティブな言い方になってしまいますが、どうしても最初の期待値が「なんでもできるんじゃないか」というところからけっこう始まります。
なので、いかに今どこまでできるのかというのを理解した上で、そこからより中長期的なビジョンを描いてステップアップすることが課題かなとは思います。
途中で止まってしまうケースもありますし、なかなかビジョンをそこまで描けなかったりすることもあります。私たちが何をできるかと言うと、同じことの繰り返しになりますが、いかに密なやり取りをして、いかに失敗を重ねながら、「これはやっぱり実務には活かせなかったね」「じゃあ、こっちのアプローチはどうだろう?」「じゃあ、こっちをやってみよう」というようなトライ&エラーができないとなかなか解決まで進んでいかないという印象はあります。
中村:ありがとうございます。ちなみに衛星データでよくある勘違いされる「あるある」だとどういったものがありますか?
長尾:例えば画像の取得頻度とかですかね。やっぱり皆さん、画像って「もう1日何枚も、毎日撮られているんでしょ?」というイメージを持たれている方がいるんですけど、現時点だと昼頃撮られていたり、場所によっては本当に1週間に1回とか、1か月に1回しか撮られていないという現実ではあるので、そこの部分のギャップは感じることがありますね。
中村:まさに「今だと」というところの課題で、やはり勘違いは多いですよね。それこそAxelspaceの中村さんやSynspectiveの白坂先生にも通ずる話で、今後衛星が量産体制に入っていく中で頻度が上がることに期待しながら期待値をちゃんと叶えられるような状態になるといいなと私も思っております。
続いて梅木さんにお伺いしたいんですけれども、実際にプロジェクトを進めてみて「ここは壁だったな」と思うところがあれば教えていただければと思います。
梅木:先ほどの話と少し重なりますが、データの精度を実装レベルに近づけていくことだと思います。長尾さんもおっしゃられた通り、簡単なことではないと思うので根気強くやっていく必要があります。
私どもの場合はデータを解析しながら一定のレベルまで到達しているということが一応社内でも見えたので、あとはデータの組み合わせ方だったり、その精度を上げていくということをこれからさらに取り組んでいこうと思っています。
大事なのはサービスプロバイダー側もユーザー側もそうですけど、どちらかに頼りきりというのは駄目だと思っています。両方が一緒になって取り組むことが課題の解決には非常に重要だと思っています。
中村:ありがとうございます。1年でなんとかなるものかと言うとそうではないことがあります。やはり課題がまずあって3~5年かけてやっていくようなプロジェクトとして認識していただくというところは、プロジェクトを進める上では重要なポイントかなと思いますね。
これからの衛星データ市場拡大の課題とは
中村:では、最後のステップの質問です。これから衛星データの市場を拡大していく上での課題についてお伺いします。まず梅木さん、いかがでしょうか。
梅木:繰り返しになりますが、本当に大事なキーワードは精度の向上だと思っています。そのために何が必要かと言うと、これも先ほどからお話が出ているトライ&エラーというのを繰り返していくこと。これをしながらどんどん精度を高めていくことが1番大事なのかなと思っています。
中村:ありがとうございます。長尾さん、いかがでしょうか。
長尾:特に金融機関業界での話をするとポイントはいろいろありますが、もちろん先ほど言っていた衛星画像の取得頻度がますます増えていけば、使えるケースって間違いなく増えるなというのは肌で感じています。ただそれだけではなくて、もちろん弊社が提供するようなコンピュータービジョンのアルゴリズムの精度も上げていかなければいけない。それは今後さらにビジネスを広げる課題の1つだと思います。
もう1つは、いかにお客さんとコラボレーションをして作っていくのかという部分で、例えばお客様がどうしてもすぐに結果を出さなきゃいけないというケースはもちろんあると思います。しかし、現状のこの業界をしっかりと理解していただいた上で一緒に二人三脚で中長期で歩んでいく、そのある意味マインドセットと言いますか、そのあたりが少し変化が必要なのかなというのもまた別の点で感じるところですかね。
中村:ありがとうございます。やはりお二方とも共通しているのは、課題がまずあること。そのうえで、関わる人全員が当事者意識をもって、誰かに任せきり、頼りきりにならないみたいなところが重要ということですね。
質と量、衛星データで求めるのはどっち??
中村:では、会場から寄せられた質問を用いての質疑応答に入ります。これは長尾さんにお伺いしたいのですが、「衛星データの質と量、現時点で向上してほしいものがあるとすれば、1つ選ぶならどっちですか?」という質問が来ています。いかがでしょうか。
長尾:やはり量かなと思います。それは私たちの目線というよりもお客様の目線で考えたときに、どうしても今の金融機関さんで使っていただくケースで多いのは、毎日とか毎時間撮られている粒度の細かいデータというのがどうしても使いやすいというフィードバックが多いです。
なので、どうしても衛星画像を1週間に1回とか1か月に1回のデータを日々の実務にどう落とし込むか、というところはやはり課題で感じています。そこがもっと衛星画像のプロバイダーさんでもっと打っていただけるとだいぶ変わるかなと思います。
中村:そうですよね。なかなか量がなく1週間前のデータが見たかったんだけど、1週間前は曇りだったということもけっこうありますよね。
長尾:そのとおりですね。どうしても雲とかの影響もあったりとか、場所によってどうしても不定期になるので、そのあたりが読みにくいというようなご意見もあったりはしますね。
中村:そこも先ほどの衛星データのよくある勘違いとしてあるところなので、衛星データの量が今後上がっていくことで、徐々にカバーされていくところかなと思います。ありがとうございます。
(4)今後の展望・衛星データに期待すること
中村:それでは、最後に今後の展望・これからの衛星データに期待することについて一言ずつよろしくお願いします。まず梅木さんからいただければと思います。
梅木:期待することは先ほどもお話が出ましたが、量という部分で言うと、多くの衛星が打ちあがることだと思っています。それによって精度も高くなるし、継続的・安定的なデータ取得ができるという体制が構築できるので、ここはぜひ期待したいなと思っています。
私どもの抱負で言えば、衛星データはすごく高い可能性、ポテンシャリティを持っていると思っているので、先ほど申し上げた防災・減災だけではなくて、モビリティなどの様々な分野で使えると思います。
ここは先ほどよりお話が出ているとおり、フワッとしたものしか今はないのですが、これをもう少し具現化していく目途が立たないと、おそらくうまく活用できないと思います。今後は、具現化に向けた取り組みにどんどんチャレンジしていきたいなと思っています。
中村:ありがとうございます。では、長尾さんお願いいたします。
長尾:今、梅木さんがおっしゃったとおり、やはり期待するところで言うと、衛星画像の量が増えるところが1番期待している部分かなと思います。
Orbital Insightの展望という部分で言うと、どうしてもそこは技術的な部分だったり、いろいろな制限があるので、今年、来年でパッと衛星データの状況が一気に変わるかと言うとそうではないと思います。弊社としては衛星画像だけに頼るのではなくて、既存でもいろいろなデータがあると思っていて、もちろんGPSデータもそうですけど、最近だとけっこう船のデータを知りたいという金融機関のお客様も多いです。
例えば港ですね。今はサプライチェーンの混雑状況、つまり港の状況をAISデータで把握できるんじゃないか。さらに、それと組み合わせて港から出た車とか人の動きで、そのサプライチェーンがどう変わっていくのか、その辺が見られるんじゃないかという期待もあります。
それ以外では今、弊社だとコネクテッドカーもけっこう関心が強い領域で、もうすでに弊社のサービスへの導入検討に進んでいる段階です。私たちは今できるソースをうまく複合的に活用しながら、近い将来に衛星画像や他のデータが公に出てくるところを期待したいです。
中村:ありがとうございます。最後にまとめますと、衛星データを活用できる事例は本当に増えてきてはいる。ただ、活用する上では、その課題がまずあって、その課題に対して3~5年かけて熱量を持って、誰かに頼らずに自社でちゃんと進めていくぞ、という気概を持って進めていくことが大事というところ。
あとは衛星データに関しては今後、量がどんどん増えていくことでさらに実現性が高まってくるということですね。ありがとうございます。
ということで、こちらで今日のセッションを終了させていただきたいと思います。ありがとうございました。
編集後記
以上、「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」についてのディスカッションでした。
各企業が独自に取得する衛星データと自社データのかけ合わせることで、新しい事業領域の開拓につながったり、GDPなどのマクロデータの組み合わせで国全体の大きな視点の分析が出来ることはもはや当たり前になってきました。
一方、衛星データを活用して新規事業を興す中で、衛星の撮影頻度や画像の質といった性能などの技術的な課題だけでなく、利用者とプロバイダーとの衛星に関する認識や理想像の齟齬が残り続けていること、プロバイダーに頼りきりになりがちな点などの企画段階のすりあわせにおける課題も浮き彫りにもなりました。
ユーザーとプロバイダーとの情報や課題のやり取りをしっかり行い、根気強く3~5年かかるプロジェクトになるという認識を持って、丁寧に取り組んでいくことがシンプルかつ重要な要素であるということですね。
梅木さん、長尾さんありがとうございました!