宙畑 Sorabatake

衛星データ

オープン&フリーの光学衛星が無料で3日おきに入手できる時代に!?Landsat-8/9とSentinel-2A/2Bの組み合わせで、さらなる高頻度観測が可能に​​

最近新たに画像が無料公開されたアメリカの政府衛星Landsat-9。公開されたことにより、なにが実現するのか考察しました!

2022年2月10日から、アメリカ政府の地球観測衛星シリーズの最新機であるLandsat-9の衛星画像の無料公開が開始されました。

運用中の前号機Landsat-8と合わせると、観測頻度はLandsat-8単独での観測の2倍となり、8日に1回の頻度で同じ地点を観測できるようになります。

Landsatの8日に1回の頻度では物足りないという場合には、他の衛星も利用することができるかもしれません。例えば、Landsatシリーズと同じく無料で利用できる衛星に欧州の地球観測衛星シリーズSentinel-2があります。Sentinel-2は2機で5日毎の観測が実現されています。Landsat-8/9とSentinel-2の合計4機を利用すると、およそ3日に1回、最新のデータが確認できるようになります。

本記事では、Landsat-8/9とSentinel-2を組み合わせた場合に、観測頻度がどのように変化するのか、詳しく解説していきます。

(1) 極軌道衛星の特徴

「人工衛星」と聞くと、日々の天気予報で目にすることも多い、気象衛星「ひまわり」のイメージから、24時間いつでも日本の様子を確認できると思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、人工衛星の軌道には様々なものがあり、目的に応じて使い分けられています。「ひまわり」のように、特定の地域の常時観測が求められる場合には「静止軌道」という軌道が採用されます。

一方、LandsatやSentinelシリーズをはじめとする、世界中を広く観測することを目的とした地球観測衛星は、多くが「極軌道」を採用しています。

極軌道衛星の特徴

LandsatとSentinelシリーズの観測頻度を考えるにあたって、極軌道衛星の特徴について簡単におさらいしましょう。

極軌道とは、地球の北極付近と南極付近を通り、地球を縦方向に回転する軌道です。地球の自転は横方向に回転するので、極軌道衛星は、時間の経過とともに、世界中のあらゆる場所を観測することができます。

極軌道の中でも多く利用されているのは「太陽同期準回帰軌道」といって、衛星から見た地表面の太陽光の当たり方(角度)が常にほぼ一定な軌道です。地球観測衛星の場合、撮影する地域の対応の当たり方が一定であると解析が行いやすいため、LandsatやSentinelシリーズもこの「太陽同期準回帰軌道」を採用しています。

静止軌道衛星の特徴

静止軌道は、赤道上空の高度約36,000kmにある円軌道です。静止衛星は、地球の自転速度と同じ速度で周回するため、地球から見ると衛星が常に同じ場所に静止しているように見えます。また、高度約36,000kmという非常に遠くから地球を見ているので、地球表面の約1/3を視野に収めることができ、地球上の広い領域を常に観測できるという特徴があります。

極軌道衛星は、静止軌道衛星と比べてその高度が低い分、分解能(解像度)が高いという強みがあるのですが、一方で、同一地点を観測できる頻度が少なく、一度に観測できる範囲が狭いという弱みもあります。その欠点を補うために、同じスペックをもつ衛星を複数機打ち上げたり、観測幅を広げたりするなどの工夫が行われています。

例えばLandsat-8/9を組み合わせれば、同一地点を8日に1回観測できるようになりますが、それ以上の頻度を求める場合は、他の衛星も併せて利用することで、より高頻度な観測が可能になります。

今回は、無料で利用でき、かつLandsat-8/9(分解能:パンクロ(白黒)15 m、マルチ(カラー)30 m)より高分解能な光学衛星であるSentinel-2シリーズ(分解能:10 m)を組み合わせた観測頻度を検証してみました。

Tellusを使えば他にも0.5m分解能のASNARO-1などの衛星データを無償で利用できますので、ご関心があればチェックしてみてください。

衛星データプラットフォーム「Tellus」

(2) Landsat-8/9の観測頻度

まず、Landsat-8と9の2機体制になったことで、どれほど観測頻度が高くなったのか確認します。

これまでメインで運用されていたLandsat-8単独では、同じ地点を次に観測できるのは16日後でしたが、Landsat-9の登場により、観測頻度は2倍の8日になるということでした。

しかし、この情報だけでは、具体的には1日の観測でどのエリアを、どのくらいの広さで観測できるのか、イメージがわきませんね。

実際のLandsat-8/9の観測イメージを掴むために、観測エリアの実績をEO Browserで確認してみました。EO Browser では、SentinelシリーズやLandsatシリーズ以外にも、いくつかの衛星データをお使いのブラウザ上で、無料かつそのままの分解能で閲覧することができます。
EO Browser:https://apps.sentinel-hub.com/eo-browser/

先ほどのリンクを開くと、このようなポップアップが表示されます。

Credit : Copernicus Sentinel data

チュートリアルを見たい方は「Continue with tutorial」をクリックしてください。今回は飛ばしますので、右上の「×」で閉じて頂いて大丈夫です。

するとこのような画面になります。

Credit : Copernicus Sentinel data

デフォルトでは地図上にイタリアが表示されているので、今回は日本を表示するようにします。右上の虫眼鏡マークに「Japan」や「Tokyo」などの地名を入れて検索・選択すると、自動で見たい地域に移動します。一旦ズームアウトしてからマウスで地図を動かし、見たい地域をズームインしても移動できます。

Credit : Copernicus Sentinel data

日本周辺に移動しました。

Credit : Copernicus Sentinel data

今回はまず、Landsat-8とLandsat-9の観測実績を確認するので、左側の「Search」の「Data sources」の中から「Landsat 8-9」にチェックを入れます。L1とL2がありますが今回はどちらでも良いので、デフォルトで選択されたL2のままにしておきます。

※衛星データの処理レベル:L1とL2
衛星データは生データに近いものから、様々な補正が加えられたものまで、いくつかの処理レベルで配付されており、LXという形で表記されます。数字が小さい方がより生データに近いものになります。

今回のLandsatの場合、L1は大気上端反射率や大気上端輝度温度、L2はL1を大気補正して求めた地表面反射率や地表面温度になっています。

また、「Max. cloud coverage」を選ぶこともできます。ここで、画像内に含まれる雲の比率によってフィルタをかけることができます。今回は雲の有無によらず観測頻度を知りたいので、デフォルトの100%のままにしておきます。

Credit : Copernicus Sentinel data

衛星を選択したら、次は検索期間を指定します。Landsat-8/9のそれぞれの単独での回帰日数は16日です。Landsat-9のデータ利用開始が2022/2/10なので、例えば、2022/2/10から2/25の16日間を見れば、Landsat-8/9の全ての観測タイミングを確認することができます。

画面を下にスクロールし、「Time range [UTC]」に、「2022/2/10」から「2022/2/25」と入力し、「Search」を押します。

Credit : Copernicus Sentinel data

すると、このように、2/25の一部の観測エリアが青い四角形で出力されました。全ての期間の結果を出力させるためには、左の検索ボックスを一番下までスクロールし、「Load more」を何回か押すと、検索期間中の全ての結果を重ねて表示することができます。

Credit : Copernicus Sentinel data

16日間の全ての観測エリアを重ねるとこのようになりました。海域はほとんど観測されていませんね。陸域の方が、情報量や利用者が多いため、陸域を中心に観測されていることがわかります。衛星には観測リソース(電力や記録容量など)の制限があるため、地球上全ての場所を網羅的に観測するのではなく、需要の高い地域に絞って運用計画を立てているようです。

Credit : Copernicus Sentinel data

青い四角形がある地点をクリックすると、その地点をいつ、どの衛星が観測したか確認することができます。例えば、東京付近をクリックすると、このようなポップアップが出てきます。ここから、東京付近は、2/14と2/22に2回観測されていることがわかります。

Credit : Copernicus Sentinel data

Landsat-8かLandsat-9のいずれで観測されていたのかを確認する方法は、少し裏技っぽくなるのですが、右上のリンクマークを押した際に出てくるAWS Pathのうち、含まれる文字列が「LC08_L2SP~」か「LC09_L2SP~」かを見て頂き、LCの次の数字で8号か9号かを判断することができます。

Credit : Copernicus Sentinel data

他にも、どの地点をクリックして頂いても、それぞれにLandsat-8とLandsat-9の観測が少なくとも1回ずつあることがわかります。

また、今回は16日間で検索しましたが、8日間で検索すれば、青く示される観測エリアは同じで、Landsat-8かLandsat-9のいずれかが観測していることが確かめられます。このように、Landsat-8とLandsat-9を用いれば、確かに8日間に1回、同一地点を観測できることが確かめられました。

8日間の観測イメージはこちらのようになります。衛星の通り道のことを「パス」といいますが、北から南に伸びるパスが、地球の自転に伴い東に移動していくことがわかります。

Credit : Copernicus Sentinel data

よく見ると、赤い四角で示すように、東西方向に観測エリアが重なっている地域があります。実は、この地域は8日間に1回以上の間隔で観測されています。例えば、北海道札幌市周辺を見てみると、2022/2/10から2022/2/25の期間中、2/13(Landsat-9)、2/14(Landsat-8)、2/21(Landsat-8)、2/22(Landsat-9)の計4回観測されていることが分かりました。このように東西方向に観測エリアが重なっている地域であれば、7日に1回以下の頻度で観測が可能だということになります。

Credit : Copernicus Sentinel data

(3) Landsat-8/9に、Sentinel-2A/2Bを加えた時の観測頻度

次に、Landsat-8/9にSentinel-2を合わせると、どの程度観測頻度が増えるのか確認していきます。ちなみに、Sentinel-2は、Sentinel-2AとSentinel-2Bの2機体制で、1機の観測頻度が10日です。つまり、Sentinel-2の2機で5日に1回の間隔で同じ地点を観測できます。

まず、EO Browser で、Sentinel-2の観測実績をLandsatと同様の期間(2022/2/10~2022/2/25)で検索してみました。しかし、1パスあたりの観測シーンが細かく分割されている影響で、少し見にくいですね…。(また、観測シーンが多く、「Load more」を数十回押す羽目になるので、お勧めできません。)

Credit : Copernicus Sentinel data

Sentinel-2に関しては、CopernicusのHPから観測計画がKMZという地理空間系のファイル形式でダウンロードでき、こちらの方が見やすいため、今回はGoogle Earth ProでKMZファイルを確認してみました。

Sentinel-2も、Landsat-8/9と同様に、陸域を中心に観測していることがわかります。また、Sentinel-2AとSentinel-2Bの観測対象となるエリアは全く同じで、異なる日にそれぞれ観測していることがわかりました。

Credit : Google Earth (Data: SIO, NOAA, U. S. Navy, NGA, GEBCO, Image: Landsat/Copernicus)

早速、Landsat-8/9とSentinel-2との組み合わせで、どのくらいの観測頻度になるのか確認してみます。

Sentinel-2シリーズ2機での観測頻度が5日毎、Landsatシリーズ2機での観測頻度が8日毎なので、これらの最小公倍数である40日の観測カレンダーを作成します。今回は、初日のDAY1を2022/2/10として、翌日のDAY2、DAY3…と確認していき、実際に観測のあった日に〇を付けました。DAY41はDAY1に、DAY42はDAY2に対応します。

まず、東京都千代田区の観測カレンダーはこのようになりました。

Sentinel-2は、5日に1回観測できるので、40日間のうち8回(=40/5)、Landsat-8/9は8日に1回観測できるので、5回(=40/8)と、合わせて13回の観測が確認できました。さらに観測の間隔を平均してみると、3.3日に1回観測されていることがわかりました。Sentinel-2と組み合わせることで、頻度は2.4倍に向上しましたね。

東京都千代田区


DAY 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
Landsat                                    
Sentinel-2                                
間隔   3日 2日 5日 1日 4日 4日

 

DAY 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40
Landsat                                  
Sentinel-2                                
間隔   1日 5日 2日 3日 5日 5日

 

先ほど、Landsat-8/9の観測エリアが東西方向に重なっている北海道札幌市は、観測頻度が高くなることを確認しました。北海道札幌市についても確認してみたところ、このような結果になりました。Landsat-8/9の観測頻度自体が高くなっている効果があり、先ほどの3.3日より多く、平均で2.5日に1回観測ができるということがわかりました。

北海道札幌市


DAY 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
Landsat                              
Sentinel-2                                
間隔   2日 1日 2日 5日 1日 4日 3日

 

DAY 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40
Landsat                              
Sentinel-2                                
間隔 1日 1日 5日 1日 1日 3日 4日 1日 5日

 

このように、Landsat-8/9とSentinel-2を組み合わせることで、Landsat-8/9だけの場合の2.4倍以上である、3.3日に1回での観測が可能になることがわかりました。さらに、関心のある地域が、運よく、衛星の観測エリアが東西方向に重なっている地域であれば、より高頻度での観測も期待できます。

(4) 平均3日の観測頻度の無料の衛星データによって得られる効果

Landsat-8/9とSentinel-2A/2Bを組み合わせることで、およそ3日に1回程度、関心のある地域を定期的に観測することができることがわかりました。これまでも有料の衛星データでは高頻度で観測を行うことができていましたが、無料の衛星データでこの頻度を達成できることで、衛星データの利用シーンは広がると考えられます。

災害被害状況の把握

高頻度で観測できると効果がある事例として、防災・災害対応があります。災害が発生した際、可能な限り早く現地の状況を把握する必要があります。

タイミングに依っては、衛星が被災地の上空を通るまで、1週間程度待つ必要があります。その上、雲があると地上の様子が分からず、さらに次のタイミングを待たなければならないこともありました。しかし観測頻度が3日程度になれば、晴天の発災の直前・直後を捉えられる可能性が高まり、より正確かつ迅速な情報提供ができるため、災害対応に役立てられます。

農業

Landsat-8/9やSentinel-2は、多くの観測波長をもつので、私たちが見慣れた赤青緑のカラー画像(可視光域)だけでなく、近赤外線などの波長を使って、農業に役立てられます。

農業では、作物の状況が日々変化します。1週間では病害の検知や追肥・収穫のタイミングなどを逸するケースもあり、高頻度に見るために有料の衛星データを使っていました。これが3日に1度無料の衛星データでも確認できるようになれば、衛星データを使った営農支援サービスの価格の低減につなげられるかもしれません。

例えば、農業の生育状況把握に利用されるNDVI(正規化植生指数)などを定期的に確認することで、農作物の生育状況の把握、追肥や刈取り時期の予測などに活用できます。

(5) まとめ

今回は、オープン&フリーの光学画像である、Landsat-8/9とSentinel-2シリーズを組み合わせることによって、観測頻度がどのように変化するのかを検証してみました。

今後、オープン&フリーの衛星が増えていけば、さらに観測頻度が向上し、世界中のあらゆる場所のデータが毎日入手できる日がくるかもしれません。そんな世界でますます重要になるのは、見たいデータに簡単にアクセスできるプラットフォーム。Tellusの利便性がますます高まり、世界をリードするようなプラットフォームとなることを期待しています。