宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

人工衛星の軌道を徹底解説! 軌道の種類と用途別軌道選定のポイント

人工衛星はどのように動いているのでしょうか。人工衛星の軌道解説シリーズ、第一弾は軌道と用途の関係を徹底解説します!

旅程を立てるときに、まず考えることは何でしょうか?

おそらく多くの人は「目的地」と「(その目的地に到着するまでの)移動ルート」を決めるのではないでしょうか?

一方、宇宙空間における国際宇宙ステーションや月といった「目的地」は常に動いているため、1地点ではなく速度を持った「軌道」として表されます。さらに、その目的地に到達するまでの「移動ルート」も人工衛星・宇宙機自身が通る「軌道」として表現されます。
 
人工衛星・宇宙機の軌道を理解するということは、「目的地」としての「軌道」を理解することと、「移動ルート」としての「軌道」の2種類の軌道を理解することです。

日本語ではこの2つを区別せずに「軌道」と呼びますが、英語では前者の定常的に周回する軌道のことをOrbit、後者のような遷移するための軌道のことをTrajectoryと呼ぶことがあります。

人工衛星の軌道は「どのようなミッションを行いたいのか?」を考える上で非常に重要なテーマです。まさに、目的地と移動ルートを決めることが旅行にとって最も重要であることと似ています。

地球周回衛星の軌道とミッション

地球を周回する人工衛星の場合は、目的地としての軌道に応じて、人工衛星が遂行できるミッション(=提供できるサービス)の内容が変わってきます。

可視範囲・サービス提供地域

・軌道高度

まず、1機の衛星が提供できる可視範囲・サービス範囲の広さは主に軌道高度によって決まります。

気象衛星や通信衛星で主に使われる「静止軌道」は高度3万6千キロメートルのため、地球の約1/4の範囲をカバーすることができます。

一方で、地球観測衛星がよく使う「地球低軌道」は高度約500キロメートルと、地表面すれすれを飛んでいるため、衛星から見える範囲は衛星の直下点を中心として半径2,000キロメートル程度です。実際には、地平線すれすれのエリアにサービスを提供することは難しいため、1,000キロメートル以下のサービス範囲になることがほとんどです。

・軌道傾斜角

もう一つサービスの提供範囲を決める大事な要素が「軌道傾斜角」です。
「軌道傾斜角」とは簡単にいうと、赤道面から軌道面がどれほど傾いているか、ということです。

赤道面と軌道面がほぼ直角の場合、衛星は南極と北極を通るような軌道となります。衛星自体はくるくると回りながら、地球は自転するため、衛星は地球表面全体を広くスキャンしながらサービスを提供していくようなイメージになります。

赤道面と軌道面が直角よりも傾く場合、衛星は南極や北極は通らず、中緯度~低緯度付近に集中してサービスを提供することになります。

さらに、赤道面と軌道面がほぼ一致する場合、衛星は赤道上のエリアのみにサービス提供することになります。先に説明した通り、低軌道では観測できるエリアが限られるため、赤道周辺国以外にはあまり用途はありませんが、高度を高くしてエリアを広くすれば非常に便利な軌道となります。これが「静止軌道」です。

観測頻度

衛星が軌道を周回する速度と地球の自転速度の関係から、1機の衛星が地球の同じ地点を訪れる頻度が異なってきます。

詳細な説明は本記事では割愛しますが、軌道高度や先ほど説明した軌道傾斜角を調整することで、何日に1回衛星が同じ場所に戻ってくるかを調整しています。

「静止軌道」はこの調整の一例で、高度を3万6千キロメートルにすると、衛星が周回する速度と地球の自転速度が一致するため、地球からみると衛星が静止してしているように見え、気象衛星や放送衛星・通信衛星でよく用いられる軌道となります。

解像度

地球観測衛星の場合、重要な指標の一つがデータの「解像度」です。

軌道について考えると、衛星に搭載しているセンサの性能が同じ場合、高度が低ければ低いほど観測対象との距離が近くなるので、解像度は良くなり、高度が高くなれば悪くなります。

こう書くと高度が低い方が良いように思えますが、先で説明した通り高度が低くなると一度に観測できる範囲が狭くなるため、両者のバランスをとって最終的な軌道が判断されます。

また、宇宙空間といえど高度の低い軌道には多少の大気が存在するため、大気抵抗でどんどん高度が落ちてきてしまい、軌道を維持をするための機器が必要という点もデメリットとなります。

とても低い軌道高度をとっている地球観測衛星の代表例としてAlbedo社の衛星があります。同社の衛星は低い軌道に衛星を投入することで、従来の衛星では達成しえなかった解像度10cmクラスの画像の取得を予定しています。

一方で、軌道が高い観測衛星の代表例として、気象衛星が挙げられます。気象衛星ひまわりは大局的に雨雲の様子を捉えるため、より広い視野をとれ、分刻みで動きを追える静止軌道に配備されています。

観測時刻(日の当たり方)

光学衛星の場合、太陽がどの角度から当たっている状態の地表面の様子を撮りたいか、ということも重要なポイントになります。

ある画像は朝早くに撮った画像、ある画像は夕方に取った画像ということになると、太陽の当たり方が異なり、影のでき方が違ってくるので、2枚の画像の比較がしにくくなります。

時系列での前後比較がしやすいように、同じ時間に同じ場所を通るように設定された軌道を「太陽同期軌道」と言います。

通信遅延

通信衛星の場合の重要なサービスの指標として、「通信遅延」があります。
送信側が送った内容が相手に届くまでにかかる時間を指します。

電波の速度は常に一定のため、2者間の距離が離れれば離れるほど通信遅延は大きくなります。テレビ番組で海外と中継をしている時に、日本のスタジオと現地のレポーターの間にタイムラグが生じているのを見たことがあるかもしれません。

衛星の軌道で考えると、軌道高度が高ければ高いほど通信遅延は大きくなります。

通信衛星は、従来は冒頭でご紹介した「サービス提供地域」を固定するため、高度3万6千キロメートルの「静止軌道」に多く投入されてきました。しかし近年では、通信遅延を短くする目的などで、より高度の低い高度約500キロメートル「地球低軌道」へ衛星を配置する計画が立案されています。

この場合、1機あたりの衛星のサービス提供地域は狭く、提供地域が次々と変化していってしまうため、衛星を大量に配置し、衛星群(コンステレーション)としてサービスを提供することが想定されています。

月以遠へ向かう軌道とミッション

ここまでは、地球の周りを周回する軌道(=地球周回軌道)について説明してきました。しかし、地球周回軌道は人工衛星・宇宙機の軌道のほんの一部でしかありません。月や火星、さらに遠くへ向かうためには、軌道の知識が更に重要になります。

目的地としての軌道という観点では、地球周回軌道と同様に、遂行したいミッション(例えば、月極域に対する通信ミッション)の形態に応じて選択されます。

また、移動ルートの軌道という観点では、乗換案内と同様に、移動ルートの選び方によって、所要時間やコストが変わってきます。特に、人工衛星・宇宙機・ロケットでは、搭載できる燃料の量は限られており、多く積むとその分観測機器などが載せられなくなってしまいます。そのため、少ない燃料でなるべく効率よく移動できる軌道を設計が求められます。

まとめ

本記事では、衛星のミッションと軌道の関係について説明してきました。
次の記事では、そんな軌道についてPythonを用いて、具体的に解説していきます。
お楽しみに!