衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~
人工衛星から実際に何がわかるの? なぜ分かるの? どのくらいの頻度で? 実際にどうやって使われてるの?をまとめてみました。 たとえば、経済産業省がさくらインターネットに委託した日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」では、"非宇宙"の第一線で活躍すメルカリやABEJAなどが名を連ねた21の企業・団体とのアライアンスが発表されました。
今、人工衛星から取得できるデータ「衛星データ」に注目が集まっています。
たとえば、経済産業省がさくらインターネットに委託した日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」では、”非宇宙”の第一線で活躍すメルカリやABEJAなどが名を連ねた21の企業・団体とのアライアンスが発表されました。
しかしながら、「衛星データが面白そう!」と話題に上がるものの、その種類やデータの取得頻度、解像度や入手方法を知っている人は少数派かもしれません。
本記事では、衛星データのキホンをご紹介しています。
ちょっと難しい&盛りだくさんの内容ですが、これを読めば、衛星データが分かる!
(1) 衛星データの種類(センサの種類、観測周波数)
一口に衛星データと言ってもその種類は様々。「Google Map」の航空写真のような光学写真はもちろん、植物の活性度、地表面温度なども衛星から取得できるデータです。
本章では衛星データで観測できるものについて、センサの種類と観測周波数といった取得方法の観点からご紹介します。
まず、衛星データで分かることを説明するためにデータのカテゴリを「陸域」「海域」「空域」の大きく3つに分け、上のイラストではそれぞれの領域で取得できるモノ・コトの一例と、そのデータを取得するために必要なセンサをまとめています。
“一例”としているのは「衛星データから分かるモノ・コト一覧」はこれで完璧というものはなく、「衛星データから何が分かってどのように利用できるか」はまだ議論され尽くされていません。それがまた衛星データビジネスの面白いところでもあります。
そこで、ちょっと難しいお話になりますが、衛星データを取得するための複数のセンサについて「見えるもの」「仕組み」「長所・短所」を勉強してみませんか?
衛星データのセンサについてほんの少しだけでも詳しくなると「あ、あれも分かるのでは?」と妄想するのが楽しくなるはず……!
デジカメで地球をくまなく観測する!光学センサ
衛星に搭載するセンサとしても最も一般的で、光学センサというとこのセンサを指すことが多いです。
厳密には、「可視光」と呼ばれるヒトの目で見える波長域の光と、そのすぐ近くの赤外「近赤外」と呼ばれる領域の光を集めています。
私たちが地上でよく使うカメラをイメージしていただくと良いと思います。
光学センサでは太陽光を反射した対象物の”色”が見えています。あくまで、光の反射をみているので真っ暗な夜や雲のあるところでは撮影することができません。
白黒の画像を「パンクロマティック」(Panchromatic、略してPAN、パン、パンクロなど)、カラーの画像を「マルチスペクトル」(Multispectral、略してマルチ)と呼びます。
マルチは赤緑青(RGB)など、複数の波長帯の画像を重ね合わせて一枚のカラー画像にします。
同じセンサにパンクロとマルチが搭載されている場合、パンクロの画像の方が解像度が高いことが多いです。
マルチの画像にパンクロの画像を重ね、カラー画像をシャープにした画像を「パンシャープン」画像と呼びます。
可視光は英語でVisibleなので、略してVIS。反射赤外線は波長が可視光に近いため、近赤外線と呼ばれ、Near InfraRedでNIRと呼ばれます。
可視光と近赤外線をまとめてVNIRという記載がしてあるセンサもあります。NIRよりももう少し波長の長い領域として短波長赤外(SWIR:Shortwave Infrared)という領域のセンサを搭載している衛星もあります。
VNIRの領域では、地表面の様子が分かるのはもちろんのこと、物体は波長ごとに反射する太陽光の強さが異なる(だから、色が異なって見える)ので、その特徴から物質を識別することができます。
例えば、上図に示すように植物と水と砂の反射の強さは波長ごとに異なるので、物質を識別できるというわけです。さらに、植物一つとっても植物の種類によってわずかにこの波形が異なるので、細かく値を見ていくことで植物の種類まで見分けることができます。
特にNIRは植物の活性度合いを示すと言われており、農業分野で役立てられています。
【VNIRが搭載されている衛星】
Landsat-8/OLI、Sentinel-2/MSI、だいち/AVNIR-2、しきさい/SGLIなど
■光学センサを使った宙畑の解析記事
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雲や夜に強い!合成開口レーダーSAR
合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)は、センサからマイクロ波を発射し、地表で跳ね返ってきたマイクロ波をとらえるセンサです。
ざらざらした表面ほど多く電波が返ってきて白くみえ、水面などつるつるした表面では電波が反射してしまうため黒く見えます。
センサの原理上、可視光のセンサほどなめらかな画像にはならず、妊婦さんの検診につかうエコーのようなザラザラとした画像になります。
自ら発した電波の跳ね返りを観測しているため常に同じ条件で撮影できているのが特徴で、見え方が太陽光の状態に左右される光学センサと比較して、Before/Afterの画像を見比べて変化を検出することが得意です。
電波は雲を通過するため、雲がある地域でも地表の観測が可能です。また、能動的に電波を出しているので、昼夜関係なく地表を観測することができます。
SARセンサにも光学センサと同様に観測周波数があります。よく用いられているのはLバンド(1〜2GHz)、 Cバンド(4〜8GHz)、Xバンド(8〜12GHz)の3つで順番に波長が短くなっていきます。周波数の違いによって、何に反射して跳ね返ってくるかが異なります。
最も周波数の長いLバンドでは、電波が木の葉や枝、草を通過するため、地面の様子が分かります。広い範囲の地殻変動などを観測するのに向いています。Cバンドでは電波は枝で反射されます。最も短いXバンドでは木の葉や草で電波を反射します。L帯やC帯と比較して細かいものを見ることに向いています。
さらに、SAR衛星では偏波という機能もあります。SARセンサの電波は上図に示すようにその振動方向によって、垂直偏波・水平偏波に分けられます。
水平偏波Horizontal(H)もしくは垂直偏波Vertical(V)を発信し、反射して返ってきた電波を水平(H)で受信するか、垂直(V)で受信するかというものです。
水平偏波で電波を出して水平で受けることをHH、垂直で受けることをHVといい、垂直偏波で電波を出して、垂直で受けることをVV、水平で受けることをVHと言います。大きな衛星では、水平と垂直の両方を同時に受けられるものもありHH-HVなどと記述されます。
これは物体の識別のために用いられています。物体の特性(表面特性や塩分の含有量など)によって、入射した電波をどう反射するかが異なるため、画像にしたときに反射の強さが異なって見えます。
たとえば、水田とビニールハウスとハスの畑は異なる偏波特性を持っているので、異なって見えます。また、海氷の塩分濃度の違いから海氷の年代の分析を行うことができます。
【SARセンサが搭載されている衛星】
だいち2号/PALSAR-2(L帯)、Sentinel-1/C-SAR(C帯)、ASNARO-2(X帯)
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地表面と海面の温度が分かる!熱赤外線センサ
可視光よりも長い波長域を見ているのが、熱赤外線です。
名前の通り、地表面の温度を観測します。可視光/反射赤外線が太陽光の反射光を見ているのに対し、熱赤外線は物体自身が発する電磁波をみているので、夜でも撮影することができます。空港で疫病のチェックに用いられるサーモグラフィは熱赤外線のセンサです。
熱赤外線は英語でThermal InfraRedといい、略してTIRと記載されているものが多いです。
熱赤外線はその周波数特性から光学センサに比べて解像度が低いという特徴があります。米国のLandsat-8衛星では、パンクロの解像度が15m、マルチが30mに対し、熱赤外領域は100mです。静止衛星のひまわりでは2kmです。
【TIRが搭載されている衛星】
Landsat-8/TIRS、 ひまわり/AHI、しきさい/SGLIなど
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大気の様子を探る!ライダー
ライダーは、SARと同じような原理でマイクロ波ではなく光学(レーザー光)で行うセンサです。光の跳ね返りから、大気中の粒子の濃度を測定しています。ドップラー効果を利用することにより大気中の粒子の動き、すなわち風速を知ることもできます。
光学センサでは平面的な情報しかわからないですが、ライダーの場合鉛直方向の情報も入手できるため、大気の構造の理解などに役立ちます。ただし、レーザー光のため一度に照射できる範囲が狭く観測範囲が狭いという特徴もあります。
【ライダーが搭載されている衛星】
EarthCARE/ATLID、ADM-Aeolus/ALADINなど
水にまつわる観測が得意!マイクロ波放射計
マイクロ波を受動的に観測するのが、マイクロ波放射計です。気温分布や大気中の気体の吸収特性,水および氷粒子の吸収・散乱特性などが観測できます。
マイクロ波の特性から観測範囲は広いですが解像度は低く、搭載している衛星は少ないです。データの取り扱いは光学センサやSARセンサのように画像になるわけではなく、解析には高度な専門知識が必要です。
【マイクロ波放射計が搭載されている衛星】
しずく/AMSR2、GPM/GMIなど
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海面高度を高精度で測る!マイクロ波高度計
センサからマイクロ波を発射して反射して帰ってくるまでの時間から、高度を計算します。
高さ方向の精度は数cmと高精度ですが、マイクロ波が照射される範囲全体(直径数km)の平均高度となるため、海面の高度計として用いられています。海面の高度も波などのミクロな高度ではなく、潮の流れなどマクロな高度を見るのに適しています。
参考:アルチメーター(高度計)- 人工衛星で海面の起伏をはかる
海上風を知る!マイクロ波散乱計
海面に電波を照射すると、電波の波長に近い長さを持つ海面波の成分が散乱してレーダーに信号が受信されます。その信号の強さは、海上に吹いている風によって左右され、風向きとその強さに関係します。
つまり、マイクロ波散乱計では、海上風の観測ができます。
【マイクロ波散乱計を搭載している衛星】
SEASAT/レーダー高度計、みどり2号/SeaWinds、MetOp-B/ASCATなど
降雨レーダー/雲レーダー
大気中の雨や雲などの降水粒子に反射する波長のマイクロ波(Ka帯/Ku帯)を用いると、大気中の雨や雲の様子が計測できます。
【降雨レーダーを搭載している衛星】
GPM/DPRなど
GPS RO(掩蔽えんぺい)
降雨レーダーのようなことをGPSの電波の散乱具合を使って観測しようとしているのがGPS ROです。
電波の発射を自らが行わなくて済むため、衛星自身を小型化できるというメリットがあります。
【GPS ROセンサを搭載している衛星】
Spire、PlanetiQなど
以上、ここまで紹介してきたものは衛星から観測して把握できるものでした。
また、衛星データは観測して把握できるものだけでなく、地上から電波に乗せて発信されている情報を収集していたものも”衛星データ”です。
次に、そのような衛星データを2つご紹介します。
船舶の情報収集AIS(Automatic Identification System:船舶自動識別システム)
海上を航行する一定の基準を満たす船は、衝突防止などの観点から、常に決められた電波を発信し、周囲に自身の位置情報や速度情報を知らせることが義務付けられています。
この電波を衛星で追跡することで、自分の貨物が海上のどこにいるかを把握することができます。
【AISを搭載している衛星】
Spire, Iridium NEXTなど
■AISに関する宙畑のおすすめ記事
小型SAR×AIS情報で、違法操業の検出【週刊宇宙ビジネスニュース 1/21~1/27】
AISにみる宇宙ビジネスの可能性
航空機の情報収集ADS-B
(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)
AISの航空機版とも言えるシステムで、航空機のカテゴリ情報、対気速度、識別、航空機の旋回、上昇、降下などの情報を収集します。
2014年に起きたマレーシア航空機消失事件を機に導入が進められ、北アメリカとヨーロッパでは2020年に義務化されます。
【ADS-Bを搭載している衛星】
Spire, Iridium NEXTなど
(2) 衛星データの頻度と時刻(回帰日数、平均地方太陽時)
前の章では、衛星データでわかること、取得するためのセンサの種類と仕組みについてご紹介しました。
では、これらの衛星データはどれほどの頻度で、いつの観測データが手に入るのでしょうか。頻度があまりに少なければ変化を捉えようにも使い物にならないですよね。
まず、衛星データの取得頻度は衛星の高度から大きく2つに分けることができます。静止衛星と地球低軌道衛星です。
静止衛星の場合は地球の自転に合わせて常時観測地点が見える場所に衛星が位置するため、衛星データも常に取得することができます。
一方で地球低軌道衛星については、衛星によって頻度もデータ取得時刻もばらばらです。それぞれを把握するための指標が「回帰日数」と「地方太陽時」です。
観測頻度=回帰日数
地球低軌道の衛星については、衛星ごとに「回帰日数」を確認します。
回帰日数とは、衛星が任意の地点を通ってからまた同じところに返ってくるまでの日数で、回帰日数が4日の場合、4日置きに観測ができることになります。
衛星が複数機あり、それらが均等に軌道上に配置されている場合は、この期間を機数で割れば、観測頻度を計算することができます。先ほどの回帰日数4日の衛星が2機あれば、2日置きに観測が行えるということです。
今説明したのは衛星が必ず真下を取っている場合の頻度ですが、実際には衛星がカメラを動かして真下以外の場所を撮影したり、観測領域が広かったりする場合にはさらに観測頻度を上げることができます。
観測時刻=地方太陽時
次に確認したいのが、「地方太陽時」です。
太陽同期軌道と呼ばれる軌道を回っている衛星では、衛星の真下の地表の時刻が常に一定となります。その地表の時刻が「地方太陽時」です。
つまり、赤道通過地方太陽時が10:00の場合、撮影できる時間は世界中の10:00とその真逆の22:00のみということになります。それ以外の時間は観測することができません。正確には地上の時刻は各国の時刻は自国の基準点があるため、1時間前後のずれがあります。
光学センサの場合、太陽光に大きな影響を受けるため常に太陽の方向を一定にするために、太陽同期軌道を選択することが多いです。
光が斜めに入った方がきれいに撮れるので正午前後の軌道を取ります(正午だと真後ろから日が当たってまぶしすぎる)。地表面が太陽によって暖められると上昇気流が発生して雲となるため時間帯はなるべく早い方が好ましく、午後よりは午前軌道を取ることが多いです。
ただし、近年の超小型衛星によるコンステレーションでは、軌道をあまり気にせずに頻度を重視して投入しているケースもあり、これらの衛星には地方太陽時という概念はありません。
また、SARセンサの場合、観測について太陽光は関係ないのですが、電波を発する能動的なセンサであるため必要な電力が大きく、太陽光で常に発電をしていられる地方太陽時6時/18時の軌道を取ることが多いです。この軌道は日中と夜の境目を飛ぶ軌道のためDawn-Dusk軌道(Dawn:夜明け、Dusk:夕暮れ)と呼ばれます。
(3) 衛星データの解像度と観測エリア(分解能、観測幅)
衛星画像として気になるのは解像度でしょうか。光学センサやSARセンサでは特に重要となります。
センサの原理上、解像度を上げようとすればするほど狭い範囲しか観測できず、逆に広い範囲を一度に撮影したい場合解像度は悪くなります。
観測範囲の横幅のことを観測幅(もしくは刈り幅)と言います。衛星はそのミッションに応じて、広域観測とするか詳細観測とするか意図して設計されています。
広域観測の衛星は衛星直下を常時撮像しながら地球全体の撮影を行っています。
詳細観測の衛星は撮影できる範囲が狭いので、ユーザーからの個別のリクエストに応じてカメラの方向を操作して画像を撮像しているケースが多いです。
ただし、Planetなど近年の超小型衛星では機数を増やすことが観測範囲を仮想的に広げており地球全体をくまなく撮影しています。
解像度だけを見ても、何が見えるのかピンとこない方も多いかと思います。
参考までに、光学センサの解像度とそれに応じて見える対象物を以下の図でまとめてみました。
SARセンサでは、観測のモードによって広域観測と詳細観測を使い分けており、同じ場所を集中して観測することで解像度を上げています。
SAR画像は光学画像ほどわかりやすい画像にはならないので、同じ解像度でも見え方は異なってくる点に注意が必要です。
人工衛星から人は見える?~衛星別、地上分解能・地方時まとめ~
(4) 衛星データの活用例、解析例
衛星データのキホンをここまでご紹介しました。では、実際に衛星データはどのように利用され、また、解析されているのでしょうか。
最近の使用例については、宙畑で作成した宇宙利用マップをご覧いただきたいのですが、ここでは教科書的なデータの解析手法の一例についてご紹介します。
●土地被覆分類
可視/近赤外センサの項で説明したように、それぞれの波長での反射の強度のふるまいから、その土地が森林なのか田畑なのか商業地なのか等を見分けることができます。
SARセンサでも偏波特性を用いて土地被覆の分類を行っている例があります。
■ 「土地被覆分類」に関する宙畑での解析記事
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●NDVI(植生指標)
植生指標とは、植物による光の反射の特徴を生かし衛星データを使って簡易な計算式で植生の状況を把握することを目的として考案された指標で、植物の量や活力を表しています。代表的な植生指標には、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)があります。
具体的には、可視光の赤(R)の値と、近赤外(NIR)の値を計算することで算出します。
■ 「NDVI」に関する宙畑での解析記事
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●DEM:Digital Elevation Model(高度、3次元地図)
2方向から撮影した光学センサの画像を用いて、高度情報を含む3次元の地図を作製することができます。
JAXAでは、陸域観測技術衛星「だいち」によって撮影した約300万枚の衛星画像を用いて、全球陸域を対象とした高精度デジタル3D地図を整備しています。
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/aw3d/index.htm
以下の画像はTellusで確認ができるDEMのキャプチャになります。
■「DEM」に関する 宙畑での解析記事
箱根駅伝強豪校の通学路は坂道が多い?都市伝説を衛星データで検証してみた
●差分抽出
SARでは、光学ほどクリアに地表の様子を得るのは難しいですが、Before/Afterで2枚の写真の差を解析することが簡単にできます。
下図は、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震による、大規模な土砂災害被害の状況を可視化した画像になります。
実際に解析してみたいという方は「時期の異なる2枚の衛星画像を重ね合わせて差分抽出してみた!」をご覧ください。
■ 「SARでの差分抽出」に関する宙畑での解析記事
いつ空いてるの!? 無料衛星データでディズニーランドの混雑予想チャレンジ(前編)
(5) 衛星データの入手方法(無料/有料)
さて、第3章まで衛星データのキホンを、第4章で実際にどのように衛星データが利用されているのかの一例をご紹介しました。
かなりボリューミーな内容になってしまいましたが、第4章までを読んでいただいたところで、そろそろ衛星データを実際に触りたくなった方も多いのではないでしょうか。
そもそも衛星データは一般の人が触れるものなのでしょうか。実は、画像の閲覧と実際の解析まで、一般の方でも低コスト、また無料でできる環境が整いつつあります。
本章では衛星データを取得できるサイトとデータ元である衛星をご紹介します。第3章までの衛星のキホンを知っているか否かで衛星データ取得サイトを見て分かることが格段に増えているはずです。
無料で手に入る衛星データ
政府が所有する衛星は無料で公開されているものも多く、主に広域撮像を目的とする衛星画像です。
● アメリカの政府衛星データ LandsatLook Viewer
広域撮像を目的とする光学センサ衛星の王道。観測頻度は2週間に1度。公開されている衛星データの中では最も古く、1972年からのデータがあります。最新機がLandsat-8で8機目。
● ヨーロッパの政府衛星データ Copernicus
http://www.copernicus.eu/
Landsatと同様に広域撮像を目的とする衛星シリーズ。Sentine-1がSAR、Sentinel-2が光学、Sentinel-3が海洋観測となっています。Sentinel-2はLandsatを意識して作られているためか、解像度はLandsat-8よりもやや良いです。観測頻度も、1,2それぞれ2機ずつ打ち上げており5日程度とLandsat-8よりも短いです。
また、それぞれの利用用途分野ごとに解析ツールを用意するなどユーザーフレンドリーであることも特徴です。
●JAXAの衛星データ G-Portal
JAXAの衛星画像を無償で公開。広域の光学センサという意味ではデータ量等欧米にはかないませんが、マイクロ波を用いた観測データが多いのが日本の特徴です。降水や海面水温など画像情報以外の物理量からも選べるようになっています。
●日本の政府衛星データ Tellus
2018年度始まったTellusも無料で衛星データが手に入るプラットフォームです。Tellusに関してくわしくはこちら。
Tellusの利用登録がまだの方はぜひ登録されてみてください。
有料で手に入る衛星データ
有料データは基本的には、詳細観測の衛星データになります。
●Digital Globe
https://discover.digitalglobe.com/
商用利用としては最も解像度の高い0.3mレベルのWorldViewシリーズの衛星画像を有償販売しています。国防関係の衛星データを供給する企業で、衛星データ供給の世界最大手です。
解像度が高い分観測エリアが狭いため、基本的にはユーザーからの撮影のリクエストに基づいて撮像しています。WordViewの2~3号機とGeoEyeの1,2号機の5機で、任意の地点の撮影が毎日できるようになっています。
●Planet
https://www.planet.com/explorer/
同じく詳細撮像を目的とした衛星データを提供しているPlanet。解像度は数mとDigital Globeには劣りますが、安い衛星を100機以上打ち上げることで観測エリアを疑似的に広くし、観測頻度を高めることを狙っています。
(6) 衛星データ解析ソフト
衛星画像をダウンロードしてきたら、今度は解析ソフトが必要です。以下では、衛星データ解析ソフトをご紹介しておきます。
【フリーソフト】
●EISEI
「EISEI」は日本宇宙少年団が教育目的で扱うことを前提にJAXAの研究員と開発した加工ソフトで、商業目的で利用することは禁じられています。利用する際には下記リンク先の使用条件をよく確認し、利用していただきたい。また、Windows版しかない点は注意が必要です。
日本語で作成されているソフトウェアのため、操作ボタンが日本語であり、操作が圧倒的に簡単であるので、まずはちょっと触ってみたい方向けにおすすめです。
●EISEIのダウンロードはこちら
http://www.yac-j.com/hq/info/eisei_kiyaku171226.pdf
QGIS
QGISは、 フリー・アンド・オープン・ソース・ソフトウェア(FOSS)の上に構築されるプロフェッショナルなGISアプリケーションです。
QGIS は、Open Source Geospatial Foundation (OSGeo) のオフィシャルプロジェクトで、Lunux, Unix, Mac OSX, Windows, Andoid で動作し、数多くのベクター、ラスター、データベースフォーマットや機能をサポートしています。
世界的にユーザーが多いため、困ったときにGoogle検索でいろいろと検索できるのが利点です。書籍も数多く出版されています。日本語版はありますが、研究者も使うため解析のメニューが多く、操作性という意味では最初は戸惑うかもしれません。
●QGISのダウンロードはこちらから
https://www.qgis.org/ja/site/about/index.html
MultiSpec
パデュー大学が中心となって開発した画像解析ソフト。名前の通りマルチ画像の解析に特化しています。日本語版はないです。Mac、Windowsとオンライン版があります。
●Multispecのダウンロードはこちらから
https://engineering.purdue.edu/~biehl/MultiSpec/index.html
【商用ソフト】
ArcGIS
Esriという会社が販売しているGIS(地理空間情報ソフト)。画像処理だけでなく、すぐにサービスに活用できるツールを有しています。
ArcGIS には、すぐに利用可能な豊富な地図データや、簡単な設定のみで業務に活用できる各種アプリが提供されており、いつでも、どこでも、あらゆる端末からアプリを利用して、共有された地図や情報にアクセスすることができます
●ArcGISに関してはこちら
https://www.esrij.com/products/arcgis/
ENVI
同じくEsriが販売する画像処理ソフト。
プロフェッショナルのためのリモートセンシング画像解析アプリケーション。
●ENVIに関してはこちら
https://www.esrij.com/products/envi/
衛星データが無料でいじれる!衛星画像解析フリーソフト5選
(7) 衛星データ、始めるなら今。
以上、人工衛星・衛星データのキホンと解析事例と解析方法についてまとめました。
読者のみなさんにとって、衛星データの理解度が少しでも深まるきっかけとなれれば幸いです。
尚、本記事はできる限り正確に記述することを心掛けていますが、分かりやすさのために一部詳しい説明を省略している部分があります。また、原則を説明しているため、個々の衛星については、本記事を参照しつつ各衛星データのスペックを読み解いていただければと思います。
さらに正確に理解したい方向けには、以下の書籍がおすすめです。
ぜひチャレンジしてみてください。
・基礎からわかるリモートセンシング(2011、日本リモートセンシング学会)
地球観測衛星/センサのスペックについてはRESTECさんがまとめられている以下のサイトが便利です。
・衛星総覧(RESTEC)
具体的な衛星データ解析手順については以下のサイトにまとまっています。
・宇宙API
衛星画像解析ソフトArcGISさんのホームページも詳しいです。
・GIS基礎解説
用語解説が豊富です。
・ArcGISブログ
エンジニアの方のやってみた系公式ブログです。
ご紹介したように、衛星画像は無償なものも多く出回っており、解析ソフトも無償配布されているものもあります。難しいことは後回しにして、まずはトライしてみてはいかがでしょうか。
「Tellus」で衛星データを触ってみよう!
日本発のオープン&フリーなデータプラットフォーム「Tellus」で、まずは衛星データを見て、触ってみませんか?
★Tellusの利用登録はこちらから