なぜ日本初衛星データPF「Tellus」のデータビジネスに期待が集まるのか

これからはデータの時代だーー。

そう言われ始めてから久しいが、日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」をご存じだろうか。

2018年7月31日に「Tellus」の開発・利用促進を行うアライアンス「xData Alliance(クロスデータアライアンス)」の記者発表会が行われ、すでにTwitterでも「これは素晴らしい動き」といった声が上がるなど、話題になっている。

果たしてなぜ「Tellus」の動きに期待が集まっているのか。実際に記者会見の現場に向かった宙畑編集部が考える3つの強みと期待を本記事で紹介する。

【目次】
(1)日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」とは?
(2)「Tellus」の強み・その1:豪華な非宇宙プレイヤーの参画「xData Alliance」
(3)「Tellus」の強み・その2:宇宙データ利用へのハードルを下げる
(4)「Tellus」の強み・その3:宇宙データをミクロなデータに掛け算する価値
(5)想定されるユースケースをイベントからピックアップ!
(6)「Tellus」と「xData Alliance」が狙う日本の未来
   

(1) 日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」とは?

tellusロゴ
「地球の上空からセンシングする目をモチーフにしてデザインされている」と「Tellus」のロゴデザインについて説明する経済産業省宇宙産業室の國澤氏
Image Credit: さくらインターネット株式会社

「Tellus(テルース)」とは、さくらインターネット株式会社が経済産業省からの委託を受けて開発する日本初の衛星データプラットフォームである

さくらインターネットは自身のクラウドサービスおよびIoTプラットフォーム事業をベースに、本データプラットフォームの開発・利用促進を進め、3年でデータプラットフォーム自体の収益化を目指す。

「衛星データ」としては、JAXAの所有するだいち2号のSAR画像のデータなどが対象。衛星データを無償かつ商用利用についての制限なく(オープン&フリー)提供することで、今まで一般人にはあまり馴染みのなかった衛星データ利活用の裾野を広げていきたい考えだ。

では、さっそく次章より衛星データビジネスの再構築が期待される「Tellus」とこれまでの衛星ビジネスとの違いを紹介する。
   

(2)「Tellus」の強み・その1:豪華な非宇宙プレイヤーの参画「xData Alliance」

「さあ、宇宙データビジネスをリ・デザインしよう!」

と大きく映し出されるオープニングムービーで始まった記者発表会だった。

いま現在、衛星データプラットフォームは海外ですでに複数存在するものの、一般に広く使われているものは無い。なぜか。

31日の記者発表会に続いて行われたイベント「宇宙データビジネスフォーラム」で発せられたATカーニーの石田氏の発言にそのヒントがある。

「こちら(宇宙)側で考えて、使えるかもしれないと思うユーザー不在の宇宙データビジネスはうまくいかない。」

誤解を恐れずに言うならば、これまでは衛星やロケットを作りたい宇宙関係従事者による、宇宙関係従事者のための、宇宙関係従事者のプラットフォームだったのだ。
※会見でも述べられていたが、既存の宇宙関係従事者は9000人を割っている

「Tellus」の最も大きな違いはそこにある。

「Tellus」の開発への貢献とデータ利用促進を目的として組成されたアライアンス「xData Alliance」だ。

xData Alliance
「xData Alliance」のパートナーシップについてひとつひとつ丁寧に関わり方を話すさくらインターネット株式会社フェロー、小笠原氏
Image Credit: さくらインターネット株式会社

パートナーシップには衛星データ供給プレイヤーとして、日本の宇宙ベンチャーの代表格アクセルスペースが参画を表明しているが、写真をご覧いただくとわかる通り、これまで宇宙ビジネス畑とは縁が遠かっただろう面々がパートナーとして名を連ねている

たとえば、AIの社会実装を展開する株式会社ABEJAや「お金2.0」を執筆した佐藤航陽氏率いる仮想地球プロジェクトEXA、mercariの研究開発部隊mercari R4Dなど、このメンバーだけを見ても衛星データの新しい使い道が開拓できる期待が高まる。

さらに、優秀なAI人材を宇宙データビジネスに流入させるため、株式会社SIGNATEも参画する。SIGNATEは日本版kaggleとも呼ばれる国内最大のAI人材企業だ。登録しているAI人材は既に9,000人を超えるというから驚きだ。

コンテスト形式で企業の課題解決を募り、優勝者には賞金が与えられる。

「xData Alliance」では、宇宙業界全体の関係者と同規模の人的リソースを衛星データと結びつけるコンテストが年数回予定されている。

宇宙データビジネスにとって欠かせないもう一つのリソース、資金についても抜かりがない。IncubateFundB Dash VenturesなどVC合計6社が投資領域として「xData Alliance」に参画する。

衛星データプラットフォームにクロスするのはデータだけではない。豪華な非宇宙プレイヤーの人材・資金もクロスする。この宇宙データビジネスのリ・デザインこそが、「Tellus」の最大の強みである。
   

(3)「Tellus」の強み・その2:宇宙データ利用へのハードルを下げる

豪華な非宇宙プレイヤーを揃えた上で、重要になってくるのは宇宙データ利用へのハードルをどこまで下げられるか、だ。

【ハードルその1:初期投資】

Tellus_ビジネスモデル
既存宇宙ビジネスの課題とチャンスを話すさくらインターネット株式会社代表取締役社長、田中氏
Image Credit: さくらインターネット株式会社

IT界隈でベンチャー企業が盛んなのは、初期投資がほぼ自らの労力だけで済むからだ。大きな資金が必要なく、思いついたアイディアを試すことができる。うまくいかなくても損失は少なく、新しいアイディアを試せばよい。

さくらインターネットの代表取締役社長田中邦裕氏が語っていたのはまさにその世界観を、宇宙データビジネスに持ち込むということだ。衛星データ自体を無償化し、低コストで宇宙データを扱えるようになることで、多くのIT人材がそのデータを試せるようになる。

大きな投資が必要だからこそ、新しいビジネスアイディアは、ニーズ・シーズ分析などの正攻法のアプローチが必要になる。

ただし、チャレンジにかかるコストが小さくなれば、Like・Loveの世界で自由にデータで遊ぶことができるようになる。そこから、新しいイノベーションは生まれると田中社長は考えている。

   

【ハードルその2:使いやすさ】

Tellus_構想
Tellusの事業モデルについて「使いやすさ」のためにどのような仕組みを整えるか話す小笠原氏
Image Credit: 宙畑

もう一つ、さくらインターネットフェロー小笠原氏から出ていたキーワードが「使いやすさ」だ。

たとえAPIがあったとしても、そのAPIが使いづらかったり、古さを感じさせるものであればせっかく触ってもらう機会があっても使えず、使う人が増えることはない

欲しい情報にどうアクセスするのか、見つけたデータをどういうプロセスでどう引き出すのか。実際問題、既存の宇宙データは今まで限られた人しか使ってこなかったので、その視点が欠けている。

「Tellus」では、APIを様々な人に使いやすい状態で使ってもらうため、一般公開前に「xData Alliance」でも実際にデータを利活用するようなメンバーの試用・評価の後、今風なAPIを作っていくそうだ。

そのほか、「Tellus」ではいつでも使えるようなライブラリの構築や、GIS(Google Mapのように位置情報と付加情報が組み合わせられたシステム)を提供するなど、「使いやすさ」のための様々な工夫が考えられている
   

(4)「Tellus」の強み・その3:宇宙データをミクロなデータに掛け算する価値

そして、忘れてはならないのがメインディッシュである「宇宙データ」だ。「宇宙データ」は果たしてなんの役に立つのか?

IoTやビックデータが盛り上がっている昨今、オンライン上に電子決済履歴やSNS投稿など膨大なミクロのデータが日々発生し、解析・利用されている。

一方の衛星データではマクロに、上から全体を俯瞰することができる強みがある。

ミクロに見ているデータとマクロなデータの相関性を見つけることができれば、膨大なミクロのデータを新たに解析する必要がなくなり、データ全体としてはデータの取得コストが下がる

また、今までデータが無かった領域について推測することもできるようになる。衛星データの強みである越境性を活かし、ドローンや地上のセンサが置けないエリアの情報を収集することができるので、今までデータの無かったエリアの補完になるというわけだ。

つまり、衛星データは衛星データとして役に立つわけではない。地上の取引データや車の動きなど、様々なミクロデータと掛け合わせて初めて意義を発揮するのである。

そして、その様々なミクロデータを良く知るのが、「xData Alliance」に参画する非宇宙プレイヤーというわけだ。
   

(5)想定されるユースケースをイベントからピックアップ!

「Tellus」の凄さについて述べたが、具体的にはどんなユースケースが想定されているのか。記者会見の後に行われたイベントの登壇者の発言から拾ってみよう。

衛星データのユースケース
宙畑の業界マップを用いながら宇宙利用の既存ユースケースについて話す宙畑代表城戸
Image Credit: 宙畑

賃貸

自分の住む場所を考えるとき、今だと駅からの距離や日当たり、広さなどの条件がある。

これに衛星データから分かる標高データを加えると、通勤を運動に使いたい人は高低差があった方が良いとか、逆に無い方が好きだとかそういう新しい条件を加えることができる。
   

物流

mercariやamazonなど個別宅配の需要の高まりによって、クライシスと呼ばれるほどの大きな危機を迎えている。荷物の配送状況や宅配トラックの位置、道路の混み具合や高低差の情報を掛け合わせて最適な輸送経路を考える。
   

海運

ATカーニーの石田氏から出ていたのは”海”というアイディア。海は陸と違って他のセンサーデータが少ない領域なので、衛星の強みを発揮できる。

今、海運業界ではデジタル化・自動運転の導入が積極的に進められており、その中の情報の一つとして衛星データが使えるのではないかという考えだ。
   
もしかすると、読者の中には「え、そんな身近な話なの?」と思われる方もおられるかもしれない。

しかし、そこにこそ宇宙データビジネスの本質がある。「衛星とか、宇宙というとなにか壮大なことをやらなきゃいけない感じになるんだけども、そうではない。」というのが小笠原氏の言葉だ。

そして、マクロなデータとしての衛星データを活用することがデータビジネスを行う上で当たり前、前提となる未来を作るのが「Tellus」である。
   

(6)「Tellus」と「xData Alliance」が狙う日本の未来

本事業の背景にあるのは政府が提唱する「超スマート社会(Society5.0)」というコンセプト。目指すのは、様々な業種、企業、人、機械等が繋がることにより、新たな価値創出を図り、顧客や社会の課題を解決するという産業の未来像だ。

たとえば、どこよりも先に超高齢化社会を迎える日本において、誰もがスマートに暮らしていける社会をどこよりも早く実現する。遅れて高齢化社会が来るアジア諸国のロールモデルとなり、”高齢者が住みやすい国”というポジショニングができる。

それによって、海外の裕福な高齢者が日本に移住し始めれば、日本にとっては重要なインカムとなり、若者がチャレンジするために投資を回すことができるようになる。

これは一例だが、低調気味の日本をなんとか上向きにしていきたいという強い想いが感じられる。

現在「Tellus」のβ版事前申し込みも「Tellusの公式ページ」で受付中。興味を持った方はぜひ申し込んでみてほしい。
   

(7) まとめ

2018年7月31日に発表された日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」と「xData Alliance」について、ご紹介した。

華々しい部分を取り上げたが、実際には開発は始まったばかりで、まだ決まっていないという印象もある。

どのようなデータをプラットフォームに乗せるのかという会場からの質問に対しては、今検討中、逆にどういうデータが欲しいという意見があればぜひ欲しいという答えだった。

読者自身のビジネスでの課題はなんだろうか、それにはどのようなデータがあればよいだろうか、宇宙データで貢献できることはあるか、「Tellus」の一ユーザーとしてぜひ妄想してわがままに意見を挙げてほしい

【参考サイト】
・β版の事前申し込み受付中! 政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業「Tellus」
https://www.tellusxdp.com/

・政府衛星データのオープン&フリー化 及び利用環境整備に関する検討会報告書
http://www.meti.go.jp/press/2017/10/20171027001/20171027001-1.pdf