宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙産業の全体像とこれからをSpace BDに訊く! 市場成長を加速させる3つの余白とは

新規事業を続々と生み出すSpace BD社に宇宙ビジネスの余白の見つけ方、事業の見極め方を伺いました。宇宙ビジネスに参入したいけれど、何から始めればよい?という方は必見です!

宇宙産業の市場規模拡大に伴い多くの事業が創出される一方で、情報をどのように収集し、どこに参入すればよいのか迷っている企業の声を耳にすることも。そこで、新規事業を続々と生み出すSpace BD社に宇宙ビジネスの余白の見つけ方、事業の見極め方を伺いました。

Credit : Space BD

▼赤井澤 京平
2011年株式会社ファーストリテイリングに入社。ユニクロ事業における日本事業営業経験後、海外事業の商品計画業務に携わる。海外ユニクロ事業の売上/粗利最大化をミッションに多展開する事業関係者と協業しながら商品計画のPDCAの実践とサポートに従事。

(1)SpaceBDの2023年現在の事業概要

ーーまずは現在のSpace BD社の事業内容の全体像を教えてください。

Space BDの事業マップ Credit : Space BD

赤井澤:では、上図の左側から説明しますね。

まず、②部品調達では、衛星事業者向けの部品調達の補助から国内外の部品サプライヤーの輸出入の補助まで行っています。

③試験支援では、たとえば、衛星開発において熱真空試験、振動試験など多様な試験が必要で、その試験設備の場所提供や民間の利用促進支援をしています。その一環で、九州工業大学と包括協定を結んでいます。

④衛星システムインテグレーションでは、総務省管轄の月面の水資源をテラヘルツ波を使って探すTSUKIMIプロジェクトにて弊社がプロジェクトマネジメントおよび衛星のミッション部とバス部のシステムインテグレーションを担当しています。

①衛星打上げサービスでは、JAXA様との設備利用のパートナーシップや利用権を弊社が保有しているため、国際宇宙ステーション(ISS)や補給船からの衛星放出やISSの実験装置の利用機会の提供などを行っております。

また、JAXA様だけなく、SpaceX社のFalcon 9ロケットを利用した衛星放出事業も行っており、多岐にわたるオプションを保有した打上げプロバイダとしてエンジニアリングサービスと共に衛星事業者様等に対して宇宙への輸送手段の提供をしています。

⑤利活用は、最も広く様々な領域を跨ぐ+今後事業が多く創出される部分と考えています。

例えば、ライフサイエンス分野にてISS上での微小重力環境を利用したタンパク質の結晶生成事業を通じた創薬開発支援を行っています。また、研究開発の分野に限らず、宇宙空間を利用した企業のプロモーションなどを実施することで民間企業様の宇宙利用の裾野拡大にも挑戦しています。

他にも、教育分野に進出しています。宇宙という事業フィールドや技術開発は非常に挑戦的な側面を持つため、宇宙スタートアップの当社だからこそ伝えられる宇宙×ベンチャー経営の要素を取り入れた起業家育成プログラムをご提供したり、高校生向けに実際に衛星開発の携わっていただくことで学びを提供する衛星開発の追体験プログラムを提供しております。

教育事業は、国の政策としてもスタートアップ支援やアントレプレナーシップという観点で注目され始めていますし、各種補助金や自治体様との連携を図るなどして、注力しています。今後、ビジネス的にもパイが大きくなる分野だと感じています。

ーーありがとうございます。非常に多岐にわたる事業領域ですね。赤井澤さんご自身の業務内容についても教えていただけますか?

赤井澤:弊社は様々な事業を手掛けていますが、私の業務内容は、社内では新規事業領域で、お客様のお困りごとを解決するための新しいビジネスを創出したり、今までにない新しい事業への挑戦などを行っております。

例えば、宇宙×地方創生という観点からUP花巻という地場産業のプロジェクトを担当しており、自治体様や花巻北高校の生徒たちを支援しながら、花巻を宇宙で盛り上げようという取り組みを行っています。

UP花巻のプロジェクト内容 Credit : Space BD Source : https://space-bd.com/news/20220315.php

ーーもともと赤井澤さんは宇宙ビジネス事業に携わられていたのでしょうか?

赤井澤:元々は株式会社ファーストリテイリングでユニクロ事業に携わっていました。転職のきっかけは、自分の残りのキャリアを考えたときに漠然とした不安がありまして、それは仕組化された中で事業を大きくすることよりも、自分自身で新しい事業を創れるような人になりたいという根底にある想いを再認識したことです。

そこで、Space BD社と話す機会があり、その際に「宇宙産業がチャレンジングかつ自分の仕事の積み重ねで産業を創るきっかけの担い手になれるのでは」と感じたので、入社を決めました。

ーー全く違う畑からの宇宙ビジネス事業への転職。産業を創る担い手になるというのはまさに今の宇宙ビジネスの環境ならではの思いですね。

(2)宇宙ビジネスの余白の見つけ方

ーーでは、どのように宇宙ビジネスの事業を創っていくのか。新規事業を創出する上でのポイントを3つの視点から教えてください。

①現在の事業アセットを利用するのか、現在の事業とは関係のない新規事業を積極的に開拓するのか
②仮説発見はどのように行うのか
③課題やニーズを発見するために必要な要素は何か

①現在の事業アセットを利用するのか、現在の事業とは関係のない新規事業を積極的に開拓するのか

ーーまず、事業創出にあたり、現在の事業アセットを利用する形を取るか、全く新しい事業を開拓する方がよいのか教えてください。

赤井澤:これは、一般的な話ではありますが市場に合わせて柔軟に対応すべきだと思います。

例えば、弊社ではISSの外部曝露装置を利用したブランディングマーケティングサービスを提供しています。これに固執して事業領域を伸ばそうとしても、5年後に実はニーズがないと気付いてサービスを畳む判断になることになります。逆に今の時点で世に出ていないサービスが宇宙産業の盛り上げに必要と気づいたら、その時点ですぐに参入すると思います。

重要なのは「どんな需要があって、何をすれば宇宙産業を創れるか」に視点を置いて、柔軟に事業展開やカテゴリを創ることができる戦略を立てることだと思います。

②仮説発見はどのように行うのか

ーー先ほど述べた事業展開に関する決断について、どのように事業化するに値するニーズを拾い上げているのでしょうか?チャンスと感じるポイントや勘所があれば教えてください。

赤井澤:これもシンプルな話で、お客様のお困りごとに注目をします。例えば、衛星事業者様、ロケット事業者様に限らずですが、課題を抱えていた時にこの課題が1事業者に限定されるのか、他の事業者の抱える課題も同じ分類にできるのか。

1つの事業者が抱える課題が多くの事業者も同様に抱える課題である場合、それを解決することがビジネスになりうると考える。弊社のメンバーはそのような思考回路で動いていると思います。

弊社は商社ということもあり、ロケット事業者様、衛星事業者様からサプライチェーン、宇宙産業のインフラ工事業者様など幅広いネットワークがあります。そのおかげで、各分野の従事者の課題や最新の情報が入ってくるため、業界の課題はどんなもので、どうすれば我々が価値を発揮できるかという仮説を随時立てやすいポジションにいます。

また、各事業者の方にとっても、産業の全体感を把握したうえでお話をすることができるという点が弊社の強みでもあります。アセットを持たない分、複数の事業領域にの間に入って、一気通貫で産業全体を見渡してお金の出口も含めた需要の掘り起こしをフィードバックするポジションとも言えます。

このネットワークやポジションがあることで、新規事業の案やニーズを掘り起こしやすいと感じています。宇宙業界は、バラバラに動いていることも多いので、統合する役割だけでもチャンスになると思いますね。

ーーなるほど、全体にかかわりがあり、ある種課題が顕在化しているからこそ俯瞰的に見えるものがあるのですね。

赤井澤:そうですね。さまざまなバリューチェーンの間に入って課題を集めて事業に落とし込む。全員が良い関係を築くために触媒的に動く意識をしています。

ーー顕在化していない課題・ニーズに対してはどう対応すると良いのでしょうか。

赤井澤:ここはチャレンジングに取り組む必要があるところで、1つの挑戦が呼び水となって「次はうちでも使ってみたい!」となるような需要を創造する気概が必要になりますね。

衛星データとかマーケティングブランディングあたりは、お客様のニーズが顕在化してる訳ではないので、我々も努力しているところです。

例えば、2021年に開始したスペースデリバリープロジェクトでは、企業や高校などのロゴを打ち上げるブランディングを行ったり、東亞合成様のアロンアルフアの宇宙空間における耐久実験を行い接着剤のプロモーションに活用するなどしました。

③課題やニーズを発見するために必要な要素は何か

ーー赤井澤さんはアパレル業界出身ですが、そこから見た宇宙産業の可能性はありますか。

赤井澤:業界が違い過ぎるので比較が難しいですね、アパレル業界はコモディティ化していますが、宇宙業界はプレイヤーが限られていますので。

ーー例えば、コモディティ化でいえば調達などの観点で可能性があったりしますか。

赤井澤:まずは民間企業が稼がないと新しい投資は増えません。弊社も含めて宇宙事業者がどんどん上場して儲からない限りプレイヤーは増えないし、参入者が増えない限り、調達の仕組みの課題なども顕在化しないと思います。

一般のお客様に支持される太いビジネスというのは、1つの種から膨らむものです。

ーーそういう意味では、部品調達からロケット打ち上げまでを安くして、宇宙の利活用事例を増やすことが理想ですね。

赤井澤:はい、そこはロケット事業者様頼みになりますがその通りですね。あるいは、保険を掛けることで失敗しても大丈夫な状況を用意するのも重要かと思います。

ーーありがとうございました。それでは、これまでの話をより深く理解するために、Space BD社の事業を例に具体的に教えていただきたいと思います。

(3)ポイント①衛星開発からロケット打ち上げ後まで

ーーまずは、分かりやすいポイントとして衛星開発からロケット打ち上げまで、あるいは運用の工程で余白となりうるポイントはあるでしょうか。

赤井澤:試験設備などで特に顕著な話ですが、宇宙産業のバラバラで動く部分をまとめる人は少ないので、まとめ役に価値はあると思います。これまでは、試験の予約をするにもアナログの手続きが大変だったと聞きます。そこを効率化するといったことが出来ますね。

もちろん、仲介だけでも助かる部分があると思いますが、産業拡大を見据えるなら、プラスαの事業開発力も必要になります。

そのため、弊社では大学のシーズ開発力・技術力と弊社の事業開発力の掛け算で宇宙産業の活性化を狙っています。例えば、九州工業大学のCubeSat向けの豊富な試験設備を利用した新製品の開発といった民需拡大などを視野に入れながら実績作りに取り組んでいます。

あとは、衛星のバス部とミッション部の衛星システムインテグレーションですね。そもそも衛星のバス部は他の衛星開発事業者が開発する標準バスを利用することが多いです。これを別の企業が開発したミッション部と統合する、これは非常に難易度が高いことですが、弊社のシニアエンジニアたちの力量のおかげで実現できている、といったことがあります。

宙畑メモ:標準バス一般に衛星設計はオーダーメイドであることが多いですが、共通化可能な部分を共通化しコスト低減や短い納期に対応する標準バスというものがあります。国内ではNECのNEXTARや三菱電機のDS-2000などが主に利用されています。

弊社は、ISSプラットフォーム設計、衛星開発やロケット開発に携わった方がエンジニアとしているので、エンジニア視点でも見ることが出来るのが強みになっています。

ーーなるほど、つなぎ役かつ幅広い人材がいるからこそ見える気づきがあるのですね。

赤井澤:はい、なのでSpace BDに聞けば、何かしら答えてくれるだろう。という存在でありたいなと思ってます。

ーー参入への敷居が下がるという観点で見ると、ミッション進行にクリティカルな影響が出て事業計画に影響が生じた際に補償が効くと良いと思います。特に、運用する衛星数が増えると磁気嵐などの被害に会うリスクも大きくなるので、SSA(宇宙状況把握)などを活用して被害状況の推定から保険を適用するといったことが出来れば良いなと思います。

赤井澤:可能性としてはありですが、保険業界的には原因の特定やそれを実証することが非常に難しいと感覚的には思いますね。設計ミスによる失敗なのか、回避不能なリスクによるものなのかを現時点では精度高く確定しきれないのではないかと思います。

地上浸水被害などであれば、衛星データを元に現地に行けば分かりますが、宇宙空間には簡単に行けないので、そこが難しいポイントです。

ーーたしかに、よほど高額な衛星でない場合は、そのために光学衛星などで衛星を撮影するとなるとコストが余計にかかって本末転倒になりそうですね。

(4)ポイント②非衛星産業や宇宙利用

ーーつづいて、ロケットや衛星ではない宇宙利用などの分野で新しいジャンルや余白となりうる部分を教えてください。

赤井澤:宇宙産業の一大テーマとして注目しているのはポストISSですね。2030年退役後のISSの裾野をどう広げるか、需要をどう取り込んで事業開発をするか。この観点の下、弊社ができる領域が広がっていくという意味で一大テーマの1つと認識しています。

ーー2030年までにアイデアや知見を蓄積し、ポストISS開始のタイミングですぐに何かに取り組める状況にしていくということですね。

赤井澤:はい、2030年によーいドンではなく、1つずつ着実に動く必要があります。現在の低軌道利用の裾野拡大強化や今まで宇宙利用の経験がない人への低軌道利用の件数を増やしてビジネスを広げる。こういったことは、今からきちんとやる必要があると思います。

既存のマーケットの観点だと、他にはライフサイエンス事業は製薬系があるので、ターゲットの方に宇宙実験を新しい活動性として認知していただくことに可能性を感じています。

これは推測ですが、民間主体になるので、レギュレーションが今より緩くなりフレキシブルかつ既存の延長上に無い新しいISSの使い方が可能になると思います。何が生まれるかを情報収集の中で仮定したり、パートナーを組んだりすることでサービスを創り上げる。今から参入される方の余白は非常に広いので、良い意味で夢のある話だと思います。

ーーポストISSに対して宇宙を活用した地上産業に関する余白はあるでしょうか。

赤井澤:マーケットが顕在化しているという意味では、教育分野があります。UP花巻の地方創生の事例のように教育×地方創生というパッケージ化のような抱き合わせも可能ですが、教育だけ欲しい、自治体を宇宙産業で盛り上げたい、など様々なニーズがあるので柔軟に対応するものと考えています。

そして、この事例では学校ではなくパートナー企業の方からお金をいただいているので、パートナーありきではなく継続的にマーケットを狙いに行っています。

その一環として、現在、社会人教育として宇宙飛行士の訓練プログラムの要素を抽出した宇宙ビジネスゲームを企業様に提案しています。

マネジメント研修、新人向けのチームビルディング、インターンシップへの導入はありますが、人事向けのマーケットが顕在化しているのでそこに焦点を当てています。

VUCAのような予見性の低いグローバル社会で生き抜くことと、宇宙に挑むことに共通項があるよねってことで窓口を広げようとしている状況です。

(5)ポイント③サプライチェーン

ーーつづいて、部品調達などサプライチェーンの余白についてお聞かせください。部品調達の遅れでロケットの打ち上げが延期になった例もあり、事業推進に欠かせない部分かと思います。

赤井澤:部品調達といっても宇宙業界もサプライヤーが多岐に渡っていますし、リードタイムの長さという課題に対して商社の知見を活用したトレーディング(例:在庫をある程度抱えて、いつでも提供できるように仲介すること)という新機軸は考えられますね。

ーーユーザー視点で見ると、国内の課題であるリードタイムの長さは見積もりなどの段階から解消すべきという意見もあります。SpaceXのような規模等を見据えると技術以外の知見・改革も必要になりますが、その辺りはどうお考えでしょうか。

赤井澤:例えばですが、見積もりなどの標準化、2次サプライヤーを作る、ネットワークを広げる、あたりは面白い要素が眠ってると想像します。

ただし、これは国内で自動車産業のような部品のサプライチェーンが構築出来ればの話に限ります。

ーー調達遅延に対する補償といった考えはありうる話でしょうか。

赤井澤:サプライチェーンの各工程での遅延に対する補償は難しいと思っています。車業界で部品調達の遅延に対する補償って多分ないですし、補償を付けて支援することが、利益につながるのか、本当に産業の発展に貢献する内容なのか、については違うと思います。

そういう意味では、遅延を発生させないサプライチェーンを組むことが重要です。2次仕入れ先の設定、リスク管理などのシステム構築のように遅延を予防する仕組みづくりにはチャンスがあるかもしれません。

ーー例えば、危機感の高まりや調達期間といった側面で、御社が入ることで解消できる部分はあるのでしょうか。

赤井澤:そもそも海外部品の輸入の手間が大きいので、商社ネットワークは衛星事業者の方や大学の方のお役に立てるはずです。あとは、衛星事業者の増加により部品のコモディティ化が起こったときに、サプライチェーンにおける商社の価値が最大化されると思います。

宇宙利用の実績がある部品が使われがちなので、実績のない部品の使用は衛星事業者にとって凄いリスクで新規参入が難しい状況です。同じ部品を使い続けるのがトレンドにある状況です。

もし、衛星事業者が民生品など色んな部品を使い始めて、ある一般的な部品がコモディティ化したときに需要と供給を束ねる商社機能が必要になってくると思います。とはいえ、今すぐ生まれるものではなく、今後求められる機能の1つだと思っています。

そういう意味では、サプライヤーが国内外に多数いる中でマーケット拡大した時に商社機能が効いてくるので、チャンスのある分野といえます。

ーー新規事業者にとって、部品調達も大きな参入障壁の一つだと思っています。バックアップの目線で障壁を下げるとすれば、何が必要でしょうか。

赤井澤:商社が担える機能として、部品のプール機能ですね。開発などが遅延しても商社のストックで臨機応変に対応できると思いますし、部品の故障が発生しても商社が在庫を持っていくことも可能です。

仕入れに関しても一括で行う分安く仕入れるといった側面がトレーディング機能でカバーできる範囲になります。ただ、国内のサプライヤーや衛星事業者のみでは厳しいと思うので、やるのであればグローバル展開は必要です。

ーー実際に、グローバルで展開している企業はありますか。

赤井澤:探せばあると思いますが、国内でこれ!といった1社はないと思います。せいぜい、カタログか簡単なリサーチ機能くらいかと。

当社も輸入代理店のような形で海外部品の輸入の手伝いを国内事業者向けにしていますが、卸売機能まで有する企業は現時点ではないと思います。

これにも理由があって、宇宙産業は技術革新が早いので、商品Aをストックしても優れた商品Bが出た瞬間に事業者は使いたくなくなります。そうするとストックするリスクは商社にとって痛いので、事業展開が難しいところです。

ーー社長の永崎さんが商社出身ということもあり、商社機能の重要性への理解や今後国内外の衛星事業者とお付き合いが出てくれば商社の活躍する場も増えてくるということですね。

(6)事業の見極め

ーーこれまで各分野の余白やその探し方について見てきましたが、実際に事業に落とし込むまでの仮説検証において意識されている部分は何でしょうか。

赤井澤:サービスや提案によって変わりますが、一つ大事なポイントは、そのビジネスが中長期的に拡大する展望が見えるかどうかですね。リスクを計算してチャレンジを通じて何が得られるかの仮説を立てます。資金などのリスクがなく、出来そうだね。となれば、チャレンジします。

ーーありがとうございます。決まったプロセスではなく、各新規事業のやるやらないを判断する材料をまず集めることから始めるという感じですね。

赤井澤:はい。あとは、宇宙業界ではトライの重要性が顕著だと感じます。宇宙をフィールドにすると実施検証までのスパンが長いですよね。打ち上げまでの期間だったり、持ち帰って検証するにも時間が掛かります。

事業を始める意思決定が半年遅れるだけでも、競争力は損なわれるので、リスクだけでなく最初にやることの重要性やインパクトを特に意識しています。時間の差は競争において非常に大きな要素です。

宇宙というフィールドは打ち上げサービスを提供しても成功が確実に保証される訳ではないので、そういったリスクを含んでいることも顧客に対して説明して同意を頂けるように考えています。

リスクを恐れて、時間経過による競争力減少や機会損失につながらないように、参入を促したいと思っています。

ーー産業の第一人者や事業を打ち立てるプレイヤーになることを意識されてるんですね。

赤井澤:そうですね。産業が大きくなった時、2番手だと印象が1番手に比べてどんどん薄くなります。なので、産業が発展するフェーズでは先にリスクを取った企業が、その分の恩恵を普通の企業よりも多く受けると思います。

ーー時間を非常に意識されていることが分かりました。

赤井澤:産業の第一人者、第一想起になることは各カテゴリの中で10年20年経過したときに重要になることと考えるので、特に意識しています。

特にアイデア1つとっても既に海外で実施されていることも多いので、国内外の情報格差を踏まえてグローバルでも戦うことは必要ですね。

ーー事業化の可否の決定におけるチェックポイントを教えてください。例えば、市場規模、プレイヤー、顧客などの情報を集めていると思いますので、その辺りも。

赤井澤:やっぱり産業にインパクトをどれだけ与えられるか、が重要なポイントですね。インパクトの測り方は定性的、定量的に限らず色々ありますが、宇宙産業を創ることをミッションの一つに掲げている以上、この判断基準は皆で大事にしたいポイントになります。

私の担当が新機軸なので、新規事業がどのような発展をするか、それを検討した結果、今やるべきと腹落ちしたらチャレンジするしかありません。

ーーというと、社長と話す機会は多いのでしょうか。

赤井澤:はい、まだ50人規模の会社なので話しやすいですね。それに事業のアイデアを議論する定例会のような機会もあります。とはいえ、ブレストする場というよりは一人一人が説得するための材料を個人で集めて、各々挑む形が近いです。

ーー議論の場では、どんな話がされるのでしょうか。

赤井澤:最近だと、永続性のあるビジネスをどう創るかというのを議論しています。

スペースデリバリープロジェクトでは、製品やロゴなどを打ち上げたことでPR効果が出ていますし、他のお客様に「こんなもの持っていくんですか」とよく言われます。

打ち上げることがマーケットにどのようなインパクトを与えるのか、ここがかなり重要なポイントです。そのため、現在はさまざまなお客様に認知してもらい、持続可能なビジネスをするための種を増やすところに注力しています。

会話の中で、そのビジネスに落とし込むために打ち上げのタイミングから事業に至るまでのプロセスを描くことも踏まえて提案したいね。ということを、話しています。

ーーありがとうございます。

(7)まとめ

ーー海外イベントにも積極的に出展されていますが、世界の宇宙企業から見てSpace BDはどういうポジションでありたい、といった目指しているものはありますか。

赤井澤:海外だと商社は仲介業者って思われがちですが、弊社はあらゆるビジネスのお困りごとをやっています!ということを伝えていきたいですね。

世界的に見ても弊社のように全体を包括するような競合は少ないと思っています。本気で宇宙を一大産業にするために、皆様のお困りごとのつなぎ役をしていることを、国内外問わずさらに伝えたいと思っています。

ーーありがとうございました。

宇宙産業のあらゆるお困りごとを解決するSpace BD社のビジネスの余白の見つけ方、いかがでしたか。どの分野にもつながる話から、宇宙産業特有の余白を上手に拾い上げるネットワーク構築や仮説検証のプロセスまで沢山教えていただきました。

本記事で取り上げた内容以外にも、衛星データ利用、月面開発に関する話題など注目できる分野は数多くあります。本記事をヒントに、新しい宇宙産業の余白、宇宙にこだわらない地上産業の創出など、ぜひ探してみてください。

Space BD社に興味をお持ちの方がいれば、こちらの記事で同社の人材募集についての記事がありますので、是非ご覧ください。

この記事のまとめ「宇宙ビジネスの余白はここを見よ!!」
・事業者の間に広く立てるネットワークを構築して事業者間で共通のお困りごとを抽出する
・外的要因が主な課題の解決は無理でも、その周りの小さなお困りごとは解決できるかも?
・リスクを見極めて積極的にチャレンジすることで、顕在化していないニーズの呼び水に!
・時は金なり。最初にやることのインパクトと中長期的な利益を見逃すな。