宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

3テーマそれぞれに1位は1000万円の懸賞金!懸賞金総額5,000万円(最大)の衛星データ利用開発コンテストはじまる_PR

衛星データを用いてグリーン分野の課題解決を目指す「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」について、概要と、衛星データの強み、テーマに設定された社会課題を解決する意義、参加意思のある方に向けて、利用できる衛星データの情報をまとめて紹介します。

2024年3月18日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)より、衛星データを用いてグリーン分野の課題解決を目指す「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」の募集が開始されました。

本記事では、本プログラムの概要と、衛星データの強み、テーマに設定された社会課題を解決する意義、参加意思のある方々に向けた利用できる衛星データの情報をまとめて紹介します。

■「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」の専用サイト
https://space-data-challenge.nedo.go.jp/

コンテスト概要

経済産業省が懸賞金事業のために獲得した予算を受け、NEDO初となる本格的な懸賞金プログラム「NEDO Challenge」を、複数の技術テーマに対して実施します。

宙畑メモ:NEDO懸賞金活用型プログラム
技術課題や社会課題の解決に資する解決策をコンテスト形式による懸賞金型の研究開発方式を通じて募り、共同研究等の機会創出や実用化・事業化を目指す制度。

2022年には「NEDO Supply Chain Data Challenge」と題し、人工衛星から取得したデータを用いて、サプライチェーンの状況を迅速に把握し、持続可能な物流を実現するためのアイデアやシステム開発が競われました。

「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」では、1次審査で衛星データ等を用いた環境及びエネルギーに関する課題解決や新産業・新規ビジネスの創出につながるアイデア・提案が評価され、審査を通過したチームは、2次審査で技術・ソリューションの提案及び試験実装が評価されます。

内容としては、新規開発だけでなく、既存システムへ付加価値を付けて提案することや、業界・個社の抱える課題(点検・保守・メンテナンス業務の改善やコスト削減等)の解決に資する提案も対象となります。

なお、衛星データの解析スキルを現時点で持ち合わせていないからとコンテストへの参加を断念してしまうことはありません。

むしろ、環境及びエネルギー業界や本記事で紹介する応募テーマに沿う課題を持つ方々と衛星データの解析スキルを持った方々が上手くタッグを組んで、本コンテストに参加することが歓迎されています。

応募テーマ(全3テーマ)

では、どのようなテーマでコンテストが行われるのでしょうか。

今回のコンテストでは、衛星データ等のグリーン分野への活用に関し、技術的・産業的にも意義が高く、実用化に繋がりやすい3つのテーマが設定されています。

応募者は、それらのテーマについて、課題解決を実現するサービスや意思決定を支援するシステム、手法開発を提案することが求められています。

なお、応募者1チームによる複数テーマへの応募は可能ですが、各テーマへの応募数は1つまでとされています。

テーマ1:カーボンクレジット基盤構築(グリーン・ブルーカーボン等)
・森林、農地、水域、海洋等を対象にした、カーボンクレジットの創出・流通を促す貢献に資する業界・技術課題を解決する試みであること。
・具体的には、MRV(測定・報告・検証)等の観点から、カーボンクレジットの品質や信頼を高めることに貢献すること。
・または、カーボンクレジットの創出・流通を促す貢献につながる、森林、農地、水域、海洋の、より適切かつ効率的な維持管理の実現等、業界・個社の抱える課題解決に貢献すること。

テーマ2:エネルギーマネジメント基盤構築(風力・太陽光等)
・カーボンニュートラルの実現にむけた、風力・太陽光等をはじめとする再生可能エネルギーの普及促進に資する業界・技術課題を解決する試みであること。
・具体的には、適地探索、発電電力量予測、需要予測等の観点から、再生可能エネルギーの普及促進に貢献すること。
・または、関係する事業者・行政等における意思決定の支援や、点検・保守等における業務の効率化といった、業界・個社の抱える課題解決に貢献すること。

テーマ3:気候変動・環境レジリエンス基盤構築(火災・水害・生物多様性等)
・気候変動に伴う災害対応や生物多様性保護といった、自然・人的資本への貢献に資する業界・技術課題を解決する試みであること。
・具体的には、激甚化する風水害に対する被害軽減や、火山・林野火災等の早期検知等の環境レジリエンスの強化に資すること、さらに、生物多様性の維持管理及び回復をはじめとする自然資本の回復に関する課題解決に貢献すること。
・または、関係する事業者・行政等における意思決定の支援や業務の効率化といった、業界・個社の抱える課題解決に貢献すること。

評価基準

1次審査(書面審査)では、以下の項目が審査されます。応募者は提案書を提出する際に、以下の3点を記載することが求められます。

・アイデアの妥当性
環境及びエネルギーに関するテーマ課題に基づき、宇宙という素材を活用した新たなサービスを創出する内容であること。
・開発技術の妥当性
提案のシステムを実現するにあたり、開発の基となる衛星データ利用に関する技術が実現可能なレベルにあること。
・実用化による社会発展性
開発されたシステムやそれを活用したサービスについて、社会全体への波及効果が期待できるものであること。

また、2次審査(プレゼン)については、開発後の成果物を審査する観点から、別途審査項目を設定しています。

公募期間および選考スケジュール

公募期間は、2024年3月18日~4月30日です。選考の流れは下記のとおり予定されています。

・1次審査(書面審査)(5月下旬)
・メンタリング(6月~12月)
・2次審査(プレゼン)
・受賞者決定(2025年1月下旬)

提供される開発環境等

1次審査を通過した応募者には、衛星データプラットフォーム「Tellus」上の開発環境(コンピューティングソース)が提供されます。

さらに、専門家(メンター)による技術面・ビジネス開発面のメンタリングが実施されるほか、合同ワークショップやネットワーキングの機会が提供されます。

各テーマに関するデータについては、後述の「3. 関連データ(衛星データ、地上データ)」でご説明します。

懸賞金額・参加メリット

懸賞金額は、テーマごとに最大で1位1,000万円、2位400万円、3位200万円と設定されています。

また、上位3位までに選出されない場合でも、公共性・公益性が高く、将来的に社会課題解決に繋がり得ると判断されたものについては、審査委員特別賞が授与されることもあります。

なお、受賞者には、上述の「懸賞金額」と「成果物の創出に要したコスト」の低い方が支払われます。

また、本コンテストに参加する懸賞金以外のメリットとしては、提供される開発環境・関連データ等でもご紹介したように、専門家から技術面・ビジネス面でのアドバイスが得られるほか、ワークショップやネットワーキングの機会も提供されることから、新たな知識・スキルの獲得も期待できます。

さらに、昨年度の入賞者からは、メディア露出の機会が多いこともメリットの一つとして挙げられています。

応募資格

法人・個人・グループを問わず応募可能であり、大企業やスタートアップ、上場/非上場の別は問いません。

ただし、法人の場合は、日本の法人格を有する民間企業、大学・公的研究機関等である必要があります(個人の場合は、日本国籍を有することが条件)。

各々の所属(企業・大学)を超えたグループでの応募も可能ですので、衛星データの解析スキル保持者と、環境及びエネルギー産業の従事者で課題を抱えている方々がタッグを組んで応募ができると、理想的なチームとなるでしょう。

衛星データの強みと展望

コンテストで設定されているテーマの意義を紹介する前に、なぜ衛星データの活用がこれらのテーマで期待されているかについて、その強みと展望を紹介します。

衛星データの強み

人工衛星は、目的に応じて様々なセンサ(測定器)を搭載し観測をしていますが、地上センサで直接測定する方法や、航空機やドローンによるリモートセンシングの方法もあります。

下記の図のように、それぞれの方法に利点はありますが、ここでは衛星データの強みを紹介します。

広域性

衛星データの強みのひとつは観測幅です。対象物に最も近いところで観測ができる地上センサは、その分観測できる範囲は非常に狭く、得られるデータは「点」のデータになります。

一方ドローンや航空機、人工衛星は、離れた所から移動をしながら観測するので、広域の「面」の測定が可能になりますし、その中でも衛星は最も広い範囲を観測することができます。

人工衛星の観測幅は、衛星の種類や分解能に依存しますが、例えば、地表面の様子を人の目のようにとらえることができる光学衛星では、10km~数100kmまでの幅を一度に観測することができます。

周期性

人工衛星は衛星の高度から大きく2つに分けることができます。静止衛星と地球低軌道衛星です。

静止衛星の場合は地球の自転に合わせて常時観測地点が見える位置に衛星が位置するため、常にデータを取得することができます。

一方で地球低軌道衛星については、衛星によって頻度もデータ取得時刻もばらばらです。それぞれを把握するための指標が「回帰日数」と「地方太陽時」です。

回帰日数とは、衛星が任意の地点を通ってからまた同じところに返ってくるまでの日数で、回帰日数が4日の場合は4日おきに観測ができるということになります。

また、衛星が複数機あり、それらが均等に軌道上に配置されている場合には、観測頻度が高くなります。例えば、先ほどの回帰日数4日の衛星が2機あれば、2日おきに観測が行えることになります。

いま説明したのは、衛星が必ず真下を観測している場合の頻度ですが、実際には衛星がカメラを動かして観測したり、観測幅自体が広い場合には、さらに観測頻度を上げることができます。

また、決まった回帰日数で観測している人工衛星は、過去のデータを取得し、蓄積しています。そのため、解析をしたいとなったタイミング以前のデータも含めて解析が可能です。

「地方太陽時」は、衛星がある地点を観測する地表の時刻のことです。太陽同期軌道を回っている衛星では、衛星の真下の地表の時刻が常に一定になります。

例えば、赤道通過地方太陽時が10:00の衛星の場合は、地球上のある地点の10:00と22:00にその地点の観測が行われるということになります。

ただ、正確には、各国の時刻は時刻の基準点があるため、1時間前後のずれが生じることがあります。

均質性

地上センサが「点」の測定であることや、ドローンや航空機でも飛行時間・範囲に制限があることから、地球全体を網羅的にカバーすることは難しいですが、人工衛星は地球全体を網羅的に観測することができます。

例えば、地球温暖化などの地球規模の課題解決には、均質で客観的な指標が必要になります。

例えば、下記はGOSAT-2による二酸化炭素濃度増加量の全球分布図です。陸地・海に左右されず均質的なデータを取得できるのは、衛星の強みです。

抗堪(こうたん)性

人工衛星は、災害時などで地上のインフラが途絶えているときでも観測をすることができます。

また、後述する合成開口レーダ(SAR)衛星は天候や夜間でも観測ができるという特徴があるため、災害時の状況把握に活用されています。

衛星データのトレンドと展望

衛星の観測頻度

その都度測定ができる地上センサや航空機・ドローンと比べると、人工衛星は回帰日数の制約があるため、思い立った時に必ずしもすぐに観測ができるわけではありません。

しかしながら、衛星の数を増やすことによってこの問題を解決することができます。例えば、米国のPlanet Lab社の衛星コンステレーションは、約200機の衛星で世界中のどこでも毎日最低1回という観測頻度を可能にしています。

衛星データの解像度

現在運用されている商用衛星の中で最高レベルの地上解像度は、Maxar社の30cm。画像の1ピクセルが地上の30cmに相当し、車一台一台まで判別ができるレベルです。

衛星から取得できるデータの種類

衛星から取得できるデータの種類は様々で、「Google Map」の航空写真のような光学画像はもちろん、植物の活性度や海上・地表面温度など人の目に見えないデータも取得することができます。

また、地上のIoTセンサで取得したデータなどとうまく組み合わせることでその価値を高めることができ、使い方はユーザ次第です。

各応募テーマ(3テーマ)の意義と衛星データ活用の可能性

ここからは、「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」で設定されている3つのテーマについて、それぞれの意義を解説します。

「カーボンクレジット基盤構築」を行う意義

二酸化炭素は、温室効果ガスの中で地球温暖化への影響度が最も大きいガスとされています。

下記のグラフは、日本国内の観測点における二酸化炭素濃度の時間変化を示していますが、植物や土壌微生物の活動の影響により季節変動はあるものの、増加の一途をたどっていることが分かります。

綾里、南鳥島および与那国島における大気中の二酸化炭素の月平均濃度
出典:気候変動監視レポート2022(気象庁)

一方で、世界の年平均気温は100年あたり0.74度、日本の年平均気温は100年あたり1.30度の割合で上昇しています。

経年変化には、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加等の地球温暖化の影響に、数年~数十年程度の自然変動が重なって現れているものと考えられています。

日本の年平均気温偏差の経年変化(1898~2022年)
出典:気候変動監視レポート2022(気象庁)

地球温暖化の影響による私たちの周りの現象のひとつとして、極端な大雨の発生が挙げられます。

下記のグラフのとおり、極端な大雨の年間発生回数は年々に増加の傾向があり、より降水量の多い雨ほど頻度の増加率が大きいことが分かっています。

出典:気候変動監視レポート2022(気象庁)

今後も引き続き年平均気温が上昇していくと、日本国内では猛暑日や熱帯夜がますます増加することが予測されています。また、強い台風の割合の増加や、台風に伴う雨・風も強まることが考えられています。

このような喫緊の地球温暖化に伴う課題について、2015年の国連機構変動枠組み条約締結国会議(COP21)で採択され、2016年に発行した「パリ協定」では、2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めが示されています。

パリ協定の目標達成にむけて日本国内では、2020年10月、政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

これにより、民間企業も温室効果ガスの削減に取り組むことが社会的責任となってきています。2023年10月には、東京証券取引所に二酸化炭素排出量を取引する「カーボンクレジット市場」が開設されました。

カーボンクレジットを国が認証する「J-クレジット制度」が2013年にスタートしてから10年以上が経過し、今後さらにカーボンクレジット市場の過熱が予想される中、多くの課題が存在しています。

例えば、カーボンクレジットの創出・管理の観点では、温室効果ガス排出量の測定・報告・検証(MRV)が徹底して行われているかどうかや、第三者検証等による客観性が確保されているかどうか、という問題があります。

これらの解決策の一つとして、環境省は2023年12月に開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)において、温室効果ガス観測衛星GOSATシリーズを用いて現在モンゴルで開発している、国別排出量の推計技術を、今後国際標準にすることを目指すと表明しました

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また、民間企業の取り組み例としては、2023年9月に株式会社日立システムズが、森林の二酸化炭素吸収量を可視化し、森林計画と組み合わせることでカーボンクレジット創出量を算出する実証実験に成功したことを発表しました。

2024年度中には、衛星データによる二酸化炭素吸収量の可視化からクレジット取引までをトータルで対応可能なサービスの提供を開始する予定とのことです。

本テーマでは、これらのMRV手法の開発や、森林・農地・水域・海洋の効率な維持管理手法を含む、業界・個社の抱える課題解決が求められています。

「エネルギーマネジメント基盤構築」を行う意義

脱炭素社会に向けては、再生可能エネルギー(再エネ:太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス等)を最大限活用することが鍵となります。2021年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度には再エネを主力電源化すべく、電力構成の36~38%の導入目標が掲げられています

再エネの導入・拡大に向けての課題としては、まず、再生可能エネルギー発電施設の設置に向けて、日射量や風向・風速を踏まえた適地の確保が挙げられます。

また、全国の再エネの出力抑制(電力の発電量が需要を上回った際に、「需給バランスを保つ」ために、各発電所の発電量を抑える措置)量の合計が増加傾向にあることから、出力抑制の発生時期・量を適切に予測し、最大限回避するための体制・手法の検討も課題の一つです。

例えば、宙畑では過去に、衛星データを活用した太陽光発電の電力量推測にかかるインタビュー記事を掲載しています。また、劣化した太陽光パネルを衛星データから検出することで、太陽光パネルの点検・維持等を効率化することもできるかもしれません。

ご参考までに、EUの宇宙プログラムの運営機関である欧州連合宇宙計画局(European Union Agency for the Space Programme: EUSPA)がまとめた2024年の地球観測・GNSSの市場レポートによると、再生可能エネルギーの電力供給予測や、施設設置の適地探索のほか、鉱物採掘の適地探索等を含むエネルギー分野において、今後衛星データやそれを使ったサービスの売上が高まることが予想されています。

出典:EUSPA EO and GNSS Market Report Source : https://www.euspa.europa.eu/sites/default/files/euspa_market_report_2024.pdf

このように、本テーマでは、風力・太陽光等の再生可能エネルギーにおける、適地探索や発電電力量・需要予測等や、関係する事業者・行政等の意思決定支援、点検・保守等における業務効率化といった業界・個社の抱える課題解決が求められています。

「気候変動・環境レジリエンス基盤構築」を行う意義

近年の気候変動などの影響により、集中豪雨の発生頻度がこの45年間(1976~2020年)大きく増加し、年間の集中豪雨事例の発生頻度は約2.2倍になり、月別では7月の発生頻度が約3.8倍となっていることが、気象研究所より発表されています

また、国交省より2022年の水害被害額(暫定値)が全国で約6000億円であったことが発表され、静岡県・石川県では1961年の統計開始以来、最大の被害額となりました。

国土交通省データをもとに作成 Source : https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001714782.pdf

民間での衛星データの活用例としては、宙畑で過去に、衛星データを活用した被害損害査定実証に関するインタビュー記事を掲載しています。

迅速な被害状況把握と保険金支払いを実現するため、合成開口レーダ(SAR)衛星の活用が期待されています。

このような背景より、本テーマでは、浸水等の風水害に対する被害把握・軽減、火山・林野などの火災の早期検出手法の開発が求められています。

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また、2022年に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)では、生物多様性の損失を食い止め、回復傾向へ向かわせる、「ネイチャー・ポジティブ」に関する数値目標が設定されました。これにより、「生物多様性」がより経営課題として認識されるようになることが予想されます。

例えば、イギリスでは、各国に先駆けて生物多様性ネットゲインが推進されています。

生物多様性ネットゲインとは、住宅や土地開発、事業開発における工事において、開発前よりも自然環境をよい状態にすることを意味し、つまり、開発を行うほど自然環境が良くなっていく仕組みです。

生物多様性クレジットの活用に関する議論も始まっていることを背景に、本テーマでは、気候変動、生物多様性等、自然資本の回復に資する環境評価方法の開発や、関係する事業者・行政等における意思決定の支援や業務の効率化に資する課題解決が求められています。

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関連データ(衛星データ、地上データ)

ここでは、各テーマに関連する地上データと衛星データについてご紹介します。

地上データ

募集要項で例示されている地上データの中から、いくつかご紹介します。

テーマ1:カーボンクレジット基盤構築
・森林生態系多様性基礎調査
森林の状態とその変化の動向を把握するため、全国統一した方法により森林を調査したものです。これらのデータは、J-クレジット制度における天然生林の吸収量算定のための参照データとしても活用されています。
http://forestbio.jp/

テーマ2:エネルギーマネジメント基盤構築
・NEDO日射量データベース
日本全土で実測・推測された日射量データがまとめられています。
https://www.nedo.go.jp/library/nissharyou.html

テーマ3:気候変動・環境レジリエンス基盤構築
・国土地理院 災害関連情報
災害に対する、台風・大雨時の浸水推定図や斜面崩壊・堆積分布データ等が公開されています。
https://www.gsi.go.jp/bousai.html

・自然環境調査Web-GIS
Web-GISで植生や動物生息域等のデータを参照することができます。
http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.html

衛星データ

テーマごとのキーワードに関して、よく使われるセンサについてまとめました。

Source : https://earth.jaxa.jp/conseo/news/2024.html?filter=%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%83%BB%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E8%B3%87%E6%96%99

続いて、それぞれのセンサについて簡単にご紹介をします。より詳細に学びたい方は、下記の記事をご参照ください。

光学センサ

衛星に搭載するセンサとしても最も一般的で、「可視光」と呼ばれる人間の目で見える波長域の光と、私たち人間の目には見えない光の波長である近赤外と呼ばれる領域の光を集めています。

下記のような白黒の画像を「パンクロマティック」(Panchromatic、略してPAN、パン、パンクロなど)、カラーの画像を「マルチスペクトル」(Multispectral、略してマルチ)と呼びます。

光学センサによるカラー画像は、災害状況把握や森林地図の作成など用途は様々です(主な衛星:Sentinel-2、SPOT、WorldViewなど)。

また、短波長赤外(SWIR)域の分光放射輝度を測定することで、二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスの濃度を観測することもできます(主な衛星:いぶき(GOSAT)、いぶき2号(GOSAT-2)など)。

さらに、ハイパースペクトルセンサは、光を分光することで100以上の波長に分解し観測することが可能になるため、森林における樹種の分類などへの活用が期待されます(主なセンサ:HISUIなど)。

合成開口レーダ(SAR)

光学画像が、スマホのカメラや私たちの目で見たような画像であるのに対し、SAR画像は白黒のざらざらとした画像です。

SAR画像は、人工衛星から発射した電波が地表面で跳ね返えったものを観測した画像です。

光ではなく電波で観測しているため、雲がかかっている地域や夜でも観測ができるという利点があるため、浸水域や土砂崩落の発生箇所の把握などに活用されています(主な衛星:だいち2号(ALOS-2)、Sentinel-1など)

合成開口レーダ(SAR)について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

熱赤外線センサ

可視光よりも長い波長域を見ているのが、熱赤外線です。海面水温や地表面の温度を観測します。可視光/反射赤外線が太陽光の反射光を見ているのに対し、熱赤外線は物体自身が発する電磁波をみているので、夜でも観測することができます。

【熱赤外線センサが搭載されている衛星】
しきさい(GCOM-C)、ひまわり、Landsat-8など

降水レーダ

大気中の雨や雲などの降水粒子に反射する波長のマイクロ波(Ka帯/Ku帯)を用いると、大気中の雨や雲の様子が計測できます。

【降水レーダが搭載されている衛星】
GPM主衛星

マイクロ波放射計

マイクロ波を受動的に観測するのが、マイクロ波放射計です。気温分布や大気中の気体の吸収特性,水および氷粒子の吸収・散乱特性などが観測できます。

降水量分布や海上風速の把握への活用が期待されます。マイクロ波の特性から観測範囲は広いですが解像度は低く、搭載している衛星は少ないです。

データの取り扱いは光学センサやSARセンサのように画像になるわけではなく、解析には高度な専門知識が必要です。

【マイクロ波放射計が搭載されている衛星】
しずく(GCOM-W)、GPM主衛星など

ライダー

ライダーは、マイクロ波ではなく光学(レーザー光)で行うセンサです。光の跳ね返りから、大気中の粒子の濃度を測定しています。

ドップラー効果を利用することにより大気中の粒子の動き、すなわち風速を知ることもできます。

ただし、レーザー光のため一度に照射できる範囲が狭く観測範囲が狭いという特徴もあります。樹高や森林バイオマスの推定への活用が期待されます。

ライダーについては、下記の記事でも解説をしています。

【ライダーが搭載されている衛星】
Icesat、Icesat-2、GEDIなど

解析済みのデータセット

衛星データを一から解析するのは難しそう…という方のために、解析済みのデータセットをご紹介します。例えばALOS関係では、以下のデータセットが用意されています。

ぜひこれらのデータもご参考ください。

・K&Cモザイク(京都・炭素観測計画向け基本データセット)
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/kc_mosaic_j.htm
・ALOS World 3D(全球高精度デジタル表面標高地図)
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/aw3d_j.htm
・高解像度土地利用土地被覆図
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/lulc_j.htm
・森林・非森林マップ
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/fnf_j.htm
・全球マングローブマップ
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/gmw_j.htm
・JICA-JAXA 熱帯雨林早期警戒システム
https://www.eorc.jaxa.jp/jjfast/jj_index.html

参考になる論文

テーマ1:カーボンクレジット基盤構築
Carbon Stocks Mapping of Mangrove Forest in North Buton Indonesia using Combination of Landsat and ALOS PALSAR Images in the Perspective of Climate Change Mitigation
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1757-899X/797/1/012014/pdf
光学センサ(Landsat)とSARセンサ(ALOS PALSAR)を用いて、マングローブ林の炭素蓄積量を定期的にマッピングすることを目的とした研究。Landsatから求めたNDVI(正規化植生指標)をもとに炭素蓄積量の密度や分布を、ALOS PALSARの後方散乱係数からは炭素蓄積量を推定できることから、両手法を合わせることで、より精度の高い炭素蓄積量のマッピングが可能に得る。

テーマ2:エネルギーマネジメント基盤構築
WRF※を用いた日本沿岸洋上風況マップの研究開発
Development of offshore wind maps for Japanese coastal waters based on WRF
(※WRF:米国大気研究センター(NCAR) と米国環境予測センター(NCEP)が中心となって開発している非静力学・完全圧縮性のメソスケール気象モデル)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jweasympo/37/0/37_181/_pdf/-char/ja
洋上風力発電の適地選定に資する洋上風況マップの整備に関する研究。外洋においては,人工衛星搭載散乱計の海上風推定精度は WRF による風況シミュレーションの精度を上回ることが明らかになっていることから、欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)が運用する衛星のマイクロ波放射計(ASCAT)による海上風速データが用いられている。

Mapping Photovoltaic Panels in Coastal China Using Sentinel-1 and Sentinel-2 Images and Google Earth Engine
https://www.mdpi.com/2072-4292/15/15/3712
Sentinel-2 MSI(光学)とSentinel-1 (CバンドSAR)を用いた、太陽光パネルの分布図(10m解像度)の作成に関する研究。解析には、Google Earth Engine (GEE)が用いられている。結果としては、2021年の中国沿岸地域について抽出・分類し、評価を行ったところ、全体精度は94.31%であった。

テーマ3:気候変動・環境レジリエンス基盤構築
Mapping Selective Logging in Tropical Forest with Space-Borne Sar Data
https://articles.adsabs.harvard.edu/pdf/2013ESASP.722E.168R
SAR画像を用いた、熱帯林における森林伐採の森林伐採マッピング技術に関する研究。航空機やフィールドワークによる択伐調査を行っているが、L-band SAR が十分に代用可能であることが実証された。

令和2年7月豪雨における衛星を活用した浸水域の抽出について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/77/1/77_150/_pdf/-char/ja
光学およびSAR衛星を用いた浸水域把握に関する研究。悪天候時はSAR衛星画像による被害抽出が有用であるものの、住宅密集地では反射影響を受けてしまう点や、災害前後の観測季節が異なる場合に水田の影響を受けてしまうなど、解析結果の精度に影響する課題が示されている。

まとめ

今回は、衛星データを用いてグリーン分野(環境及びエネルギー)の課題解決を目指す「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」の概要、関連データや参考論文についてご紹介しました。

グリーン分野は、世界的にも注目されている分野であり、本コンテストではその中でも技術的・産業的に意義の高いテーマが設定されています。

選考途中では、専門家による技術面・ビジネス開発面のメンタリングの実施や、合同ワークショップ、ネットワーキングも予定されており、参加者のメリットも多くあります。

興味のある方は、ぜひ挑戦してみてはいかかでしょうか。

■「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」について
専用Webサイトを見る
公募内容の詳細ページを見る
「NEDO懸賞金活用型プログラム」始動のニュースリリースを見る