痒いところに目が届く! 観測幅200kmの先進レーダ衛星「ALOS-4」がもたらす人類の未来
宙畑編集部がいまかいまかと打ち上げを待っている地球観測衛星「ALOS-4」について、その期待と想定される利用事例をまとめました。
2月17日にH3ロケット試験機2号機の打ち上げが成功し、いまかいまかと宙畑編集部がその打ち上げとファーストライト(初画像)を待っている地球観測衛星があります。
それは、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)です。
2014年5月24日に打ち上げられ、今もなお活躍する「だいち2号」(ALOS-2)の後継機にあたります。
図らずもそのALOS-2の打ち上げから10年が経過した2024年に打ち上げが予想されるALOS-4。具体的に何が変わったのか、その凄さと期待を本記事でまとめました。
なお、本記事ではSAR衛星とは何かについての解説は特に行っていません。SAR衛星の基本や原理について興味がある方は以下の記事も合わせてご覧ください。
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(1)ALOS-2とALOS-4のスペックを比較
ALOS-2とALOS-4のスペックを比較した表が以下です。
質量が900kgも増え、前号機の約1.5倍になっていることも気になりますが、注目すべきは分解能はALOS-2と同程度を維持したまま、観測幅が広くなっていること。特に、高分解能モードでは4倍の200kmとなっています。
では、観測幅が広くなることは私たちの生活にどのようなメリットをもたらすのでしょうか? 次章以降で解説します。
(2)ALOS-2が残し続ける功績
冒頭の通り、ALOS-2が打ち上げられてからもうすぐ10年が経過します。あらためてALOS-2は私たちの生活にどのように役立てられてきたのでしょうか。
例えば、3月26日に行われた第3回衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース大臣会合では、「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース案件整理リスト」が公開され、各省庁における地球観測衛星の利用状況が公開されました。ここで紹介されたALOS-2の活用状況を並べただけでも以下の通り、様々な事例で活用が進んでいることが分かります。
被災状況の把握や不法盛土の監視、活火山の地殻変動に地盤沈下の監視など、私たちの生活にとって監視されていることが安心につながるという事例が並んでいます。「だいち」という愛称がついていることから国土交通省の取り組みが多いことが目立ちますが、環境省や農林水産省にも活用が広がっていることも注目すべきポイントです。
他にも、これまで宙畑が取材をした衛星データ活用事例で、国内のインフラ監視サービスや、国外の違法伐採を検知するなど、ALOS-2が活用されたものは存在します。ぜひ以下の記事も合わせてご覧ください。
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(3)ALOS-4の広い観測幅が実現する人類の次のステップ
上述の通り、様々な用途ですでに活躍しているALOS-2ですが、高分解能モードの観測幅が200km、広域観測モードの観測幅が700kmになることでより利活用が拡大すると期待される具体的な事例を3つ紹介します。
1.平常時のベースマップ更新が年4回から年20回に、火山活動や農業への貢献
観測幅が200kmになったということは、日本全体を撮影する頻度も少なくて済むということ。ALOS-2の場合は日本全域を観測できるのは年4回だったのに対して、ALOS-4は年20回の頻度で観測が可能となります。
SAR衛星は雲があっても地表の状態を観測できるため、上記の頻度で必ず観測ができるということはとても大きなメリットがあります。
例えば、活火山の隆起や沈下の観測をより高頻度に観測することで、火山活動が活発化する前の異変を察知することができるかもしれません。
また、水稲やトウモロコシ、サトウキビといった主要な作物がどの程度作付けされ、生育しているかの状況を、東南アジアなどの雨量が多い地域でも一定の頻度で理解することができます。食料安全保障の重要性が高まるなか、地球全域で主要作物の状況を把握する重要性はより高まっており、日本にとって重要な衛星データとなることは間違いないでしょう。
2.災害発生時、広範囲の被害もしっかりとカバー
ふたつ目のポイントは、緊急時でも観測幅200kmが重要になるというケースです。
ひとつ目のポイントは自然災害発生などの緊急事態が発生していない平常時でも観測幅200kmが重要になるという事例でした。
例えば、南海トラフ地震で危惧されるような広範囲の被害が予想される場合を考えてみましょう。
観測幅が50kmだった場合、被害が特に酷いと予測される静岡県の一部地域の観測はできますが、その範囲の外で、土砂崩れや建物の倒壊など人命に関わる被害が発生している可能性のある場所の観測は次に衛星が来るタイミングに持ち越されます。それが観測幅200kmとなることで、これまで緊急時であっても即時の観測を諦めざるを得なかった場所も撮影ができるようになる可能性が高まるでしょう。
また、広範囲の線状降水帯が発生すると予測される場合、どの場所に大きな被害が起きそうかを予測して衛星の撮影計画が立てられます。
その際に、観測幅が広がることによって、線状降水帯の発生するだろう場所の予測が外れて大きな被害が発生する場所を逃してしまうリスクが減ることが期待できます。
人命救助にとって情報の鮮度はとても重要です。ALOS-4の運用が開始されることによって、より多くの人の命が今後も救われることを願っています。
3.台風の構造も解き明かせる?
もうひとつ、観測幅が広がることで期待されるのは台風の構造解明です。SAR衛星は、台風の下の海上風速を高解像度で調べることができ、ALOS-4は数百キロメートルの幅の観測を行えるため、台風の進路予測に利用できると期待されています。
人工衛星を用いた台風の進路予測はALOS-4だけではなく、様々な人工衛星の活用が期待されているため、より詳細に知りたい方はこちらの論文も合わせてご覧ください。
(4)まとめ
以上、ALOS-4について、その性能とこれからの展望を紹介しました。現時点でも利用への期待が高まっている衛星データですが、運用が始まり、データが公開されれば、当初は想定していなかった用途での利用も生まれる可能性があります。今後のALOS-4の動向に注目です。
【参考】
・だいち4号(ALOS-4) – JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター
・ALOS-4 Solution Book