分社化したTellusが挑戦する衛星データビジネスの未来【SPACETIDE2024レポート】
2024年7月に開催されたSPACETIDE2024の中で行われた東大中須賀先生とTellus山崎さんのセッションの内容をご紹介します。
「APACから世界へ:多様なコミュニティが紡ぐ宇宙ビジネス」をテーマに2024年7月8日〜10日に開催された宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2024」。
DAY2の「Tellus創業と目指す未来」のセッションでは、モデレーターとして東京大学大学院教授の中須賀真一先生、ゲストスピーカーとして株式会社Tellus代表取締役の山崎秀人さんが登壇されました。
本記事では、「Tellusがさくらインターネットから分社化した理由」と「Tellusが目指す未来」についてセッションの内容をお届けします。
政府事業としてスタートしたTellusとは?
中須賀:Tellusは、さくらインターネットさんが経済産業省の事業としてスタートされました。まず、このTellusについて簡単にご紹介いただけますでしょうか。
山崎:2019年にさくらインターネットが政府の事業として研究開発をスタートしました。Tellusのプラットフォーム上では、政府の衛星データや民間の衛星データをクラウド上で使いやすい形に処理してAPIで提供しており、開発のクラウド環境、解析ツールなども提供しています。また、宙畑というオウンドメディアの運営もしております。
中須賀:例えば、政府のどのような衛星データがTellusに載っているのですか。
山崎:一番多いのはJAXAさんのALOSシリーズやGCOM-Cの衛星データが載っており、環境省さんのGOSAT、経済産業省さんのASTER GDEMのデータもお預かりしています。また、ASNARO-1と2のデータもパスコさんとJEOSSさんから取引をさせていただける関係になっています。
なぜ、今分社化?Tellus分社化の理由は多くの仲間との連携による新たな挑戦
中須賀:ありがとうございます。事業がスタートした2019年から5年経った今年4月1日にさくらインターネットから分社化されましたが、なぜ分社化されたか、お話を聞かせていただけますか。
山崎:元々我々は宇宙とITで新しい価値を創造したいということでプロジェクトをやっていたのですが、上場会社であるさくらインターネット社でやっているよりも、宇宙のチームをより機動的に動かしたいという思いがありました。また、多くの仲間を呼び込みたいということもあり、違う資本の会社にした方が良いだろうということで分社化させていただきました。
中須賀:色々なところから追加投資も入ったりしたのですか。
山崎:分社化するときは、さくらインターネットだけですが、今後は多くの仲間と一緒にやらせていただくために協議を進めていきたいと思っています。
中須賀:色々な企業とこれからも組んで行かれると思いますが、これまでどのような企業と組んでこられたのかお話いただけますか。
山崎:大きなコンポーネントとしては2つあります。
Tellusは衛星データのプラットフォーマーとして、政府のデータもお預かりしておりますが、例えばSynspectiveさん、QPSさんなど自身で衛星群を運用されている民間企業の衛星データもお預かりして管理をしながら配るという機能を果たしています。このように衛星を作られている方々へ提供するサービスというのが1つございます。
もう1つとして、そういったデータやクラウド環境、我々の解析ツールをソリューション会社さんにご提供しています。例えば、SPACESHIFTさんですとか、NSI(NewSpaceIntelligence)さんなど、色々なソリューションを一緒に作っていこうという方々に対して、土壌となるようなプラットフォームになりたいと思って活動しています。
中須賀:地球観測のデータビジネスというのはアメリカと違い、日本の中では政府系の大きなアンカーテナンシー(政府が民間の製品やサービスを継続的に調達することを約束すること)を取ることが難しく、民需というものを積み上げていかなければならないと思います。
この民需を積み上げていくときに大事なことの1つは、衛星データがどんな価値を生み出すのかということを思いついてもらうことが大切で、企業に働きかけて引き入れるようなアクションも必要ではないかと思いますがいかがですか。
山崎:ありがとうございます。まさに5年間さくらインターネットのプロジェクトとしてやってきて得た気付きですが、初めは衛星データはデータ量が大きくてなかなか使いにくいので、API化をしてクラウド上に並べれば、ある程度使ってくれるようになるのかなと思っていました。
しかしながら、ただ公開するだけではなかなか使ってもらえないということが分かったので、一緒に企画してソリューションを考えていくところを並走してやっていくということが本当に大事だなと思い、宙畑というメディアを使ったり、データコンテストをやったり、ハンズオントレーニングをやっています。
また、「やりたい」というソリューション会社さんに本気でコミットして、Tellusとしても、リソースや人、知恵も出すから一緒にやろうよというアライアンスを組んでやっていかないと、スケールは簡単にはいかないのでは?と感じています。
中須賀:やはり伴走する人が必要ということですね。伴走する人はTellusの中だけでなく、例えばJAXAの人なんかも一緒にやってくれたらいいと思いますけど、どうですかね。
山崎:そうですね。元々私もJAXAにいたのですが、JAXAには知見や技術がたくさんありますし、そういう方々とも一緒にできたらいいなと思っています。
中須賀:衛星データでなんかできるんじゃないかと考えるための1つの仕掛けとして、世界でも欧州ではコペルニクス・マスターズなどのコンテストが開催されていて、僕はすごく好きなんですけど、この辺は何かTellusでもやられてますよね。
山崎:はい、今年はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)さんと一緒にグリーン分野の課題解決に関するコンテストをやらせていただいております。カーボンクレジットとかCO2のマネジメントに衛星データを使えないかということで、我々が提供するデータを使ったコンテストをやっていますね。
NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth
https://space-data-challenge.nedo.go.jp/
【衛星データ利用懸賞金活用型プログラムの理想形を見た】NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth イベントレポート_PR
https://sorabatake.jp/38201/
日本の衛星プラットフォーマーTellusが目指す地球観測データビジネスのグローバル展開
中須賀:ありがとうございます。この地球観測データをビジネスとして展開していく上で、もう1つ大事なことは国際化だと思うんですよね。
例えばアフリカ、南米、オセアニアなどといった国々との連携というのは今後ものすごい大事になってくると思いますが、その辺に向けて、今後の戦略やビジョンはいかがですか。
山崎:ありがとうございます。まず、宇宙から見たら国境はないので、衛星データビジネスにおいて海外展開するというのは必然だと思っています。
ただ、我々は始めたばかりの小さなチームなので、海外に行きたいという日本の企業さんと組んでやらせていただきたいと思っています。日本の衛星データをアジアやアフリカ、南米などで使っていただき、価値を理解していただきたいです。
中須賀:そのための戦略は何かありますか。
山崎:はい。これも4年、5年やらせていただいた中で得た気付きの1つですが、システムでブリッジングするようなプラットフォームを作ったら大きくなるかなと思っていたのですが、それだけでは足りなくて、やっぱりビジネスの鍵となるのは人間同士の関係値なんだということを本当に学びました。
その地域に根差した人たちときちんとアライアンスを組んで、現地にもきちんと貢献できるビジネスをやるのが日本的な良さだと思います。そういったアプローチを地道にやっていくっていうのが大事なんじゃないかなと思います。
中須賀:いいですね。例えば、アフリカの国の中に地球観測データを活用するベンチャー会社が生まれたり、元々ある企業が地球観測データで何かビジネスをやるとその国の産業になるわけだから政府はアンカーテナンシーをしたり、法的な税制的な優遇措置をしたりとサポートするわけですよね。
サポートした企業が育っていった先に、日本が衛星画像を提供していくような世界が僕は必要かなと思います。
日本が政府としてアフリカの国々とお話をして展開していく中で、そこに企業が巻き込まれていくということが必要だと思いますけど、現地にそういう会社を作って、そこと連携するということに関してはどうですか。
山崎:はい、十分あり得るなと思っています。今まさにそのようなところのグランドデザインを共有していて、志の同じメンバーでそういうところに出ていくというのは必然かなと思っています。
あとは、宇宙の業界にもたくさんVCの人がリスクマネーを入れていますので、政府だけではなくて民間のお金もちゃんと入れて、現地の会社が独り立ちする様な全体のスキームを日本リードで作れたらいいんじゃないかと思います。
中須賀:いいですね。あとはその国の中で、ベンチャー企業などが地球観測でビジネスをするということの手解きを多少してあげる必要があって、その国々の若手を日本に招いて教え、彼らが帰って現地でビジネスを作るとか、こんな世界を作っていけたらいいと思いますが、どうでしょう。
山崎:はい。現地に戻った方々が将来、要職に就くということは他業界でも見られていますので、グローバルに地球観測データのリユニオン(同窓会)ができ、コミュニティができてくると、いいですね。
中須賀:いいですね。そのときにTellusというプラットフォームを持っておられるので、これはすごい力だと思うんです。Tellusのプラットフォーム自体をアフリカに持っていくという戦略もあると思いますけど、その辺はどうですか。
山崎:まず、Tellusに関しては、元々海外に持って行きたいという設計思想で作っており、基本的にはオープンソースソフトウェアで作っているので、輸出しやすいです。
次にインフラの部分ですが、Tellusはさくらインターネットのクラウド上に実装していますけど、他のクラウドも実は選べますし、さくらインターネット自身が海外に出て行こうっていう計画も持っているので、アフリカやアジアなどに投資していって、そのクラウドに乗るコンテンツは宇宙という世界観を作れればみんなwin-winなるので、目指したいところではありますね。
中須賀:アフリカ以外に考えられている連携先はございますか。
山崎:はい。リモートセンシングですと、アジアだと、ベトナムとかインドネシア、タイは素晴らしい実績を持っていますので、そういったところに日本のデータを売り込む営業も率先してやって行きたいと思っています。
中須賀:いいですね。海外展開をされようとしているときに、何か政府への要望というか期待みたいなものはありますか。
山崎:まず、海外にでる時は我々のような民間主導でやらなけといけないと思っていますが、エンドユーザーは政府とか公的機関になることが多いので、民間が動きやすくなるような政府間での傘協定だとか、MOU(覚書:Memorandum of Understanding)だとか、そういう枠組みを作るところは政府に支援していただけるとやりやすいかなと思っています。
あとはやはり時間がかかるものなので、そこは政府にも長い目で支援していただけるとありがたいですね。
AI活用で進む衛星データの民主化、Tellusが描く衛星データ解析の今後は?
中須賀:ありがとうございます。最後に衛星データ解析におけるAI戦略について、Tellusではどのようにお考えですか。
山崎:今まさに一番ホットにチーム内で議論しているところでして、衛星数がどんどん増えてくると、衛星データも爆発的に増えてくるので、データを一枚一枚人の手で処理をするには物理的に限界があります。いかにAIと連携をするのかというのが次のターゲットになるかなと思ってます。
ファンデーションモデル(FM)という技術があるのですが、決められたタスクだけでなく汎用的に様々なデータやタスクを扱えるAIモデルのことで、いわゆるChatGPTに代表されるLLMの世界ですね。日本の衛星データで精度の高いFMを作れればと思っています。
FMが広く使われるようになると、FMにインプットするための日本の衛星データもどんどん使われるようになり、日本の宇宙産業としても良い循環が回っていきます。このモデルをいかに精度高く作るかというのがキーだと思っています。
あとは実際に使う方々が使途に合わせて、個別にチューニングしていくということも勝負になってくると思います。
例えば、facebookを運営するMetaは、FMを使って、世界中の森林の樹冠の高さマップを公開しています。NASAはIBM社と協力して、LandsatやSentinelなど欧米の衛星データを使ったFMを公開しています。
これは次の主流になるかなと思っているので、ここは日本も置いていかれない様に頑張って行こうと思っています。
・参考リンク
IBM と NASA の「Largest Geospatial AI」とは? 複数衛星のデータ融合と衛星基盤モデルによる先端技術の利用とその Python実装
まとめ
本登壇の中で、Tellusの山崎さんが繰り返しお話しされていたのは“一緒に組んでいける仲間”というワード。
分社化した理由の1つとお話しがありましたが、既に株式会社NewSpaceIntelligence、株式会社SIGNATEとの「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)」や株式会社バスキュールとの「GOSAT 3D Visualizer Prjoject」も実施されています。
更に、Tellusでは海外展開も見据えており、そのためには日本政府にも長い目での支援を期待されていました。Tellusと国内外のソリューション開発企業との協業による展開が今後ますます期待されます。
また、セッション終盤でお話しをされていましたが、衛星データのファンデーションモデルと各ソリューションにあったファインチューニングの開発が活発化する衛星データ×AIという分野においても、日本発の衛星データのプラットフォーマーという立場として、Tellusの活躍に注目していきたいと思います。