「Toyota Woven City」の「Inventors」としてインターステラテクノロジズが宇宙企業として初参画、5社・団体との打上げ契約も発表【宇宙ビジネスニュース】
トヨタ自動車とウーブン・バイ・トヨタがロケット開発のインターステラテクノロジズと本格的なパートナーシップを締結。2社の協業の沿革と展望を紹介します。
トヨタ自動車とウーブン・バイ・トヨタがロケット開発のインターステラテクノロジズと本格的なパートナーシップを結びました。「Toyota Woven City」の「Inventors」として宇宙企業が参画するのは初めてのこととなります。
宙畑メモ:Inventorsとは
「自分以外の誰かのために」という思いを持って、「モビリティの拡張」を目指し、自らのプロダクトやサービスを生み出し、実証を行う主体。トヨタやWoven by Toyotaを含むトヨタグループ企業だけでなく、社外の企業やスタートアップ、起業家など同じ志をもつ企業や個人も含まれます。
参考:モビリティのテストコース”Toyota Woven City”、 Phase1の建築を完了し、準備を本格化 – ウーブン・バイ・トヨタ
また、8月12日には、同社が開発を進める小型人工衛星打上げロケットZEROの初号機の顧客が決定したことも発表されています。シンガポールの衛星事業者Ocullospace、キューブサットの製造を通じた学びの機会を提供する米国の非営利団体Wolfpack、大阪公立大学、東京都市大学の衛星4機で、両大学に衛星分離機構を提供し実証する韓国のDALRO Aerospaceを含め、5社・団体と打上げ契約(Launch Service Agreement、LSA)を締結したとのこと。
本記事では、Toyota Woven Cityの概要と、今回のリリースに関する宇宙産業の未来について整理しました。
(1)19社が集う実証実験の部隊、未来都市Toyota Woven Cityとは
「Toyota Woven City」は、トヨタ自動車とウーブン・バイ・トヨタが静岡県裾野市で開発している「モビリティのテストコース」です。2025年9月25日にオフィシャルローンチを迎えるこの実証都市では、未来のモビリティを生み出すためのリアルな実証実験が行われます。
「Toyota Woven City」の特徴は、実際に人が住み、働く環境の中で新しい技術を検証できることです。住民やビジターは「Weavers(ウィーバーズ)」と呼ばれます。様々な企業や個人が「Inventors(インベンターズ)」として参画し、新しいプロダクトやサービスの開発を行います。
現在、「Inventors」は主催のトヨタ自動車とウーブン・バイ・トヨタを含めて19社参画しています。下記表に「Inventors」の情報をまとめました。
L/N | 区分 | 企業名 | 主な事業内容 | Woven City実証テーマ |
---|---|---|---|---|
1 | 社外 | ダイキン工業 | 空調製品、フッ素化学製品等の製造・販売・アフターサービス | 「花粉レス空間」や「パーソナライズされた機能的空間」に関する実証実験 |
2 | ダイドードリンコ | 清涼飲料水等の製造販売 | 自動販売機を通じた新たな価値創造 | |
3 | 日清食品 | 即席麺等の製造および販売 | 新たな「食文化」創造に向けた食環境の構築とその環境が及ぼす影響の検証 | |
4 | UCCジャパン | コーヒー製造販売等国内事業会社の統括 | 未来型カフェの運営を通じたコーヒーの潜在価値の実証 | |
5 | 増進会ホールディングス | 通信教育、教室を展開する総合教育事業 | データ活用による先進的な教育スタイル及び新しい学びの場の実現 | |
6 | インターステラテクノロジズ | ロケットの開発・製造・打上げサービス、人工衛星の開発・製造・運用サービス | ロケットの製造体制強化 (※Woven City内の実証ではなく、トヨタ/WbyTがモノづくりノウハウ・人材で支援) |
|
7 | 共立製薬 | 犬・猫用および畜水産動物用医薬品の開発・製造・販売・輸出入 | ペットと人の「より良い共生社会のあり方」を探る | |
8 | トヨタグループ | 豊田自動織機 | 繊維機械、産業車両、自動車・自動車部品の製造・販売 | (個別テーマの明記なし) |
9 | ジェイテクト | 工作機械、自動車用部品の製造・販売 | (個別テーマの明記なし) | |
10 | トヨタ車体 | ミニバン、商用車、SUV、特装車、福祉車両、超小型BEVの製造 | (個別テーマの明記なし) | |
11 | 豊田通商 | 各種物品の国内・輸出入・外国間取引 | (個別テーマの明記なし) | |
12 | アイシン | 自動車部品、エナジーソリューション関連機器の製造販売 | (個別テーマの明記なし) | |
13 | デンソー | 自動車部品および、その技術を応用した生活・産業関連機器などの製造・販売 | (個別テーマの明記なし) | |
14 | トヨタ紡織 | 自動車用内装製品、フィルターおよびパワートレイン機器部品、繊維製品などの製造・販売 | (個別テーマの明記なし) | |
15 | トヨタ自動車東日本 | 乗用車、商用車、福祉車両、自動車部品の製造 | (個別テーマの明記なし) | |
16 | 豊田合成 | 合成樹脂・ゴムを中心とする自動車部品などの製造・販売 | (個別テーマの明記なし) | |
17 | トヨタ自動車九州 | 自動車およびその部品の製造 | (個別テーマの明記なし) | |
18 | 主催 (Inventorsに含む) |
トヨタ自動車 | 自動車の生産・販売 | (個別テーマの明記なし:プラットフォーム提供・モビリティ拡張の実証推進) |
19 | ウーブン・バイ・トヨタ | ソフトウェアを基盤としたモビリティの新技術・事業開発 | (個別テーマの明記なし:Woven Cityの企画・運営/実証支援) |
ご覧いただくと分かる通り、「Toyota Woven City」は自動車産業の企業だけでなく、様々な分野の企業が「Inventors」として参画しています。
では、なぜインターステラテクノロジズというロケットを開発する企業が参画することとなったのでしょうか。トヨタ自動車が目指すのは、従来の自動車という枠を超えた「モビリティカンパニー」への変革です。
トヨタ自動車は陸・海・空のモビリティに挑戦しており、さらに『宇宙を通じて持続可能な地球の未来の実現を目指す』インターステラテクノロジズとの協業を通じて、移動の未来への想いを共有し、新たなモビリティ領域への挑戦を表しています。
ちなみに「Toyota Woven City」のようなスマートシティ構想について、もっと知りたい方は以下の記事もご覧ください。
【参考記事】
【スマートシティとは?】トヨタを含む国内外11事例と関連技術を分かりやすく解説
(2)自動車技術がロケットを変える?トヨタグループの製造ノウハウ活用戦略
インターステラテクノロジズの「Inventors」参画による連携の核心は、トヨタグループの長年培ってきたモノづくりの知見をロケット開発に活用することです。特に注目すべきは、自動車産業のアセット活用を前提とした開発アプローチにより、高頻度化と低コスト化を同時に実現しようとしていることです。
従来の日本の宇宙開発は、市場規模の小ささから設備投資や人的リソースに大きな制約がありました。しかし今回の提携により、トヨタグループが持つ自動車産業の設備、技術、サプライチェーン、人材といったアセットを活用することで、従来の宇宙業界の常識では成し得なかった開発・製造体制の確立を目指します。
具体的には以下の分野で協力が進められます。
エンジンシステムの製造連携
インターステラテクノロジズが開発を進めている新型ロケットZEROは、1段目に9基、2段目に1基の計10基のエンジンを搭載します。インターステラテクノロジズはその心臓部であるターボポンプや燃焼器の製造において、トヨタ自動車北海道と連携して量産を目指すとのこと。ターボポンプや燃焼器の高品質化と安定生産の両立が期待されています。
宙畑メモ:”ターボポンプ”とは
ロケットエンジンに推進剤(燃料と酸化剤)を送り込む重要な装置。自動車のターボチャージャーと似た仕組みで、液体推進剤を高圧で燃焼室に送り込む役割を持ちます。
宙畑メモ:”燃焼器”とは
ロケットエンジンの心臓部で、燃料と酸化剤を混合・燃焼させて高温高圧ガスを生成する部品。燃焼室とも呼ばれ、数千度の高温と高圧に耐える必要があるため、冷却システムと合わせた精密な設計が求められます。

推進剤タンクの工法開発
ZEROに使用される特殊なアルミニウム合金(A2219)製のタンクについて、軽量化と原価低減、工期短縮を目的とした新規工法開発を進めます。
宙畑メモ:”アルミニウム合金(A2219)”とは
銅を主要添加元素とする高強度アルミニウム合金。優れた溶接性と高い強度を併せ持ち、極低温での使用にも適しているため、ロケットの推進剤タンクに多用されます。アポロ計画のサターンVロケットでも使用された実績のある宇宙用材料です。

生産体制全般の構築
約10万点におよぶ部品を管理・供給するロケット製造において、自動車業界のサプライチェーン管理ノウハウを取り入れ、高頻度打上げに対応できる生産体制を構築します。
(3)トヨタとインターステラテクノロジズ協業の沿革
両社の関係は2020年にさかのぼります。当初は人材交流という形でスタートし、現在では戦略的提携にまで発展しています。
2020年:人材交流の開始
トヨタ自動車とインターステラテクノロジズの間で人材交流がスタートしました。これは、日本の宇宙産業の成長可能性とものづくり企業の技術的親和性を見据えた取り組みでした。
参考記事
「小型ロケット事業は次の段階へ」ロケットベンチャー最前線、インターステラテクノロジズの現在地
2020年〜2025年:継続的な協力拡大
人材交流は徐々に拡大し、トヨタ自動車、トヨタ自動車北海道、トヨタ車体などから累計11名(2025年1月時点)がインターステラテクノロジズに出向しているとの発表もありました。
2025年1月6日:資本業務提携の締結
米国ラスベガスで開催されたCES 2025において、ウーブン・バイ・トヨタとインターステラテクノロジズが正式に資本業務提携が発表され、約70億円の出資が決定しています。
参考記事
ウーブン・バイ・トヨタがインターステラテクノロジズに約70億円出資へ。取締役の派遣も【宇宙ビジネスニュース】
コラボレーションが始まったきっかけは、両社が共有する「移動の未来への想い」にあります。トヨタ自動車が陸・海・空のモビリティに挑戦する中で、宇宙を通じて持続可能な地球の未来を目指すインターステラテクノロジズとの価値観の共鳴が、この長期的パートナーシップの基盤となっています。
(4)技術連携が切り開く新たな未来
トヨタグループとインターステラテクノロジズの協業は、単なる資金提供を超えた本格的な技術連携です。自動車業界で培われた量産技術、品質管理、サプライチェーン構築のノウハウが、宇宙産業の新たな可能性を切り開こうとしています。
このような非宇宙企業と宇宙企業のコラボレーションは、今後ますます重要になると考えられます。製造業が持つ既存の技術や知見を宇宙産業に応用することで、これまでにない革新的なソリューションが生まれる可能性があります。
「自社の技術も宇宙で使えるのでは?」と感じた製造業の方は「製造業が宇宙産業に参入するには?参入メリットと事例、参入する際の補助線となる考え方」の記事をご覧ください。
【参考記事】
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/43160579.html
https://www.istellartech.com/news/press/10174