宙畑 Sorabatake

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宇宙に「ガソリンスタンド」を。Rocket LabとEta SpaceがNASAと挑む極低温燃料貯蔵技術実証【宇宙ビジネスニュース】

Rocket LabはEta Space社およびNASAとの協業で極低温燃料貯蔵の実証機「LOXSAT」を完成させました。本ミッションの狙いと意義についてまとめています。

2025年10月22日、小型ロケット打ち上げサービスを提供するRocket Lab社が、極低温燃料管理技術を開発するEta Space社およびNASAと共同で進める「LOXSAT」ミッションのための宇宙機を製造したことを発表しました。

Rocket Lab社は、小型ロケット「Electron」の打ち上げサービスと宇宙機「Photon」の製造を手がける、宇宙開発のリーディングカンパニーです。

宙畑メモ:”Photon”とは
Rocket Labが開発した小型宇宙機プラットフォーム。人工衛星の本体部分(バス)として、電力供給、姿勢制御、通信などの基本機能を提供します。観測装置や実験装置などのミッション機器を搭載できる汎用性の高い設計が特徴です。

参考記事

同社の特徴は、ロケットから宇宙機まで一貫して開発・製造できる点です。顧客に対してワンストップでサービスを提供できます。

Eta Space社は2019年に設立された極低温システムの技術開発会社です。同社のCEOであるウィリアム・ノタルドナート氏はNASA出身者です。同社は2030年に地球低軌道での本格的な極低温推進剤貯蔵施設「Cryo-Dock」の運用を計画しています。これにより宇宙機への燃料補給サービスの提供を目指しています。

リリースによると、LOXSATミッションは液体酸素を宇宙空間で貯蔵する技術の実証実験です。これまで宇宙での極低温推進剤の管理は、温度上昇による気化が大きな課題でした。

宙畑メモ:”極低温推進剤”とは
液体水素や液体酸素などの超低温(-183℃以下)で液体状態を保つ必要がある宇宙船の燃料。非常に効率的で強力な推進力を生み出せます。反面、温度管理が難しく、わずかな温度上昇で気化してしまうという課題があります。

気化すると貴重な燃料が失われてしまうためです。

このLOXSATでは、液体酸素を「ゼロボイルオフ構成」、つまり全く失わない状態で保管する技術を9か月間にわたって試験します。

Eta Space CEOのウィリアム・ノタルドナート氏は、NASA在籍時に「IRAS(統合冷蔵貯蔵)」という極低温推進剤の長期貯蔵技術を開発しました。

宙畑メモ:”IRAS(統合冷蔵貯蔵)”とは
Integrated Refrigeration and Storageの略。NASAが開発した極低温推進剤の長期貯蔵技術。タンク内部に熱交換器を設置し、ヘリウムを循環させることで極低温状態を維持します。これにより燃料の気化(ボイルオフ)を防ぐシステムです。

IRASは地上で実証済みの信頼性の高い技術で、2015-2016年には19ヶ月間のゼロボイルオフ保管に成功しています。同社はこの専門知識を活かして、LOXSATミッションで宇宙での極低温燃料管理技術を実証します。

この技術により、将来的には宇宙に「燃料ステーション」のような極低温推進剤貯蔵施設を設置することが可能になると期待されます。

今回のプロジェクトにおけるRocket LabとEta Spaceの分担を以下にまとめました。

Rocket Labがペイロードの宇宙機本体(バス部分)を担当し、Eta Spaceが実証部分の燃料貯蔵・管理システム(ミッション機器)を担当しています。

Rocket Labが打ち上げロケット(Electron)と宇宙機(Photon)の両方を一体設計できます。これによりミッションの実行が簡素化され、技術的リスクを最小限に抑えることができます。

Rocket Labの宇宙システム担当副社長ブラッド・クレヴェンジャー氏は次のようにコメントしています。

「LOXSATの宇宙機と打ち上げの両方を担当できることを誇りに思います。宇宙での燃料補給能力は、地球軌道を超えた再利用可能で持続可能な探査を実現する上で基本的に重要です」

Eta SpaceのCEO、ウィリアム・ノタルドナート氏は次のようにコメントしています。

「このマイルストーン達成を大変喜ばしく思います。Rocket Labを選んだのは、実績のあるElectronロケットと、私たちが必要とする正確な軌道への専用打ち上げが可能だったからです。また、Rocket Labの宇宙機経験とペイロードホスティングサービスも、プロジェクトの成功にとって打ち上げサービスと同じくらい価値があります」

宙畑メモ:”ペイロードホスティングサービス”とは
宇宙機の基本機能(電力供給、姿勢制御、通信など)を提供する衛星バス上に、顧客の実験装置や観測機器などを搭載・運用するサービス。顧客は衛星を一から開発する必要がなく、必要な機器だけを用意すればよいため、開発コストや期間を大幅に削減できます。Rocket LabのElectronとPhotonのように、打上げと宇宙機本体を一括で提供できる企業は、顧客にとってワンストップで宇宙実証が可能になります。

今回のLOXSATミッションは、2026年初頭の打ち上げに向けて、現在環境試験の段階に入っています。Rocket Labのロケットと宇宙機の一体設計能力、Eta SpaceのNASAで培われた極低温燃料管理技術が組み合わさっています。これによりチャレンジングな目標を達成できる開発体制が構築されています。

このミッションの成功は、2030年代に計画されている本格的な宇宙燃料貯蔵施設「Cryo-Dock」の実現への重要な一歩となるでしょう。

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