宙畑 Sorabatake

宇宙政策

ドイツが今後数年で350億ユーロ(ESA予算4年半分)の投資を発表した、65の実行計画を示す初の宇宙安全保障戦略の概要まとめ【宇宙ビジネスニュース】

本記事では、ドイツ初の宇宙安全保障戦略を紹介します。350億ユーロの投資規模、3つの戦略的優先事項と65の実行計画との紐づきなど、その概要を解説します。

2025年11月19日、ドイツ連邦政府は同国初となる宇宙安全保障戦略「Space Safety and Security Strategy(宇宙安全・安全保障戦略)」を発表しました。注目すべきは今後数年で350億ユーロ(ESA予算4年半分にもおよぶ)を投資する予定というその規模の大きさです。

本戦略はドイツ連邦国防省とドイツ外務省が共同で策定しました。ドイツ連邦国防省はドイツ連邦軍の運営と国防政策の立案を担う機関です。宇宙分野においては、2020年9月に航空宇宙作戦センター(ASOC)を設立しました。宇宙領域における作戦能力の構築と宇宙状況把握 (SSA) に取り組んできました。

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本戦略は民間・軍事を含む宇宙セクター全体を対象とし、ドイツが宇宙における行動能力をいかに確保・強化していくかを示しています。また、本戦略では全政府的統合アプローチが採用されています。国防省、外務省、連邦研究・技術・宇宙省など複数省庁が横断的に連携して宇宙安全保障に取り組む体制が明確化されています。

本戦略には戦略的行動領域、アーキテクチャ構成要素、戦略的行動計画が記載されています。それぞれ定義は下記の通りです。

・戦略的行動領域:3つの戦略的優先事項
・アーキテクチャ構成要素:4つの組織・制度的基盤
・戦略的行動計画:65個の実行計画

上記が体系的に整理されており、宇宙安全保障戦略としては詳細で具体的な内容となっています。以下で詳細を解説します。

まず、宇宙安全・安全保障戦略の戦略的行動領域とアーキテクチャ構成要素を下記にまとめました。

本戦略では3つの戦略的行動領域が定められています。

第1の領域は「リスクと脅威の特定、行動選択肢の策定」です。グローバルな宇宙状況把握のためのセンサーネットワーク構築が含まれます。敵対国のロケット・衛星・極超音速飛翔体を追跡する衛星コンステレーションの整備も含まれます。

第2の領域は「国際協力と持続可能な秩序の促進」です。国連枠組み内での責任ある国家行動に関する規範策定を主導するとしています。また、EU宇宙安全保障戦略の実施において中心的役割を果たすとしています。

第3の領域は「抑止力の構築、防衛能力とレジリエンスの強化」です。

宙畑メモ:レジリエンスとは
システムや組織が攻撃・障害・危機に直面しても、機能を維持または迅速に回復できる能力。宇宙安全保障では、衛星コンステレーションの冗長化、代替通信手段の確保、地上インフラのバックアップなどが含まれます。

敵対者のシステムを検査・対処するボディガード衛星や再利用可能な宇宙機の開発が明記されています。

宙畑メモ:ボディガード衛星とは
自国や同盟国の重要衛星を守るため、近傍で監視・防衛活動を行う衛星。敵対的な衛星の接近を検知し、必要に応じて対処措置をとる能力を持ちます。

各戦略的行動領域に対する戦略的行動計画を下記にリストアップしました。

宙畑メモ:マルチオービット衛星コンステレーションとは
低軌道(LEO)、中軌道(MEO)、静止軌道(GEO)など、異なる高度の軌道に衛星を分散配置し、相互接続する構成。単一軌道への依存を避け、全体のレジリエンスを高めることで攻撃や障害への耐性を向上させます。

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宙畑メモ:IRIS2 (Infrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satellite) とは
欧州が2030年代初頭の運用開始を目指す次世代衛星通信システム。政府通信のセキュリティ確保と民間向けブロードバンドサービスの両立を目指しています。ドイツは本戦略でIRIS²への参画と国内能力による補完を明記しています。

宙畑メモ:宇宙天気とは
太陽の活動によって引き起こされる宇宙空間の環境変動。太陽フレアやコロナ質量放出(CME)などにより、高エネルギー粒子や電磁波が地球に到達し、衛星の電子機器エラー、GPS精度低下、通信障害、電力網への影響などを引き起こす。ドイツは本戦略で省庁横断の宇宙状況把握センターに国家宇宙天気情報サービスを設置することを明記しています。

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宙畑メモ:CSpO (Combined Space Operations Initiative) とは
米国主導の多国間宇宙協力イニシアチブ。オーストラリア、フランス、英国、イタリア、日本、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、ドイツが参加し、宇宙安全保障の共通理解と協力を推進しています。

宙畑メモ:MNF-OOD(Multinational Force Operation Olympic Defender)とは
宇宙空間における抑止と防衛のための多国間軍事協力枠組み。米国が主導し、オーストラリア、フランス、英国、カナダ、ニュージーランド、ドイツも参加しています。

宙畑メモ:欧州宇宙統合司令部 (ESCC / European Space Component Command) とは
本戦略で新設が計画されているドイツ連邦軍宇宙司令部の国家指揮統制要素。戦術レベルにおいて、EU、NATO、または多国間の宇宙作戦に関する指揮統制任務を調整・実行する役割を担います。EU加盟国やパートナー国からの軍事要員による多国間増強を受け入れる構想も含まれます。

宙畑メモ:EU宇宙利用プログラムとは
2021年にEU規則で設立された、欧州の宇宙活動を統括する包括的プログラム。主要構成要素として、地球観測のCopernicus、衛星測位のGalileoおよびEGNOS、政府向け衛星通信のGOVSATCOM、宇宙状況把握(SSA)、新たな多軌道衛星コンステレーションIRIS²があります。ドイツは本戦略で、これらEUプログラムへの安全保障・防衛関連要素の統合を推進するとしています。

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宙畑メモ:EU宇宙監視追跡 (EU SST / EU Space Surveillance and Tracking) とは
EU宇宙プログラムの宇宙状況把握(SSA)構成要素の一つ。15のEU加盟国(ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど)が参加するパートナーシップです。加盟国が保有するレーダーや望遠鏡などのセンサーをネットワーク化し、衛星やスペースデブリの軌道追跡、衝突回避警報、制御されない大気圏再突入の監視、軌道上分裂の検知といったサービスを提供します。

宙畑メモ:宇宙イノベーションハブとは
2025年1月に稼働を開始した、ドイツ宇宙庁(DLR内)が運営するオンラインプラットフォーム。スタートアップ、既存企業、投資家、公的機関、研究機関をつなぎます。宇宙技術・サービスのニーズ把握とマッチングを促進し、民間・軍事・デュアルユースの有望プロジェクトを積極的に支援します。

実行計画の項目まで見える化されており、具体性の高い戦略文書となっています。

戦略的行動計画からもわかる通り、NATO・EUとの接続についても明確な方針が示されています。戦略文書内では「ドイツの宇宙安全保障体制はNATOおよび欧州における強固な柱となる」と明記されています。

ちなみに、下記に示す通り、ドイツ以外の様々な国/機関からも政府横断的な宇宙安全保障戦略が発表されています。

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このように、欧州各国がすでに発表しており、ドイツが特に早いわけではありませんが、注目すべきは、約350億ユーロというESAの年間予算約4年半分に相当する大規模な投資方針が示されているということ。

また、他国・他機関の戦略が「Security」のみを掲げる中、ドイツの戦略には「Safety」が明示的にタイトルに含まれていることもポイントです。この背景には複数の要因があると考えられます。ロシアによるウクライナ侵攻でGPS妨害やサイバー攻撃など宇宙インフラへの意図的脅威が顕在化しました。加えて、増加するスペースデブリなど非意図的脅威への対応も含めた包括的アプローチを示す狙いもあるのではないかと推測されます。

宙畑メモ:「Safety」と「Security」の違いとは
宇宙分野で「Safety(安全)」はスペースデブリや衝突リスクなど非意図的な脅威への対処を指します。「Security(安全保障)」は他国からの攻撃や妨害など意図的な脅威への対処を指します。両方を明示することで、宇宙空間の持続可能な利用と軍事的防衛の両立を重視する姿勢を示しています。

世界各国で宇宙安全保障戦略をもとにした技術開発が進んでいきます。他方、技術開発の歴史をたどれば、GPSや衛星通信も元々は軍事技術であり、多くの方々の生活を豊かにしています。上記で紹介した事例のように、今後様々な技術開発が進み、それらが巡り巡って、世界中の方々の生活に関わる形でどのように活用されていくのかが、今後の注目点です。

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