初の1兆円超え、令和8年度宇宙関係予算を読み解く。安全保障・通信インフラ・サプライチェーン・衛星データ利活用・国際連携の5軸で拡大【宇宙ビジネスニュース】
宇宙関係予算が初の1兆円超えに。防衛省・総務省の大幅増額や宇宙部品の「特定重要物資」入りなど、令和8年度予算の注目点を4つのトピックで整理しました。
2026年1月21日、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が令和8年度の宇宙関係予算を発表しました。対象は令和8年度当初予算案と令和7年度補正予算です。
宙畑メモ:補正予算とは
当初予算では対応しきれない景気変動や災害、新たな政策ニーズに応じて年度途中に追加で組まれる予算。この補正予算と翌年度の当初予算を合わせて「15か月予算」と呼ぶことがあります。年度末の3か月と翌年度12か月を一体のパッケージとして扱う考え方です。今回の宇宙関係予算では前年度補正予算と当年度当初予算の合算値を当年度の総予算として示しています。
日本の宇宙開発推進体制は以下の通りです。
令和8年度の宇宙関係予算は、基金関係執行予定額(436億円)を含む総額で1兆446億円と、初めて1兆円を超えました。令和8年度当初予算案と令和7年度補正予算の合計は1兆10億円で、前年度(8,920億円)から1,090億円の増額(+12%)です。
以下では、上記の当初予算+補正予算の合計をベースに分析します。
各府省の予算変動を以下に示します。宇宙戦略基金は10年で1兆円規模の複数年度基金です。年度ごとの計上額の変動が大きいため、基金分を除いた金額で各府省の施策動向を比較します。
防衛省と総務省が大幅増額し、経済産業省と農林水産省も増額し、多くの府省庁で増額していることが分かりました。一方、国土交通省は減額となっていますが「人工衛星の測量分野への利活用」という衛星利用の項目は63億円から71億円へと8億円の増額となっているなど、詳細を見ると増額している項目、減額となっている項目があります。
上記を踏まえて、主な予算項目の変動をまとめたものが以下になります。
また、宇宙戦略基金を除いた合計予算は前年度比2,090億円増(+35%)と大幅に拡大しています。
防衛省・総務省の大幅増額を筆頭に、注目すべき変動が多岐にわたります。経済産業省のサプライチェーン強靭化事業の新設、農林水産省のスマート農業予算の拡大、外務省の国際連携のさらなる推進などです。
以下、4つの主要トピックを紹介します。
(1)防衛・通信で計2,100億円超の増額。宇宙の安全保障と通信インフラ自律化が加速
防衛省は前年度比847億円増の2,213億円となりました。衛星コンステレーション構築に262億円、次期防衛通信衛星等の整備に208億円を新規計上しています。
2025年7月発表の「宇宙領域防衛指針」にも示されるように、宇宙を活用した安全保障構築の流れは今後も継続すると考えられます。
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総務省は前年度比1,267億円増と最大の増額となりました。主要因は「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業」で、1,500億円が計上されています。
低軌道衛星通信は、従来の静止衛星と比べて遅延が少なく、災害時の通信確保や地方のデジタル格差解消に役立ちます。海外に目を向けると、Starlink、OneWeb、Amazon Leo (元Project Kuiper) 等の低軌道通信衛星コンステレーションの構築がすでに進んでいます。本事業は海外事業者への依存から脱却し、衛星通信サービスを自ら確保することを目的としています。
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(2)宇宙部品が経済安全保障の「特定重要物資」入り。半導体・天然ガスに並び国内サプライチェーンを強化へ
経済産業省は、宇宙戦略基金を除けば実質的には予算が増額となっています。主な増額要因は「経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靭化事業(人工衛星、ロケットの部品)」の新規追加です。
この背景には、2025年12月の政令指令があります。人工衛星とロケットの部品が経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に新たに追加されました。
宙畑メモ:経済安全保障推進法とは
経済安全保障の確保に向けて、サプライチェーン強靱化や基幹インフラの安全確保などを一体的に推進する法律です。柱の一つに、国民生活に不可欠な物資(特定重要物資)の安定供給確保があります。
政府が民間事業者の取り組みに資金支援を行う仕組みで、従来は半導体や天然ガスなど12品目が指定されていました。今回、人工衛星やロケットの部品が新たに追加され、品目数はさらに拡大しています。
内閣官房の経済安全保障法制に関する有識者会議の第12回資料「重要物資に生じている安定供給確保上の課題」によると、宇宙分野では衛星の太陽電池セルや衛星バス等、ロケットのフェアリングや固体ロケットモーター、燃料供給系部品等が対象として挙げられています。いずれも衛星やロケットの製造に欠かせない重要部品であり、国内製造体制を強化します。
重要部品を特定国に依存すれば、地政学的な変化で供給が途絶する恐れがあります。日本の宇宙開発の自律性確保において極めて重要な施策です。
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(3)スマート農業予算が36億円から90億円へ。衛星データ×農業の社会実装加速に期待
農林水産省は「スマート農業技術開発・供給加速化対策」の予算を36億円から90億円に拡大しました。衛星利活用に対する注目度の高まりがうかがえます。
衛星データを活用した精密農業や自動運転トラクターなど、宇宙技術の農業への応用が加速しています。農業従事者の高齢化や人手不足の解決手段としても期待が高まっています。
昨年開催された「NEDO Challenge, Satellite Data」の第1回ワークショップでも、この傾向は見て取れます。農林水産省・政策課技術政策室の阿部室長が衛星データ利活用の重要性に言及しました。
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(4)外務省の新規計上が示す国際連携の加速。アフリカ・太平洋島嶼国への宇宙技術支援
外務省では「宇宙技術を活用したアフリカ・太平洋島嶼国の災害対応力強化及び画像分析基盤の強化」が追加されました。この動きから、日本の宇宙技術を活用した国際連携の重要性が改めてうかがえます。
昨年、宇宙戦略基金にて国際連携を加速する仕組み「Co-funded事業推進枠組み」が構築されました。
民間でも、宇宙産業共創プラットフォーム「クロスユー」がアフリカ5機関と戦略的連携を開始しました。今回の予算増額はこれらの国際連携の流れをさらに加速させるものとなります。
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令和8年度宇宙関係予算は、多岐にわたる分野で増額されました。防衛・通信インフラの強化、産業基盤の自律性確保、衛星データ利活用の拡大、国際連携の推進が主な柱です。
製造基盤の強化から衛星データの社会実装まで、幅広い領域に予算が配分されています。地政学リスクへの対応と国際競争力の確保を見据えた内容です。ものづくり企業やデータ利活用企業、異業種企業など多様なプレイヤーの参入を促す姿勢が鮮明です。
参考記事
令和8年度当初予算案および令和7年度補正予算における宇宙関係予算について

