宙畑 Sorabatake

衛星

宇宙用半導体の「試験待ち」を解消へ!NTTらが放射線試験での地上代替評価を実証【宇宙ビジネスニュース】

宇宙産業の基盤、半導体開発を加速させる重要な成果です。放射線試験の予約待ちを解消することで、より多くのメーカーが宇宙開発に参入する環境の実現に貢献します。

2026年2月27日、NTTは北海道大学と共同で、宇宙空間で半導体の誤動作(ソフトエラー)を引き起こす「陽子」と、地上での誤動作を引き起こす「中性子」について、高エネルギー領域ではエラーのリスクが同じであることを世界で初めて実証したと発表しました。

宙畑メモ:ソフトエラーとは
宇宙放射線が半導体に当たることで、メモリ回路に保存されているデータが一時的に書き換わり(ビット反転)、誤動作やシステムの停止が起こり得る現象のこと。半導体が永久的に故障する「ハードエラー」とは異なり、再起動やデータの上書きで復旧可能ですが、通信衛星や気象衛星など私たちの暮らしに身近なサービスにとっては大きな障害となります。

宇宙空間でも地上と同様に機器制御のために半導体が使われており、誤動作は最悪の場合、衛星の機能喪失につながります。さらに近年は軌道上での高度なデータ処理へのニーズも高まっており、ソフトエラー対策の重要性は増す一方です。

今回の成果は、こうした宇宙用半導体の開発・評価を加速させるものとして期待されます。

なお、2026年2月18日付の「IEEE Transactions on Nuclear Science」に2本の論文として掲載されています。

今回の実証概要 Credit : NTT

NTTは、宇宙事業の拡大を目指し、独自ブランド「NTT C89」を立ち上げたほか、2021年にはスカパーJSATと共同で「宇宙統合コンピューティングネットワーク」構想を掲げています。

宙畑メモ:NTT C89とは
NTTグループ各社の宇宙事業で連携し、新たな市場開拓を目指して立ち上げたブランド。静止衛星やHAPSなどの「自社技術を高める領域」と、低軌道の通信衛星などの「パートナー連携でサービス化を加速する領域」を主軸としています。

宙畑メモ:宇宙統合コンピューティングネットワーク
2021年にスカパーJSATと共同で発表した構想。 高度約20kmを飛行する通信プラットフォーム(HAPS)、静止軌道衛星、低軌道衛星を統合し、それらと地上を光無線通信ネットワークで結び、分散コンピューティングによって様々なデータ処理を高度化する、宇宙の新たなICTインフラ基盤構築を目指します。

宇宙統合コンピューティング・ネットワークがめざす世界観イメージ Credit : NTT/スカパーJSAT

上記構想のもと、2022年7月にはNTTとスカパーJSATが共同でSpace Compassを設立し、宇宙データセンタやHAPSの事業化にも注力しています。(詳細は関連記事をご参照ください。)

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今回のポイントは「陽子と中性子で分かれていた宇宙用半導体の放射線耐性の評価を、1回の中性子照射試験で行うことができる可能性を示した」点です。これにより、放射線試験のコストや期間の削減が期待されます。

宇宙空間は強力な放射線(陽子や重イオン)が飛び交う過酷な環境であり、半導体がソフトエラーを起こすリスクが常にあります。地上においては、宇宙線が大気との相互作用により中性子となり、半導体の誤動作の要因となっています。

宙畑メモ:重イオンとは
水素やヘリウムよりも重い原子(炭素や鉄など)が、電子を失い電気を帯びた(イオン化した)もの。宇宙空間を飛び交う「銀河宇宙線」に含まれ、頻度はごくわずかですが、陽子と比べて「電離させる力」が非常に強い特徴があります。そのため、一度の飛来でも半導体の誤作動や故障を引き起こすリスクが高く、宇宙機開発において必要な検証項目として挙げられています。

そのため、宇宙向けには「陽子」や「重イオン」の照射試験、地上向けには「中性子」照射試験の実施が求められています。

一方で、政府によると、前者の試験設備については予約待ちで、年間約100時間分の試験ニーズに応えられていないとのことです。これは今後計画されている国内の衛星コンステレーションの配備や新たな宇宙用機器開発にとって大きな足かせとなります。

今回、NTTと北海道大学は、運動エネルギーが20MeV以上の領域において、「陽子」と「中性子」が宇宙用の半導体に与える影響が同等であることを突き止めました。

これにより、より利用しやすい地上向けの中性子照射試験への一本化が可能となる見込みです。

加えて、同試験は陽子の場合に比べて照射範囲が広く、チップ単体ではなく、複数のボードや機器全体を対象に評価することが可能です。試験を複数回に分けることなく、一度に機器全体を評価できるようになるため、試験者側の負担も軽減されるでしょう。

今回測定した中性子(青)と陽子(赤)の運動エネルギー毎のソフトエラー発生率
(メモリ1Mbitあたりのソフトエラーの起こりやすさを表す単位) Credit : NTT

なお、今後は重イオンなどの他の宇宙放射線による影響にも評価対象を拡大していく予定とのこと。

また、この試験方法の有効性を宇宙環境で検証すべく、国際宇宙ステーション(ISS)の曝露部(宇宙空間に曝される船外実験スペース)を活用した実証実験「PEGASUS(ペガサス)計画」を実施する予定です。

今回の発表は、宇宙産業の基盤である半導体開発を後押しする重要な成果です。これまでは、なかなか予約が取れない陽子照射試験装置が必要でしたが、地上向けに広く使われている中性子照射試験で一本化できるため、より多くの半導体やセンサメーカーが宇宙に挑戦しやすくなると考えられます。

参考

世界初、陽子と中性子による半導体の障害発生率の同一性を実証~宇宙環境における障害評価を中性子試験のみで実現、太陽フレア等の備えを効率化~

Experimental Confirmation of Equivalence of Proton- and Neutron-Induced Energy-Dependent SEU Cross Sections for Sub-100-nm Bulk Planar SRAM-Based FPGAs

A Method for Deduction of Single-Event Upset Cross Sections from Time-of-Flight Data Obtained at a Double-Bunch Proton Accelerator-Based Neutron Source

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