NASA、ゲートウェイ一時停止と月面基地建設における3つの段階を発表。持続的な有人活動に向け道筋を再設計【宇宙ビジネスニュース】
NASAが月面での持続的な有人活動に向けて道筋を再設計。ゲートウェイを現行形で一時停止し、月面基地の3段階整備と6カ月ごとの高頻度着陸へ舵を切りました。
2026年3月24日、NASAは「Ignition」と名付けた公開イベントにて、米国の国家宇宙政策に沿った新たな施策を発表しました。
発表はアルテミス計画の見直しから低軌道戦略、宇宙原子力、人材強化まで多岐にわたりますが、注目は月探査計画の考え方の転換です。
月探査計画に関する発表で注目するポイントは「月周回有人拠点ゲートウェイを現行形で一時停止」「月面基地の段階的整備」「月面着陸ミッションの高頻度化」の3点です。
宙畑メモ:ゲートウェイとは
月を周回する軌道上に建設が計画されていた小型の宇宙ステーションです。宇宙飛行士が月面へ向かう際の中継拠点として構想されており、日本やESA(欧州宇宙機関)も参加を表明していました。
これまでゲートウェイを今後の月面活動を支える基盤として構築を目指していたアルテミス計画ですが、月面着陸の安定した運用や月面基地など、月面での活動を支えるインフラの構築に重心を移す意図がうかがえます。
(1)なぜNASAはゲートウェイを後ろに下げるのか
NASAは「pause Gateway in its current form」(ゲートウェイを現行形で一時停止)と表現し、月面活動を支えるインフラの構築を優先する方針に舵を切りました。一次情報から読み取れるポイントを整理します。
政策面では、国家宇宙政策が「月面着陸」「月面拠点構築」を最優先とし、現行ゲートウェイは必須ではないと整理されました。
性能面では、HLS(Human Landing System:有人月着陸システム)事業者はゲートウェイを必要とせず、ドッキングは性能ペナルティを伴うと指摘されています。
宙畑メモ:HLS(Human Landing System:有人月着陸システム)とは
宇宙飛行士を月面に送り届けるための着陸船です。NASAが民間企業に開発を委託しており、SpaceXのStarshipやBlue OriginのBlue Moonが開発を進めています。
スケジュール面では、ゲートウェイのPPE(Power and Propulsion Element:電力・推進エレメント)・HALO(Habitation and Logistics Outpost:居住・物流モジュール)の打ち上げはさらなる遅延が見込まれ、その他のモジュールも予定より遅れています。
技術面では、腐食対策や重量超過、複雑な組立順序などの課題が示されています。
ただし、「止めて終わり」ではなく、NASAは別ミッションへの転用を明示しています。具体的には、PPEの他ミッション活用や、通信ハードウェア・HALOサブシステムの月面基地への転用が挙げられています。
国際協力についても、NASAは国際パートナーとともに月面基地 (Moon Base) 構築に向けて協力関係を再構築していく意向を示しています。
なお、ゲートウェイの一時停止には議会承認や既存の国際合意への対応が必要であり、現時点ではNASAの方針表明にとどまります。
(2)月面基地はどの順番で、何を整備するのか
NASAは月面基地を3段階で整備する考えを明示しました。今回は段階・時期・数値を伴う実装ロードマップとして示された点が新しいと言えます。建設地は月の南極です。
Phase 1(現在〜2029年):Build, Test, Learn(実証と学習)
まず、月面アクセスの確立と各種能力の実験・実証を行います。最大25ミッション・21回の着陸で約4トンを投入。LTV(Lunar Terrain Vehicle:月面探査車)、MoonFallドローン、VIPERローバー(Volatiles Investigating Polar Exploration Rover:極域揮発性物質探査ローバー)、通信衛星などが展開されます。「月面で何が使えるか」を試す期間です。
宙畑メモ:LTV(Lunar Terrain Vehicle:月面探査車)とは
宇宙飛行士が月面を移動するための車両です。アポロ計画で使われた月面車の進化版で、有人タイプと無人タイプの両方が計画されています。宇宙飛行士の活動範囲を広げ、より遠くの場所を探査できるようにする役割を担います。
宙畑メモ:VIPER(Volatiles Investigating Polar Exploration Rover:極域揮発性物質探査ローバー)とは
月の南極で水氷を探すNASAの探査車。約100日間かけて30km以上を走行し、ドリルと分光計を使って月面下の水や揮発性物質を調査します。将来の月面活動で水を利用できるかどうかを判断する重要なミッションです。
Phase 2(2029〜2032年):Establish Early Infrastructure(初期インフラ構築)
次の段階では、半居住可能なインフラへの移行と反復的な宇宙飛行士運用を行います。
最大24回の着陸で約60トンを輸送。太陽光発電、原子力系電源実証、通信設備、各種ローバーが整備されます。JAXAが開発を進める有人与圧ローバー(宇宙飛行士が与圧服なしで乗車できる車両)も明記されています。
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Phase 3(2032年以降):Enable Continuous Human Presence(継続的な有人活動)
最後の段階では貨物輸送能力を持つ月着陸船(cargo-capable HLS)を活用し、大型インフラを搬入します。
年間最大38トンの貨物輸送で、半恒久的居住モジュール、核分裂表面発電、長距離与圧ローバー、物流ネットワークを運用。ASI(イタリア宇宙機関)やCSA(カナダ宇宙機関)など国際パートナーの貢献も拡大し、「月で暮らし、働く」段階へ移行します。
今回の発表の意義はどの順で何をどれだけ運ぶかが見えた点にあると考えられます。
(3)高頻度化とは具体的に何が変わることなのか
「Ignition」で発表された3つ目のポイントは、月面着陸ミッションの高頻度化です。
アルテミス計画の構成見直し(2027年のアルテミスIIIを地球周回軌道でのテストミッションとし、2028年のアルテミスIV・Vで月面着陸を行う流れ)は2月に発表済みですが、今回の発表ではその先の構想が示されました。
アルテミスV以降は「6カ月ごとの月面着陸」を目指す方針です。商業調達と再使用型ハードウェアを活用し、能力成熟に合わせて頻度を上げていきます。
狙いは”muscle memory”(運用ノウハウ)の維持です。従来案はミッション間隔が空きすぎ、1回ごとに運用能力を再構築する必要がありました。反復運用でノウハウを維持することへの期待が読み取れます。
目標は、CLPS(Commercial Lunar Payload Services:商業月面輸送サービス)では2027年以降、最大30回の無人月面着陸を目指すとしています。
宙畑メモ:CLPSとは
NASAが民間企業に月面への貨物輸送を委託する仕組み。2022年に、日本のベンチャーispaceの子会社であるispace technologies U.S.が、アメリカのチャールズ・スターク・ドレイパー研究所らとともに、採択されたことを発表していました。
また、月面基地に向けたパートナーシップや将来ミッションに関するRFIも公開されており、計画は調達の話としても動き始めています。
宙畑メモ:RFI(Request for Information:情報提供依頼)とは
政府機関が民間企業に対して技術や価格に関する情報を求める文書。正式な入札(RFP)の前段階として発行されることが多く、「どんな企業がどんな提案をできそうか」を調査するためのものです。
月面着陸船の高頻度輸送がもたらすのは、月に送れる荷物の増量に限らず、商業活用・再使用型機材・無人展開を組み合わせた運用設計への転換とも考えられます。
(4)月探査以外の発表にも注目
NASAは同時に以下も発表しています。
・ISS後継・LEO移行:政府所有コアモジュールをISSに接続、商業モジュール検証後に分離・独立運用
・宇宙原子力:原子力推進実証機「SR-1 Freedom」を2028年末までに火星へ
・調達改革:2027〜2028年ミッション向けRFIを同日公開
・人材強化:民間委託ポジションをNASA正規職員に転換し、技術基盤を再構築
今回の発表は別々のニュースとして捉えるものではなく、NASAが月面での持続的な有人活動に向けて道筋を再設計し始めたという明確な方針が明らかになった結果とも言えます。そのうえで、ゲートウェイは「不要になった」のではなく「優先順位が下がった」という整理が妥当でしょう。
今後、月面への輸送機会の大幅な増加や通信・測位インフラの拡充は、新たなビジネスチャンスを生み出しそうです。国内企業にとっても参入機会となる可能性があります。
日本の有人与圧ローバーがPhase 2で明記されている点も含め、今後の各ミッションの進捗や技術実証の成果が、月面探査における宇宙ビジネスの潮流を左右することになりそうです。
参考
NASA Unveils Initiatives to Achieve America’s National Space Policy

