宙畑 Sorabatake

探査

NASA、月面基地構想「Moon Base」が実行段階へ。最初の3ミッション「Moon Base I〜III」を公表し、ローバー開発2社に計約4.4億ドルを発注【宇宙ビジネスニュース】

NASAが月面基地構想「Moon Base」の最初の3ミッションと、ローバー開発2社への計約4.4億ドルを発表。3月の構想がどこまで進んだのかを解説します。

2026年5月26日、NASAは月面基地構想「Moon Base」の最初の3ミッションと、ローバー開発を担う2社への契約を発表しました。

本記事ではローバー開発2社への計約4.4億ドルの契約の中身と、3月に示された構想がどこまで具体化されたのかについて、解説します。

発表はNASAのイベント「Moon Base」で行われ、最初の3ミッション「Moon Base I・II・III」が公表されました。あわせて、ローバー開発で米Venturi Astrolabに2億1,900万ドル、米Lunar Outpostに2億2,000万ドルが発注されました。NASAはこの3ミッションを、年内に発表する十数件のミッションの第1弾と位置づけています。

また、2026年3月のイベント「Ignition」では、月面基地を3フェーズ(上記の3ミッションとは別の概念)で整備する構想と調達方針が公表されていましたが、今回の発表により、採択企業・契約額・打上げ時期を伴う実行段階に入ったと言えます。

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今回の発表には、大きく分けて2種類の内容が含まれています。ひとつは、すでに進んでいた3つのミッション(Moon Base I・II・III)の名称と打上げ時期が示されたこと。もうひとつは、今回新たに決まった契約(ローバー・輸送・探査ドローン)です。

3つのミッションはいずれも、NASAが民間に月面輸送を委託する仕組みCLPS(Commercial Lunar Payload Services)のもとで実施されます。

宙畑メモ:CLPSとは
NASAが着陸機を自前で持たず、民間に「月面までの輸送サービス」を発注する仕組みです。事業者が打上げから着陸、地表運用までを一気通貫で担い、NASAは荷物を運んでもらう客にあたります。あえてリスクを許容して低コスト・高頻度で回し、米国の月面輸送産業を育てる狙いで、2018年に始まりました。

一方、今回新たに決まった契約は、ローバーの開発・月面までの輸送・ドローンの輸送がそれぞれ別の枠組みで進むのが特徴です。

なお、「Moon Base」はNASAが月の南極域に築く拠点全体の構想名で、今回の「Moon Base I・II・III」は、その拠点づくりに向けた最初の(無人)ミッションの名称です。

宇宙飛行士が常駐する「基地」そのものが整うのは、NASAが発表した3段階のフェーズでは、下図にある最終のPhase 3で、現時点はその土台を築く初期段階にあたります。

「Moon Base」のロードマップ Credit : NASA

今回の発表には役割の異なる複数の企業が登場し、混同しやすいため、先に整理します。

◆着陸機を担う(CLPSの輸送事業者):Blue Origin、Astrobotic、Intuitive Machines。NASAから月面輸送を請け負い、自前の着陸機で荷物を届けます。
◆ローバーを開発(LTV):Venturi Astrolab、Lunar Outpost。月面を走る車両を開発します。CLPSの輸送事業者とは異なります。
◆ドローンの輸送機:Firefly Aerospace。着陸候補地を上空から調べる4機のドローン計画「MoonFall」(JPL開発)を月へ運びます。

(1)まず動くのは3つの無人機。「Moon Base I〜III」の名称と打上げ時期

まずは3つのミッションについてです。Moon Base I・II・IIIの各ミッションの概要は次のとおりです。

3つのミッションの違いとしては、Moon Base I・IIが着陸実証や将来のモビリティ成熟といった拠点構築寄りなのに対し、Moon Base IIIは磁気異常の科学観測が主目的というポイントに注目。

Moon Base IとIIが目指す月の南極は、太陽光が届かない永久影のクレーターに水(氷の形で存在する想定)が残るとみられる地域です。水は適切に処理を行うことで飲み水や酸素になるほか、分解すればロケットの推進剤にもなります。現地で確保できれば、地球から運ぶ物資を減らせます。

また、陽の当たる尾根が発電に適し、氷を含む地形とも近接しています。この点も、南極が拠点として有力視される理由です。なお、科学観測が目的のMoon Base IIIだけはReiner Gammaを目指します。

宙畑メモ:PRISM(Payloads and Research Investigations on the Surface of the Moon)とは
NASAが月面での科学探査に向けた観測装置を公募・選定する仕組みです。Moon Base IIIは、この公募で選定されたペイロードを初めて月面に届けるミッションです。

(2)宇宙飛行士より先に、ローバーを月へ。計約4.4億ドルの新契約の中身

ここからは、今回新たに決まった契約を紹介します。まずはローバー関連の契約です。NASAは2024年4月にLTV(月面車)サービスとして3社を選定し、当初はその実現性評価を経て1社に絞る想定でした。

宙畑メモ:LTV(Lunar Terrain Vehicle)とは
月面を走行する車両の総称です。宇宙飛行士が乗って運転する有人型と、遠隔操作や自律走行で動く無人型があります。探査範囲の拡大や物資の運搬、着陸地点の事前整備などを担います。

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今回、契約者数が2社採択に変わり、初めて開発・製造の本格契約に至りました。これまでと今回の違いは次のとおりです。

特に注目したいポイントはローバーの投入時期の前倒しとローバーについては、CLPSとは別の枠組みであることの2点です。

ひとつめのローバーの投入時期の前倒しについて、当初、ローバーはNASAの有人月探査計画「アルテミス」の有人着陸ミッション(アルテミスV)での運用に紐づいていました。それが今回、2028年までにCLPS経由で月面へ届けられることになり、宇宙飛行士の到着前から無人で運用が始まります。

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もうひとつの契約の違いについて、ローバーの開発はLTV Services契約、月面までの輸送はCLPS(Blue OriginのCX-2契約)と、別々の枠組みで進むこととなっています。

LTV Servicesとは、NASAがローバーを自前で持たず、民間からサービスとして調達する契約枠組みです。NASAが車両を所有しない点はCLPSと同じですが、CLPSが「荷物の輸送」を買うのに対し、LTV Servicesは「ローバーそのものの利用」を買います。事業者は車両を保有し続け、NASAが使わない期間は商業利用にも回します。

ローバー輸送を担うCX-2契約では、Blue Originに1億8,800万ドルが発注されました。さらに、初期段階の成果に応じて2億8,040万ドル相当のオプション期間が設定されています。

2026年5月26日、NASA本部の「Moon Base」発表イベントで公開された模型。左から、Blue Originの着陸機Blue Moon Mark 1(Moon Base Iと同型の機体で、ローバー輸送も担う)、Astrolabの有人ローバー(CLV-1)、Lunar Outpostのローバー「Pegasus」、Fireflyの軌道機「Elytra Dark」。 Credit : NASA

採択されたCLV-1(Venturi Astrolab)とPegasus(Lunar Outpost)は、いずれも従来案を簡素化した設計です。Ignitionで示された「簡素・早期」の方針に沿ったものです。

(3)「数を打つ」段階から、基地を支える物流へ。CLPS 2.0への進化

また、CLPSという仕組みそのものの変化も注目すべきポイントのひとつです。もともとリスクを許容する前提のCLPS 1.0では、初期に着陸に失敗したミッションもありました。運ぶ対象が単発の科学機器から月面基地を支える重要インフラへと変わると、求められる性質も変わってくるでしょう。

そこで後継のCLPS 2.0では、NASAが自らの知見を加えて信頼性を高めます。あわせて着陸機の搭載能力を引き上げ、ミッション数と打上げ頻度も増やします。

また、発注方式にも幅が出ています。従来どおり完成した輸送サービスを一括で買うこともできますし、ハードウェアだけを受け取って、自社ミッションに組み込むこともできるようになります。

調達も動き出し、CLPS 2.0は2026年9月末までに次世代事業者が選定される見込みです。現行のCLPS 1.0でも、数週間以内に追加の採択が予定されています。

今回のリリースは、3月に構想として示されたMoon Baseが、採択企業・契約額・打上げ時期を伴って動き出したことを印象づける発表でした。

すでに進んでいた3つのミッションに名称と打上げ時期が与えられ、ローバーとその輸送には新たな契約が結ばれました。CLPSは、月面インフラを支える物流基盤へと役割を広げつつあります。

最後に、月面基地の建設について、一見、私たちの暮らしとは遠い話に思えるかもしれません。

しかしながら、月面建設にあたって磨かれる技術は、やがて地上にも返ってくる可能性が期待できます。例えば、極限環境で自律走行・遠隔運用するローバーの技術は、自動車の自動運転や電動化に生かせるかもしれません。限られた資源を現地でまかなう発想は、災害時や僻地でのエネルギー・水の供給にもつながりえます。

今回の発表に関係のあるPhase 1に日本の名前はありませんが、日本の出番はPhase 2です。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の与圧ローバーをはじめ、日産自動車やispaceなど日本企業の開発も、この世界的な競争の中にあります。月での挑戦が、いずれ私たちの暮らしの安全や利便にも還元されていくことが期待されます。

参考資料

NASA Provides Update on Moon Base Rovers, Landers, Missions

NASAのMoon Base紹介ページ

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