宙畑 Sorabatake

特集

山口で語られた宇宙データとインターネット黎明期の共通点、オープンデータはビジネスチャンス!

衛星データの利活用について考える講演イベント「宇宙データビジネスの可能性」が2019年7月5日に山口県で開催されました。そこで語られた内容をご紹介します。

衛星データプラットフォームTellusをはじめ、近年衛星データのオープン化が進んでいます。

「データ21世紀の石油のような存在になる」という声も挙がる中、衛星データも経済活動に欠かせない貴重なものになる可能性を秘めています。

そんな中、衛星データの利活用について考える講演イベント「宇宙データビジネスの可能性」が2019年7月5日に山口県で開催されました。

登壇したのは、株式会社jig.jp会長で総務省オープンデータ伝道師でもいらっしゃる福野泰介さんと、株式会社ABBALabの代表取締役であり、さくらインターネットのフェロー小笠原治さん。

「オープンデータ」にお詳しい福野さんと、投資家として数多くの「スタートアップ」を見てきた小笠原さん。二人から見たオープン&フリーになった「宇宙データ」の可能性とアプローチについて、ご紹介します。

1.オープンデータは「遊具」になる!

まず登壇されたのは、福野泰介さん。

福野さんが会長を務められている株式会社jig.jpは元々はガラケーのブラウザを開発して、世界No.1のシェアを誇っていたそうです。

そんな福野さんが「オープンデータ」に興味を持ったのは、ウェブの生みの親であるバーナーズ・リーさんが「オープンデータ」を提案していたのがきっかけでした。

その後、オープンデータの可能性に気づいた福野さんは、既に交流のあった鯖江市市長に「鯖江のデータをオープン化しましょう!」と提案。その結果、市長からはその場でOKしていただけたとのこと。今では鯖江市は「オープンデータ」の街として鯖江市は名が知られるようになりました。有名な市になっています。

鯖江市のレポーティングアプリ「さばれぽ」 Credit : 福野泰介

現在ではデータを使用するコンピュータはどんどん安くなっています。そして、このコンピュータの新しい目として宇宙からの目、すなわち衛星データが注目を集めつつあります。

福野泰介

「当初、宇宙からの目は想像してたほど万能ではないと感じました」福野さんは当時の印象を率直に語ります。地上から手を振っても見えない、常に撮影しているわけでもない、さらに更新頻度も高くないのが現状の衛星データです。

しかし、福野さんはあることを思いつきます。

「足りないんだったら補えばいいじゃないか。」

例えば地上に置いてあるセンサー、これは至る所にあります。必要なところはピンポイントでセンサーを置き、ドローンや気球を活用して、低いところから観測して補います。

「このようにセンサーデータと補完し合えれば無料で使えるTellusもおすすめです。さらに精度が高いデータが必要なら、お金をかけて買えばいいし、頻度も要求を出していけば良いでしょう」と福野氏は述べます。

日本の子供たちにプログラミングを教えたい

IchigoJam(https://ichigojam.net/index.html) Credit : 2017 B Inc.

現在、福野さんが力を入れているのが、子供向けのプログラミングサービスです。

日本でも、アフリカでもIchigoJam(jig.jpが販売している手のひらにのせられる大きさの、プログラミング専用こどもパソコン)に子供たちは大興奮するそうです。

福野さんは「地域のオープンデータは子供達の遊び道具になり、プログラミングスキルの向上にも役立つでしょう」とそのポテンシャルの大きさに言及します。

一方で現状の課題として、日本は子供のPC保有率が非常に低いことを挙げます。小学校6年生が自分のPCを持っている割合はわずか1.5%。

福野さんは「子供に一から百まで全部教える必要はありません。自分でも出来そうだ、面白そうだと思えば、子供は自分で勉強し、手を動かし始めます。大人は、そういう場を与えて、たまにフィードバックを返して上げるだけで良いのです。」と呼びかけます。

そして、プログラミング教育が進んだ先に求められるのがデータの存在です。そのデータを自治体でオープンにして、子どもたちのプログラミングスキルをさらに伸ばす環境を整える。さらにその地域に産業が根付いていると、データの利活用で地場産業とも連携することができるーー。

「このようなサイクルが回るようになると嬉しい」と福野さんは語ります。

▼当日の発表資料は福野さんの『一日一創ブログ』で公開されています。
https://fukuno.jig.jp/2539

2.「宇宙ビジネス」は大ホームランをかっ飛ばすかもしれない

続いて登壇したのは、株式会社ABBALabの代表取締役でさくらインターネットのフェローでもある小笠原治さん。

冒頭、投資家の視点で「なぜ今宇宙ビジネスに興味を持っているのか」について講演しました。

現在、宇宙ビジネスの市場規模は世界全体で約38兆円。そのうち日本の占める割合はおよそ1.2兆円です。

日本のGDPは世界3位。さらに衛星も作れる、ロケットも打ち上げられる。この実情を踏まえると「市場規模が極端に小さい」と小笠原さんは指摘します。
しかし、投資家からすると「ポテンシャルがあり投資対象としてとても魅力的だ」と語ります。

実際、現在の宇宙ビジネスと似たようなケースが過去にありました。それは今では私たちにとって当たり前の存在になっている「インターネット」です。小笠原さんもかつてインターネット業界でビジネスを立ち上げましたが、当時日本のインターネット市場は黎明期で可能性に満ちていました。

小笠原さんは「インターネット業界では日本は世界に比べ大きな遅れを取っている」と述べる一方で「日本では何らかの理由で小さく収まっているビジネスは伸びる可能性がある。宇宙ビジネスもまさにこれに当てはまる」と言います。

小笠原さんが手掛けているTellusは開発環境も用意。これは、Tellusを日本だけでなく、アジアのプラットフォームにしたいという思いを持っています。

例えば、アジアの国々から日本のデータセンターにアクセスして日本の衛星データを取得。そのデータをアジア各国の都市開発に活かすこともインターネット環境と安価なパソコンがあればできるようにしたいと構想を描きます。

また小笠原さんは「今の宇宙業界は20年くらい前のインターネット業界に似ている」と語ります。それまでIT業界に関わっていなかった人たちが参入してインターネット業界は飛躍的に伸びました。「宇宙ビジネスでも同じようなことを意図的に起こしたい」、そこで小笠原さんはxData Allianceを組成して他業界からの参入を呼び込んでいます。

このような活動を踏まえて小笠原さんは聴衆の方々にこう呼びかけました。「これから飛躍的に伸びそうな分野でスタートアップをやりませんか」。

小笠原さんは投資家の観点からそのように呼びかける理由をこう明かします。「投資家が100億円のファンドを運営する場合、一般的に10年後までに5倍で返すことを求められます。
そうすると、年平均17~18%成長しないといけませんが、投資先の全事業がそれだけの成長をするのは難しいです。

そうなると、10年で100倍成長する”ホームランを打ってくれそうな会社”を探すしかない。しかも、大きい試合でホームランを打つ会社が求められます。そうすると市場が急激に拡大するであろう産業のスタートアップに投資するようになるのです。

なので、宇宙という分野に国だけでなくファンドも投資している。銀行のように安定成長する企業を探すのではなく、三振するかもしれないけれどフルスイングしてホームランを打ってくれそうなスタートアップを探しているのです。

2018年、日本ではベンチャーキャピタルからスタートアップへの出資が4000億円を超えました。ここまでくるのに15年かかりましたが、宇宙産業はここ5年で同じくらいの額が集まるのではないかと予想しています」と宇宙ビジネスが投資先としていかに魅力的か熱く語ります。

一方で、2019年時点ではデータを活用した宇宙ビジネスへの投資が進んでいるとは言い難い状況です。ロケットや衛星などハードウェアへの投資が進む現状について小笠原さんはこう私見を述べます。

「今後5年くらいで投資の流れはハードウェアからソフトウェアへ変わるのではないでしょうか。携帯ビジネスでも基地局の設置などから現在はアプリケーション開発などソフトウェアの投資にお金が集まっています。宇宙ビジネスも同様で、データの利活用などソフトウェアへの投資が加速するでしょう。そうすると優秀な人材も集まってきます」

講演の最後、小笠原さんはこのようなメッセージを添えて聴衆へ訴えかけました。

「衛星データを活用したビジネスをするなら、まず衛星データを扱うのが好きになるのが重要です。かつてアメリカで自動車が普及したとき、馬車の運転手が自動車の運転手に転職できたのも自動車に興味があり、運転してみたかったというのが大きいと言われています。

そして衛星データを使って何か作ってみること。言葉で語るより、自分の『やりたい!』という気持ちに正直になって手を動かすのがいいでしょう。ビジネスで求められる5W1Hなどは後付けで良いと思います」

3.パネルディスカッション「宇宙データビジネスを始めるには?」

会の最後には、再びお二人を壇上にお呼びしてパネルディスカッションが行われました。
ファシリテーターとして、さくらインターネットの牟田も参加。衛星データの利活用に意見を交わしました。

● データに完全を求めない

牟田:オープン化を推し進めるにあたって、よく質問を受けるのが「データの精度」です。正しいかどうか、漏れがあるんじゃないか、どうしても自治体や政府機関はそういったことを気にしてしまうのかなと思いますが、そのあたりはいかがでしょう

福野:オープン化することで、色んな人に見てもらう。バグだしをしてもらったらいいのではないでしょうか。ゆくゆくはそういう日本の、民族的に完全を求める性質を変えていけると良いですね。

小笠原:インターネットなんて、すごい不確実。すぐ切れたりしますから。しかし、それでも十分に暮らしていけますよね。インターネット村から来た人間に言わせると、そういうものって100%目指すことに労力をかけるのってすごい無駄かなと。笑。

牟田:宇宙村から来た人間からするとめちゃくちゃうらやましいですね笑

小笠原:オープンとかフリーにできるものってそもそも安いものじゃないですか。バカ高いものは出せない。精度が悪いものをオープンにすることで、精度が悪くても良い結果をだそうという人が生まれるはずです。

牟田:『完全』というワードに関連して、何かやろうと思うけど、衛星画像の解像度が足りない。時間頻度がたりない、という話もよく聞きます。

小笠原:「足りない」という話を聞くとき、解像度が足りないのか、観測頻度が足りないのかどっちも求められていることがよくある気がしていて。どっちもは現時点では無理じゃないですか。あと10~15年かかるでしょう。

現状はそういう無理なところ追っかけてもしょうがないのかなと思います。ありものでもいいから、「できない」と手を止めるのではなくやってみる。やってみると、どっちの精度が必要なのかが見えてくる。

どれぐらいの精度が必要かというのが分かれば、民間から要求を出せるようになります。そうすると、今まで研究型で作ってきたセンサー開発とは違うアプローチが日本の宇宙開発に対してできるのではないでしょうか。

むしろ画像解析をするときは高解像度だと処理が進まないくらいなので解像度が高すぎるのもどうかと思います。

福野:今の画像は重すぎて機械学習にかけるときは少し落としているくらいですからね。

● 既存のものを真似して、同じものを作ってみる。

牟田:続いてのテーマです。データで遊んでみたら良いという話がありましたが、本日お越しいただいている皆様はなにかしらビジネスをやっているのかな、と思います。

そうなると、遊んでいる中から本当にビジネスになるのかな?というのが疑問点として上がってくると思うのですが、このあたりオープンデータでなにか良い事例はありますか?

福野:オープンデータの例だと、水位計の例があります。川の脇にある水位計って2000万円くらいするんですね。30年くらい変わってない。それがIchigo.jamとさくらioでつくったら3万円でできました。

このように実は今すごいコストをかけて作っているものを遊びで作ってみるのはおすすめです。

車輪の再発明とかって有名かどうか分からないですけど、本当はすでにあるもの作るのってすごい勉強になる。

技術はすごいスピードで進歩しているので、同じものを作っても圧倒的に安くて性能の良いものになります。
そういうものをじゃんじゃん作るとビジネスにつながるのです。

だから競合調査とか僕はあまり好きじゃないんですよね。いいじゃない、同じものでもやってみたら。

競合調査をしない良い方法としては、なにか新しいものをくっつければいい。例えばTellusとかVRヘッドセットOculus Questとか。そしたら、競合調査をしなくても新しいものになりますよ。

●ソフトやデータの力を信じてみる

小笠原:日本で宇宙ビジネスとなるとハードに依りがちなんですよね。確かにロケットとか衛星とかカッコいいんですけど。

でも個人的には「ハードよりソフトとかデータの力をみんな信じてみませんか?」と思いますね。今のハードでももっと価値を生めるはずなんです。

宇宙データについてはぶっちゃけ「これで上手くいった」という事例がまだない。今だったら、何やっても失敗にならないんですよね。

誰かが成功しちゃうと、そこで失敗するの嫌じゃないですか。だから、今のうちにやった方が良いと思います。

あとはビジネス創出という意味で、既存のビジネスに衛星データがなんらか入り込んでいくというのがいいんじゃないでしょうか。しかもこれを光学ではなくSARでなにかできると、何となく良いものができるのではないかという予感がします。

私ならそのようなビジネスに取り組んでいる方々に出資していきたいですね。

●短期間でやる。今の時代、誰でもできる

牟田:それでは最後のテーマについてお訊きします。
本日せっかく来ていただいた皆様がなにかアクションを起こせるように、「なにから始めたらよいか」をお伺いしたいと思います。

福野さんはご自身の一日一創というサイトで、一日一つ新しいアプリを作られていますが、どうやってやるテーマを考えているのか、秘訣はありますか?

福野:一日一創は、、、ノリですね(笑)。

一日生活した中で、自分の中で引っかかったものをなんかやる、
誰かに会う時にその手土産として、何かないかなーと考える。

小笠原:福野さんの場合、もうやるって決めているのでそういう思考回路になっているんでしょうね。

さっきやまぐち産業イノベーション促進補助金の話がありましたね。あれなんか正に良いですよね。
締め切りまであと3週間。やると決めて、一回衛星データについて考えてみる。

やりたいことを2/3補助してくれるってすごいことですからね。投資で集めようとしたら大変な額ですよ。

牟田:短期間でやろうとしたとき、問題になるのは「人」です。事前にいただいた質問の中でも、「人材をどう育てたらよいのか、必要なスキルはなにか」という質問がありました。

福野:自分にできないことをやってくれる人を募集するのだから、「育てる」ってちょっとおこがましいのかなと。

若い人に対してできることは場を提供して「面白いからやってごらん!」と焚きつけることだけですよ。そもそも今の時代、小学生だってプロに聞けるんだから、スキルとか関係なく誰でもできるんですよ。

小笠原:もうすでに成立しているビジネスなら、こういうスキルを持っている人がいれば、、、という話になりますが、宇宙ビジネスはこれから立ち上げるところです。
ならばスキルよりも『熱量』を大事にしたい。

例えばtellusで僕が宙畑に会った時、いきなり「1ヶ月後に来れる?」って声をかけたら、色んな会社から転職や出向などいろんな形で来てくれた。僕は彼らを育ててはいない。そこにいる牟田なんて元々機械系だし。でも、今はデータの話をしている。そういうもんなんじゃないかなと思います。

4.イベントを終えて

2000年代のインターネットの盛り上がりを、潮流の真ん中で体感してきた福野さんと小笠原さん。その二人がご自身の経験から語る「とりあえずやってみる」ことの大切さーー。

様々な制約条件がある中で「〇〇だからできない」とか「人材がいない」とできない理由を並べるのではなく、やると決めて取り組む。出来がいまいちでも公開してフィードバックをもらうのが、ビジネスを作り出していくために大切だと感じました。

宙畑ではこれからも様々な企画にチャレンジします!