宙畑 Sorabatake

特集

アームストロング船長の母校、パデュー大学訪問レポ!著名な卒業生は?

アポロ11号の月面着陸50周年を記念した連載企画の第3回目では、2019年現在、最初に月面を歩いたニール・アームストロング船長、最後に月面を歩いたユージン・サーナン宇宙飛行士を輩出したアメリカ・インディアナ州にあるパデュー大学に密着します!

・全米大学ランキングで上位!「宇宙飛行士のゆりかご」米パデュー大学とは
 -パデュー大学航空宇宙学科の著名な卒業生
 -パデュー大学航空宇宙学科の建物
・アメリカで初めて飛行場を併設した大学
・学生生活を覗く!
 -厳しい学生生活の合言葉:軌道力学講座「AAE532」
 -ストレスはスポーツ観戦で発散!?
 -ボイラー・チャレンジ(Boiler Challenge Program)でチームビルディング!
・宇宙のお祭りPurdue Space Day!
・宇宙開発における私たちの居場所(Our Place in Space)

アポロ11号の月面着陸50周年を記念した連載企画の第3回目では、2019年現在、最初に月面を歩いたニール・アームストロング船長、最後に月面を歩いたユージン・サーナン宇宙飛行士を輩出したアメリカ・インディアナ州にあるパデュー大学(Purdue University)に密着します!パデュー大学は2010年、ノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生が教鞭をとられていた大学として日本でも脚光を浴びました。

アメリカ・インディアナ州にあるパデュー大学

全米大学ランキングで上位!「宇宙飛行士のゆりかご」米パデュー大学とは

パデュー大学は全米ランキングで毎年3位以内に入り、工学分野を専攻する留学生を多く受け入れているマンモス校として有名です。留学生は中国人、インド人、韓国人の順に多く、キャンパスはまるで世界の縮図を表しています。パデュー大学は別名、「宇宙飛行士のゆりかご(Cradle of Astronauts)」とも呼ばれています。その所以は、卒業生から22名の宇宙飛行士を輩出していることから来ているのだとか。2017年にアメリカで選抜された宇宙飛行士候補生を加えると、その数は総勢25名にのぼります。ちなみに、アメリカで一番宇宙飛行士を輩出しているのはマサチューセッツ工科大学で、2017年の選抜組も含めるとその数は41名にも及びます。(Purdue in Space公式:https://www.purdue.edu/space/index.php

「宇宙飛行士のゆりかご」パデュー大学キャンパス内 Credit : sorabatake

パデュー大学航空宇宙学科の著名な卒業生

ニール・アームストロング船長(1955年卒)とジーン・サーナン宇宙飛行士(1956年卒)の他、アポロ1号の火災事故で亡くなったガス・グリソム宇宙飛行士(1950年卒)とロジャー・チャフィー宇宙飛行士(1957年卒)もパデュー大学の卒業生名簿に名を連ねます。(著名な卒業生の実績を確認 する)

宇宙飛行士以外には、どのような卒業生が航空宇宙産業界を牽引しているのでしょうか?2019年時点、全65名の表彰者には、VSTOL機(垂直/短距離離着陸機)開発や航空機の翼設計の技術者、プラズマ物理で複数の特許を取得したエンジニア、旅客機747・軍用大型長距離輸送機C-17・超音速戦略爆撃機XB-70・戦闘機F-15・マーキュリー宇宙船・木星探査ガリレオ計画などのプロジェクトマネージャー、NASAで30年以上に亘ってスペースシャトルや国際宇宙ステーションといった有人宇宙計画を統括してきたディレクター、航空機エンジンも製造するロールス・ロイスに40年以上勤め、ジョイントベンチャーのCEO(最高経営責任者)になったエンジニア、Intel・Amazon.com・Cisco・GoogleといったIT企業のクラウドコンピューティング技術畑を渡り歩いたエンジニア、宇宙旅行ビジネスを先導するヴァージン・ギャラクティック社の社長などがいます。

パデュー大学航空宇宙工学科の著名な航空エンジニア Credit : sorabatake

全体のうち、4名は女性です。それぞれ、NASAラングレー研究所のディレクターやアメリカ合衆国上院の商務・科学・運輸委員会のメンバー、空軍基地のCIO(最高情報責任者)とCOO(最高執行責任者)、燃焼技術を制御するパイロテクニクスのエンジニアや宇宙機や国防機器を製造するボール・エアロスペース&テクノロジーズの防衛部門ディレクター、FBI(連邦捜査局)におけるサイバーテロリズム対策分野のエキスパートとして活躍しています。

パデュー大学航空宇宙学科の建物

パデュー大学の航空宇宙学科の建物内には、航空宇宙工学の安全な発展を戒めるため、1967年1月27日に火災事故で3人の宇宙飛行士が亡くなったアポロ1号宇宙船のレプリカが飾られています。

アポロ1号のレプリカ Credit : sorabatake

大学の推力研究棟には、敬意を込めてロジャー・チャフィー宇宙飛行士の名が付けられています。爆薬を取り扱うので、建物の入り口には危険を知らせる信号が設置されています。緑色の信号は近寄っても安全なことを伝えるゴーサイン。実験で爆発の恐れがある場合は信号が赤色に点灯します。一方、インダストリアル・エンジニアリングの研究棟にはガス・グリソム宇宙飛行士の名が採用されています。

推力研究棟(左に緑色に点灯する信号)とロジャー・チャフィー宇宙飛行士 Credit : sorabatake

また、航空宇宙学科の建物は学生からニール・アームストロング船長にちなみ、「アームズ・ホール」という愛称で呼ばれています。建物の正面玄関にはニール・アームストロング船長の大きな像が鎮座していて、「大学を卒業すればどこにでも羽ばたいていける」というメッセージが刻まれています。

ニール・アームストロング船長の像とアームズ・ホール(Neil Armstrong Hall of Engineering) Credit : sorabatake

アメリカで初めて飛行場を併設した大学

パデュー大学は1934年、全米で初めてキャンパス内に空港を建設した大学です。大学で初めて飛行機操縦の単位取得を認め、4年で卒業できる操縦の学士課程を設けたことでも有名になりました。航空宇宙学科の航空機設計などの授業では、飛行機操縦に割り当てられた講義も設けられています。なんと、うらやましい環境!

パデュ―大学の空港(1) Credit : sorabatake
パデュ―大学の空港(2) Credit : sorabatake

パデュー大学空港の一番長い滑走路は2010メートルです。空港には、空軍や海軍の機体も給油などで停泊します。

海軍のE-2 Hawkeye Credit : sorabatake
空軍のBlacksnakes A-10 Credit : sorabatake

大規模な訓練センターには、フライトシミュレーターが複数台設置されています。女性の訓練生も複数いるのが印象的です。

パデュー大学保有のフライトシミュレーター Credit : sorabatake

パイロットが初めて単独飛行に出たときのお祝いは、水浴びなど各飛行場で異なりますが、パデュー大学に隣接するフライトスクールにはパイロットのTシャツの切れ端が飾られていました。スペースシャトルのファーストソロ飛行の写真も発見!スケールがとても大きいですね!

人生で忘れられないファーストソロの記念 Credit : sorabatake

空港の近くには2001年に竣工した、マッハ6(音速の6倍)まで実験できる風洞実験設備もあります。極長音速の研究は、航空機やミサイルの大気圏突入時の特性を調べるためにとても重要です。パデュー大学にはマッハ6まで試験できる風洞も含め、計5つの風洞を所有しています。

マッハ6の風洞 Credit : sorabatake
風洞施設の屋根裏部屋 Credit : sorabatake

抜群の飛行環境が整っているパデュー大学ですが、ひとつ注意しなければならないのが時折発生する竜巻です。竜巻警報が発令されると、学生は建物内の地下に避難し、大人しく20分ほど屋内で待機します。

竜巻警報による地下避難 Credit : sorabatake

また、特筆すべきはパデュー大学とアメリア・イアハートの関係です。1927年のチャールズ・リンドバーグの快挙に続き、1932年に女性として初めて大西洋単独横断飛行に成功した女性パイロットがアメリア・イアハートです。1935年から1937年、彼女はパデュー大学の航空宇宙学科でキャリアカウンセラー兼アドバイザーとして雇用されていました。航空宇宙学科の校舎内には「アメリア・カフェ」という学生たちの憩いの場もあります。

アメリア・カフェ Credit : sorabatake

学生生活を覗く!

都会のシカゴまでは約2時間。周りはトウモロコシ畑に囲まれた学習環境で、学生たちはどのような学生生活を送っているのでしょうか?学生が受けている講義や彼らの遊びに注目してみたいと思います。

厳しい学生生活の合言葉:軌道力学講座「AAE532」

「AAE 532(エー・エー・イー・ファイブ・スリー・ツー)」。航空宇宙工学科の中でも単位取得が難しい軌道力学の講義が、学生間では厳しい学生生活の合言葉となっています。

前半の講義では、アルキメデス(287 – 212 BC)からレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452 – 1519年)が活躍した時代までの約2000年間、天体力学に関する学問の大きな発展がないことを学びます。軌道力学の歴史を振り返ると1000年もの間、誤って認識されていた仮説がありました。教授は学生たちに熱弁します。「今、私たちが当たり前だと考えている仮説は何かしら?私たちは過去の人を馬鹿にする傾向があるけど、1000年後の人類から私たちを見たとき『1000年前の人間はそんなことにも気が付いていないなんて、なんて愚かなの!』と、もしかたら笑われているのかもしれないのよ」1000年後、人類の生活や知恵はどのように様変わりしているのでしょうか?軌道力学の歴史を通じて、人類の歴史の壮大なスケールを感じずにはいられませんね。

小惑星探査機「はやぶさ」(引用:JAXA ISAS)

また、ある授業では大学キャンパス内にあるエンビジョン・センター(Envision Center)を訪れる機会がありました。3Dメガネをつけて世界を変えたソ連の人工衛星スプートニクの軌道を立体で見たり、重力場が変わるゴツゴツした小惑星でいかに軌道を予測し正すことが難しいかを学んだり、3次元の視覚学習を楽しむことができる施設です。重力場の教材として、小惑星「イトカワ」から帰還した日本の小惑星探査機「はやぶさ」ミッションが取り上げられていたのが印象的でした。世界一の航空宇宙大国にも関わらず、他国からも貪欲に学びとろうとするアメリカの積極的な姿勢が伝わってきます。

ストレスはスポーツ観戦で発散!?

さて、学生はどのように勉強のストレスを発散しているのでしょうか?大学には6000人も収容できる巨大スタジアムがあり、パデュー大学対ノートルダム大学のフットボール対戦試合などが開催されます。観戦に集まる学生の多さに圧倒されますね!

GO Boilermakers!(パデュー大学のフットボールチーム) Credit : sorabatake

ボイラー・チャレンジ(Boiler Challenge)でチームビルディング!

航空宇宙学科には数ヵ月に一回の頻度でイベントを開催し、学生同士の交流が深まるようサポートしてくれるエアロ・アシスト(Aero Assist)という団体があります。その活動の一環として開催されるのがボイラー・チャレンジです。この活動は3段に分かれたアスレチックコースをチームでくぐり抜け、「チームワーク」、「バランス」、「コミュニケーション」を体得します。

Boiler Challenge Program(1) Credit : sorabatake

アスレチックコースには、とても狭い板に6人乗らなければ進めない難しいエリアなども存在します。板の面積がとても小さいのでチームメンバー全員が板に乗ることは不可能に思えますが、実際にやってみると、意外にも障害を乗り越えることができます。このコースの教訓は「自ら制限を掛けるな。不可能だと思えることも可能だ(Don’t limit yourself. The things you might seem impossible is possible.)」という強いメッセージです。

Boiler Challenge Program(2) Credit : sorabatake

終了後にはインストラクターによる次のような熱いフィードバックがあります。

(1)バランスには「チームのバランス」と「個人のバランス」がある。私たちの手を見てみよう。指と指の間に凹凸があるでしょう?誰にでも強みと弱みがある。お互いの手を取り合ってお互いに補強しなければならない。

(2)リーダーはどんな困難な状況でも周囲の状況を見渡して、不安を抱えている人を励ますことができる人。足手まといのチームメイトがいる場合もあるが、チームで行動しているときは1人の遅れはみんなの遅れや失敗としても捉えることができる。そのような状況をつくり出している自分も反省すべき。

Boiler Challenge Program(3) Credit : sorabatake

命綱を装着してチームビルディングが学べる大学の仕掛けや学びの工夫がとても面白いですね!

宇宙のお祭りPurdue Space Day!

パデュー大学は科学・技術・工学・数学を対象とするSTEM教育に力を入れています。毎年、小学3年生から中学2年生までを対象に、宇宙、サイエンス、エンジニアリングの興味を喚起することを目的として開催している教育イベント「Purdue Space Day」は大学のメイン行事です。ボランティアメンバーの学生は約100人。例えば、小学3、4年生を対象にした工作体験「ロケット・カーを作ろう!」では、風船がついているロケットカーを作って作用・反作用の法則(ニュートンの第3法則)を説明し、ロケット打ち上げ時になぜ燃料が必要なのかを解説します。

Purdue Space Day 2012年 Credit : sorabatake
ゲイリー・ペイトン宇宙飛行士 Credit : sorabatake

学生ボランティアは約3ヶ月間掛けて準備を進めます。工学分野の勉強を極めるのは大変で時間が掛かるからこそ、若いうちに興味や好奇心を醸成することが大切です。当日の賑やかな様子はもはやお祭りのよう!

宇宙開発における私たちの居場所(Our Place in Space)

Purdue Space Day開催に伴い、パデュー大学の卒業生であるゲイリー・ペイトン(Gary Payton)宇宙飛行士が母校に凱旋しました。そこで、すかさず突撃質問!「なぜパデュー大学から多くの宇宙飛行士や優秀な技術者が誕生しているのですか?」すると、次のように答えてくださいました。

“They teach you how to learn and they also teach you that learning continues through your life. Learning is forever. They focus on students. They get you prepared for the real world teaching you to keep on learning. When I had my master’s degree, someone has asked me, what are you qualified? To tell you the truth, I wasn’t qualified for nothing. But the university had told me how to continue learning.”

「パデュー大学は学ぶということを教えてくれます。そして、その学びが生涯続くことを教えてくれました。学びは永遠に続きます。パデュー大学は学生に集中します。学び続けることを教え、社会で働く準備を整えてくれます。私が修士号を取得したとき、ある人が尋ねてきました。『あなたは何ができますか?』と。正直言って、私は当時なんの資格もありませんでした。しかし、母校は私に勉強し続ける方法を教えてくれました。」

OUR PLACE IN SPACE Credit : sorabatake

とても心に響く言葉ですね。今回の特集では「宇宙飛行士のゆりかご」という別名をもつパデュー大学の魅力に迫りました!日本からもどんどん若者が海外へ留学し、日本、そして世界の航空宇宙の発展に貢献してもらいたいと願うばかりです。

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