運用終了まであと4年? 国際宇宙ステーション(ISS)と「きぼう」の新展開
軌道約400km上空を周回している国際宇宙ステーション(ISS)。2024年までの運用延長が決まりましたがその後は? 注目ポイントをまとめました。
軌道約400km上空を周回している国際宇宙ステーション(以下ISS)。建設当初は2016年に運用を終える予定でしたが、参加国は2024年までの運用延長を発表しました。
そして近年、各国ではISSの運用フィールドを民間へと移し、より商業的な利用を促進する動きが活発になっています。
また、ISSの日本の実験棟「きぼう」も様々な形で宇宙利用を行う場として開かれ始めました。
本記事ではISSと「きぼう」についてあらためて紹介し、今までどのような宇宙利用が行われてきたのか、またその宇宙利用を行うためのヒントを探っていきます。
(1)国際宇宙ステーション(ISS)とは
ISSはInternational Space Stationの略で、日本・アメリカ・カナダ、欧州各国・ロシアの計15カ国が協力し、上空約400kmに建設された有人宇宙施設です。1998年から2011年の間に組み立てられました。
全体はサッカー場ほどの大きさで、約90分で地球を一周しています。
ISSでは、無重力、高真空、放射線環境など、宇宙ならではの特殊環境で様々な実験や研究が行われています。
そして開発の背景には当時の政治的な問題が大きく関係しています。
米ソ冷戦時代の両国の国威発揚のために、それぞれ単独の宇宙ステーション計画を立ち上げていましたが、冷戦の終結によってその政治的意義は失われてしまいました。
しかし後に引けないアメリカは国際協力の名を借りて日本や欧州など西側諸国を引き込み、そして東側の技術者が第三国に流出してしまうのを防ぐ狙いをもってロシアを引き込むことで、どうにか出来上がったのがISSであるという見方もできるでしょう。
いずれにしても、ISSには科学技術的な側面と合わせて、政治的な問題から始まった部分があるということは否定できません。
そのISSを構成するうちの1つである、日本の実験モジュールが「きぼう」です。
「きぼう」は船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの実験スペースからなります。
船内実験室は直径4.4m、長さ11.2mで1気圧になっていて、宇宙飛行士が内部で実験を行うことができます。
一方、船外実験プラットフォームは、宇宙空間に直接さらされており、天体観測・地球観測などが可能です。
また、「きぼう」には船内実験室と船外をつなぐ「エアロック」があり、「きぼう」に取り付けられたロボットアームを操作する事で実験装置を直接出し入れできることも特徴です。
(2)2024年以降はISSの運用を民間へ移管する流れへ
本記事の冒頭で「参加国は2024年までの運用延長を発表しました」と述べましたが、これは2024年にISSが誰にも使われないスペースデブリとなってしまう、ということではありません。
これはISSは各国で2024年までしか資金の拠出が決まっていないということであり、それ以降は商業利用をベースとして民間へ移管する流れが想定されています。
現状では、きぼうの開発費は約3440億円、一年間の運用でかかる経費は約400億円、ISS全体にかかった予算はこれまで約11兆円にも上ります。
いずれもほとんどが国の経費で賄われており、商業的に利用されているというわけではなく、国の保有する研究施設という方が適切でしょう。
そして、きぼうにかかる費用にかなうだけの成果が、生み出せているのかが当然問われています。
政治的な背景から始まったとも考えられるISSは、大きな局面に立たされているとも言えるのかもしれません。
資金の拠出が決まっている2024年までにどのように民間を巻き込み、経費に見合うだけの成果を上げる環境を作ることができるのか注目です。
(3)「きぼう」の利用事例と成果
では、現状のISS、そして「きぼう」では具体的にどのような取り組みがなされているのか。
最近話題になったのは、宇宙商社と名乗る日本の宇宙スタートアップ「Space BD」と総合商社大手三井物産の超小型衛星放出事業者の選定です。
従来、JAXAではISSへの補給船に搭載し打ち上げ、ロボットアームとエアロックを用いることで、きぼうから小型衛星を宇宙空間へ放出するサービスが行われていました。
2社はその小型人工衛星放出サービスの仲介事業者に選定され、学術がメインのJAXA単独サービスだけでなく、商業利用を見据えた幅広いサービス提供が目標とされています。
参考:H2Aロケット 40号機の打ち上げと小型衛星の可能性 ~搭載衛星6機のスペックとミッション~
他にも、日本国内では製薬ベンチャー「ペプチドリーム」が無重力環境でたんぱく質の結晶化が規則正しく行われることを利用して実験を行ったり、映像・画像素材を取り扱う「アマナイメージズ」がJAXAの保有する宇宙からの映像を商業用途で活用するなど、徐々に実証という形が多いとはいえ様々な業態で「きぼう」の民間利用が広がっています。
国外ではすでに成功している例として、ISS内での与圧内実験や曝露実験、キューブサットの放出サービスなどを展開する「Nanoracks」やISSへの貨物の輸送を行うシグナス宇宙船の開発元「Orbital ATK」とドラゴン宇宙船の開発元「SpaceX」、ISSに設置したカメラによって撮影されている動画のライブ配信などを行った「Urthecast」があげられます。
また、今後のビジネスを見据えた実験など宇宙ホテルを目標として、宇宙空間で膨らむ構造の実証実験を行った「Bigelow Aerospace」や、ISS内で3Dプリンタを用いてレンチのテストプリントを行った「Made in Space」など、やはりユニークで動きも活発なようです。
宙畑にはISSで行われている実験の概要と事例をまとめた記事もあります。
国際宇宙ステーション(ISS)では何をしている?「宇宙実験」の概要と事例紹介
宇宙実験に興味のある方はぜひこちらもご覧ください。
(4) 2020年に向けた「きぼう」の4つのプラットフォーム
現状行われている商業的な活動をさらに活発化させるために、JAXAは2020年に向けて5つの目標を掲げ、具体的な取り組みとして重点的に取り組んでいく以下4つの柱を定義しました。
①タンパク質の構造に基づく薬剤設計支援 (新薬設計支援プラットフォーム)
②加齢研究による健康長寿社会形成への貢献 (加齢研究支援プラットフォーム)
③超小型衛星放出能力の強化(超小型衛星放出プラットフォーム)
④船外ポートを利用した戦略的利用推進(船外ポート利用プラットフォーム)
この4つの柱を元に、JAXAは民間へ向け様々な働きかけ・取り組みをしています。
箇条書きで見てもよく分からないかと思いますので、それぞれについて簡単にご紹介します。
①タンパク質の構造に基づく薬剤設計支援 (新薬設計支援プラットフォーム)
無重力環境でたんぱく質の結晶化が規則正しく行われることを利用して、新薬の開発のための機会を提供するプラットフォームです。
結晶化プロセスの受託だけでなく、構造解析までのすべてのプロセスに対しての高品質なコンサルティングや受託メニューが用意されており、最近ではバイオベンチャー企業との戦略的なパートナーシップも行われています。
実験機会の倍増や、実験サイクルの短縮化など、柔軟に対応できるように制度が整えられている最中のようです。
②加齢研究による健康長寿社会形成への貢献 (加齢研究支援プラットフォーム)
きぼうに搭載されている人工重力負荷装置によって同じ宇宙放射線環境で微小重力のみの影響を評価できる実験環境を生かして、加齢に伴う生体変化の仕組みや疾患対策への貢献を目指すプラットフォームです。
人工重力装置の大型化やマウスの飼育匹数の倍増などを行い、官民連携のコンソーシアムの設立などを目指しています。
③超小型衛星放出能力の強化(超小型衛星放出プラットフォーム)
きぼうに取り付けられたエアロックとロボットアームを用いて、宇宙空間に小型衛星を放出するプラットフォームです。
従来行われてきた小型衛星の放出は、ロケットに直接取り付けられる場合と比較して振動条件などが緩いといったメリットがあったものの、軌道が低いために衛星の寿命が短くなってしまう、軌道がISSに依存するため衛星を投入できない軌道があるなどデメリットも多く、実証機の打ち上げ機会にしかならないというのが現状のようでした。
今後は、小型衛星に限らないニーズを取り込み、増加が見込まれる需要に対応するため、民間事業者による様々なサービス展開、放出機能の増強が今後行われるようです。
参考:H2Aロケット 40号機の打ち上げと小型衛星の可能性 ~搭載衛星6機のスペックとミッション~
④船外ポートを利用した戦略的利用推進(船外ポート利用プラットフォーム)
きぼうの船外実験プラットフォームに民生品や開発初期段階の装置を機能実証のために搭載し、一定期間宇宙空間で動作するかなどの実験が行えるプラットフォームです。
従来、X線天体観測機器やオゾン層破壊物質の観測などで科学成果を生み出してきましたが、500kg級の大型のポートであったために、開発に多額の費用がかかり学術研究目的が主でした。
さらに今後、船外ポートをより広く活用してもらうべく、中型の曝露実験アダプタを開発し、運用が始まったところです。
(5)まとめ
JAXAでは、2024年以降ISSの運用フィールドを民間へと移し、商業ベースでの利用が活発化する流れを狙っているようです。そのためにきぼうをより広く活用してもらうべく、民間の手を借り、先に述べたような4つプラットフォームを柱として2020年に向けて多くの取り組みがなされています。
2024年以降のISSの行く先は未だ不透明ですが、少なくともそれに向けJAXAが活発に動き出していることは確かです。
ISSでより人々の暮らしを豊かにするビジネスが今後さらに広がることを期待して、各国の動向に注目です。
(6)おまけ:ISSの観測方法と見え方
さて、以下、おまけ情報です。
今回ご紹介したISSは約400km(東京-大阪間程度)という低い軌道を周り、約90分に1度地球を一周するため、夜空をゆっくり移動する光の点として、肉眼でも比較的簡単に観測することができます。
条件が良いときは-2等級というかなりの明るさで見えるため、東京都内でも観測可能です。
JAXAの提供するこのサイトから自分のいる地点を選択すると、直近でISSの見える時刻と方角を見え始めから見終わりまで一覧でみることができるので、そういえばと思いだしたタイミングにでもぜひご覧ください。
ポイントはISSが通る軌跡を見上げる角度(仰角といいます)がなるべく90°に近い機会を狙うこと。ISSまでの距離が近くなるため、明るさが増して、見やすくなるでしょう。
見え方としては、飛行機よりもゆっくりで、点滅がなく、より明るい印象です。条件にもよりますが数分間見えることもあります。
あの光の点がに宇宙飛行士が載っていて、様々な実験が行われていると思うとなんだかワクワクしますね!
ぜひ、夜空を見上げて、宇宙ステーションに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
また、JAXAはきぼうの利用を促進するコミュニティとして「きぼう利用ネットワーク」を立ち上げ、入会者を募っています。
無償で入会でき、きぼう利用や宇宙実験などの情報提供が受けることができ、シンポジウムやセミナーなどの案内をメールマガジンで受け取ることができるのでもしよろしければ登録してみてください。
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