NASAアルテミスII打ち上げ成功、53年ぶりに人類が月周辺へ。人類史上最も遠い場所に到達し、2028年の有人着陸に向けテスト飛行が本格始動【宇宙ビジネスニュース】
2026年4月1日、NASAのアルテミスIIが打ち上げに成功しました。アポロ17号以来53年ぶりとなる有人月周回ミッションの全容と、2028年の月面着陸に向けた今後の計画を解説します。
日本時間の2026年4月2日午前7時35分、NASAのSLS(Space Launch System)ロケットがケネディ宇宙センター39B発射台から打ち上げられました。オリオン宇宙船に搭乗した4名の宇宙飛行士は、月周回軌道へと向かいました。
宙畑メモ:SLS(Space Launch System)とは
NASAが開発した超大型ロケット。スペースシャトルの技術を継承し、人類を月やその先へ運ぶために設計されました。全長は約98メートルで、30階建てビルに相当します。SLSロケットのコアステージはBoeingが、固体ロケットブースターはNorthrop Grummanが担当しています。
宙畑メモ:オリオン宇宙船とは
深宇宙探査用に設計されたNASAの有人宇宙船。最大4名の宇宙飛行士が搭乗でき、最長21日間の宇宙滞在が可能です。Lockheed Martinが設計・製造を担当し、サービスモジュールは欧州宇宙機関(ESA)の提供のもとAirbusが製造しています。
4月7日には約7時間にわたる月フライバイを完了し、1970年のアポロ13号が記録した地球からの最遠到達距離を更新。人類史上最も遠い場所に到達しました。
宙畑メモ:フライバイとは
宇宙船が天体の重力を利用して軌道を変える飛行技術。着陸せずに天体の近くを通過し、その重力で加速や方向転換を行います。
通信途絶の直前、地球が月の地平線に沈む瞬間 Credit : NASA
本ミッションは、1972年12月のアポロ17号以来、53年ぶりに人類が低軌道を超えて深宇宙へ向かう歴史的な飛行となります。
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搭乗クルーは、NASAのリード・ワイズマン氏(コマンダー)、ビクター・グローバー氏(パイロット)、クリスティーナ・コック氏(ミッションスペシャリスト)、そしてカナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン氏(ミッションスペシャリスト)の4名です。
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アルテミス計画は、月面に恒久的な人類の拠点を築き、その先の火星探査への足がかりとすることを目指すNASAの大型プログラムです。
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上記計画に対して、2026年2月〜3月にかけて大幅なアップデートが発表されました。
2月〜3月の発表では、SLSロケット構成の標準化、2027年の新テストミッション(アルテミスIII)追加、段階的な月面基地建設計画、そして当初6ヶ月ごとの着陸を目指す方針が示されました。
また、NASAは当初計画されていた月周回有人拠点ゲートウェイの一時停止と、開発中のモジュールを月面基地へ転用する方針を示しています。ただし、一時停止には議会承認や既存の国際合意への対応が必要であり、現時点ではNASAの方針表明にとどまります。
宙畑メモ:ゲートウェイとは
月を周回する軌道上に建設が計画されていた小型の宇宙ステーションです。宇宙飛行士が月面へ向かう際の中継拠点として構想されており、日本やESA(欧州宇宙機関)も参加を表明していました。
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現時点のアルテミス計画の概要は以下の通りです。
このように、アルテミス計画は段階的にリスクを低減しながら月面着陸を目指す構成となっています。
2027年のアルテミスⅢでは地球低軌道でオリオンとHLS(有人月着陸システム)のランデブー・ドッキングや統合運用試験を行います。2028年初頭のアルテミスIVでいよいよ月の南極域付近への有人着陸が計画されています。
アルテミスⅡのミッションタイムラインの予定は以下の通りです。
約10日間のミッションで、クルーはオリオン宇宙船の生命維持システムや操縦性能を実証します。打ち上げ後約49分でSLS上段が燃焼し、地球周回楕円軌道へ投入されました。2回目の燃焼で約74,000km(46,000マイル)の高地球軌道へ到達しました。
4月2日には約6分間のトランスルナー・インジェクション (TLI) 燃焼を実施し、月へ向かう軌道へ移行。
宙畑メモ:トランスルナー・インジェクション(TLI)燃焼とは
地球周回軌道から月へ向かう軌道に乗せるためのエンジン噴射。この燃焼により宇宙船は地球の重力圏を脱出し、月へ向かいます。
4月7日には約7時間にわたる月フライバイを実施。月面から約6,500kmまで最接近し、地球からの距離は約40万6,800kmに達しました。これはアポロ13号の記録を約6,600km上回る、人類史上最も遠い地点です。
クルーは月の裏側を含む地質学的特徴を観察し、月の向こうに地球が沈み、再び昇る光景も目撃しました。
右側に見える暗い斑点が「表側」(地球から見える半球)で、古代の溶岩流の痕跡。その西側(画像左寄り)に見える大きなクレーターがオリエンタル盆地(直径約960km)で、月の表側と裏側にまたがっています。盆地より左側の領域はすべて「裏側」で、地球からは見ることができません。 Credit : NASA
また、本ミッションでは国際協力の側面も見られます。SLS上段からは、アルゼンチン、ドイツ、韓国、サウジアラビアの4カ国が提供したキューブサットが放出され、科学調査と技術実証を行います。
宙畑メモ:キューブサットとは
10cm角の立方体を基本単位とする超小型衛星。コスト効率が高く、大学や研究機関でも開発可能。今回は国際協力として4カ国から搭載されました。
なお、ミッション序盤には早速「テスト飛行」ならではの場面もありました。近接運用デモンストレーション(他の宇宙機への接近操作訓練)後、クルーが機内の故障警告灯の点滅を報告。故障箇所はオリオン宇宙船のトイレでした。
ヒューストンのミッションコントロールと連携してトラブルシューティングを行い、無事、正常に復旧させました。
大きな問題には至らず、クルーと地上の迅速な連携対応は、本ミッションが「実証の場」であることをあらためて認識させられる出来事でした。
ちなみに、宇宙でのトイレ問題は有人宇宙開発の黎明期から続く永遠のテーマです。アポロ計画では排泄に約45分かかり、機密解除された交信記録には船内を漂う「謎の浮遊物」をめぐるクルーのやり取りも残されています。
宇宙トイレの歴史の詳細は下記記事をご参照ください。
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NASA長官のジャレッド・アイザックマン氏は、アルテミスⅡミッションの将来展望について次のように述べています。
「アルテミスⅡは、単なる一つのミッションにとどまらない、より大きな取り組みの始まりです。これは、単に月を訪れるだけでなく、将来的には月面基地で継続的に活動することを見据えた、人類の月への帰還の節目であり、今後のさらなる飛躍に向けた礎を築くものです」
また、NASA副長官のアミット・クシャトリヤ氏は、次のようにコメントしています。
「今後10日間、リード、ビクター、クリスティーナ、ジェレミーは、彼らに続く乗組員が自信を持って月面へ向かえるよう、オリオンの性能を徹底的に検証します。私たちは、長期にわたる取り組みのまだ最初の1ミッション目にいるにすぎず、これまで成し遂げてきた仕事よりも、これから先に待ち受ける仕事の方がはるかに大きいのです」
50年以上の時を経て、人類は再び月周辺へ到達しました。生命維持システムの実証から月フライバイでの観測、トイレトラブルの迅速な復旧まで、クルーと地上チームはテスト飛行としての役割を着実に果たしています。
次は2027年のアルテミスIIIで軌道上試験、2028年のアルテミスIVで有人月面着陸です。かつてアポロ計画に世界中が胸を躍らせたように、再び月面に人類が立つ日が近づいています。
参考
Liftoff! NASA Launches Astronauts on Historic Artemis Moon Mission
Artemis II Flight Update: Crew and Ground Teams Successfully Troubleshoot Orion’s Toilet
Artemis II Flight Day 6: Crew Wraps Historic Lunar Flyby

