土砂崩れをいち早く発見! 賞金総額200万円の衛星データ解析コンテスト始まる
だいち2号のSAR画像のデータを使い自動で土砂崩れを検出するアルゴリズムを開発し、精度を競うコンテストが開催!機械学習やプログラミングなどのスキルを持つ人は必見です!
2016年に熊本地震、2017年には九州豪雨、そして2018年も西日本豪雨、北海道地震と自然災害が日本を襲いました。自然災害の影響範囲はとても広く、そして甚大です。
そのようなとき、救援に向かう優先順位を決めるため、早く、正確に広範囲の情報を取得することがとても重要です。
そこで期待されるのが衛星から取得できるデータ。特にSARデータは天気が悪い日でも地上の状態がわかるので非常に期待されています。しかしながら、その精度を上げることにはまだ課題があるようで……。
本記事では衛星データ解析の精度が上がり、より利用の可能性がより拡がるかもしれない「Tellus Satellite Challenge」という衛星データ解析コンテストが始まったことについて、内容と期待をご紹介します。
(1)衛星データプラットフォーム「Tellus」とは
「Tellus(テルース)」とは、さくらインターネット株式会社が経済産業省からの委託を受けて開発する日本初のオープン&フリーの衛星データプラットフォームです。
プラットフォームに搭載する「衛星データ」としては、JAXAの所有するだいち2号のSAR画像のデータなどが対象となっており、衛星データを無償かつ商用利用についての制限なく(オープン&フリー)提供することで、今まで一般の方には馴染みのなかった衛星データ利活用の裾野を広げていきたいという狙いがあります。
さらに、本サービスはクラウド上で提供されるため、非常にデータ容量の大きい衛星データをダウンロードすることなく、クラウド上で解析を行い、APIを使って得られた知見を取り出すことができるという点に期待が高まっています。
詳しくは「なぜ日本初衛星データPF『Tellus』のデータビジネスに期待が集まるのか」でも紹介しています。
(2)Tellus Satellite Challengeの大きな可能性
では、衛星データ利用の可能性がこれまで以上に拡がるかもしれないと期待が高まる「Tellus Satellite Challenge」とはどのような内容なのでしょうか。
Tellusに人が集まる仕掛けの一つとして、「アリーナ」という概念があります。
「アリーナ」は衛星画像解析のコンテストで、機械学習やプログラミングなどのスキルを持った人たちが集まり、衛星の画像解析を競うというもの。入賞者には賞金授与もあり、第1回となる今回は1位の方に100万円です。
コンテスト大会は日本版kaggle(※1)とも呼ばれているSIGNATEというデータサイエンティストが集うプラットフォーム上で実施。
※1:kaggle(カグル)とは世界中の機械学習・データサイエンスに携わっている人が約100万人以上集まるコミニティーのことです。企業や政府がコンペ形式で課題を出し、賞金と引き換えに最も制度の高い分析モデルを買い取るという仕組みで、優秀なデータサイエンティストが集まるため、kaggleのコンペで優勝することがデータサイエンティストにとっての一種のステータスとなり、就職などでも有利になるほどの影響力を持っています。
SIGNATEは8,000人超のデータサイエンティストが登録しており、日本最大のデータサイエンティストコミュニティと言えるでしょう。すでに日本企業や政府が提示する様々な課題に対して数多くのコンペが行われ、成果が上がっています。
SIGNATEで衛星データのコンテスト行うことで、今まで衛星データに触ったことのなかったデータサイエンティストが衛星データを解析することになり、新しいアルゴリズムや衛星データの新しい利用例が生まれることが期待できるのです。
(3)第1回のテーマは「SARデータを用いた土砂崩れ検出」
今後複数回の開催が予定されているという「Tellus Satellite Challenge」ですが、第1回のテーマは「SARデータを用いた土砂崩れ検出」と発表されました。
2016年に起きた熊本地震においてJAXAの人工衛星「だいち2号」が取得したSARデータから、土砂崩れが起きている場所を自動で検出するアルゴリズムの開発を競います。
冒頭でもご紹介したとおり、地震や台風などの自然災害が多いこの日本で、今回の土砂崩れのように災害時の被災場所を特定するのに、衛星データを使ったアルゴリズムは非常に重要です。
人の直接行くことが難しい被災地を衛星データから迅速に見つけ出し、対応することができるようになれば多くの被災者を救うことができるかもしれません。
過去の地震からアルゴリズムを開発し、今後の起こりうる災害に適応していくことは間違いなく必要だと言えるでしょう。
なお、このコンテストにおける優劣の決め手はこのアルゴリズムによる土砂崩れの場所の判定精度がいかに高いかによるようです。
(4)コンテストの概要-費用、賞金、開催期間、使用するデータ-
コンテストに参加するには、衛星データを解析し、土砂崩れを自動検出することができるアルゴリズムを開発するというスキルが必要となりますが、参加費用は無料です。
無料にも関わらず、1位にはなんと100万円もの懸賞金。さらに2位には60万円、3位には40万円の懸賞金があります。
開催期間は、12月7日までで、12月中旬ごろに結果がわかります。解析に自信がある方は、挑戦してみる価値が十分あるのではないでしょうか。
以下、コンテストページより使用するデータです。
◎PALSAR-2(©JAXA)
・40px × 40pxのグレースケールパッチ画像
・解像度:2.5 m
・学習用画像データ:247,971枚(地震前:2016年3月7日、地震後:2016年5月16日)
-正例:1,530枚
-負例:246,441枚
・評価用画像データ:133,520枚(地震前:2016年3月7日、地震後:2016年5月16日)
◎Landsat-8
・4px × 4pxのカラーパッチ画像
・解像度:30 m
・データ数:247,971枚(地震前:2015年5月21日、地震後2016年5月23日)
(5)衛星データでできることと今後への期待
衛星データでできることは宙畑の別記事でご紹介しています。ざっくりと地球上のエリア毎に分かることをまとめた図は以下の通りです。
これらの情報が面的に、過去の情報までさかのぼれることが衛星の強みです。
IoTやビックデータが盛り上がっている昨今、オンライン上に電子決済履歴やSNS投稿など膨大なミクロのデータが日々発生し、解析・利用されています。
一方の衛星データではマクロに、上から全体を俯瞰することができる強みがあります。
ミクロに見ているデータとマクロなデータの相関性を見つけることができれば、膨大なミクロのデータを新たに解析する必要がなくなり、データ全体としてはデータの取得コストが下げることができます。
また、今までデータが無かった領域について推測することもできるようになります。
衛星データの強みである越境性を活かし、ドローンや地上のセンサが置けないエリアの情報を収集することができるので、今までデータの無かったエリアの補完にもなるのです。
つまり、衛星データは衛星データ単独で役に立つわけではありません。地上の取引データや車の動きなど、様々なミクロデータと掛け合わせてその価値を何倍にも高められるものなのです。
衛星データ解析の精度が上がり、私達の生活がより安全に、楽しくなる可能性の種を育てる「Tellus Satellite Challenge」は今後も要チェックです。