軌道上サービスは宇宙市場の起爆剤か~企業、市場規模、需要と課題~

最近海外における宇宙ビジネスの話題に目を向けると「In-Orbit Servicing(IoS)」「On-orbit satellite servicing」というワードを目にすることが増えた。これは日本において「軌道上サービス」と呼ばれるものである。

本記事では、軌道上サービスとはなにか。また、その市場規模や注目企業、需要と課題について紹介したい。

【目次】
1.軌道上サービスとは
2.軌道上サービスの4つの需要と期待
3.軌道上サービスの市場規模予測は3300億円
4.軌道上サービスの注目企業と今
5.軌道上サービスの課題と懸念点

1.軌道上サービスとは

軌道上サービスとは、文字通り軌道上で衛星に対して行うサービスのことである。

たとえば、軌道上で衛星を修理するーー。今までは夢物語のように思われていた構想だが、昨今の衛星を数多く打上げるNEWSPACEの動きと技術の発展により、ついに現実味を帯びてきている。

機能・サイズにより千差万別だが、衛星だけでも数億~数100億円かかり、ロケットで打ち上げるのにさらに数億~100億円程度かかる世界だ。

衛星の故障・寿命に対して簡単に諦められる金額ではなかった。

ひとたびロケットによって打ち上げられ、所定の軌道に入ってしまうと触ることができなかった衛星に対してサービスを施すことができる。それが軌道上サービスに期待が寄せられている所以だ。

   

2.軌道上サービスの4つの需要と期待

NSR社のレポートによると、軌道上サービスは
(1) 寿命延長(Life Extension)
(2) ロボティクス(Robotics)
(3) 軌道離脱(Deorbiting)
(4) 救出(Salvage)
の4種類に分けられる。

それぞれのサービスについて以下で説明する。
      

(1) 寿命延長 (Life Extension)

人工衛星は、衛星の向きを変更したり軌道を変更したりするために燃料を搭載している。

燃料を使い切ってしまうと向きを変えられなかったり所定の軌道に居続けることができず、その衛星は寿命となる。

寿命延長サービスは、燃料切れ(寿命)の衛星に対して、燃料を充填するサービスである。
   

(2) ロボティクス (Robotics)

ロボティクスは、(a) 検査(Monitoring)と(b) 修理 (Reparing)と(c) アップグレードに分けられる。

対象となる衛星に近づいて外観を検査、必要に応じてロボットアームを用いて故障部分を修理する。

故障はしておらずとも、新しいハードウェアを取り付けることで衛星をアップグレードすることも考えられる。
   

(3) 軌道離脱 (Deorbiting)

軌道離脱は、用済みとなった衛星を移動させ、他の衛星がその軌道を使えるようにするサービスだ。

特に静止衛星の場合、軌道は赤道上に限られているためとても込み合っており、寿命を迎えた衛星は迅速に場所を空けることが求められている。

静止軌道より低い低軌道衛星には通称”25年ルール”と呼ばれる、ミッション完了後25年以内に大気圏に落とし燃やさなければいけない国際的なルールがある。

いま現在、どちらも法的拘束力はないが、今後多くの衛星が打ちあがり無視できない問題になっていくことは間違いない。

そして日本の宇宙ベンチャー、アストロスケールがまさにこの軌道離脱サービスに取り組もうとしている。宇宙空間で不要となった衛星(宇宙ゴミ、デブリ)を掃除していこうという計画だ。
   

(4) 救出(Salvage)

ロケット打ち上げの失敗により衛星自体は問題がなくとも計画していたサービスを提供できない場合や、衛星の推進系が壊れてしまい動けなくなってしまうこともある。

救出(Salvage)とはその様な状況に陥った際に計画していた軌道にレッカー車のように連れていくサービスだ。

   
以上が現在考えられている軌道上で行うことが想定されるサービスである。

次の章では紹介したサービスの中でも盛り上がると期待されているのはどれか。市場規模予測と合わせて紹介したい。
   

3.軌道上サービスの市場規模は3300億円?

2018年に出されたNSR社のマーケットレポートによると、軌道上サービスの市場規模は今後10年で30億ドル超、日本円にしておよそ3,300億円。

これは2016年のフリマアプリ市場規模とほぼ同等で、2017年の宇宙ビジネス市場規模38兆円に対し、その1%弱程度である。

軌道上サービスの種類と割合
軌道上サービスの種類と割合
Image Credit: 宙畑

また、軌道上サービス市場を牽引すると想定されているのは、寿命延長サービス(Life Extension)だ。

実際にすでに多くの軌道上サービス会社が、この先5年以内に参入することを計画中。

顧客としては、政府向けおよび衛星群を運用する民間企業向けの両方を想定しているようだ。
   

4.軌道上サービスの注目企業と今

では、実際にどこまで軌道上サービスは現実的になっているのか。軌道上サービスにおける注目企業を紹介しよう。

●【寿命延長・ロボティクス】Northrop Grumman (元Orbital ATK)

Northrop Grumman (元Orbital ATK)の軌道上サービス
静止衛星にドッキングして給油する
Image Credit: Northrop Grumman

軌道上サービスを計画している企業で最も進んでいるのはNorthrop Grumman (元Orbital ATK)だろう。

SpaceLogistics LLCという軌道上サービス専門の子会社を設立。民間の静止衛星を対象としてサービスを展開する計画だ。

初号機はMission Extension Vehicle (MEV)™と呼ばれ、すでに静止軌道上にある衛星に対して、推進(軌道維持/軌道変更)と姿勢変更を行う衛星の寿命延長サービスを提供する。

MEVは15年の寿命を持ち、すでに2機、衛星通信事業者であるIntelsatに販売している。

ひとつはすでに軌道上にあるIntelsat-901にドッキングし、軌道の位置の変更を行う予定。もう一つは2020年始めに打ち上げられ、軌道位置の維持に用いられる予定である。

Orbital ATKは昨年末にアメリカ政府から「Intelsat-901に対して、ランデブーし、近接運用し、ドッキングする」許可を得て、今年の後半には実行する計画だ。

また、次世代システムとして、より安価・小型で軌道制御のみに機能を絞ったMission Extension Pods (MEPs)™も計画している。

MEPsはMEVのロボティクスシステムで搭載される。

【参考】
Orbital ATK lands second Intelsat satellite servicing deal
FCC begins approval of Orbital ATK satellite-servicing mission for Intelsat-901
Space Logistics Services - Northrop Grumman Corporation
   

●【寿命延長・ロボティクス】Space Systems Loral(SSL)

SSLの軌道上サービス
軌道上サービスの用途は多岐にわたる
Image Credit: SSL

https://www.sslmda.com/html/pressreleases/2017-12-20-Restore-L-On-Orbit-Servicing-Mission-Enabled-by-SSL-Built-Spacecraft-Passes-Critical-NASA-Design-Review.php

SSLは、低軌道衛星への軌道上サービスを計画している。プロジェクト名は「Restore-L」だ。

NASAのミッションや民間ミッションに適用を予定しており。2017年末にはNASAの基本設計審査会を合格した。

SSLは2016年からNASAのSatellite Servicing Projects Division (SSPD)に参加している。SSPDは低軌道を周回する衛星に給油をしようというプロジェクトだ。

給油する衛星は、あらかじめ軌道上で給油する設計にはなっていないものが対象(※)だ。

つまり、搭載されているロボットアームで、Landsat-7の金色のサーマルブランケットを剥ぎ、固定しているひもを切断し、ねじを外して給油を行うという。なんとも大胆な作業工程である。

SSLは軌道上サービスは、国家としての安全保障、民間サービス、NASAの将来の月・火星探査に役立つとしている。

※最初のミッションは2022年に、すでに軌道上で19年間稼働しているLandsat-7という地球観測衛星に対して給油を行う

【参考】
SSL aims to parlay NASA, DARPA work into viable in-orbit repair business
NASA weighs changes to space technology programs and organization
MDA restarts satellite servicing business with SES as first customer
Restore-L On-Orbit Servicing Mission Enabled by SSL-Built Spacecraft Passes Critical NASA Design Review

   

●【ロボティクス】DLR iBOSS

 iBOSSの軌道上サービス
i-BOSSを基本にした衛星。それぞれの機能を持った小さなブロックの集合体から作成される。
Image Credit: DLR

ドイツでは、これまでと全く異なる発想の軌道上サービスが検討されている。

このサービスでは40cm立方のブロックをベースとして、レゴのように各ブロックを組み合わせることで1つの衛星となる。

たとえば、姿勢制御するためのブロック、電源を制御するためのブロック、電力を発生するためのブロック、という具合にだ。

ある機能に不具合が生じた場合には該当するブロックを交換すれば、運用が継続できるという戦略だ。

交換方法は宇宙ステーションのようなステーションでの部品交換に加えて、独自に部品交換できるロボットアームを実装することも視野に入れられている。

課題としてはブロックを組み合わるモジュール型の衛星であるため、体積面等では最適化しにくいという点がある。

しかしながら、部品交換が容易で、ハードウェア的にも衛星のアップデートがしやすいという利点。

また、ブロックの組み合わせを変えるだけで複数種類の衛星を造ることもできる、衛星の製造やテストがしやすいという利点は魅力的だ。

【参考】
iBOSS_HP
   

●【軌道離脱】アストロスケール

実は、日本にR&D(研究開発)の拠点をかまえ、軌道上サービスに早くから参入を表明しているベンチャー企業がある。

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去し、宇宙の環境を守るための技術開発を行うアストロスケールだ。

地上からは見えないサイズのスペースデブリのモニタリングを行い、いずれはデブリ除去を行って宇宙環境の保全を目指している。

本社はシンガポールにあり、CEOは岡田光信氏。日本のR&D拠点の代表取締役社長は伊藤美樹氏。

【参考】
ASTROSCALE_HP

5.軌道上サービスの課題と影響

まるで「人間考えたものはだいたいできる」と言わんばかりに計画が進む軌道上サービスは、もちろんすべてが順風満帆というわけではない。

本記事では軌道上サービスにおける課題や懸念点についても紹介したい。

● 技術的なハードル

盛り上がりを見せる軌道上サービスだが、実際には技術的ハードルはかなり高い。

軌道上を周回している衛星に近づきドッキングするのは、宇宙技術の中でもかなり難易度が高い。

実績を持っているのは、宇宙ステーションにドッキングするロケットソユーズ、補給船を有するESAのATV(主開発メーカーはEADS Astrium)、日本のHTV(主開発メーカーはMHI)くらいだ。

ISSとこれらは協調しあいながらドッキングするが、軌道上サービスは故障している衛星に近づくのでさらに難易度は上がる。

実際、軌道上サービスに名乗りを上げているメーカーは技術を持った大手メーカーが多い。
   

● 政治的問題

軌道上サービスは一歩間違えば、他国の衛星を壊すことができる技術(Anti-satelliteでASATという)を有することになる。

つまり、安全保障がらみの技術。米国では、軌道上サービスについて国防高等研究計画局DARPAがお金を出しているのはそのためでもあるだろう。

すなわち、軌道上サービスは単純に民間がサービスするだけというわけにはいかないだろう。

国際問題に発展しないために、国際的なルール作りも必須であると考えられる。
   

● 本当にペイするのか

軌道上サービスを行うためには、何かを打ち上げる必要がある。本当に新しい衛星を打ち上げるより価値があるのか。

元々がかなり高価な衛星(ex.ハッブル望遠鏡、超高性能な軍事衛星)で成り立つビジネスモデルであり、NEW SPACEとの親和性(安かろう悪かろうをどんどん上げていく)はあまりないかもしれない。

国やすでに成立している通信衛星事業者向けの”モノ売り”から”コト売り”への転換なのかもしれないのだ。
   

●バリューチェーンに与える影響

 人工衛星のバリューチェーンと軌道上サービスの範囲
人工衛星のバリューチェーンと軌道上サービスの範囲
Image Credit: 宙畑

予測通りに軌道上サービスが発展した場合、新しい衛星が必要な機会が減るので、衛星製造やロケットの打ち上げ市場の縮小に直結する。

つまり、”モノ売り”が先行する宇宙産業において、パラダイムシフトとなる可能性を秘めている。

たとえば、同じような話は、すでに別の業界ではすでに始まっており、主に建設機械を販売するコマツは2001年KOMTRAXというサービスを始めた。

自らが販売した建機を遠隔で監視することで稼働状況を把握し、故障や不具合の兆候が見られればお客様に呼ばれるよりも早くサービススタッフが現地へ駆け付ける。

建機という”モノ売り”から、常に建機が正常に動かせる”コト売り”へシフトしたのだ。衛星でも同様のことが起こるかもしれない。
   
   

6.最後に

軌道上サービスが現時点でどこまでコストメリットがあるかは不透明だ。

しかしながら、NEWSPACEが台頭し先が読めない静止通信業界にとっては、一つの選択肢になり得る。

技術的にハードルが高く、国際的なルール作りも不可欠であるため、軌道上サービスについてはベンチャー主導で行うには困難さが伴う。

近年の「安い」「早い」NEWSPACEの動きに押されていた大手衛星メーカーの本領発揮ができる分野かもしれない。

日本では現時点で国として軌道上サービスを引っ張っていく動きはないが、今までの技術開発の歴史をひも解くと、「おりひめ・ひこぼし」の愛称で親しまれたきく7号(旧TOSHIBA、現NECが担当)や宇宙ステーションのロボットアーム(旧TOSHIBA、現NECが担当)、宇宙ステーション物資補給船HTV(MHIが担当)などドッキング・ロボットアームにまつわる技術を多く有している。

3,300億円ともいわれる軌道上サービス市場を狙う場合は、世界的な盛りあがりに乗り遅れないように、日本の強みを生かしたプログラムが早急に求められるところだ。

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