宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

費用が安いから? なぜアリアンロケットは商用化に成功したのか

アリアンロケットは商用ロケットとしての実績が高く評価されているロケットの代表格。なぜそのポジションを築けたのか、宙畑で検討してみました。

JAXAとESAの共同で行われる水星探査計画BepiColomboの打ち上げがアリアン5で日本時間10月20日に予定されていますが、アリアンスペースのロケットといえば、商用化が成功したロケットの代表格です。

小型ロケット開発が盛り上がるなかで、商用的に成功している小型ロケットがあるかといえばまだそういう商況にはないようです。(小型ロケットに関する記事はこちら

一方で静止衛星2機を同時に打ち上げられる大型ロケットから小型衛星用の比較的小型のロケットまで手広いビジネスを展開し、商業衛星の打ち上げシェアNo.1を獲得するアリアンスペース。その成功の理由はどこにあるのでしょう。

また、小型ロケットの登場に対してアリアンスペースは何を考えているのか。アリアンの成功までの軌跡と費用といったスペック、今後の展望をご紹介します。

(1) アリアンスペースとは

アリアンスペースとは1980年設立の欧州12カ国の53社が出資したロケット打ち上げ専門企業です。日本の三菱重工などと異なり、製造自体は行わず欧州宇宙機関(ESA)やEADS社などの開発・製造するロケットの販売や打ち上げ業務を担当しています。

商業打ち上げの最大需要となる静止衛星の打ち上げシェアはこのアリアンスペースが約半数を占めており、世界トップです。[1]

現在アリアンスペースでは静止衛星向けの大型の「アリアン5」、多目的でコンステレーションにも向く中型の「ソユーズ」、主に地球観測などに向く太陽同期軌道(※1)向け小型の「ヴェガ」の3機のロケットを取り扱っています。

「Any mass, Any orbit, Any time」のキャッチコピーにもある通り、アリアンスペースは高度にして500km~36,000kmまでの幅広い軌道投入が可能な大・中・小の3種類のロケットを取り扱っており、手広く事業を展開していることが伺えます[4]。(詳細は後述のグラフ)

2018年9月25日に打ち上げられたアリアン5 Credit : ariane space

※1 衛星の動きと太陽の動きを同期させることで、太陽光が同じ方向から差している観測ができる軌道。そのため、同じ条件の撮像が可能となる。

(2) アリアンスペースが商用化に成功した理由

アリアンスペースの成功の理由は多くあげられますが、主なものをここであげると、
①打ち上げ場の地理的要因
②ロケットの高い信頼性
③高いホスピタリティ
④衛星2機の同時打ち上げ
⑤国や法律とのつながり
の5つに分けられます。アリアンスペースの成功を探るとロケットビジネスの成功の秘訣がコストや成功率だけではないことがわかるかもしれません。

①打ち上げ場の地理的要因

アリアンスペースの打ち上げ設備はフランス領のギアナにあります。(下図)
赤道に近いため、赤道上空36,000kmの静止軌道への打ち上げに強いという利点があります。

また、北から東にかけて大西洋に面しており、あらゆる軌道への投入にも最適で、気象条件も良く、台風や地震もほぼないというロケットにはとてもよい条件が揃っているのです。

 

 

ギアナ宇宙センターの場所。北緯5度と赤道に近く、東と北に海があるため打ち上げには最適。

②ロケットの高い信頼性

アリアン5は99%、ヴェガは100%、ソユーズは96%と、アリアンスペースの手がけるロケットは3種類とも非常に高い成功率を誇っており、信頼性の高い打ち上げサービスを提供しているといえます。

ステファン・イズラエルCEOも近年良く取り上げられるスペースXやブルーオリジンによる再利用ロケットについて、「再利用より信頼」という旨の発言をしています[6]。

実際にスペースXのファルコン9はアリアンスペースに迫る受注を獲得しているものの、2015年、2016年と打ち上げに失敗し、2016年には2機の衛星がファルコン9からアリアンのロケットへ「乗り換える」という事態も起こっています[5]。

ロケットの信頼性は打ち上げの保険料にも大きく関わっており、成功率が9割を下回るとその額も大きくなってくると言われています。信頼性は打ち上げコストにも直結する大切な要素なのです[7]。

③高いホスピタリティ

アリアンスペースは高いホスピタリティでも知られています。打ち上げが失敗した際、それが衛星側のみの原因だったとしても追加料金なしでで再打ち上げを行う保険サービスは顧客の評判がよく、他にも顧客の打ち上げ見学、ギアナの観光などの”おもてなし”があるといいます。[5]

前述のイズラエルCEOの「信頼」発言にもある通り、このような企業努力がシェアの拡大につながっているのかもしれません。

アリアン5の打ち上げられるギアナ宇宙センター Credit : ariane space

④衛星2機の同時打ち上げ

アリアン5ロケットは静止軌道への2機の大型な衛星を打ち上げることができます。
単純に考えれば打ち上げにかかるコストは顧客のその2機で割るため価格は半分になり、比較的低コストで打ち上げることができるのです。

大型の静止衛星を2機打ち上げることができる「デュアルローンチ」 Credit : (ロケット画像)ariane space

⑤国や法律とのつながり

欧州のロケットは1960年代、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)などの国主導で開発がスタートしました。すなわち、ビジネスとは切り離された「独立したロケット技術を獲得する」というモチベーションで始まったため、当初の開発リスクを国が負う形となりました[8]。
アリアンロケットがアリアンスペース社へ移管された後も、そのスタンスは近年まで続き、アリアン5やヴェガロケットの初期は国がそのロケットを発注しています。

またアリアンスペース社にアリアンロケットを移管する際の欧州諸国の宣言として、各国のアリアンスペース社への積極的な支援の整備がおこなれています。

具体的にはアリアンロケットの開発費は100%欧州宇宙機関(ESA)が出資し、技術・生産体制の維持に関連する取り決めや打ち上げ事業に関する固定費の補助、そして打ち上げに失敗した際に第三者が被った損害の補償の担保の一部を国が行うなどの取り決めなどがあります[18]。

ロケット自体の開発も国の研究機関であるCNESや欧州宇宙機関(ESA)とも共同で行われ打ち上げ事業は「半官半民」で進んできました[9]。

アリアンスペース社は、このような国からの計画的な支援や法整備により獲得した信頼性で活発化する商業衛星ブームのニーズを逃さず捕らえたといえるでしょう。

現在ではCNESが持っていたアリアンスペース株をエアバスとサフラン社のジョイントベンチャーであるASL社に譲渡したため少しずつ民間へと舞台は移りつつありますが[10]、初期から産業を確立する段階において国が法律やリスクマネーを投入しアリアンスペースを「育てた」点が、アリアンロケットの成功の理由の一つかもしれません。

(3) アリアンロケットのスペック(費用、大きさ、積載可能質量)

前述の通り、アリアンスペースは低軌道から静止軌道(高度にして500km~36,000km)という幅広い打ち上げニーズに大・中・小のロケットで対応しています。それぞれのロケットのスペック、そして世界のロケット市場での立ち位置を見てみましょう。

商用ロケットの価格・打ち上げ能力・打ち上げ数[19] Credit : sorabatake

(4) 商用化に成功したアリアンが経験した失敗の過去

順風満帆に事業を進めてきたように思えるアリアンスペースですが、設立までには紆余曲折がありました。

設立の20年前である1960年代、米露の冷戦のなか、世界が宇宙へと関心を寄せていたころ、西欧諸国は共同でロケットの開発を始めました。その名も「ヨーロッパロケット」。当時の国の威信をかけていた様子がつたわります[8]。

しかし英国やフランス、西ドイツなどの各国の足並みは揃わず、技術トラブルや資金難から計画は失敗に終わってしまいます。最終的に、欧州の衛星打ち上げは「商業打ち上げでは使ってはいけない」という厳しい制約付きのアメリカのロケットへ依存することとなりました。

そのような状況を打開し、自国の国際的なプレゼンスを守る目的で、1973年ごろ、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)などの国家機関主導でアリアンロケットの開発がスタートしました。

1979年最初のロケット「アリアン1」の打ち上げに無事成功。その翌年1980年、欧州12カ国の企業が出資してアリアンスペース社が設立しアリアン1の使用権がアリアンスペース社に移されたのです[8]。

その後も前述のような国の手厚い援助のもとアリアンシリーズは段階的に改良を重ねられ、開発されてきました。

そのころから徐々に世界では商業衛星がビジネスとして広まりはじめ、前述のような強みを生かし商業衛星ビジネスの成長と共に、アリアンスペースも成長してきたのです。

そして、欧州の有人宇宙船エルメスを載せるために作られた再利用型ロケットとしてアリアン5は新規開発がされましたが、「エルメス」の計画そのものがキャンセルとなりました。

その余剰な大型の打ち上げ能力をうまく活用した静止衛星2機を打ち上げる「デュアルローンチ」として、商業衛星打ち上げのトップシェアを獲得するに至ったのです。

(5) 次世代の「アリアン6」と日本の次世代ロケット「H3」の違い

近年の衛星打ち上げ市場はスペースXによる「ファルコンショック」とも呼ばれる価格破壊に始まる低価格化がブームとなっています。

実際にスペースXのファルコン9はアリアン5の価格の半分以下と非常に低価格であり[14]、信頼性という武器がアリアンにはあるものの打ち上げシェアは予断を許さない状況なのです。

大型ロケット打ち上げ価格 Credit : sorabatake

そこでアリアンスペースは2004年ごろから次世代ロケット「アリアン6」の計画が始まりました。
同様に日本のロケットもその波を受け、アリアン5と同様の比較的高価な価格帯であることからH3ロケットの開発へ乗り出し低価格化を図ることで世界の市場へと参入を狙います。

しかし、それぞれアリアン6、H3ロケットは、もちろん国際競争力が求められるとはいえ、従来機を改善し顧客のニーズにさらに答えるということを最優先課題としている点、安全保障上や産業保護の理由等から自国のロケットを保有するという動機がある点などから、単純な「アリアン5/H2A(古い国系企業:OLD SPACE) VS ファルコン9(ベンチャー企業:NEW SPACE)」という対立構造はやや早計です。

様々な政治的・ビジネス的・技術的理由があり、新型ロケットというのは開発されるということですが、いずれにしてもアリアン6、H3はどちらもコストを現行機から半額にするという目標、2020年の初飛行など共通点は多く、同じく国際競争力が求められているなか開発されていることは事実でしょう。

ですが、それぞれのアプローチは異なり、アリアン6は製造体制の改革による低コスト化、日本のH3ロケットは燃焼方式を変えた新型エンジンの開発による低コスト化と言えます[15]。

アリアンシリーズのロケットの製造体制は従来、部品を欧州各国で分担し製造していたため部品が各国を転々とすることでコストがかかり非効率でした。アリアン6では燃料タンクをすべて同じ国で作るなどの体制を整備し、改革する計画です[15]。

当初は開発項目を決定するESAや設計を行うCNESが従来の製造体制を推していましたが、アリアンスペースをはじめとする産業側が反対。欧州の共同性よりもさらなる合理化・効率化を優先させ抜本的な製造体制の改革を行う計画です[15]。

H3ロケットは第1段にH2Aとは異なる新規開発エンジンを採用し、部品点数削減、民生品利用を行うことで低コスト化を行います。

また、射場作業も自動化、並列化し年間打ち上げ回数の向上も行う計画です。

液体酸素と液体水素を使用する液体燃料エンジンという基本的な構造はそのままですが、燃焼サイクルに新規開発の「エキスパンダーブリードサイクル」を採用することで構造を単純化し安全性向上・コスト削減を図ります。[16]

欧州の新型ロケットアリアン6 Credit : ariane space
日本の新型ロケットH3 Credit : JAXA

(6)まとめ

商業衛星打ち上げトップシェアを誇るアリアンスペースの歴史やロケットのスペック、展望から打ち上げビジネス成功の秘訣を探りました。

述べた通り、ロケットの打ち上げにはやはり未だ多くのお金と技術と様々な政治的・ビジネス的課題が多いでしょう。

しかし、「ファルコンショック」により打ち上げ市場全体が大きな動きを見せていることは確かです。

ここでは紹介しきれなかった従来の大企業のつくる大型ロケット、ベンチャーを中心に盛り上がりを見せる小型ロケットも世界にはたくさんあります。打ち上げ市場のこれからの動きに目が離せません。

(7)おまけ:日本時間10月20日打ち上げ予定「BepiColombo」とは

日本時間2018年10月20日22時45分28秒に打ち上げられるアリアン5には、JAXAの開発した水星探査機「みお」が搭載されます。
この「みお」は単独で水星を探査するわけではなく、ESAの開発する水星表面探査機MPOなど探査機同士が合体して打ち上げられる日欧共同ミッション「BepiColombo」の一部です。

水星は太陽の近くを周っていることから探査がしづらく、謎が非常に多く残っています。
その謎を解明するべく、水星表面探査機MPOは水星の地形や惑星内外の組成を探査し、一方水星磁気圏探査機MMO「みお」は水星の磁場の様子や、大気の様子を調べます。
また、水星は太陽に近いことから軌道投入までの軌道制御技術や太陽光の熱を反射する技術にも注目です。

これら2つの探査機による観測結果を合わせ、地球や他の惑星との比較をすることで、水星の謎へとより迫ることができるのです。

また、「BepiColombo」は様々な国の人が関わっている国際プロジェクトであるため、観測機器は多くの国が参加し、共同で開発が進められています。センサーはそれぞれ日本とヨーロッパの研究者たちが合同でチームを作り、担当しています[17]。

ここまで大型の国際共同ミッションは前例がなく、今後の日本の宇宙開発にとって大きなステップになるでしょう。BepiColomboの計画の打ち上げも楽しみですね!

JAXAの開発する水星探査機「みお」 Credit : JAXA

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参考/引用文献

[1]宇宙産業の現状と動向について平成28年6月内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-sangyou/sangyou-dai1/siryou3-7.pdf
[2]マイナビニュース新たなアリアドネーの糸、欧州の次世代ロケット「アリアン6」の設計固まる – 【前編】紆余曲折を経て決まったアリアン6 https://news.mynavi.jp/article/20160210-ariane6/
[3]宇宙ビジネス入門 石田正康 日経BP社
[4]arianespace http://www.arianespace.com/
[5]マイナビニュースCEOが語る、商業ロケットの雄・欧州「アリアンスペース」の過去・現在・未来 https://news.mynavi.jp/article/20160422-arianespace/
[6]Sorae アリアンスペース、ロケット再使用より「信頼」で勝負 https://sorae.info/030201/2017_04_20_arianespace.html
[7]日本経済新聞 スペースX、成功率9割割れ 試験中にロケット爆発 https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM02H6C_S6A900C1FF2000/
[8]Mark Williamson, “ARIANESPACE Thirty years and growing …”, Aerospace America, September 2010,pp. 18-22.
[9]輸送システムの現状、課題及び今後の検討の方向(案)平成24年9月内閣府宇宙戦略室 http://www8.cao.go.jp/space/comittee/dai5/siryou4-2.pdf
[10] arianespace press release :Governance of Arianespace: Airbus Safran Launchers becomes the majority shareholder http://www.arianespace.com/press-release/governance-of-arianespace-airbus-safran-launchers-becomes-the-majority-shareholder/
[11]FAA The Annual Compendium of Commercial Space Transportation: 2018 https://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ast/media/2018_AST_Compendium.pdf
[12]JAXA 海外ロケットとの比較 http://www.rocket.jaxa.jp/basic/knowledge/compare.html
[13]連続80回成功 欧州が誇るロケット「アリアン」の秘密とは https://www.sankei.com/premium/news/170805/prm1708050026-n1.html
[14]FAA’s Commercial Space Transportation: 2010 Year In Review https://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ast/media/2010%20Year%20in%20Review.pdf
[15]マイナビニュースアリアン6情勢は複雑怪奇 https://news.mynavi.jp/article/ariane6-3/
[16]JAXA 第一宇宙技術部門H3ロケット http://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/
[17]宇宙科学研究所水星磁気圏探査機「みお」http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/developing/mmo.html
[18](3)アリアン打上げ機の生産段階に関する若干の欧州諸国政府の宣言(ESA、1980年4月14日発効) http://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_3/3-2-2-3/index_j.html
[19]FAA  The Annual Compendium of Commercial Space Transportation: 2018 https://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ast/media/2018_AST_Compendium.pdf