宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

金脈を掘り当てるのは誰だ!? 地球観測のプロが期待する『衛星データを使った小商い』

元JAXA宇宙利用統括:松浦直人さんインタビュー(後編)

JAXAで地球観測に長年携わったあと、新規事業促進部の部長に就任。日本の宇宙産業振興に、より多角的な視点を拡げたうえで去年8月、日本初の衛星データプラットフォーム『Tellus』に参画した松浦直人さん──今回は、地球観測衛星とともに今なおキャリアを歩み続ける「プロ中のプロフェッショナル」から、地球観測衛星の歴史や、世界と日本における衛星ビジネスの現状について、お話を伺いました。

前編では、地球観測衛星の歴史や、世界と日本における衛星ビジネスの現状を、また「日本は過去から現在までの膨大なデータが蓄積しており、しかも精度は高く、世界中から絶大なる信頼を得ている」との話を伺いました。さらに、日本はこれらのデータをうまく活用できていないという、もったいない話も……!? さて、そんな積まれたままの“お宝の山”を、有効活用していくにはどうすればよいのでしょう?

まずは松浦さんがさくらインターネットに転職を決意された背景から探ってみました。

1.「衛星データの社会インフラとしての定着」というキーワードを自分自身がまったく実感できていなかった

──いきなりですが、松浦さんが『さくらインターネット』へ転職を決めた理由はなんだったのでしょう?

前置きが長くなってしまいますが、JAXAでは、おもに衛星計画に関わったり、欧米の宇宙機関と交渉を行ったり……。また、グローバルな衛星データを活用するかたちで地球環境問題にも取り組んできました。

しかし、「衛星データの社会インフラとしての定着」というキーワードをもって、ずっと仕事をしてきたのに、自分自身がまったくそれを実感できていないことにある日、気づいたのです。

一般メーカーに勤めている人なら、普通は自社製品を買って使ってみますよね? ところが、私は30年もこの業界にい続けたのに、衛星データやサービスを一度も買ったことがないんですよ(笑)。なにか自分の実生活に役立てるという発想がまったくなかったわけです。

それってどこかおかしいな……と、10年ほど前から、ぼんやり考えていました

地球観測衛星のデータも、収集してきたデータを自分で実際に試してみるくらいに身近じゃなければ、今後の発展は望めません。とりあえずは、自分が住んでいる周辺エリアの地図を更新するだけでもかまわない……。こうした作業をさっくりできてこそ、はじめて「定着感」も生まれてくるのではないでしょうか。

──なるほど! その着眼はもしかすると、長年グローバルな視点に立ったお仕事をなされてきたからこそ……であるような気もします

かもしれません。これまでは「地球環境問題を解決するためにどういった貢献をするべきか」だとか「国民生活に役立つための衛星データのインフラ整備」だとか……と、大きな仕事ばかりをやってきました。

まあ、それはそれである一定の成果は出してきたし、今でも継続されている「価値のあること」なのは間違いないのですが、いざ自分に照らし合わせてみると「欲しいモノがないな…」という疑念が次第に大きくなり始め……そのモヤモヤがついに消えなくなってきて……。いわば“自分の興味”がマクロからミクロへと移行したのです。

──そのモヤモヤを晴らす可能性をTellusに見出したのですね

その通りです。

たとえば、衛星『ひまわり』のデータは、私もテレビやスマホで毎日見ています。最新の『ひまわり8号』が届けるデータは、雲がもくもくと湧いてくるプロセスとかも鮮明に確認することができるので、お金こそ払ってはいないけど、「定着感」を象徴していて、とても感動しました。ただ、それに類するほかのものが、残念ながら今の日本にはほとんどありません。

金額にすれば、政府や大手企業による「何百億円」のやりとりばかりで、「何万円」レベルの商いが現時点ではほとんど成立していない。でも、「何万円」で済むなら、利用してみたくなる案件はまだまだたくさん取りこぼされているはず……そういう新たな可能性を『Tellus』に見いだしたわけです。

──Tellusを開発・運営する『さくらインターネット』とは、JAXA時代から密接な関係にあったのですか?

いえ。これは申し訳ない話なのですが、Tellusが立ち上がるまで、私は『さくらインターネット』という会社自体をまったく知りませんでした(笑)。

しかし、いろんな会社を回っていると「仕事では使っていないけど、個人では趣味で(さくらインターネットを)利用している」ってケースに、けっこうな確率でヒットするんですよ。個人でも払える安い金額でサービスを「小売り」的に行っているからでしょう。こうした事例は、少なくとも私が今までいた世界では一つもなかったので、じつに新鮮でした。

──その“細かなサービス”を衛星データビジネスにも応用できないか…と?

まさに。そこでなにが起きるかと言えば、新興国でもそのサービスを買えるようになる──気軽に購入できて利用もできるというニーズにマッチするわけです。

もちろん、JAXAでもその手の後押しはやっていたのですが、やはり金額的にケタが違う。どうしてもビジネスとして折り合わない。ヨーロッパはECの積極的な推進によって、その不均衡をブレイクしつつあるのに……。

そんななか、Tellusはまさに小売り系の「小商い」をやろうとしているわけで、その試みが一つの答えとなって、突破口を開けるのではないか……と。


──そうしてさくらインターネットに入社することを決意されたのですね。

2.データサービスに特化したベンチャー企業は日本だと10本の指で数えられる程度しかない?

──では、衛星データの利用に話を戻します。まだまだ日本には宇宙データ関連企業は少ないですよね。

数えるほどしかありませんね。徐々に増えつつはありますけど、下手すれば10本の指で数えられてしまう程度です(笑)。

例えば、兵庫県にある『Sagri(サグリ)』さん。衛星を活用した農業のデータを日本だけではなくアジア地域に提供したり、農業効率化アプリの開発を進めているベンチャー企業です。

あと、複数の衛星データで土地を評価する『天地人』さん。データを使って土地の評価を数値化しています。しかも農業だけでなく、他の分野にも応用しようとしている。

衛星データを使って課題を見える化し、農業から他の分野へ応用したり、海外にも展開しようとしている。このような企業が日本でもどんどん出てきて欲しいです。

ヨーロッパだと衛星データを複数使ったり、他のデータの補完に使ったりするビジネスはもう珍しくなくなって来ています。日本では「小商い」をするにはデータを利用する単価が高額すぎるんです。

日本ではデータを利用する単価が高額過ぎることが衛星データ利活用を妨げる大きな要因となっていることは間違いないでしょう

──世界的に、衛星データへの敷居は下がっていますか?

ぐんぐんと下がってきています。AmazonがTellusと同じような安価な衛星データプラットフォームをつくったり……。これからの日本も、ユーザーに選んでもらえる、さらには日本にしかないコンテンツを開発していく取り組みが重要になってくるでしょう。

3.リモートセンシングなんて知らなくてもかまわない?

──日本は、ソフト面においては後進国なのでしょうか

とんでもない! ITやゲームも含めたアプリ制作の技術は、世界でもトップクラスです。ただ、宇宙にこの業界の人たちがなかなか振り向いてくれない(笑)──それだけだと私は思っています。

にもかかわらず、日本の衛星データ活用が進んでいない理由は、大きくは2つあります。一つは「衛星データが複雑で使いづらい」ということ。
もう一つは「衛星データはとにかく大きい」ということ。メガどころがギガクラスのデータも珍しくないため、ハンドリングが難しい。自宅のパソコンでも扱えなくはありませんが、途方もない時間と手間がかかってしまう。だから、専用のサーバーや衛星専用の光学データを処理できるソフトウェアを用意しないと自由に解析ができない。これらの障壁を下げることが最大の課題なんです。

──具体的には、どうすれば…?

衛星データの解析環境を整えること、理解浸透を進めていくこと……と、さくらインターネット入社以前は思っていました。

──思っていましたということは今は違う?

はい、さくらインターネットが、SIGNATEと協力して実施している衛星データ解析コンテスト(※すでに第3回開催)の結果を見て、私は驚きました。衛星データにさほど詳しくなくても驚く精度で解析ができていた。

専門家云々というのは全然関係なく、あくまで「情報の一つ」として捉え、たとえば海氷分布の「正解」を探っていくと、相当に高い精度の分布図を作成することだってできるわけです。

リモートセンシングなんて知らなくてもかまわない。機械学習で処理をしている人のほうが、今までと違った解析法にたどり着けるのではないか……という流れへと、ここ数年徐々に移行しつつあって、今回のコンテストがその可能性をハッキリと示してくれた。

こういうトレンドが一気に浸透すると、データさえあれば、ビジネスへのソリューション提供にも意外と早くリーチできるようになるのかもしれません。

だからこそ、今の最優先は解析環境を整えるため、データを一箇所に、つまり、Tellusに集めることだと考えています。

4.Tellusのプラットフォーム内に“お店”を開ける環境をつくる

──衛星データプラットフォーム「Tellus」にはどのようにデータ、そしてユーザーを集めようとしておるのか、そのプランをお聞かせください

『Tellusマーケット』という「Tellusのプラットフォーム内にお店を開ける環境」ができました。

──「お店を開ける環境」というくだりをもう少し教えていただいても良いでしょうか

『楽天市場』のようなものを頭に思い描いてみてください。コンピュータ上で帽子や家具や電化製品や化粧品や旅行を売る代わりに衛星のデータ、あるいはそのソリューションやアプリを売るイメージです。

私がさくらインターネットに惹かれた大きなきっかけでもある“小商い”ができるようになると、当然のこと海外諸国もターゲットになってきますし、また、海外の企業がTellus上に乗っかって、それらを他の企業や個人が利用することも可能になるわけです。

日本のためだけを考えると、国内企業を中心にデータの収集と販売をすすめていくほうがいいのかもしれませんが、Tellusの利用頻度を高めることを第一とするならば、そうも言ってられない。

物量作戦だと、とてもじゃないけどAmazonにはかなわないので、「アジア地域のプラットフォーム」──特定のエリアにターゲットを絞っていくべきだと思います。中国を除いたアジア諸国は「衛星データを使う」という面では、日本よりまだ遅れていますから、逆にもっとユーザーも増えていくでしょうし……。

個人的な考えだと、とくにパートナーシップを組んでみたい国はベトナムかな? 日本に似て勤勉な国民性だし、フランスの衛星から受信をしてデータ処理を始めていますが、日本と共同で小型の地球観測衛星を開発したり、日本のODAを利用して新しい衛星を購入していたり……と、衛星データに関しては、アジアのなかでもかなり積極的ですから。

新しいプラットフォームの形、そして海外展開……。松浦さんの熱い思いがその身振りや言葉を通して伝わってきます

──どのようなデータが集まるのか、とても興味深いですね。事業を進めるにあたっての課題はどのような点にありますか?

この取り組みは、日本では初めての画期的な試みです。私はまさにこの10年間、そういうことがやりたかった。あとはTellusがサービスを通じ、どうやって儲けていくかが課題になってきます。当たり前の話、お金が発生しないと“維持”は不可能なので……。

とにもかくにも、数万円単位の小商いがたくさん出てこなければなりません。これまでは商いをする相手が一社だけだったので、最低でも何百万円といった取引をせざるを得なかった。でも、取引先が百集まれば一社数万円でも総売上は百万単位になる──となれば、日本だけだと間口が狭すぎる、他の国の“お店”が入ってこないと運営は厳しくなるでしょう。

──結局は、「お金の問題」が障壁として立ちはだかってしまうわけですね…

そういうことです。問題なのは「有料or無料」といったレベルではなく、むしろ「金額の大小」。お金を払ってでもそのデータは欲しいけど、需要側が提示する金額が、供給側の要求する額面にまで届いていない……。

お金って、額が小さければ、もらうのも大変じゃないですか。「何百万」だとややこしい手続きを踏んででも契約を交わしますが、1万円、2万円で契約をいちいち結ぶのは面倒くさい。

しかし、Tellusは今、その「決済システム」についても解決しようとしている。我々がネットサイトでクレジットカードを使って物を買うレベルにまで簡略化できれば、まさに楽天やAmazonみたいな仕組みを衛星データの世界にも取り入れることができて、小さな商いも活発になってくるはずです。

──宙畑としての自戒もこめてなのですが、、、まだまだTellusで衛星データを気軽に使えること自体を知らない人が多い状況で、広まるポイントとして考えられているものはありますか?

まずTellusのオウンドメディアとして『宙畑』が情報のハブとしての注目度は高まっていると思います。

私も及ばずながら、『宙畑』がTellusの解析を行っているプログラムをコピペして、自分であらためて解析を行ったりもしています。趣味で同じようなことをしている人も近年は急増しています。

また、ハンズオントレーニング(体験学習の一種)も始めました。少人数対象なのがもったいないので、『eラーニング(インターネットを利用した学習形態)』を去年の11月からスタートして、かなりの人たちが使うようになっています。

──そして、その地道な宣伝活動はじわじわと実を結びつつある…と?

繰り返しますが、リモートセンシングの特殊な解析手法を必要としない世界がちょっとずつ見え始めてきている。機械学習で進めていくと、リモートセンシングの知識がそれほどなくても、質の高い成果を生み出すことができる。そうなると俄然、広がりも見えてくる……。

以前は、地上のデータと組み合わせて使いたいだけでも、大気の影響を受けてしまうため、データ補正をしなければならなかったり……と、リモセンの知識がなければ解析は難しかったし、なにより手間ひまがかかりすぎた。しかも、そこまでやったからには必ず正解とならなければならない……。でも、正解率をちょっとだけ下げれば、そのままのデータをビジネスにだって気軽に使うことができるわけです。

──どれくらいの正解率なら大丈夫なのか、役に立つのか──そういうジャッジをユーザー側が自ら当たり前のようにできるようになれば、コストもぐんと下がるのでは?

間違いありません。ただし、それには人材の流動性が重要になってきます。たとえば、日本のリモートセンシングの業界メンバーは海外と比べ、かなり少ないんです。籍を置いているのは基本的に大学や特定の研究機関。民間企業にも所属はしているのですが、とにかく数が少ない。だから、こういったサービスを始めるとしても、人が集まらない。アメリカだったらお金さえ出せば、あっという間に集まるし、ヨーロッパはECによるベンチャー企業の積極的な後押しがあります。

日本にもベンチャー支援の制度は一応あるんですけど、他のベンチャーが強くて「宇宙」だとプレゼンになかなか勝てない。日本の人材は本来優秀なのに、そういう人たちはIT関連業界に集中してしまう。その「優秀な人材」に衛星データの利便性をアピールすることができれば、日本の宇宙業界も劇的に変わっていくはずです。

──前編で松浦さんがおっしゃっていた「ブローカー」を育てるといった発想は?

残念ながら、その土壌はまだ日本にはありません。現時点では、私がTellusを通じてブローカーのような役目を請け負い、あちらこちらを飛び回っています(笑)。

──ブローカーになるにはどういう資質が必要だと思われますか?

松浦:ある程度はリモートセンシングの知識、できれば携わってきた経験があること。プラス、私はすでに年嵩なので、今から自分で会社を立ち上げるパワーはないのですが(笑)、理想を言うなら「若くて、自分でなんらかの会社を興そう」という気概を持った人ですね。

ヨーロッパのように、自分である種の会社を持ちながらESA(=欧州宇宙機関)のネットワークにも加わってブローカー業も勤しむ──こうすれば、自分のメリットにも確実につながってきます。

たとえば、自社では「海」のアプリケーションをつくっているとします。そこで、情報交換のついでに「陸」の話が出てきたとする。そうした場合、「自分は詳しくないから別の誰かにつなぐか…」という着地も可能になってくる。そのときは自分の利益にならなくても「つなぐ」ことによって、後に恩恵やリターンが来るかもしれない……それがビジネスですから。

機械学習やIT分野の企業でも「衛星データをホンの一部だけ使いたい」「このデータだけが欲しい」ってことになった際、それを仲介してくれる個人や団体、サービスがあれば、とてもありがたい。仲介役がいないなら、それをTellus上でやってもらえばいいわけです。

5.あまり衛星データにこだわりすぎてはいけない?

──最後に。これから宇宙関連のビジネスを始めようとしている人たちに、アドバイスをお願いします

あくまで私見ではありますが、今後は「ハードじゃない世界」に進出したほうが将来性はあると思います。

「ロケット」や「衛星」に直接手を出すのは、打ち上げや開発に失敗してしまうケースもあって、リスクが高い。もちろん、チャレンジするのは素晴らしいことなんですけど、相当のお金が必要になってしまう。だから、データからアプローチをかけたほうが圧倒的に身軽だし、世界的な展開もさして苦労をしなくて済む。そして、そのトライができる土俵づくり、フォローを全面的に打ち出しているのがTellusなんです。

──では、衛星データからアプローチをかける際のアドバイスもお願いします

これは本来、私が言うべきことではないんですけど(笑)、あまり衛星データにこだわりすぎないほうがいいと思います。

最初は、なんでもかまわないので「○○のサービスをビジネスにしたい」というアイデアをスタート地点として、次に「そのビジネスに必要なデータを集めるにはどうすればいいか」というエッセンスのなかに、衛星データが含まれているかどうかを吟味する……といった発想のほうが成功に近づけるのではないでしょうか。

幸い、現在はちょっとした「宇宙ブーム」なので、企業コンセプトに「宇宙」があると、お金も借りやすくて、広告的なファンクションも生じてくる傾向が強くなってきている。そういった意味でも「衛星データ」を有効に使ってみてください。

編集後記

前編で地球観測衛星の歴史をど真ん中で見てきた松浦さんの思いを知り、後編ではその思いをもって転職を決意したこと、また、これまでの経験を最大限活かせるTellusでの役割を聞きました。

今後、Tellusを通して衛星データ含む様々なデータが誰でも安価に必要な分だけ取得でき、誰にでも扱える・遊べるデータとなったとき、どのようなことが起きるのか。

宙畑としてもその最前線でデータの利活用を考え、ブローカー的役割を担える存在でありたいという思いをより強めたインタビューでした。

ぜひ、読者の皆様もTellusマーケットで様々なデータを手に取って遊んでみてください。