宇宙産業のさらなる飛躍へ、国を超えた協力体制の強化【週刊宇宙ビジネスニュース10/1~10/7】
毎週宇宙ビジネスの気になる話題をピックアップする本連載! 今週は2018/10/1~10/7までの話題です。
一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!
今週のキーワードは衛星。民間企業の活躍が注目されています。
1.Audacyの契約額が100億円に
Audacy Achieves $100 Million in Commercial Agreements
宇宙通信サービスプロバイダーであるAudacyは、今月1日に契約金が100億円を突破したとプレスリリースしました。
Audacyと言えば、2018年の6月7日に商用宇宙データ中継サービスを提供するライセンスをFCC(米連邦通信委員)より受けとったことで注目されました。
契約を結んだ企業の半分以上はアメリカに本社を置いている企業ですが、ヨーロッパや日本、中国、インド、オーストラリアにシンガポールの企業など、グローバルに契約を結んでいるようです。
アジア圏での契約国が多い背景には、昨年シンガポールに支社を設立したことがあげられます。
Audacyが計画する、低軌道(LEO)衛星を利用し、常時衛星通信を可能にするというサービスの開発は順調に進んでいるようです。
従来は、地上にあるアンテナを利用して衛星と通信していました。
しかし、3分の2が海で覆われている地球の場合、通信できる時間や範囲、リアルタイム性に限りがありました。
この問題の解決を目指しているのが、Audacyが開発しているデータ中継衛星による衛星通信サービスです。
使用したい衛星が通信可能な範囲外であっても、Audacyの衛星を経由して通信することで、使用したいの衛星と通信できるようになるのです。
そのため、リアルタイムに情報を確認したり、今までは通信できる容量に限りがあってダウンリンクできなかった衛星写真などについても、ダウンリンクしたりできるようになります。
言ってしまえば、地球を覆うように配置した地球観測衛星から常時情報を取得することができたならば、リアルタイムGoogle Earthを実現することが可能になるのです。
「この100億円の契約金こそが、常に衛星からの情報を得られることがとても必要なことだということを証明している」とAudacyの営業促進部のトップであるスレッシュ・レビー氏はコメントしています。
衛星と常時接続できるようにしたい、という要望は衛星運用者からよく聞こえてくるものです。
Audacyとは異なるアプローチで、日本のベンチャー企業であるインフォステラは、先日に地上のアンテナをシェアリングすることで、効率よく運用できるようにしようという試みのサービスを提供し始めました。
Audacyとインフォステラ、それぞれ手段は異なりますが、彼らが掲げる衛星通信網(衛星インターネット)のような、常時衛星と接続できるようにするサービスへの需要は、今後もますます高まっていくでしょう。
2.オーストラリアが民間の宇宙開発を後押し
Australia’s new space agency plans commercial focus
民間主導の宇宙産業を興すための、国の支援に関する話題です。
2017年の国際宇宙会議(IAC)で、オーストラリアは宇宙開発を行う組織を立ち上げることを発表しました。
今回は、立ち上げる組織の具体的な方針について発表したという内容です。
今年の10月2日のIACで、Australian Space Agencyのトップであるミーガン・クラーク氏は、オーストラリアの現在の宇宙産業が生み出している利益は、40億ドル程度と全世界の1%にも満たない規模であることを指摘したうえで、2030年までには宇宙産業による利益を3倍にする事を目標として提示しました。
さらに宇宙産業の発展を後押しする具体な施策として、民間企業に1000億円規模の投資をする考えを明らかにしました。
他国と積極的に協力関係を結び、宇宙産業を一変させ、更なる成長させる意向です。
宇宙産業の発達のためには、民間企業の活躍が不可欠とし、積極的な支援を行っていくようです。
IACに関連して、ほかにも各国の宇宙産業に向けた、連携や支援の話題が多く出てきていました。
企業誘致や技術力の強化に向けて、イギリス、カナダの宇宙機関との連携も発表がありました。
イタリアの企業であるSITAELは、オーストラリアの宇宙開発を支援することを表明しました。
同じような事例として、オーストラリアに先立ちベンチャー企業への支援で有名なルクセンブルクでは、新しく3つのアメリカのスタートアップがオフィスを設立するというアナウンスがありました。
1つ目は、ISSでモノづくりをする企業として知られているMade In Space、
2つ目は、月着陸機を開発しているAstroboticのスピンオフである、次世代型惑星ローバーを開発しているCubeRover、
3つ目は熱赤外の衛星写真解析に特化したデータ解析を行う会社であるHydrosatです。
ルクセンブルクは、宇宙開発のさらなる促進に向けて、9月12日にLuxembourg Space Agencyを設立し、宇宙関連企業に1億ユーロを投資することを表明しました。
国による民間企業の支援は、当然宇宙先進国であるアメリカでも行われています。
NASAは、低軌道の商用利用や小型衛星の開発支援について先日発表しました。
余談となりますが、低軌道の商用利用ということで話題となったNanoracksは、13のパートナーと協力して商用利用を進める考えを表明しており、その1つに日本の宇宙商社であるSpaceBDも含まれていました。
SpaceBDが枠組みに入っていることで、アメリカの低軌道の商用利用が進むだけでなく、日本の宇宙産業の活性化につながることが期待されます。
このように、国境のみならず、分野を越えた協力によって宇宙産業のさらなる発展が見込めそうです。
ちなみに、日本でも国による宇宙産業の支援は行われています。
年始に安倍首相は、宇宙開発を支援するため1000億の出資を行うことを表明しました。
この出資を通して、日本の企業への直接的な投資はもちろんのこと、海外の先進的な企業が日本にオフィスを構え、日本の企業と協力しながら日本の宇宙産業が成長することが期待されます。
3.JAXAとCSAが協力し、衛星データから環境問題解決を目指す
IACの中で合意された各国の調印内容の1つに、JAXAとカナダの宇宙機関であるCSAが環境問題を解決するために衛星データを用いて協力を行うというのがありました。
the canadian space agency signs multiple agreements at the 2018 international astronautical congress
この協力は今回が初めてというわけでもなく、衛星を利用することで地球全体の観測が可能となるため、環境問題解決に向けた宇宙機関同士の協力は世界中で行われています。
近年、持続可能な開発目標(SDGs)という言葉を様々なニュースで見かけるかと思います。
持続可能な世界を実現するためのゴールが17個設定されており、この中のいくつかをモニタするのに宇宙を利用すると効率が良いため、宇宙×SDGsという文言が良く見かけられます。
環境問題解決やSDGsというと、ビジネスとは対局の位置にあるようなイメージになるかもしれませんが、ビジネス化に関する検討は様々な組織で行われています。
衛星による環境観測データについては、G-portalなどオープンフリーで公開されているものも多くありますので、データを眺めながらどのようなビジネスが実現可能か、考えてみるのもよいでしょう。