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日本初衛星データプラットフォーム「Tellus」が生まれたその裏側

本記事では日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の裏側について解説しています。

日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」は経済産業省がさくらインターネットに委託し進めている政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業のプラットフォームです。

事業の一環として、10月の第1回衛星データ解析アルゴリズムコンテスト「The 1st Tellus Satellite Challenge」を実施、12月5日には、全国で衛星データサイエンティストを養成するラーニングイベント「Tellus Satellite Boot Camp」の開催を発表しました。

衛星データプラットフォームの開発だけではなく、コンテストとラーニングイベントの開催という、衛星データ利用者を増やす取り組みも行っているこのプロジェクトについて、なぜ今、プラットフォームを開発し衛星データの利用の促進が必要なのか。Tellus事業の背景や目的を改めて紹介します。

(1)世界と日本の宇宙産業市場規模

宇宙業界の国際市場は約38兆円、自動車業界は約200兆円

Tellus事業の紹介の前に、今の宇宙業界についてまずはおさらいしましょう。

  

現在、宇宙ビジネスの国際市場は約38兆円と言われています。ほかの業界と比べるとどれほどなのでしょうか。

自動車業界の世界市場規模は約200兆円~250兆円。うち日本の市場規模は約65兆円~70兆円。 

世界における約3割を日本が占めているという、日本が業界を引っ張っている状況がうかがえます。

【参考情報】

自動車業界の市場規模や動向・今後の将来性

業界動向・自動車業界

宇宙業界=ロケットというイメージが強いが、市場規模での割合は低い。 Credit : sorabatake

宇宙業界はというと、世界規模は約38兆円。うち日本国内の市場は1.2兆円です。自動車業界と比べるまだまだ小さいですね。38兆円がどの程度かというと、国内の不動産市場規模、生命保険の市場規模と同程度になります。

しかしながら、年々確実に市場規模の成長を続けている、今後市場の拡大が期待されている業界です。特に、ベンチャー企業の参入が目立っており、宇宙は”政府が主導で行う事業”という今までのイメージが変わりつつあるかもしれません。

【参考資料】

2018 State of the Satellite Industry Report

日本の宇宙産業を1.2兆円から2030年に倍増を目指す宇宙産業ビジョン2030

日本の市場規模約1.2兆円の内訳は大きく分けて、宇宙機器産業の約3500億円、宇宙利用産業の約8000億円となります。宇宙利用産業はさらに測位衛星、通信/放送衛星、リモートセンシング衛星に分かれています。

宇宙産業ビジョン2030のイメージ(宇宙ビジネスの動向と政府の取組より抜粋) Credit : 経済産業省宇宙産業室、内閣府宇宙開発戦略推進事務局

今まで、宇宙産業といえば、ロケットを作り打ち上げているといったイメージが先行していましたが、宇宙利用産業は昨今のAI、IoTといった新興技術の後押しとともに、第4次産業革命を進展される駆動力と期待されている分野となっています。

第4次産業革命の源になるのは「データ」と言われており、衛星によって得られるデータ、位置情報や地球観測データ、また、膨大なデータのやり取りを行う通信技術という面でも、宇宙利用産業に期待が高まっているのです。

今後、宇宙利用産業が拡大することで、必要な衛星が増え、衛星やロケットを製造する宇宙機器産業も相対的に市場が拡大すると期待できます。

宙畑が作成した宇宙利用マップ。左側が宇宙データを利用したビジネス事例まとめ、業界が多岐にわたっていることがよく分かります Credit : sorabatake

非宇宙産業が衛星を利用して事業の効率化を図ったり、ベンチャー企業が独自のビジネスを衛星データを使ったりなど、宇宙ビジネス業界は今多岐にわたり広がっています。

S-boosterやSpaceAppsChallengeといった、ビジネスコンテストやハッカソンなどを通して、新たなビジネスアイデアもどんどん生まれています。

【参考資料】

宇宙ビジネスの動向と政府の取組

第4次産業革命がもたらす変革

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(2)海外の衛星データ利用と日本のこれまで

衛星データ利用の課題と日本の現状

今後、他分野の市場規模の拡大にも期待されている宇宙利用産業ですが、以下のような3つの課題が存在しています。

Credit : sorabatake

● 衛星データのありかがバラバラ

研究利用に留まっているイメージが強い衛星データですが、民間が利用可能なものもすでにあります。しかしながら、データによって手に入れる場所や手段が異なり、利用されにくい状況になっています。

● 膨大な容量

衛星データは数十km~数百kmもの観測範囲を数mの解像度で撮影することができますが、1つの衛星データで数百MB~数GBのもデータとなります。多くのデータを扱うには、その分、データを保存しておくストレージが必要になります。

● 解析するためのツールと人材が必要

衛星データは主に画像データのため、データだけでは、ビジネスを生み出すことはできません。衛星データから読み取れることを実際のデータと重ねて判断することで、利用できる可能性が出てきます。

その専門性の高さゆえに、衛星データを解析できるツールに加え、ツールを扱える人材が必要な状態です。

 

上記3つの課題に加えて、日本においては、日本の衛星の数が海外に比べ少なく、即時性、継続性が低いという課題もあります。

Credit : sorabatake

日本の衛星は世界に比べると衛星の数が少なく、低軌道を飛んでいる地球観測衛星の場合、同じ場所を同じ条件で観測するのに数週間かかってしまいます。

海外ではコンステレーション衛星として、観測頻度を高めるなど即時性を高めているものもありますが、日本では継続的に衛星を打ち上げるという衛星プロジェクトがまだ少なく、後継機を打ち上げるまでに前号機の観測が途絶えてしまいかねないという現状もあります。

世界で広がる衛星データプラットフォーム事業

宇宙産業市場の約半数を占める米国では、NOAA(海洋大気庁)やUSGS(地質調査所)といった政府機関が、Amazon社やGoogle社といった大手IT事業者と協力し、 衛星データプラットフォームを構築しています。

Amazon社のAWSやGoogle社のGoogle Earth Engineといった衛星データプラットフォームでは、Landsatシリーズに代表される複数の衛星データをクラウド上で公開しており、Google Eearth Eengineは膨大な衛星データをいちいち各パソコンにダウンロードすることなく、衛星データを解析することができます。

EUや豪州のCSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)などの政府機関では、政府資金を投入して衛星データの公開と利用環境の整備を行い、産業利用を促進しています。

 

このように、衛星データをビックデータとして、クラウド上に保管し、解析までクラウド上で行うような環境の設備が各国で進んでいるのです。

 

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海外での衛星データ利用事例

海外での衛星データの利用事例を、「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備に関する検討会 報告書に記載のものから以下に紹介します。

Credit : さくらインターネット

●  建設情報提供

ドイツのスタートアップ企業のBuilding Raderでは、人工衛星Sentinelのデータと地上データ(地形情報や建設状況など)を組み合わせて、世界中の建物の建設・補修状況をリアルタイムで提供するサービスを構築しています。

建物のモニタリングをすることで、設置する家電用品の買い替え時の推測や、補修工事のタイミングなどを予測することができるなどビジネスチャンスが発生する可能性があります。

● 農業保険

米国のThe Climate Corporationでは、リアルタイムの気象データと土壌データを組み合わせ、収穫量や作物被害を予測する農業保険サービスを展開しています。

また、農業事業者がタブレットなどを用いて農地の状況をリアルタイムに確認できるようにすることを目指しています。

● 災害情報提供

英国NPO団体のZooniverseは、 Sentinelのデータと機械学習によって、被災地域の地図を作成するサービスを提供しています。ネパール地震の際は、オックスフォード大学の研究者によって、災害後の衛星データから被害地域を特定し、現地の救助担当者へ情報提供を行っています。

● マーケティング  

衛星データを用いて、定期的に地上の状況及び変化把握を行うことで、建設箇所の適地選定や期待集客数の予測・推計が可能になります。

米国のOrbital Insightでは、衛星データを用いて、車の数をカウントするアルゴリズムを用いたサービスを提供しています。

● 都市計画支援

英国のSterling Geoでは、衛星や航空機、地上データを組み合わせて、都市内の緑地の状況変化を把握するサービスを、地方自治体向けに提供しています。こうした情報は、行政管理者による効率的な都市計画の立案に貢献しています。

(3)日本初の衛星データプラットフォームが生み出す利益

2030年度の経済効果は約3400億円と試算

宇宙利用産業の課題や海外での状況を踏まえ、日本でも衛星データプラットフォームを構築した場合の経済効果の試算が行われました。

衛星データプラットフォームができた場合に利用したいかどうかを様々な企業にアンケートを実施し、経済効果を試算しています。

「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備に関する検討会 報告書」の図より引用
Credit : 経済産業省 三菱総合研究所により作成

この結果から、2024年度には約1,000億円、2030 年度には約 3,400 億円の経済効果があると試算されています。

「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備に関する検討会 報告書」の図より引用 Credit : 経済産業省 三菱総合研究所により作成
「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備に関する検討会 報告書」の図より引用 Credit : 経済産業省 三菱総合研究所により作成

衛星データプラットフォームがもたらす社会的利益

上記で試算された経済効果は衛星データのみによって生み出されるわけではありません。地上で観測されたデータ、企業が独自に持っているデータなど、既存のデータもたくさんあります。

扱えるビッグデータの1つとして衛星データが加わり、ほかのデータとの組み合わせによって、経済効果をもたらされます。また、社会的にも以下の利益を生み出すと想定されています。

●  国民生活の安全・安心への貢献  

 災害時の被災状況の把握、道路・鉄道・上下水道などの社会インフラの管理の効率化

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● 新規ビジネス・産業の創出  

 衛星データを活用した新規ベンチャーの出現

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● データ解析によるアクション判断の効率化

 データ解析に対する人材コストを削減し、作業効率向上

「農業x衛星」「漁業x衛星」など、農業、漁業における効率化はすでに始まっています。

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● 地方の課題解決への貢献

  地方の大学や企業も独自のデータと組み合わせ地方創生へ寄与

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● 学術利用による人材育成

  大学などでの利用の幅が広がり、データ解析人材の育成が可能

衛星画像解析が変わる!? 「Google Earth Engine」の何がすごいのか

実際に早稲田大学など大学で衛星データ解析を行うゼミでも衛星データプラットフォームが利用され始めています。

(4)日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」

経済効果をもたらすプラットフォームになるために

冒頭に紹介した「宇宙産業ビジョン2030」への貢献にも期待される衛星データプラットフォームですが、経済効果を生み出すには、プラットフォームの構築だけではなく、事業が成立するエコシステムを形成していく必要があります。

7月に記載された「Tellus」事業の発表会で紹介しましたが、Tellusでは、委託事業者のさくらインターネットとともにこのプロジェクトを推進していくアライアンスを組成しています。

Tellus事業を支えるアライアンス企業と役割 Credit : さくらインターネット

解析できるツールをおくためのクラウドサービスを持つさくらインターネットだけでなく、データを提供する企業、データ利用を促進する企業、人材を育成する企業、生まれるビジネスに投資する企業など、多くの企業の協力体制が構築されています。

今までの宇宙利用産業事業者の中だけではなく、宇宙にかかわっていなかった企業がこの事業の目的に賛同し、業界を超えてプラットフォームの利用を促進していくことで今までにないイノベーションが生まれていくはずです。

Tellusで構築しようとしているプラットフォームのイメージ Credit : さくらインターネット

Tellusとは、概要図にあるようなプラットフォームを中心にユーザーが集まり、それぞれの利用者に、データやアルゴリズム、アプリの販売やクラウド環境の提供などビジネスが回る場所を構築する事業であるといえます。

具体的なビジネスモデルとしては、ストレージ、解析機能、解析ツールへの課金機能などを検討しています。

ビジネスモデルのイメージ
Credit : さくらインターネット

今年度のプラットフォームのオープンに向け開発を進めていますが、開発と並行して進めているのが、「データコンテスト」と「ラーニングイベント」です。

10月に第1回の衛星データ解析アルゴリズム開発コンテスト「The 1st Tellus Satellite Challenge」を実施、1~2月には全国で衛星データサイエンティストを養成するラーニングイベント「Tellus Satellite Boot Camp」を開催します。

従来までの衛星データ解析セミナーでは、データの画像化や解析結果の読み取りまでに留まっていました。しかし、Tellusのコンテストやラーニングイベントでは、衛星データを機械学習に組み込んで、解析結果の判断を行うアルゴリズム開発までを目的としています。

(5)まとめ

Tellus事業は3年間経済産業省から事業委託という形で運営が行われ、2021年以降民営化する計画です。

先行するプラットフォームが欧米にすでに存在する中、日本のプラットフォームとしてポジショニングをどうとるのか、長年課題となっていた衛星データ利用のハードルを下げることができるのか、衛星データを核にした宇宙ビジネスのエコシステムを形成することができるのか、Tellus事業の今後の取り組みに注目ください。