これがSAR画像の最先端!ICEYEの画像をTellusでいじってみた!
宇宙ビジネス界隈で、昨今一層の盛り上がりを見せているSAR(合成開口レーダー)ですが、世界的なトップランナーといえば、フィンランドに本社を置くICEYEという企業が有名です。 同社は最近、SARで25cmの解像度を達成したというニュースが世間を賑わせました。
記事作成時から、Tellusからデータを検索・取得するAPIが変更になっております。該当箇所のコードについては、以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/access/traveler_api_20220310_
firstpart.html
2022年8月31日以降、Tellus OSでのデータの閲覧方法など使い方が一部変更になっております。新しいTellus OSの基本操作は以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/tellus_os/start_tellus_os.html
宇宙ビジネス界隈で、昨今一層の盛り上がりを見せているSAR(合成開口レーダー)ですが、世界的なトップランナーといえば、フィンランドに本社を置くICEYEという企業が有名です。
同社は最近、SARで25cmの解像度を達成したというニュースが世間を賑わせました。
一般的にSAR画像は光学画像に比べて解像度が悪いと言われてきましたので、この発表は衝撃的だったと言えるでしょう。
しかしながら、ICEYEはまだスタートアップの民間事業者のため、一般の方が無償で画像に触れることは難しく、実際どのくらいの画質なのか、どのくらい活用できるのか、まだまだ広く知られていないと思います。
ですが、そうしたユーザ側の思いに応えるかのように、ICEYEは最近、無償のサンプル画像を大量に公開するようになりました!
というわけで、今回は、それらのサンプル画像のいくつかを、Tellus環境で画像化してみたいと思います!しかも、その地点の他のSAR画像(ALOS-2)と比較して、ICEYEの実力のほどを、じっくりと確かめてみたいと思います。
使用したコードも載せておきますので、ぜひ各自でICEYEの画像に実際に触れてみていただければと思います!
(注意)今回は、ICEYEのHPからデータをダウンロードし、Tellus環境にアップロードして使用します。TellusのAPIで画像を取得することはできませんので、ご注意ください。
まずはICEYEの基本情報を押さえよう!
せっかくなので、まずはICEYEという企業について、簡単に紹介しておこうと思います。これまでの記事でも取り上げられていることの多いICEYEですが、あらためて基本情報をおさらいしましょう。
また、衛星本体の画像をみてわかる通り、初号機から大きく見た目が変わっていますね。衛星をアジャイルにアップデートしていくというのは、さすが今どきのスタートアップ企業という感じがしますね。
ICEYEのHPからサンプル画像をダウンロードしてみよう!
ではさっそく、ICEYEのサンプル画像を取得します。以下の手順で誰でも簡単にダウンロードできます。
①HP(https://www.iceye.com/downloads/datasets)へアクセスする
ここでは、日本のデータをダウンロードしてみましょう。
②必要事項を記入する
(記入後特にメールが送られてくることもなく、アカウント作成や審査のための待ち時間はない)
③ダウンロードリンクをクリックする(zip形式のファイルがダウンロードされます)
これでダウンロードできました。簡単でしたね。
早速ダウンロードした中身をチェックしてみましょう。
Tellusにアップロードして画像を確認してみよう!
ダウンロードしたファイルを可視化したり、画像処理をするためには、なんらかのGISアプリケーションを使う必要があります。ICEYEの公式HPでは、ESAが開発したSNAPというソフトと互換性があるとのことですが、せっかくなので、日本の衛星データプラットフォームであるTellusでデータを処理してみたいと思います。
これも基本的にはとても簡単です。以下の手順でやってみましょう。
①ファイルをドラッグ&ドロップでTellusにアップロード
ファイルのサイズが250MB程度なので、そこまで重たくないです。
細かいところですが、ALOS-2の標準データは、7GBくらいあることもあり、なかなか専門的なサーバを持っていないと、扱いづらいですね。今後のプロダクトのあり方として、もっと小分けにして扱いやすくしてほしいと思っています。
②Tifファイルの読み込み・画像化
from osgeo import gdal, gdalconst, gdal_array
import os
%matplotlib inline
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
offx = 0
offy = 0
cols = 100
rows = 100
tif = gdal.Open(os.path.join('.','ICEYE_GRD_SL_21787_20200214T053221.tif'), gdalconst.GA_ReadOnly)
img = tif.GetRasterBand(1).ReadAsArray(offx, offy, cols, rows)
img = np.flipud(img)
plt.figure()
plt.imshow(img,cmap='gray', vmin = 0, vmax = 255, interpolation = 'none')
plt.imsave('sample.png', img,cmap='gray', vmin = 0, vmax = 255)
出力結果は以下の通りです。
これだけではよくわからないので、保存した画像を開いてみましょう。
かなりキレイに写っていますね!この画像は新宿駅を中心としていて、都庁や新国立競技場などがばっちり確認できます。
サンプル画像をたくさん見てみよう!
それでは、上記のサンプルコードを使って、他の画像もいくつか紹介していきます。
◇チャンギ国際空港(シンガポール)
空港は衛星でモニタするには格好のエリアになりますが、SARでもここまでキレイに写るようになりました。拡大してみると、航空機の形状までは特定できませんが、ターミナルに停泊中の機数をカウントすることくらいはできそうですね。
◇アテネ(ギリシャ)
山の起伏が美しく写っていますね。山の中腹をズームしてみましょう。
中腹の山道がはっきりと確認できますね。登山ルートや車道がわかれば、観光業や災害対策について分析ができそうですね。
◇スエズ運河(エジプト)
世界の海運の要であるスエズ運河では、通過する船がばっちり写っていますね。沖合で密集している船をズームしてみましょう。
この通り、かなりくっきりと捉えられています。これだけで船種を特定することは難しそうですが、よくみると航跡波も見えていますので、船の進行方向や速度についても分析できそうです。
日本のSAR画像と比較してみよう!
さて、ここまでICEYEの画像を見てきましたが、ここからは日本のSAR衛星の画像と比較して、どのような違いがあるかを見ていきます。
Tellusでは現在、JAXAが開発したALOS-2と、NECが開発したASNARO-2のSAR画像を提供しています。
ALOS-2のデータは、こちらの記事を参考に、プロダクトID(ALOS2275312860-190629)を使用しています。
【コード付き】TellusでPALSAR-2のL1.1の 画像化にチャレンジしてみた
ASNARO-2のデータは、こちらの記事を参考に、新宿駅を中心に、複数のタイル画像を結合して使用しています。
【ゼロからのTellusの使い方】大きなタイル画像を取得するには?地図タイルを扱う上で知っておきたいTips4選
電波があたる角度が異なるので簡単な比較はできませんが、やはりICEYEの方が解像度が高く、ビルの階層まで認識できそうです。
ICEYEとALOS-2はどっちがすごいのか?
ところで、ICEYEはいわゆる小型衛星であり、大型衛星であるALOS-2よりもキレイに見えるというのは不思議ですよね。そこで、この両者の特徴について比較してみました。
ここで重要なことは、SARの場合、解像度はアンテナが小さいほど良くなるので、小型衛星でも高い解像度の画像が取得できることです。この不思議なSARの仕組みについてはこちらで解説しましたのご参照ください。
アンテナが小さいほど解像度が高いってホント?SARの謎を数式無しで徹底解明!
一方で、大型衛星の特徴である広範囲の観測については、小型衛星の場合でもコンステレーション(複数の衛星で観測するネッとワーク)を組むことである程度カバーできるので、大型衛星に対抗することができるのです。
ただし、小型衛星にも弱点があります。
干渉解析が苦手
干渉解析は時期の異なる複数のSAR画像から、数センチの地盤沈下や隆起を検出する技術です。観測に用いる電波のわずかな位相のズレを見ているため、電波の発信元である衛星自身の位置も画像間でぴったりと合っている必要があります。小型衛星には軌道を精密にコントロールする機能を持っていないことが多く、干渉解析は難しいとされています。
ICEYEでは、観測に用いる電波としてXバンドと呼ばれる周波数帯の電波を使っています。Xバンドは、ALOS-2が使っているLバンドよりも波長が短く、電離層や水蒸気による電波のずれの影響を受けやすいため、干渉させにくいという理由もあります。
偏波特性を利用した解析が苦手
SAR画像には「偏波」という機能もあります。簡単に言うと、電波の振動方向のことで、送信と発信の組み合わせで区別されます。
この偏波特性を利用した解析も、現時点では大型衛星の方が勝っています。小型衛星でも原理的には搭載可能ですが機器の追加が必要となるため、多くの小型衛星では単偏波に機能を絞っているようです。
このように、一概にICEYEのようなXバンド小型SAR衛星の方が、従来の大型衛星よりも優れているとは言えず、目的に応じて使い分けをする必要があります。
ちなみに、ここで紹介した、「干渉解析」「偏波解析」を実践してみたい方はこちらの記事で紹介していますので、ぜひチャレンジしてみてください!
【コード付き】地盤の沈降が分かる干渉SAR解析をTellusでやってみた
SAR画像の偏波を使った構造物推定(偏波の成分分解)
まだまだすごい!ICEYEが発表した新事業『SAR Video』
最後に、ICEYEが最近発表した驚きの事業計画を紹介します。2020年3月、SARによる動画サービスを始めると発表しました。そのプロモーション動画が公開されていますので、ぜひご覧ください。
動画では、船、航空機、そして車まで、しっかりと動きを捉えていますね。
SARでどうやって動画を作るのか、不思議に思われる方も多いと思いますが、実は意外と簡単なんです。
SARは、一般に5秒から20秒くらいの時間、同じ観測領域に電波を当て続けて一枚の画像を作ります。ICEYEのスポットライトモードの場合、20秒です。この20秒間のうち、例えば半分の10秒分で1枚の画像を作ることもできます(ただし解像度が半分に落ちます)。
その10秒分でつくる画像を、少しずつ時間をずらしてたくさん(例えば600枚)作れば、結果的に30fps(600枚/20秒)の動画ができます。
光学衛星でも、近年動画の撮像技術が進んでおり、動画から得られる対象物の速度やベクトルといった新たな観測情報を使ったデータ利用も進んでいます。ICEYEもこの流れを意識していると思われます。このように、SARによる地球の可視化技術には、これからもさまざまな発展が期待できそうです。
むすび
いかがでしたでしょうか?SAR業界のトップランナー、ICEYEの実力を垣間見ることができたのではないかと思います。
今回のように、サンプル画像に実際に触れてみると、その衛星のことをグッと身近に感じることができ、その画像で何ができて、何ができないか、自分の事業や研究にどう生かせるか、具体的に考えを進める大きなきっかけになりますよね。
ぜひとも、日本の衛星企業も、積極的にサンプルデータを公開して、ユーザへの積極的なアプローチを心掛けてほしいと思っています。
ちなみに、日本国内でも、小型&XバンドSAR衛星は注目されており、すでにASNARO-2というSAR衛星を打ち上げた実績のあるNEC、そしてスタートアップ企業のSynspective、九州を拠点とするQPS研究所などが有名です。彼らの動向にも引き続き注目していただければと思います。
ASNARO-2の画像はTellus OS上で公開していますので、ぜひご覧ください。
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