地域課題解決に、衛星データはどう活かせる?コロナ禍で関心が高まる「シビックテック」の第一人者 Code for Japan 代表 関治之さんに聞く
「シビックテック」という言葉を知っていますか?シビック(civic=市民)とテック(Tech=テクノロジー)から作られた語で、市民自らが、技術を使って社会課題を解決しようという取り組みのことを指します。
「シビックテック」という言葉を知っていますか?シビック(civic=市民)とテック(Tech=テクノロジー)から作られた語で、市民自らが、技術を使って社会課題を解決しようという取り組みのことを指します。
シビックテックは、いまや世界的に広がっている動きであり、よりよい社会を作る上で少なからぬ役割を果たすようになっています。そしてその際のカギとなるのがオープンデータの利用です。衛星データをオープンに提供するTellusも、今後シビックテックにとって重要なデータ供給のプラットホームになっていくだろうと考えられます。そこで今回は、日本のシビックテックをけん引する存在であるCode for Japanの代表である関治之さんに、Code for Japanや日本のシビックテックの現在について、そして、その中における衛星データの可能性などについて伺いました。(インタビュアー 近藤雄生)
Code for Japanとは:市民が自ら、テクノロジーを使ってさまざまな社会問題を解決していく「シビックテック」の取り組みを広め、サポートする活動を行う団体。モットーは「ともに考え、ともにつくる」。2013年10月に関治之さんを代表として設立された。
それぞれ独立したCode for〇〇が、緩やかにつながるネットワーク
近藤:今日はよろしくお願いします。まずは、Code for Japanの仕組みから教えてください。全国各地に「Code for ○○」という団体があり、Code for Japan とは、パートナーという形で緩やかにつながっているとウェブサイトにありますが、具体的にはどのような関係にあるのでしょうか。
関: 各Code for 〇〇(以下、Code for)は、それぞれの地域においてシビックテックの活動をする各々独立した団体です。立ち上げるのにCode for Japanの許可などもいりませんし、Code for Japanとは別にそれぞれ自由に活動しています。その前提のもと、申請があれば、Code for Japanとパートナーシップを結んで、「ブリゲード(Brigade:「旅団」などの意味)」の一つになってもらう形でネットワークを作っています。私たちCode for Japanは、各ブリゲードをつなぐハブ的な役割を担っている感じですね。ちなみに、パートナーシップを結ぶにあたっては、いわゆる営利活動ではないこと、オープンに誰でも参加できること、3回以上イベントを開催しているなどの実績があること、という3点だけを条件にしています。
近藤:なるほど。Code forはそれぞれ独立した団体で、希望があって条件を満たしていれば、Code for Japanのネットワークにつながるブリゲードの一つとして活動できる、ということですね。各Code forは、立ち上がる時、それぞれ、あらかじめ取り組むべき課題や問題意識を持っているのでしょうか。
関:明確な問題意識を持って始まるところと、そこまで明確なものはないけれど、まずは地域でコミュニティを作りたいという意識で始まるところと両方ですね。また、各ブリゲードに対してCode for Japanはサーバー利用のサポートなどはしますが、活動資金はそれぞれが自分で調達する必要があります。そのため、状況に応じてあまりお金を掛けずに工夫して活動しているところが多いですね。
近藤:Code forにはどんな方が参加されているのですか。また、それぞれ規模はどのくらいでしょうか。
関:いろんな立場の方がいます。もともと何らかの地域活動をしていた人、シビックテックを入り口にして何か地域にも貢献したいと思った技術者、あとは、UターンやIターンでその地域に住むようになって、何かできることがないかと考えている方、など。行政の方も結構いますね。規模については、Code forごとにばらつきがあり、私たちも全部を把握できているわけではないのですが、中心的に活動している人がそれぞれ3~10名くらいずついるイメージですね。
<続けていく上では、楽しい場づくりが大切>
近藤:現在、Code for Japanのウェブサイトには85のブリゲードが掲載されています(2020年12月現在。「特化型チーム(Code for Catなど)」は除く)。2013年にCode for Japanが設立されて以降、どのようなペースで広がっていったのでしょうか。そして広がった背景を教えてください。
関:ここ10年ほど、世界各地でシビックテックの動きが盛り上がってきました。“Software is eating the world”という言葉が2009年ごろに広まったように、そのころから、あらゆるものにテクノロジーが絡むようになり、行政や街づくりにもテクノロジーの視点が必要だという意識が広く共有されるようになったことが背景にあります。その一方で、行政や公的機関はテクノロジー面で遅れているという傾向が全世界的にあるため、自分たちが動かなければと考える人たちが出てきました。そうしてシビックテックの動きは必然的に日本にも広がっていきました。
ブリゲードの数の推移としては、Code for Japanを設立した翌2014年に一気に30~40くらいまで増え、一度落ち着いてから、2016年ぐらいに、メディアで紹介されたりする機会が増えたのをきっかけにまたぐっと増えました。それからは年に数件ずつ増えるような具合で、現在の数に至っています。
近藤:そうして全国的にCode forのパートナーが増えて、ネットワークが広がっていく中で、Code for Japanがそのハブのような役割を果たすとのこと。Code for Japanの具体的な活動内容について教えてください。
関:Code for Japanの設立からまだ間もなかった2013年や14年ころは、各ブリゲードに対して、アイデアソンやハッカソンのやり方を説明する動画を作って配信したりしていました。いまは、イベントをやりたいというブリゲードに対して、適した講師の方を紹介したり、また、各ブリゲードの活動について学ぶために、たとえば今回は新潟で、というように場所を決め、その地域に集まって、リージョナルミートアップという勉強会のようなものをやったりしています。その他に、シビックテックに興味のある人や、自分たちでブリゲードを立ち上げたいと考えている人にむけて、毎月2種類のイベントをやっています。1つは、ゲストを呼んでのトークイベントです。もう1つは、「ソーシャルハックデー」と言って、プロジェクトをやりたい人や実際にやっている人がそれぞれ自らの取り組みについて話して、仲間を募り、みなで手を動かして実際にサービスを作ろうという1dayハッカソンです。
近藤:いろんな取り組みによって、各ブリゲードの活動をサポートされているのですね。その結果として、ネットワーク全体が盛り上がっていくのだろうと想像していますが、特に活発に活動しているブリゲードとしては、どのような例がありますか。取り組みも含めて教えてください。
関:そうですね、いま思いつくところでは、千葉県流山市のCode for NAGAREYAMAや大阪府のCode for Osakaは、活発に動いているなと感じます。Code for NAGAREYAMAは、2020年4月、新型コロナウィルス感染症の拡大が最初に大きく進んだころに、テイクアウト可能なお店の情報を見ることができる「流山テイクアウトマップ」を作って公開したり、2019年10月には、当時大きな被害を発生させていた台風19号に関する情報をまとめた特別ページを作るなどしていました。千葉県は最近コミュニティが増えていて、昨年Code for Japanサミットのホスト地域になり、千葉市長にも登壇いただいたりしたこともありました。
Code for Osakaは、最近NPO法人化もしたのですが、2019年度に大阪スマートシティアイデアソンを開催したり、大阪府公式の新型コロナウィルス対策サイトの構築・運営を担ったり、といった取り組みを積み重ねて、2020年の夏には、大阪府とスマートシティ推進を目的とした事業連携協定を締結しています。本格的に行政との活動を始めている例ですね。Code for Kanazawa もだいぶ前から自治体と一緒にイベントやワークショップを開催しています。
https://www.slideshare.net/hal_sk/cf-j
Code for Osaka や Code for Kanazawa のように行政とがっちり組んで仕事をしているブリゲードはまだ多くはないですが、それぞれが地域ごとに、たとえばオープンデータに関する勉強会やワークショップをするなどして、学びながら、できることに着手している感じですね。
近藤:活動が活発な地域の特徴や傾向みたいなものはあるのでしょうか。また、そのような自主的な活動を継続的にやっていくのは容易ではないように思うのですが、各ブリゲードの活動を見ていて、長く続けていくにはこういうことが大切だなと感じられることはありますか。
関:まず、活動が活発な地域については、いろいろな要素が絡み合っていると思います。中心となってやっている人たちのそもそもオープン性やセンス、情報発信の力と言ったことも大きいですし、また、市民が本当に参加したいと思えるような取り組みをやっているかどうか、あとは行政側のスタンスも関係してくるように思います。
一方、確かに途中で続かなくなって消滅してしまうブリゲードもありますね。長く続けていくには、若い人たちをはじめ、いろんな立場の人を集めて頻繁に新陳代謝していくことが大切だと感じます。
また、プロジェクトベースで始めた場合、そのプロジェクトがひと段落すると、そのままブリゲードとしての活動も止まってしまうことがあるので、明確な目的はなくても、とりあえずその場にいる人たちが楽しいと思える場を作ることも大切ですね。例えば、Code for Shigaなんかは、バーベキューなどのイベントをよくやっているんですね。そこにいろんな人が参加する中で、わりと真面目な話にもなって、「今度のお祭り大変だよね。私たちで何かできないかな」みたいなアイディアが出て、そこからプロジェクトが始まったりするんです。
<コロナ禍で高まる、市民の意識>
近藤:関さんは、東日本大震災が発生した折に、エンジニアとして持っている技術を使って社会に貢献したいと考えて、被災地の復興支援のためのプラットフォーム「sinsai.info」の立ち上げに携わられました。その活動をきっかけに、シビックテックを実践しているCode for Americaのことを知り、その協力を得て、Code for Japanを立ち上げたとうかがっています。その経緯については、すでに他のところでも話されていたので今回は別の観点からお尋ねしますが、まず、Code for AmericaとCode for Japanは、基本的に同じような立ち位置の組織と考えてよろしいでしょうか。
関:そうですね。アメリカも、シビックテックを実践するCode forが各地にあって、そのハブ的な存在としてCode for Americaがあるのは、日本と同じです。さらに言えば、Code for America、Code for Japanのみならず、同様な団体が現在、世界に30以上あります。そしてその全世界的なネットワークのハブ的な役割を果たす団体としてCode for Allがあります。
近藤:なるほど、日本国内の、Code for JapanとCode forの関係が、世界規模では、Code for All とCode for(国または地域)という関係としてあるわけですね。このことからも、シビックテックの世界的な広がりが感じられます。ところで、各国のCode forのあり方を比べたときに、何か顕著な違いや、その違いから見えてくる日本の特徴のようなものはありますか?
関:国によってそのあり方は大きく違いますね。ヨーロッパは、市民がコミュニティを作って活動するのは当たり前なので、Code forも社会によく溶け込んでいます。アメリカもやはり、しっかりと主張する印象です。また、アジアでは、台湾なんかはめちゃくちゃ盛り上がっている一方で、マレーシアなど、市民側の活動が制限されている国や地域もあります。
そうした中で日本は、欧米などに比べて市民側の独立意識が低く、いわゆる「お上意識が強い」のを感じます。やはり日本は、デモクラシーに対しての意識が弱く、自分たちで声を上げて社会を変える、とか、行政に対して物申すといったことに消極的なんですよね。また、日常の中で政治に関わるような活動や発言をすると「意識高い系」などと揶揄されたりもしますが、そういう日本的な感覚はシビックテックの活動にも表れているように感じています。
その点は変わっていった方がいいという気持ちがぼくにはあるのですが、そんなこととも関連して最近、「DIY都市」という考え方を広める活動を始めています。つまり、Do It Yourselfで都市を作っていこうという考え方で、その地域に暮らす人や関係のある人が主役になって、自分たちで手を動かして都市を作ろうということです。行政に頼るのではなく、自分たちが主体になって町づくりをする。その意識は大切であり、これから広く呼び掛けていきたいと思っています。
近藤:自らがより主体的に動くこと。その重要性は自分もとてもよく感じます。一方、そのような中で、2020年はコロナ禍に見舞われ、なかなか動くのが難しい時期が今も続いているわけですが、Code for全体の活動として、何かその影響はありますでしょうか。
関:そうですね、具体的な数字で言えば、Code for JapanのSlackに登録している人は、コロナ前は500人ぐらいだったのが今は4,300人を超えているんです。コロナに対するこれまでの行政の動きを見ていて、おそらく多くの人が「行政頼りにしているだけでは駄目だ、自分たちで動かないといけない」と感じたのだろうと思います。つまり、コロナ禍を機に自ら動こうとする人が増えていると考えられ、その点では、いい変化が起きているように感じています。
また、オンライン化の普及で、東京一極集中から地方分散の流れが加速してきた中で、東京や海外で働いていた人が地元などに戻って、「あれ、ここはもっとこうすれば、よくなるのでは?」と感じて新しい活動を始めるというケースも増えています。私たちは、そうした人たちの受け皿の1つにはなっているのかなと思います。東日本大震災のときも、社会起業に目覚めた人がすごく多いのですが、今も、それと似た流れを感じます。
<住んでいる人たちの願いが重要>
近藤:たまたま先日、別の取材で岡山県西粟倉村に行く機会があり、「西粟倉村むらまるごと研究所」について代表の方にお話を聞きました。西粟倉村は、人口1400人余りながら、移住者が多いことで知られる村で、この研究所は、行政と民間が一緒になって、技術を利用して地域を変えていこうというコンセプトで2020年の夏に設立されたものです。そして調べていたら、その研究所のCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)が関さんであることに気が付きました!この研究所は、知るほどにCode for Japanと根底の思想が共通しているように感じたのですが、関さんにとって、このお仕事も、Code for Japanの活動の1つなの感じでしょうか。
関:この仕事は個人として受けており、Code for Japanとは直接関係はありません。ただ、自分の中ではつながっています。僕自身は、東京生まれの東京育ちなので、地域の課題って、いろいろ言いながらもあまりよく分かっていないという自覚があります。でもこれまで、神戸市を始め、複数の自治体と仕事をしてみて、実際に行政の立場に立つと課題が整理されて見え、また、リアルな現場で学ぶことができるのを実感してきました。そうして自治体の仕事で学んだことはその後さまざまな形で生かせるので、その地域に自分が役立てそうなことがあれば、何かできたらと思って引き受けています。
特に西粟倉村については、小さい自治体で何ができるかって、僕の中でも1つのテーマだったので、力になりたいという気持ちが強くありました。よく「うちは小さい自治体だからITとかはあまりね……」という声を聞くのですが、小さいからこそ、むしろITを使ったほうがいろいろできることがあると僕は思っています。1,400人という小さい規模の村でどのようなことができるのか。西粟倉村の仕事を通して、見えてくることは多いのではないかと思っています。
近藤:具体的にはいまはどのようなことをされている段階なのでしょうか。
関:研究所の設立が7月で、まだ本当に手探りしている状況なのですが、先日、ワークショップをさせていただいて、そこで地域のいろいろな話を聞きました。そのとき、村で50年間育ってきた森をさらに50年管理して上質な田舎を子孫に残すことを目指す「百年の森林(もり)構想」や、「生きるを楽しむ村」という村のスローガンのようなものを聞いて、やはりここはビジョンがいいなと感じました。特にもともとから住んでいるという方たちが、こういう村になってほしいという具体的なイメージを持っているのを聞いて、すごくいいなと。自分は、オープンデータ化というところでいろいろと提案したりしていますが、やはり、そのような地域の願いというか、そういうものが何よりも大事なんだなと感じています。
近藤:地域ごとに問題は違うにしても、やはりそういう内的なモチベーションが大切だというのは、どこでも共通しますよね、きっと。
関:そうですね。やはり地域の人たちがどういうふうにしていきたいのか、というところがちゃんとないと、地域は良くならないというのは本当に実感します。それぞれの地域のブリゲードも、やはり自分たちで盛り上がっていくことが何よりも大切なんだと思います。
<シビックテックに衛星データを生かす>
近藤:地域課題解決という視点で考えたとき、衛星データの可能性について、関さんはどのように考えていますか。実際に使われた経験などありましたら、教えてください。
関:この前、まさに西粟倉村で、「100年の森林構想」の関連で生まれた「百森」という会社さんとお話したのですが、彼らが、森林を管理するのに航空写真を使っていました。写真から木の種類や太さまでわかるらしく、そこに行政が持っている私有林の区域のバウンダリー(境界)のデータを重ねると、個人が持っている山の資産価値が計算できるんです。そして、このまま放っておくと今後資産価値がどう推移するか、逆に今あるスギを切って別の木を植えた場合はどうかといったことを計算した上で、持ち主から借り上げてまとめて管理する、ということをやっているんですね。
衛星写真を使っても、何かこのような活用方法があるのではないかなと考えています。やはり衛星データは、広い視野でものごとが見られるという点で面白いですよね。あと、同じ場所に関して時系列でデータが残っていくというのも、強みですよね。
そうした特徴を生かすことで、他のデータからは気づけなかった地域の特性みたいなものが掴めるかもしれないと想像しています。そしてたとえば、衛星データ的に似通った地域同士を比較し、その両者の「若者の流出量」の違いなんかを比べてみる。そういうことが、政策決定の際に新たな糸口になるかもしれないなと思っています。まだ自分は衛星データについて知識が十分ではないので、ざっくりとした印象ではあるんですけれど。
百森さんの企業紹介動画
近藤:確かに、他のデータと組み合わせることで、いろんな可能性が想像できますね。 Code forの中で既に衛星データを使っているという事例はありますか。
関:Code for の中で、実際に衛星データを使ったという事例はまだ知りませんが、先日、Code for Sagaの代表の牛島清豪さんが、経産省と一緒に衛星データ活用のアイデアソンをやったということを聞きました。Code for Japanも、データ利用に関して、行政向けの勉強会や一般の人向けのワークショップもやっているので、そういう中で今後、衛星データについて扱うというのもやってみたいなと思っています。
行政向けのワークショップ
https://www.code4japan.org/activity/consulting
近藤:ありがとうございます。ワークショップもぜひやっていきたいです!Code for Sagaでのアイデアソンの結果も気になるところですね。地域の課題の当事者となって取り組みを行うCode forチームと一緒に、宙畑編集部でも、衛星データを使った地域課題解決アイデアを検討していきたいと思います!貴重なお話を、どうもありがとうございました!