ニュース 2020/12/28

Voyager Space HoldingsがISSの商業利用に取り組むNanoracksを買収【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/12/21〜12/27】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新！

ISSの商業利用に取り組むNanoracksがVoyager Space Holdingsの傘下へ

2019年以降、宇宙企業の買収を多数実施しているVoyager Space Holdingsが、国際宇宙ステーション（ISS）の商業利用事業に取り組むNanoracksの親会社であるX.O. Marketsの過半数の株式を取得したことを発表しました。

2009年に設立されたNanoracksは、ISSでの実験のサポートや小型衛星放出機構の開発、商用エアロック（宇宙飛行士が船外活動のために船外に出る際に経由するモジュール）の開発など、ISSの商業利用に取り組んできました。

2016年5月のNASAとの契約後、Nanoracksが開発に注力してきた商用エアロックモジュール ”Bishop”が、今月初めにSpaceXのFalcon 9でISSへと運搬され、12月19日にCanad Arm2というロボットアームでISSに取り付けられました。

世界初の民間エアロックであるBishopは現在のエアロックの5倍のペイロード容量があり、より大型の衛星の放出や船外活動に使用する機器の保管など、今後の活用が期待されております。また、宇宙用作業代替ロボットを開発するGITAI Japan株式会社はBishopの内部で単腕型作業ロボットS1の技術実証を2021年に行う予定です。

Nanoracksが開発したエアロックBishopが実際にISSに設置されている様子 Credit : NASA

Nanoracksは2020年9月、投資銀行のCambridge Wilkinsonと2000万ドルのシリーズBラウンドを検討していると発表していました。この点に関してNanoracksの広報担当のAbby Dickes氏によると、シリーズBラウンドの資金調達を実施する代わりに、Voyagerとの長期的な事業成長に挑戦することを選択したとのことです。

NanoracksのCEOであるJeffrey Manber氏は、Voyagerの傘下に入ることについて以下のコメントを出しています。

Over the past decade my team and I have worked to grow Nanoracks from a garage-based start up into the first commercial space company with customers. With Voyager, we’re confident in our expanded team’s ability to continue to deliver game-changing technology industry-wide.
（訳：過去10年間、私達はNanoracksをガレージベースのスタートアップから顧客を持つ最初の商業宇宙企業へと成長させるために努力してきました。我々はVoyagerと共に、業界全体に画期的な技術を提供し続けることができると確信しています。）

4回目の宇宙企業の買収となるVoyager Space Holdings

2019年に創業したVoyagerは、2019年10月にAltius Space Machines、2020年7月にPioneer Astronautics、2020年11月にThe Launch Companyを買収しており、今回のNanoracksの買収が4回目となります。

宇宙産業における投資家であるDylan Taylorが創業したVoyagerは、ベンチャーキャピタル(VC)の支援とは違ったプロセスで宇宙企業を支援していくと表明しています。

VoyagerのCOOであるMatthew J. Kuta氏は、今年5月のSpace Newsへのインタビューで以下のように語っています。

Generally, we don’t do early stage investments. We’re interested in companies that have a more established stream of revenue, maybe $5 million to $50 million. They produce cash flow. And right now the companies that we really like, and the ones that are kind of in our pipeline, have a substantial amount of revenue coming from the government.That provides a lot of risk mitigation.
（訳：私たちは、アーリーステージのベンチャー企業への投資は行いません。私たちが興味を持っているのは、既に500万ドルから5000万ドルの収益を獲得している宇宙企業です。現在私たちが本当に興味を持っている企業や私たちのポートフォリオの中にある企業は、政府との契約をメインの収入源としており、これは多くのリスク回避に寄与しています。）

上記のコメントからも分かるようにVoyagerは、シード段階を超え、既にある程度の収益源がある企業を買収候補としています。また、Voyagerは今後も買収を続けながら、2021年中の株式市場への上場（IPO）も検討していると発表しています。

コア宇宙技術を有している宇宙企業の買収を続けながら、自身の上場も検討しているVoyager Space Holdingsに今後も注目です。

Lockheed MartinがAerojet Rocketdyneを44億ドルで買収

米国の大手航空宇宙メーカーのLockheed Martinが、大手ロケットエンジンメーカーのAerojet Rocketdyneを44億ドルで買収することを12月21日に発表しました。

Aerojet RocketdyneはULA（United Launch Alliance）のDelta 4及びAtlas 5の上段に搭載されるRL10ロケットエンジンを製造しているほか、NASAのアルテミス計画で重要な役割を担う大型ロケットのSLS（Space Launch System）のRS-25エンジンの製造も行っています。

今回の買収によってAerojet Rocketdyneの推進システムが、Lockheed Martinの航空宇宙分野・防衛分野での技術力の更なる革新に繋がることでしょう。

Lockheed Martinの社長兼CEOであるJames Taicletは、

“This transaction enhances Lockheed Martin’s support of critical U.S. and allied security missions and retains national leadership in space and hypersonic technology. We look forward to welcoming their talented team and expanding Lockheed Martin’s position as the leading provider of 21st century warfare solutions.
（訳：今回の買収は、Lockheed Martinの米国および同盟国の重要な安全保障ミッションへのサポートを強化し、宇宙および超音速技術における米国のリーダーシップの維持に貢献します。我々は、彼らのような有能なチームを歓迎し、21世紀の防衛分野におけるリーディングプロバイダーとしてのLockheed Martinの地位を拡大することを楽しみにしています。）

とコメントを出しています。

今回の大型買収により、今後の米国における航空宇宙分野及び防衛分野での事業が大きく推進していきそうです。