宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

「宇宙×建築&不動産:サステナビリティな都市開発実現のための衛星データ利用」SPACETIDE 2021 WINTER/Day2 第2部レポート

2021年12月13~16日に開催されたSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。2日目のプログラム「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」の第2部「宇宙×建築&不動産:サステナビリティな都市開発実現のための衛星データ利用」の内容をご紹介します!

一般社団法人SPACETIDE(以下:SPACETIDE)が2021年12月13~16日に開催したSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。その内のプログラムの一つ「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」は3部構成です。プログラム全体を通じて衛星データのエンドユーザー・衛星データプロバイダー・衛星エンジニアの3つの視点から、それぞれが衛星データ市場を作る上で、今までのデータで行われてきたユースケースやお互いに求めていることは何かについて議論しました。

第1部では、「オルタナティブデータとしての衛星データ活用の可能性」と題して、オルタナティブデータとしての衛星データを用いた事業例とオルタナティブデータの活用の事業化に必要な4つステップと衛星データ市場拡大にについて議論しました。

続いて2部では、衛星データのユーザーサイドと衛星エンジニアそれぞれの視点から、ユーザーが求めているデータとは何なのか、本当にそれは必要なものなのか、という議論や衛星データが今以上に低コストかつだれでも手に入るようになったら今の事業や市場はどう変わっていくのか、それぞれの立場の生の声をできるだけ詳しくお届けします!

(1)登壇者と事業領域紹介

本セッションの登壇者は以下の4名です。

鳴海 智博
清水建設株式会社フロンティア開発室 宇宙開発部 主査
九州大学,東北大学,九州工業大学,東京理科大学などにおいて,小型衛星・火星飛行機・有翼ロケットなどに関する研究開発に従事した後,2016年に清水建設株式会社に入社。ロボット技術や機械学習技術を地上および宇宙の建設現場へ適用し効率化する研究開発を行った後,現在は衛星データや衛星測位技術を用いた事業開発を進めている。

徳永 博
日本工営株式会社 基盤技術本部 衛星情報サービスセンターセンター長
鹿児島大学農学部林学科卒業。技術士(建設部門:河川、砂防および海岸・海洋)。1992年日本工営に入社。仙台支店、(一財)砂防・地すべり技術センター(出向)、大阪支店、東京本社に勤務。防災分野、砂防分野に携わり、自治体業務、直轄砂防事業に加え、ダム、道路など幅広い事業に従事。2011年より大阪支店技術第二部長、2018年より本社砂防部長、2020年より国土保全事業部副事業部長、2021年より新設された衛星情報サービスセンター長。砂防学会、日本地すべり学会、日本リモートセンシング学会に所属。建設コンサルタンツ協会常任委員会災害対策・BCP検討WG委員。

田中 大貴
akippa株式会社 フェロー・エヴァンジェリスト
神戸市出身。大阪府立大学を卒業後、新卒で「Tポイント」を運営する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」に入社。「Tポイント」を使ったマーケティング全般の事業企画やweb広告代理店「オプト(現DIGITAL HOLDINGS)」との合弁会社の設立などを担当。 2016年1月に「シェアリングエコノミー」の概念に非常に共感し、「駐車場シェアリング」の先駆けであったakippa株式会社へジョイン。営業本部長として「登録駐車場の拡大」に従事した後、サービス運用全般の責任者として料金設定(ダイナミックプライシング)、カスタマーサクセス(CX)等を統括。現在は駐車場活用の間口を広げるため新規事業「akippaマルシェ」の責任者として、新しい市場の成立を目指すのと同時に、衛星データを使った駐車場獲得営業の効率化を模索している。

モデレーター 白坂 成功
株式会社Synspective共同創業者 取締役
東京大学大学院修士課程修了(航空宇宙工学)、慶應義塾大学後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。大学院修了後、三菱電機にて15年間、宇宙開発に従事。「こうのとり」などの開発に参画。技術・社会融合システムのイノベーション創出方法論などの研究に取り組む。2008年4月より慶應義塾大学大学院SDM研究科非常勤准教授。2010年より同准教授、2017年より同教授。2015年12月〜2019年3月まで内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラムマネージャーとしてオンデマンド型小型合成開口レーダ(SAR)衛星を開発。

白坂:これからのセッションでは「宇宙×建築&不動産」というテーマで、サスティナブルな都市開発というものを進めていくために衛星データをどう活用していくかという話をしたいと思います。今回は衛星データを提供する側ではなくて、利用する側の方々に集まってきていただいています。

私はモデレーションさせていただきますSynspectiveの白坂と申します。よろしくお願いいたします。

これから、各パネリストの方々に、ご自身がどんな事業をされているのか、事業をしている中でどんな課題があるのかをプレゼンテーションをしていただいて、そのあとにディスカッションしていきたいと思います。

では最初に、清水建設の鳴海さんからプレゼンテーションをお願いしたいと思います。

清水建設 鳴海様の紹介

鳴海:では清水建設の鳴海が、建設業における衛星データの利用についてお話させていただきます。まず、私自身の自己紹介ですけども、実は建設業に長く携わっているわけではなくて、以前は小型の人工衛星を作っていた者です。長く衛星を作っていたのですが、徐々に衛星を利用する側に興味が移りまして、今は建設会社において衛星データ利用に関する研究開発等を行っております。

弊社に関しましては、今日会場にいらっしゃっている方はよくご存知の企業ばかりと思われますが、複数の会社に出資をしております。

清水建設の出資先の一例
Credit : 清水建設

弊社自体は、1980年代から宇宙開発を続けてきておりまして、初期は宇宙ホテルや月面基地などの大きな構造物の概念検討等を行っておりました。近年は,このSPACETIDEもそうですが、最近の宇宙業界の勢いに乗る形で出資等を行っています。

左下の写真がSpaceOneという会社で、こちらは射場建設などでご協力をさせていただいております。真ん中はSynspective、これは白坂先生の会社ですが、こちらも我々は地面に関して知見を持っているため、その点でご協力をさせていただいております。

あと右のispaceに関しましては、もともと月面関係を長く研究してきているということもあり、ディスカッション等を続けてきているという感じです。あと、宇宙を持続的なものにしなくてはいけないということで、Astroscaleさんにも出資をさせていただいております。

清水建設の衛星データ利用の一例(左側:工事の進捗管理、右側:地盤沈下の可視化) Credit : 清水建設

衛星データに関しても比較的古くから取り組んでおります。近年の小型衛星のコンステレーションなどが始まる以前から衛星データを使って建設現場の管理などができないかという検討をしています。

左側の画像は新東名の川西工事という場所ですけれども、これは可視光画像(目で見て分かる波長で観測した画像)です。このような感じで見えるので進捗管理に使えないかなとか、右側の画像は自分でSARデータの解析をして、どこが沈下しているかというのを自分たちで見ることもしております。

【参考】建設機械の位置情報や法面等の地盤変位を高精度でリアルタイムに検出

赤い部分が沈下しているのですが、こういう解析結果を現場に持っていったときに必ず言われるのが「これ本当か?」「間違いないのか?」と言われてしまうんですね。そこで「間違いないです」と言えないんです。そこが大問題でして、実際にこのデータも赤い部分は沈下しているように見えるんですけども、そうじゃない部分もあります。大気の影響や地形的な影響といったものを受けたりしています。ノイズもたくさんありますし、干渉性が低いところもあるので、これが本当とはなかなか言えないです。

しかし、我々は地上が得意なので、地上で測った例えばGNSSなどの測量データを組み合わせて、正しい情報を提供することに挑戦しています。

宙畑メモ:干渉SAR(SARデータによる地盤沈下解析)
地表面の変化を調べる技術的手法のこと。詳しくは宙畑の記事を参照ください。

今、申し上げたとおり、衛星データはいろいろな課題があります。詳細は割愛しますが、各所で指摘されているように「撮影頻度が足りない」ので「人が行ったほうが早いじゃないか」とか、あとは分解能が足りないという問題もあります。これも結局は「人が行ってカメラで撮ったほうが正確じゃないか」とか言われることもあります。

建設現場は少なくともミリメートル精度での管理が必要ですが、なかなかその精度までには達していないという問題もあります。

あとは画像の価格が高いという問題もあります。小型衛星になって比較的安価になりましたが、それでもやはり常時利用するというニーズには応えられないぐらいは高価という問題があるので、結局は人を雇ったほうが良いということになってしまいます。

現状はそうなのですが、これは徐々に解決していくものだと期待しております。そうなったときに、けっこう面白いことが起きるんじゃないかと思っております。建設業に関してもデジタルツインやサステナブルな都市開発とかいろいろありますが、私が非常に期待しているのは、測量が変わるんじゃないかと思っています。
現在の測量は、まだ古い仕組みが残っていることも多く、たとえば各国がその国独自の基準座標系を使う必要があり、また測量において既知点から新点を作ることが必要なのですが、そこには技術や専門知識が必要です。

衛星データを活用した展望。測量の民主化というワードが印象的。 Credit : 清水建設

これが、GNSSも含めた衛星データを使って誰でも簡単に測量ができるようになると、世界の在り方というのが変わってくると思います。「測量の民主化」と下に書いていますけれども、例えば今、右上にあるような大きくて高価測量の機械を使って測らないといけなかったものが、ハンディな機器でミリメートル精度で測れるようになってくると誰でもどこでも簡単に安くミリメートル精度の測量ができるということになります。

そういう世界になると、例えば地図が非常に正確になり、地図が変わると地籍(一筆の土地についての現在及び過去のあらゆる情報)なども変わってきます。そうなったときにいろいろな問題が起きるとは思いますが、一度スクラップ&ビルドをして、そこで新しいビジネスというのが生まれるのではと、今期待しているところでございます。

白坂:ありがとうございます。鳴海さんはもともと宇宙にお詳しいですが、実際に取り組まれている立場から今やっていること、その先を見据えてどんなことが考えられるかを話していただきました。

続いて日本工営の徳永様から、また同様にやられていること、課題感、それから将来どのようなことが起きそうかについてお話いただければと思います。よろしくお願いいたします。

日本工営 徳永様の紹介

徳永:私どもの会社は社会インフラに関する事業、例えばダム事業であったり、河川事業、道路事業、発電事業、そういった社会資本に関する企画、計画、調査、環境影響評価、あとはものを作るために必要な設計、出来た後の維持管理、といったところに関わっています。

おかげ様で設立して75周年を迎えました。日本では建設コンサルタントという枠ではNo.1の売上を上げています。
世界では160か国をフィールドとしており、プロジェクトとしては年間9,000件程度。主に国や自治体、インフラの企業、海外だとJICAさんや政府が顧客となっております。その中で私は主に土砂災害に対する調査や設計などに関わっておりました。

現在、衛星防災情報サービスということで、去年の10月にスカパーJSATさん、ZENRINさんと業務提携をしまして、それぞれの強みを持ち寄って新たな衛星を活用した情報提供サービスを始めております。

それぞれの会社の役割ですが、スカパーJSATさんはもう皆さんご承知の通りです。私ども日本工営は解析結果の評価や分析、警報を出すタイミングなど、そういったものに長けております。また、ZENRINさんは地図基盤をお持ちですので、例えば、被災した家屋の件数、被災範囲、浸水量などといったものを瞬時に出すことができます。

そういったサービスをお客様に提示してサービスを売り込んでいますが、やはりニーズとしましてリアルタイム、高分解能というものを求められます。というのは、洪水というのは雨が降って流域の中に流れ込んで、時間差で水位が上がってきます。そのため、その流域の土地の利用状況によってもピークが来るタイミングも水位が下がるタイミングも違います。

また、どこで堤防が破堤するかというものもなかなか予想ができません。一応ハザードマップというのは作られているんですけれども、仮にもしリアルタイムのデータがあれば、本当の洪水のピークも分かるし、遡ってそのピークに至る30分前、1時間前の状況が分かる。そうすると今後の予測につなげることができます。お客様もやはり予測まで欲しいということで、私どもはリアルタイム、高分解能というところを目指しております。

そのために、12月9日にSynspectiveさんと同じように衛星コンステレーションを計画しているQPS研究所様と業務提携をしまして、リアルタイムのデータ、高分解能のデータを使ったサービスなどをどんどん開発していきたいと考えているところです。

高分解能、リアルタイムの衛星データがもし使えるようになったらどんなことができるのか、都市の防災・減災というところで見ていきますと、日本には活火山と呼ばれているものが約111あります。例えば鹿児島県の桜島。私は鹿児島出身で、高校生の頃、大学生の頃は毎日のように灰を被っていたので、絶対に鹿児島以外のところに就職したいなとずっと思っていたんですが、こういう防災とか火山とかいうところに関わるようになってきました。

衛星データを活用した活火山のモニタリング Credit : 日本工営

リアルタイムのデータが手に入ると、火山の微動や噴火の状況などをモニタリングできるようになっていくと思っています。また世界を見ると、不幸なことにインドネシアでつい先日、噴火災害が起こっていますけれども、約1,500の火山がありますので常時モニタリングするために衛星データを使っていくニーズがどんどん広がっていくと思っております。

それで、どういった都市に対して火山が影響するかというところを簡単にまとめたものがこちらになります。やはり分かりやすいところでいくと火山灰ですね。火山灰が積もりますと雨水が浸透しにくく土石流が発生やすくなったり、電線がショートしたり、下水が詰まったり、道路に積もって車がスリップしたりと、様々な影響が広い範囲で起こります。

噴火災害の防災をモニタリングする Credit : 日本工営

ということで、どういったタイミングで火山灰の除去をするか、どこに火山灰が降っているかのモニタリング、また火山の災害復旧に対しても今後ニーズもあると思いますし、やらなければいけないことと思っております。

高分解能のデータがとれると言っても、衛星データ解析結果に対し鳴海さんもおっしゃっていましたけれども「本当ですか?」と言われたりします。これに対しては、地表では火山灰がどれぐらい積もったのか、どれぐらい火山が微動しているか、どう変位しているか、そういう地上での観測データと衛星のデータをマッチングさせることによって、より衛星データの価値が上がると考えております。

白坂:ありがとうございました。徳永様からは災害に対する観点から、これまでやられてきた洪水などの分野に対する課題感、それが解決した暁には数多く存在する火山をモニターしていくことによって火山による災害、被害というものをモニターしていくというお話をしていただきました。

3人目はakippaの田中様です。たぶん、この中では衛星業界からは1番遠いと言いますか、新しく参入してくださり、すごく新鮮で面白いと思いますので、ぜひ聞いていただければと思います。では、田中さんお願いします。

akippa 田中様の紹介

田中:akippaの田中と申します。本日はよろしくお願いいたします。

まずakippaのご紹介を簡単にしたいと思います。akippaは駐車場のシェアリングエコノミーサービスです。シェアリングエコノミーですと、民泊のAirbnbさんが有名かと思うのですが、Airbnbさんの駐車場版のようなイメージをしていただければと思います。

akippaのビジネスモデル
Credit : akippa

ビジネスモデルは非常にシンプルで、駐車場の空きスペースを持っているオーナー様のスペースを貸し出していただきドライバー様が利用できるビジネスです。初期費用や月額費用は一切無料になっていまして、akippaを通してドライバー様が駐車場のスペースを予約した場合にのみ収益が発生するモデルになっています。
例えば1,000円でドライバー様が予約した場合には500円をakippaがいただいて500円を駐車場のオーナー様にお支払いするようなモデルになっております。

akippaの導入先の事例 Credit : akippa

どういったところが駐車場として登録できるかについては、基本的には車1台分の空きスペースがあれば登録できるようになっています。1番多いのが左上に写真のある契約の決まっていない月極駐車場です。

次に多いのが右下の2番目に写真のある個人宅の空きスペースになります。これは例えば免許を返納してしまって、もう使っていないガレージみたいなところをお小遣い稼ぎでちょっと登録しようといったような方が登録していただいて、非常に数が増えています。

akippaはサービスを始めて7年になりますが、今は常時3万スペース以上は予約できるようになっています。akippaのビジネスにおいては、基本的にこの駐車場のスペースをいかに増やすかが最大の事業課題になっています。ここでこの駐車場のスペースをいかに効率的に増やすかを考えたときに、衛星データが使えるのでは、というところで今回登壇させていただきました。

衛星データを活用して空地の練り歩き場所を探す事例 Credit : akippa

これは実際にやっている内容になりますが、Tellusに駐車場検知ツールを現在公開しています。
我々は駐車場を獲得するときに、例えば大手法人様への営業も回ったりしますが、基本的にはこういうマップを見て空き場所をひたすらつぶしていくというのが効率的な営業スタイルになっておりまして、我々は「練り歩き」と呼んでいます。

この営業スタイル自体はもう確立していますが、空き場所をいかに効率的に見つけていくかが大きな課題になっていて、衛星データを使って効率化できないかということで、今回さくらインターネットさんとディープラーニングとかのAIを得意としているRidge-iさんという3社で組んで公開させていただきました。

この駐車場検知ツールですが、我々のビジネス以外でも例えばマンションのデベロッパーさんや、コインパーキングの事業者さんなども使えると考えています。スペースの検知というのがすごく効率的になれば、不動産業界全体が効率的にスペースを活用出来るようになるのでは無いかと期待しています。

ただ、まだ課題も多くあります。この駐車場検知ツールは、まだ精度がそこまで高くないことや網羅性の問題があると思っています。その辺はしっかりと対応していく必要がありますが、加えて実際に営業活動に落とし込むときには、例えば営業マンがスマートフォンを見て探していくときにGPSと連動しているなどの機能があれば使いやすいかと思います。

また「ここの空き地はすごく確度が高いオーナー様がいらっしゃった」とか「ここは断られてしまった」とか、そういうことを営業担当が入力できるなどの改善が順次行われていけば、全事業者が使っていけるような良いモデルになると感じていて、今後そういったところをやっていきたいなと思っております。

白坂:ありがとうございました。3名の方に、自己紹介と事業のプレゼンテーションをしていただきました。ここからディスカッションをしていきたいと思います。

(2)本当にリアルタイムのデータは必要なのか?ユーザーの求める撮影頻度とは

白坂:まずは、先ほどの続きに近いですが、やはりどうしてもリアルタイムと「圧倒的にデータ量が足りない」という話があったと思います。ただリアルタイムと言っても、通常は地球観測衛星は低軌道なので、どうしても90分で地球を1周回ってしまう。静止軌道ではないということで、本当の意味でのリアルタイムでずっと見ることはできないです。

宙畑メモ:地球観測衛星の軌道
地球観測衛星は地表面の様子を細かく捉えるという意味で、比較的低い軌道を周回していることが多い。

まず鳴海さんと徳永さん、お二人ともこの「リアルタイム」という言葉を出されていましたが、「どれぐらいのリアルタイムがいいの?」というのが衛星を作る側は気になります。それによって機数が全然違うし、コストが全然違うんですよね。

宙畑メモ:衛星データにまつわる2つのリアルタイム性
衛星データのリアルタイム性を考える時、2つの要素が存在します。1つは撮影してから、利用者の手元に届くまでの時間(レイテンシー)で、もう一つがどれくらいの頻度で撮影しているか、です。たとえ5分おきに観測していたとしても、手元でそのデータが確認できるのが1時間後だとすると、それが必要なリアルタイム性を満たしているか、という問題になり、どちらのリアルタイム性が必要なのか正確に理解する必要があります。

どれぐらいのもので見られれば使えそうなのか、お二人が今思うどれぐらいのリアルタイム性があるといいのかについてお聞きしてみたいなと思います。まず、鳴海さんいかがですか?

鳴海:現場によって異なりますが、我々が衛星データを現場でどれぐらいの頻度でほしいかという話をしたときに、現場側から来る回答は「1日最低でも1回、できれば1日3回」例えば朝・昼・夕方とか、そういう間隔で見たいという需要がありますね。

白坂:なんかちょっといけそうな気がしましたね。今の回答は嬉しい感じですね。1日3回ぐらいは実現可能かもしれない。ありがとうございます。すごくポジティブな感じになりました。続いて徳永さんいかがですか?

徳永:よく雨で警戒避難とかの情報がでますが、だいたい時間雨量でいくらぐらいと見ます。あと地すべり、地盤の変形なども、時間あたりの変位量がいくらぐらいかという解析をしますので、やはり1時間に1回という需要はあると思います。これが雨の量も強いゲリラ豪雨となると10分に1回の雨量で見ています。10分間隔であればもうリアルタイムと言ってもいいのではと思います。

Credit : SPACETIDE

白坂:なるほど。そうなると現在の衛星での実現はちょっと難しいですかね。でも、まだまだこれからですよね。

先ほどちょうどスカパーJSATさんと日本工営さんとQPS研究所さんの協定のニュースの話が出てきましたけれども、やはり正直まだまだ衛星数が少ないんですね。私もSynspectiveというSAR衛星の会社ですけど、同じくSAR衛星ベンチャーのQPS研究所さんとライバルってよく言われます。といってもライバルでもなんでもないです。我々が今計画している衛星数を全部上げても、今上がった頻度の数値に届かないです。

市場側からは「競合」とよく言われるんですけど、競合の前にマーケットから足りないと言われているのに、競合も何もないですという状態です。なので、まだまだ今のマーケットに必要とされるレベル感に行くにはもっと頑張らないといけないです。

(3)衛星データが信頼されるために必要な精度はどの位?

白坂:もう1つ、皆さんがどの程度の精度を求めるかによりますが、田中さんは「精度と網羅性」、鳴海さんも「精度と分解能」や「精度と信頼度」のような、どれぐらい本当に実際の地上と合っているかというお話がありました。これは徳永さん同じだと思いますが、これは半分永遠の課題でもあるような気もします。

宇宙からと地上でと見たときと違う場合に、我々って今までグランドトゥルースを取って、衛星データが正しくなったことを信頼して、衛星のデータだけを使おうみたいなことを考えたりもしていました。先ほどからお二人の話を聞いていると、なんとなくそうだと思います。

宙畑メモ:グランドトゥルース(Ground Truth)

リモートセンシングで得られる画像データから対象物を判読する場合に、その代表的な対象物の実際の地上のデータをいう。

地上のデータとの組み合わせという話がよく出てきますが、この精度や分解能、信頼度は衛星側はどれぐらい必要なのかを衛星開発をしている人たちかは知りたいかなと思うんですね。

なので、地上との融合がなかなか難しい間はちょっと難しいかもしれないですが、「地上でこんなことが起きているよ」「もうこういう事例が出始めているよ」ということがあるようでしたら、そのあたりをシェアしていただきながら、衛星側も頑張りますけど、「衛星だけじゃないよ」「地上と一緒に頑張ろう」みたいな感じのことが出てくると嬉しいなと思います。

鳴海:精度についてはSARでも可視光の光学衛星でも、大型の非常に性能のいいもの、あのぐらいのスペックであれば使えるというのは実感しています。ただ高価ですよね。1枚数十万円とかしてしまうので常時使うというわけにはなかなかいかないので、本当に安く、もしくはサブスクのように自由に使えるとか、フリーで使えるとか、そうなれば十分に現場で使えるものになると思っています。

白坂:1枚数十万円が駄目だと、1枚数万円なら大丈夫ですか?

鳴海1枚数万円でもちょっと厳しいですね。

白坂:なるほど、分かりました。ありがとうございます。
今の大型の衛星並みの精度であれば、あとは地上でなんとかできるというイメージですね。徳永さん、いかがですか。

徳永:光学衛星の解像度が0.5メートルぐらいを今達成して、自動車がだいたいわかるような状況になってきていますので、SAR衛星も0.5メートルぐらいの解像度で利用できれば、すごくいいと思います。また時間分解能(観測頻度)が上がることによって、少し精度が落ちても、いろいろと見えてくるものもあるので、1メートルを切るぐらいのところ、0.5メートルぐらいを目指していただければと思いました。

白坂:要するに、精度を1枚の単体で見るから気にする必要があるけど、時系列で見ていくと補うことができる可能性があると捉えていいですかね。

徳永:そうですね。誤差とかノイズとか、それはもう含まれるものだと思っていますので。

白坂:観測頻度が低いから我々は1枚1枚で精度というものを気にしないといけないんですが、これを時系列で撮っていくとノイズは消えますし、うまく処理をすることで、もう少しトータルで役に立つデータにしやすくなるということですね。ありがとうございます。

では、田中さん、実際に精度が悪いと営業の人が行っても、無駄に「練り歩き」をすることになると思いますがいかがでしょうか。

田中:これは衛星の精度なのか画像解析の精度なのかどちらを改善すべきか分からない前提で、基本的に我々は、とにかくまず網羅性を100%にしてほしいと考えています。空き場所は全部探せる前提で精度70%以上を希望しています。10か所に訪問した結果、3か所ぐらいは違っても、その程度であれば十分に営業の効率化は図れると考えております。

白坂:誤検知3割はあるかもしれないけど、基本的には網羅しているという方が重要だということですね。

田中:そうですね。

白坂:それはちょっと心強いかもしれないですね。誤検知が駄目だとなると、ディープラーニングだとまず無理なので、そういった意味では可能性があるかなと思います。

ここで田中さんに次のような質問が来ています。

「駐車場データというのに、どれくらい価値がありますか?言い換えると、どれぐらいお金を払ってもいいと思っていますか?」

1か所あたりに換算したほうがたぶん分かりやすいですよね。昔からよくメールアドレス1個50~100円とかかっていた時代もあったんですけども、駐車場データはどうでしょうか。

駐車場データの価値ってどの位?

田中:駐車場LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は非公開ですが定義しています。基本的にはその価値と獲得難易度に応じて単価を算出することは可能です。
「衛星データを使って効率化されたコスト削減分」未満の料金であれば支払いを検討することは理屈上、可能かと思います。ただしここも非公開です。

白坂:そうですよね。ビジネスに直結する質問かと思います。でも、これがいい値段だったらいろいろなことがあり得そうな気がしますね。
先ほど網羅性やデータの範囲の話もあったかと思います。どれぐらい広い領域をakippaさんは今、マーケットエリアとしているのでしょうか。

田中:基本的には全国です。その中で我々は「ホットスポット」と呼んでいる場所を定義しています。分かりやすいところで言うと、阪神甲子園球場など、スタジアムの周りは非常に予約制の駐車場はニーズが高いです。そのほかだと駅前やコインパーキングがない住宅街などもニーズが高い場所があります。このように全国津々浦々ホットスポットがあるようなイメージです。

Credit : SPACETIDE

白坂:そのホットスポットというのはもちろん公開しているわけではないですもんね。akippaさんが独自に「ここらへんの駐車場が常に混んでいる」という情報から、このあたりに利用できる駐車場があるといいなということですね。

全然違うビジネスも考えられそうだなと思います。私もakippaさんの話は聞いてましたが、まさかそこまでやっているとは思っていなかったです。「こういう使い方があるんだ」というのが、長年業界にいますけどちょっとびっくりしました。ありがとうございました。

(4)もし正確なデータが安価に取れるならあなたは何をする?測量の民主化を考えよう

白坂:将来の話もしてみたいなと思います。最初に鳴海さんのところで「測量の民主化」という言葉が出ました。これってすごく面白いキーワードだなと思いました。「ミリ単位で測れるなら何をやるか」という状況下で、ほとんど無料な形でデータを使えると、どんなことが起きそうでしょうか。

鳴海:まず地図がミリ単位で常に正確な状況で、かつGPSみたいな装置を使ってミリ単位で測位ができるという世界がもし来たとしましょう。例えば今は自動運転もありますが、それがより正確に、より小さくできるんじゃないかという気もします。すごく小さい搬送台車みたいなものを作って、それがトコトコと動くような世界ができるなど、いろいろな使い方ができるんだろうなと。きっと面白い世界になりそうだなと考えているところです。

Credit : SPACETIDE

白坂:この「民主化」という話を聞いていて思ったのは、衛星データの使われ方を変えていかないといけないということです。これまではそれぞれ業界ごとに最適化して衛星データを使っていたんですけど、もっと業界を横断して衛星データをみんなに使ってもらうインフラになっていかなきゃいけない。それはまさにTellusさんがやっている、みんなが衛星データを使える世界というのを作っていくことですね。

データを民主化していくと、それに対するアプリケーション、今回でいうところの「測量の民主化」のように新しいインフラができる。そうするとインフラを活用したサービス、引いては新しい産業が生まれてくるわけです。

今日は、全然違う分野で衛星データを使っている3人の話を聞いて、そういうのもちょっと見えてきたと感じました。ありがとうございます。この「測量の民主化」というキーワードだけで、ちょっとワクワクとするような感じがありました。

では、次は徳永さんの「火山」について。ちょっと衝撃だったのが活火山の数が国内だけで111個あると。一度の観測ではほとんどカバーできないです。合成開口レーダー(SAR)を火山に使うときに、リアルタイムが実現できたらという話でしたが、これはどんな感じだったら噴火の予測に役に立てるものになるんですしょうか。

徳永:火山は111の内、半分以上は気象庁さんや大学機関がモニタリングしています。1つのセンサーだけじゃなく、それこそGPS、ひずみ計、地震計だったり、いろいろなものをつけてモニタリングしています。もちろんSARも使われております。

ただ、まだ結果の検証で使っているレベルだと思うんですよね。予測という形でいくと頻度が少々粗くても、夜でも雨が降っている時でも、地震の時でも撮れれば非常に価値が上がる。それと他のセンサーとの組み合わせかと思います。

さっき少し思ったのは、だいたい火山って観光地ですから、駐車場の空き状況とかを常にモニタリングしながら、akippaさんに情報提供をして使っていただくとか、あとはお土産屋さんと連携するとか。
常時火山を見ているんだけど、そういういろいろな使い方をすることによって、データも安く調達できる、それこそ衛星データの民主化につながるみたいなところは、他の火山のセンサーと違うところじゃないかなと思いました。

白坂:確かに火山のモニタリングは必要ですよね。観光地化しているという点でakippaの田中さん、今のような、単に場所だけではない、安全に関する状況が分かるなどの予測があるなら、付加価値的な可能性もあるかと思います。このように衛星データが使われるようになったら、将来どんな感じに変わるとか、何か今までの話を聞いてありますか?

田中:すごく可能性を感じました。我々としては、基本的に衛星データに詳しいわけではないので、先ほどの民主化の話などもよく分かっていないですが、こうやって横のつながりができたことをきっかけにデータをいただいて、我々のほうでしっかりとモニタリングしていくようなことはできるのかなと感じました。

白坂:ありがとうございます。

(5)リアルタイムの衛星データは高コスト、衛星データ市場への参入は可能か?

白坂:最後に質問とセットで皆さんに最後に一言ずついただきたいなと思います。
衛星データがリアルタイムで欲しいのはよく分かりました。ただ、リアルタイムで衛星データを撮るにはそれなりの投資が必要になると思います。この投資額を回収できるだけの規模の市場・ニーズが現在あるのでしょうか。

鳴海:建設業での使い方はいろいろありますが、先ほどの測量に絞って言うと、グローバルに考えると年間数兆円になると考えていまして、そこの何パーセントかが衛星データに置き換えられるようになると思っています。

建設の大きい現場だと測量のコストは非常にかかります。ですので、それの何割かを削減できるのであれば、全体で考えるとかなりの額が回収できるのではないかと思っています。

白坂:ありがとうございます。徳永さん、いかがですか。

徳永:衛星自体も現在小型衛星コンステレーションが進んでいたり、1機あたりの製造コストも打ち上げコストも下がっていくということで、皆さんが思っているより安いんじゃないかなと思うんですよね。
なので、リアルタイムを実現するのにお金は思っているよりはかからないんじゃないかなという認識です。

日本だけ見てももったいないので、地球の裏側の南米を見るとか。あと都市化はアジア各国進んでいますし、気候変動でいろいろな問題も出てきていますし、我々が思っていない使い方がどんどん広がっているので、十分いけると思っています。

白坂:ありがとうございます。田中さん、いかがですか。

田中:akippaは空き場所活用、土地活用というところになりますが、全国、世界で見ても業界に関わる方はかなりいると思います。コインパーキングだけでも、日本で1兆円市場と言われているほどかなり大きな市場です。そこがしっかり効率化されたならば、効率化された分で得られるコストを衛星データに使っていくというのは普通にあり得る話なのかなと感じております。

Credit : SPACETIDE

白坂:ありがとうございます。ちょっと今の話を聞いてやはり思ったのは、我々は本当に他の業界のことを知らないなと思いました。

コインパーキングだけで1兆円市場ということで、やはり宇宙業界は狭すぎます。なので、このデータというものの活用をもっともっと広げていくことによって、たぶん無限の可能性があるんじゃないかなというのを聞いていて思いました。

我々がすごく付き合いがあった建築業界、まさに鳴海さんのところは前から衛星データを使う可能性が言われていた。それが使える頻度になってくる。ちょっと精度はまだ厳しいかもしれないけど、それも地上とセットでなんとかできる可能性が出てきている。

そして、災害。徳永さんがおっしゃってくださった防災関係。これはもうグローバルで火急のテーマですよね。防災に関してもどんどんいろいろな手が打たれ始めている。火山や洪水の被害など、いろいろなものを考え出したら本当に大量なことをやらなければならない。

そして田中さんからお話のあったようにコインパーキングだけでも1兆円市場ということを考えていくと、今までやってきたところだけでもけっこう衛星データが貢献できるかもしれない。とちょっと時代が変わり始めたかなという感覚を私はちょっと感じています。

今までは残念ながらみんなが使える民主化されたデータではなかったですけれども、今はオープン&フリーでTellusさんは民主化をがんばってくれています。これをお金が回る形というか、経済が回る形でちゃんと使われていくと、本当に民主化になっていくと思うんですね。

なので、データの民主化になっていけるチャンスが我々に来たんじゃないかなというのを今日のお話を聞いて思いました。ぜひ関係している方々は、データを安くして、頻度を上げて、精度を上げていくことももちろんなんですが、違う業界の方々とつながってもらえればと思います。田中さんも最初は「衛星データ?」と思ったという話を聞いたんですが、同じような方がたくさんいると思いますので、ぜひ今回のセッションのように先につなげてもらえればと思います。

以上でこのセッションを終わりたいと思います。ありがとうございました。

編集後記

本記事ではSPACETIDEで開催された「宇宙×建築&不動産:サステナビリティな都市開発実現のための衛星データ利用」についてのディスカッションの模様をお伝えしました。

衛星データの利用が進められている中で、実利用の観点から現状の精度や頻度、価格ではなかなかビジネスが成立しない点を登壇した皆様が指摘されていました。

しかし、今後、衛星ベンチャーによる衛星の打ち上げ数が増え、「衛星データの民主化」をし、誰でもより安価で容易にデータを活用することができるようになれば、我々が想像もつかない新しい事業や産業が創出される期待もありました。

セッションの最後にあったように、違う分野の方と積極的に交流して各社の持つデータを違った視点で捉えて新しい事業創出につなげられることができると、データのさらなる活用がされるのではないかと感じました。

※本セッション残りの第1部、第3部についてはこちらをご覧ください。