衛星データで検証するフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の噴火の規模
火山が噴火するとどのような環境変化が生じるのか、様々な衛星データを使ってみていく本連載。果たして噴火による大気の影響はどこまであったのか?その変化は衛星から見えるのか?今回は、大気中の変化をSentinel-5Pという地球観測衛星を用いて確認しました。
1.はじめに
2022年1月15日、南太平洋の中央に位置するフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山(以下フンガ火山)で大規模な噴火が発生しました。
また、本記事執筆中の12/4にもインドネシア ジャワ島のスメル火山で大規模な噴火が発生しました。
さて、フンガ火山は東京から9,000kmも遠く離れた場所にある海底火山です(図1)。海底火山とは陸上ではなく海の中にある火山を指します。
そして、火山の噴火は日本にとって対岸の火事ではありません。
というのは、世界の活火山(※)は1500あるといわれている中で、日本には111の活火山があります[1,図2]。
※気象庁は、過去1万年以内に噴火したことがある火山や、現在活発な火山活動のある火山を活火山と定義しています。
つまり、日本には世界の7%の火山が存在しており、それが日本が火山国と呼ばれる理由です。
今は静かな活火山も将来大きな噴火が起こる可能性があります。
噴火が発生した際にどのような影響が発生するのか予め把握しておくことが重要です。そこで、本記事ではフンガ火山の噴火は周辺地域や地球にどのような影響を与えたのか衛星データを使って検証してみたいと思います。
2.火山はどこにできるのか
火山はどこにでもできるわけではありません。海嶺、海溝、ホット・スポットと呼ばれる3つの場所で生まれます。今回のフンガ火山や、日本を代表する富士山や桜島、西之島などの火山は「海溝」のそばで発達した火山です[2]。
フンガ火山と日本の火山は生まれる場所が同じなのです。日本列島やフンガ火山のそばには海溝が存在しています(図3,4)。日本の場合、火山は海溝とほぼ平行な前線上に密集しており、この前線を「火山フロント」とよんでいます[3]。
3.衛星データを使って見てみよう
火山が噴火すると様々なものが噴出されます。
気体であれば、二酸化硫黄(以下SO2)などの火山ガス、液体であれは溶岩や熱線水、個体であれば火山灰、軽石などです[2]。
ここでは、Sentinel-5Pに搭載されているTROPOMIというセンサから観測されたSO2を見てみましょう。
図5は噴火発生前の2022年1月13日の様子を、動画は1/13〜1/18の1日の様子をプロットしたものです。
1/14にフンガ火山で小規模な噴火が起き、およそ 50 キロトン※のSO2が放出されました。また1/16~17にかけて、約 400〜 420 キロトンの質量を持つ高濃度のSO2が見え続け、175°W〜150°Eへと西側に漂流していく様子が読み取れます[4]。距離にしておよそ6000km水平方向に移動していることが分かります[5]。
※1キロトン=1000トン
図6:TROPOMIで観測したNO2鉛直カラム量の推移
更にどれくらいの規模の噴火だったのか、NASA全球SO2モニタリングのWEBページ[6]において公開されている情報をまとめました(表1)。
表1:NASA TROPOMIによる火山由来のSO2観測情報
日時 | TROPOMIによる観測情報 |
2022/01/13 UTC15:00~15:30 |
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2022/01/15 UTC4:00~10:00 |
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1/15には、高度48kmまで噴出物が噴射されたことが確認されています。
東京駅から高尾駅(八王子市)区間は大体38kmなので、それよりも更に長い距離をSO2を含む火山灰や火山礫等が噴出したことになり、噴火の威力のすさまじさを物語っています。
衛星データから鉛直方向にどの程度噴出物が噴射されたかはわかりませんが、図6の動画から6000km以上SO2が移動していることから、水平方向には6000km移動していることが分かります[5]。
4.トンガ噴火と世界各地の噴火規模の比較
壊滅的な噴火のことを破局噴火と呼び、地下のマグマが一気に地上へ大噴出します[2]。この破局噴火が起こると地球規模で環境変化が起こり、農作物や生物へ大きな被害をもたらします。
噴火の規模は噴出量と爆発性で決まります。噴火の規模を表す指標をVEIとよび、Newhall and Self(1982)らによって提案されました。
噴出量はマグマの量、爆発の強さは軽石や灰、火山ガスからなる噴煙柱の高さ(熱エネルギー)です 。表2に示すように9段階の指標です。
今回のフンガ火山はVEI-5と推定されているようです[4]。
表2:火山爆発強度指数、噴出量、規模、頻度、火山名一覧
指数 [VEI] |
噴出量 [m3] |
規模 | 頻度 | 火山名 |
0 | 104 | 非爆発性 | 毎年 | |
1 | 105 | 小規模 | 毎年 | ストロンポリ |
2 | 106 | 中規模 | 毎年 | 三宅島(2000),有珠山(2000) |
3 | 107 | 中大規模 | 866回/1万年 | 伊豆大島(1986),雲仙岳(1980) |
4 | 108 | 大規模 | 278回/1万年 | 桜島(1914),浅間山(1739) |
5 | 109 | 巨大 | 84回/1万年 | 富士山(1707)(宝永大爆発) |
6 | 1010 | 超巨大 | 39回/1万年 | ピナツボ(1991) |
7 | 1011 | 破局、超巨大 | 5回/1万年 | 鬼界カルデラ(7000年前) |
8 | 1012 | 破局、超巨大 | 1回/1万年 | イエローストーン(640,000BP) |
5.さいごに
1991年に起きたピナツボ火山は、大気中に灰やSO2が漂い太陽光を遮ることで、地球の気温を0.5度も低下させました[2]。このような規模の気候変動は、世界中の農作物や生物へ甚大な被害をもたらします。
今回のフンガ火山で放出されたSO2は、ピナツボ火山の1/50と推定されており、比較的少ないとされているもののVEIや衛星データからも分かるように噴火の規模は巨大で広範囲に渡るものでした。
すべてを書くことはできなかったものの、津波や降り積もった灰による被害、噴火の衝撃による家屋の崩壊など多くの被害をもたらしました[7]。
国内では、例えば以下に示すような富士山の過去の噴火(宝永噴火)の実績に基づいた降灰のシミュレーションの結果が公開されています。以下の図を見るだけでも、噴火した場合には広範囲に影響が発生しそうということが見て取れるかと思います。他にも様々な検討結果が公開されているので、興味を持たれた方は「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」の報告書をご覧ください。
もちろん、噴火を完全に予測する手法はまだ確立されていませんが、滅多に起こらない大規模な噴火であっても、起きてしまうと復旧には長い時間を要します。そのため何も対策しないわけにはいかず、なるべく低コストに火山の状況をモニタリングし続ける手段が必要となります。
このような背景の中で人工衛星の宇宙技術を利用した観測手法が日々進歩し、火山活動をモニタリングしています。また日本の活火山30に対し、気象庁や大学などの研究機関が観測所を設け、常時観測しています。こうしたデータの蓄積が、更なる噴火予測の精度向上に貢献するかもしれません。
本記事では、地球上でおきた現象を衛星データや既存の指標を使って検証しました。本記事で用いた衛星データ以外にもこの噴火をモニタリングしていた衛星はたくさんあります。
今回は、大気中の変化をSentinel-5Pという地球観測衛星を用いて検証しました。Sentinel衛星は、シリーズ化されており、陸、海洋、大気等のテーマごとに7基の衛星が打ち上げられています[8]。今後はSentinel-5Pとは異なるミッションの衛星データを用いて、火山の噴火について検証していきたいと思います。
みなさんもぜひデータに触れて、どんなことが起きているのか確かめてみてください。
6.参考文献
[1] 気象庁
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/
katsukazan_toha/katsukazan_toha.html
[2] おもしろサイエンス 火山の科学 西川有司著 日刊工業新聞社 出版
[3] 火山のしくみパーフェクトガイド 高橋正樹編著 誠文堂新光舎出版
[4] Smithosonian Institution National Museum of Natural History Global Volcanism Program
https://volcano.si.edu/volcano.cfm?vn=243040
[5]Google Earth
https://earth.google.com/web/
[6] NASA Global Sulfur Dioxide Monitoring Galleries
https://so2.gsfc.nasa.gov/tropomi_2019_now.html
[7] 気象庁 フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の噴火により発生した潮位変化に関する報告書
https://www.jma.go.jp/jma/press/2204/07a/houkoku_honbun.pdf
[8] Sentinel Online
https://sentinels.copernicus.eu/web/sentinel/home