「ピンポン玉サイズの衛星が常識を覆す」Our Starsが見据える宇宙開発のゲームチェンジとは
ピンポン玉サイズの衛星が宇宙で列をなして大規模通信を行うと言ったら、皆さん想像できるでしょうか?今後10~15年で大きな可能性を秘めた、Our Stars社の超々小型衛星の最新技術についてうかがいました。
現在、衛星コンステレーションのように、一つひとつが小さくとも数を増やすことで、大型衛星を利用して提供してきたサービスでは実現が難しかったようなサービスが誕生してきています。
ただし、現在開発されている衛星の大きさは、小さいものでも1U(10×10×10cm)サイズがほとんどで、それより小さい衛星はそうそう見かけません。
例えば、ピンポン玉サイズ(硬式球で直径4cm)の衛星があったら、それは一体どんな技術や仕組みになっているでしょうか?それはどのような利用法があるのでしょうか?
そんな衛星を開発する企業こそが今回ご紹介するOur Starsです。
今回は、北海道大樹町で小型ロケットを開発するインターステラテクノロジズ(以下IST)の子会社であるOur Starsが開発する超々小型人工衛星による事業構想とそのコア技術について以下のお二人にインタビューしてきました。
Our Stars CTO 野田篤司さん
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)に36年間勤務後、2021年春に定年退職。2021年末、Our StarsのCTOに就任。JAXA在籍中は、おもに人工衛星の設計・運用・開発に従事し、ALOS(だいち)・SLATS(つばめ)・μLabSatなど数多くの人工衛星の概念設計(コンセプトデザイン)に携わる。ISTの母体である、なつのロケット団の設立メンバーの一人で、ロケットの開発にも従事した。
他役職:東京工業大学工学院特定准教授
Our Stars 取締役 稲川貴大さん
1987年生まれ。東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。卒業後、民間ロケットの開発を行うインターステラテクノロジズ(以下、IST)へ入社、2014年よりISTの代表取締役社長に就任。経営と同時に技術者としてロケット開発のシステム設計なども行い、国内民間ではじめて宇宙到達する観測ロケット「MOMO」の打上げ成功等の実績を作った後、2021年1月にISTの衛星子会社として立ち上げた当社で現職。⾃社のロケットを活⽤して⾃社の⼈⼯衛星を打ち上げる垂直統合型のビジネスモデルの構築と技術開発を統括。
他役職:インターステラテクノロジズ株式会社代表取締役社長、北海道科学大学客員准教授
受賞歴:日本青年会議所 JAPAN TOYP 2021 経済産業大臣奨励賞及び日本商工会議所会頭賞
インタビューでうかがった内容を紹介する前に、ISTとOur Starsの関係と近年の宇宙開発のトレンドである「垂直統合」について説明します。
ISTやOur Starsの事業内容、垂直統合についてすでに把握しているという方は第2章からご覧ください。
(1)垂直統合という宇宙開発のトレンド
ISTとOur Starsの関係
2021年1月に堀江貴文氏が社長として設立したOur Stars。第2章以降で詳述しますが、Our Starsは衛星開発と複数の衛星サービス提供事業を検討・推進している会社です。資本については、ISTの100%子会社となっています。
「ロケット×人工衛星」の垂直統合型のビジネスモデル
ISTとOur Starsのように、ロケット開発や人工衛星の開発からそれらのサービス提供まで一気通貫で行う垂直統合型のビジネスモデルが世界的なトレンドとなっています。
統合している例としては、「SpaceXのFalconロケット × Starlink衛星」「Blue OriginのNew Shepardロケット × Project Kuiper衛星」「Rocket LabのElectronロケット × Photon衛星」などが挙げられます。
特に、上記3つの事業展開の方向性として通信コンステレーションが注目を浴びており、垂直統合型のビジネスモデルと大量の衛星打ち上げの親和性がいかに高いかということがよく分かります。
「SpaceXのFalconロケット × Starlink」については以下の記事でも紹介しています。
SpaceXが世界中にインターネットを届けるStarlink(スターリンク)とは!? 通信速度や市場規模まで徹底解説
垂直統合のメリット
では、なぜ垂直統合型のビジネスモデルが宇宙産業において世界的なトレンドとなっているのでしょうか。
衛星とロケットの垂直統合の大きなメリットとしては「①打ち上げ条件の自由度の高さ」「②衛星に合わせた柔軟性の高いインターフェースを有するロケットの開発が可能であること」「③サプライチェーン・調達の確保」「④投資が受けやすくなる」の4つが挙げられます。
①打ち上げ条件の自由度の高さ
過去の小型衛星の打ち上げは、ほかの大型衛星の打ち上げに相乗りすることが前提で開発されてきました。この背景には、小型衛星の多くは大学が開発した実験的な非商用のもので打ち上げ後にコスト回収することが見込めなかったことが一因にあります。
一方で、2012年までは全打ち上げ数に対して商用衛星の割合は6%でしたが、2014年から商用衛星の割合が増加し始め、2020年には商用衛星の割合が92%にまで増加しています。(大量に打ち上げされているOneWeb・Starlinkを除いた場合であっても約65%)(参考)
このような商用衛星の打ち上げ需要の拡大に伴い、既存のロケットに相乗りという供給のみでは輸送手段の確保が難しくなっており、打ち上げの軌道・タイミングなどに制約が伴う影響が強く出てくるようになりました。
また、衛星コンステレーションを形成するためには、大量の衛星を望む軌道に打ち上げる必要があります。そのため、非常に多くの打ち上げ回数を要しますが、自社でロケットを持たない場合、他社や国の商用ロケットなどに相乗りなどの形で搭載することになります。
この場合、衛星を投入する軌道やタイミングは固定されますし、超低高度などの特殊な軌道に打ち上げる場合は打ち上げるロケットの調達が難しくなります。それだけでなく打ち上げ枠の関係上、コンステレーションを形成する上で十分な数を打ち上げることも難しくなります。
これが、衛星を搭載するロケットまで自社で調達できれば、他社に比べて自由度の高い運用や開発が可能になります。
人工衛星の軌道の種類~目的地としての軌道と移動ルートとしての軌道~
※上記記事で紹介した軌道以外にも様々な軌道が存在します。
②衛星に合わせた柔軟性の高いインターフェースを有するロケットの開発が可能であること
自社以外のロケットを利用する場合、それぞれのロケットごとに衛星を積むフェアリング(ロケットの最先端部にある衛星などのペイロード(荷物)を収納する部分)やインターフェースの仕様が決まっているため、その制約に合わせた形状に衛星を設計しなくてはいけません。
そうなると、設計の自由度が失われますし、衛星を載せてもらっている関係上、ロケット側の開発などの影響を受け、打ち上げのタイミングなどの自由度も失われます。
一方、自社のロケットを利用すれば、特殊な形状の衛星を設計し、衛星の放出機構なども衛星形状に合わせて変更することも可能になります。
例えば、Starlinkは、以下の写真のように平たい形状で設計されており、その形状に合わせた放出機構がロケットに組み込まれています。
人工衛星の形状は、目的に応じて最適な形状は異なります。決して直方体に収める形状が最適解とも言えません。Starlinkに限らず、大型の膜展開構造物なども直方体の形状を有する設計ではありません。
そういった意味でも、目的に合わせた設計が可能となる自由度の高い衛星設計を実現することは、自由度の高いロケットを選定することから始まるとも言えます。
③サプライチェーン・調達の確保
ロケットにせよ、衛星にせよ、宇宙分野で利用する部品は非常に高価であったり、調達に非常に時間がかかる場合があります。ですが、垂直統合により、部品を共有し、まとめ買いによる一定数量の確保、在庫共通化などによる安定した調達を行うことができます。
④投資が受けやすくなる
垂直統合については、資金調達の面でもメリットがあるという言及もありました。
ロケット開発は打ち上げ成功か否かのゼロイチで結果が出るため、投資家がリスクを感じてロケット事業への直接の投資が敬遠されてしまうということがあるなかで、衛星サービス事業を展開する場合は、通信・地球観測など様々なニーズが既に存在するため、ビジネスとしてイメージが付きやすく投資を受けやすくなるそう。
【引用:一部改変して掲載】田中圭太郎. “堀江貴文に聞く インターステラテクノロジズと民間宇宙ビジネスの現在地”. ITmedia. 2021-04-02. https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2104/02/news028_4.html, (参照2022-11-29)
以上、垂直統合の概要について触れました。ここからは、Our Starsの事業が掲げるビジョンとそれを実現するための技術について深堀していきます。
(2)Our Starsが見据える10年後、15年後に起こりうるゲームチェンジ
衛星・ロケット開発や宇宙ビジネスにおいて、大きな転換期が2つありました。
ひとつは「官から民への移行」。従来までは国の機関で行われてきた事業が、民間主導で行えるような支援が様々に行われてきました。
官から民への以降の流れは衛星データ活用に限らず、衛星やロケットの製造においても同様です。SpaceXがロケットの自社開発を推進し、アメリカ政府からの信頼を勝ち取り、民間による開発が行われるようになった官から民への移行は良い例です。
もうひとつは「大型衛星から小型衛星への転換」。JAXAのμ-LabSatや東京大学・東京工業大学のCubeSatの打ち上げ以降、安価に開発できる技術実証の手段として、多数の小型衛星で衛星コンステレーションを形成し、大型衛星よりも広範囲に通信できる手段として小型衛星の利用が活発になりました。
というように、近年の宇宙開発において大きな転換点がありました。
今回、Our Starsが開発する技術は、今の衛星開発を塗り替える転換点、いわばゲームチェンジを引き起こすものだそうです。
果たして、それは一体どんなものなのでしょうか。野田さん、稲川さんに教えていただきました。
向こう10~15年で衛星にゲームチェンジが起こる
宙畑 :過去の衛星におけるゲームチェンジは「国の機関から民間への移行」「大型衛星から小型衛星への転換」といったものでしたが、Our Starsが掲げる衛星の次のゲームチェンジとは何でしょうか。
野田 :それは、小型衛星を複数機で分散協調動作させて一つの群体とすることで大型衛星でも実現不可能な機能を実現可能だということです。
もっと言えば、大型の衛星を作れる設備や施設・技術をもつ従来の企業から小さな机の上でちまちまとした衛星をたくさん作る方式が有利になるという見方をしています。
同じ性能でも、大型衛星1機と同程度の機能を持つ超々小型衛星1000機であれば、後者の方が故障に対して非常に強いです。
大型衛星は壊れてしまうとそれっきりですが、小型衛星1000機だと例え100機故障したとしても性能低下が起こるだけで、ミッションが継続できる強みがあります。これを縮退冗長と言います。
宙畑 :なるほど、具体的に衛星を小さく分割することで、どの程度性能などが変わってくるのでしょうか。
野田 :アンテナを例に説明します。ここでは、1tの衛星を1kgの衛星1000機に分割すると考えましょう。
普通に考えると、同じ衛星であれば、衛星の個数Nに比例してデータ伝送量もN倍になると思われますが、回線計算上はデータ伝送量はNの2乗に比例します。つまり、衛星を分割して1000機にするとデータ伝送量は100万倍になる計算です!
仮に衛星一つ一つが元の性能の1/1000(1/N)になったとしても、1/1000×1000×1000=1000となる。つまり、理論上は1000倍のデータを送信できることに気づきました。
もし、スマホ利用者などの多くのユーザーを相手にする場合、数が多くなくてはならないので、このデータ通信量の増分は非常に効いてきます。
宙畑メモ:衛星数と通信速度
いくつかの仮定の下成立する回線計算上の理論値であり、その実現方法はノウハウとなります。
宙畑 :一方で、もし性能が落ちてしまうと、ユーザーは困ってしまいますが、その点は衛星の数によって対応可能なのでしょうか。
野田 :はい、可能です。1000機のうち100機が壊れたとしましょう。そうすると、データ伝送量はNの2乗に比例するので、残った900機で0.9×0.9=0.81、つまり当初に比べて81%にデータ伝送量が低下します。
ここは品質保証の程度にもよりますが、その分母を多く打ち上げれば補償することは可能です。需要が読めない場合は、最初は少なめに打ち上げておいて、後で追加で打ち上げればよいですし、もう1000機打ち上げるとデータ通信量は2倍ではなく4倍になるので、需要に対して供給がしやすくなっています。
要は市場・契約者数に左右されますが、最初から多めに打ち上げてもいいし、後から補給することもできるので、その辺の自由度はあると思います。
宙畑 :他にも、小型に分割することによるメリットはあるのでしょうか?
野田 :よく聞かれるのが、大型衛星は太陽光パネルを開いて電力供給するのに、超々小型衛星ではどうするのか、ということです。
話は単純で、衛星が小さくなれば、体積当たりの電力が一定かつ同じ密度であれば質量当たりの表面積は大きくなります。つまり、小さければ小さいほど質量あたりで太陽電池の貼る面積が増えるので、電力的にも有利になります。
もちろん、構造的にも有利になります。大型衛星だとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を使わないと構造強度的にもたない部分も小型にすることで不要になります。構造強度だけ考えるなら、極端な話ボール紙だけでも大丈夫なくらい構造的には有利です。
宙畑メモ:衛星のサイズと材料の関係
一般にCFRPなどの軽量で高強度な材料を使用することによるメリットはサイズが大きいほど有効になります。そのため、サイズの小さいものに適用してもコストに対して十分な効果を発揮しない場合もあります。
宙畑 :データ伝送量だけでなく、電力・構造などの面でも有利になるんですね!
だからこそISTとの垂直統合が重要
宙畑 :小型化が様々な面で有利だということが分かりました。この小型化という要素がISTとの垂直統合において、どのように重要になってくるのでしょうか。
野田 :ロケットに最適化した衛星を低価格で作ることができること、衛星コンステレーションを様々な軌道面に打ち上げる際の自由度があることです。
他にも、弊社の事業の一つとして、超低高度衛星を打ち上げて、既存の衛星よりも遥かに高い分解能で地球観測が出来るように検討しているものがあります。
高度200km以下に超低高度衛星を打ち上げるような特殊な軌道に打ち上げるには、垂直統合によって打ち上げの融通が利くことが重要になってきます。
宙畑 :なるほど。超低高度衛星のことを考えると、相乗りという手段では他のユーザーを集める必要が出てきますが、自社で統合すれば、こういった問題はなくなりますね。
(3)Our Starsが考える通信衛星
宙畑 :以上までで超々小型衛星の強みについて触れてきましたが、これまでの話を踏まえてOur Starsがどのようなサービスを構想しているのか教えてください。
野田 :弊社が現在取り組んでいるサービスは、「フォーメーションフライトによる衛星通信サービス」「高度200km以下の超低高度衛星による地球観測」「ポストISS時代に向けた宇宙実験用衛星(回収カプセル)」の3つです。
その中でも、先までに触れた超々小型衛星を活用したデータ伝送の
サービスが一つ目の「フォーメーションフライトによる衛星通信サービス」です。
今回はこちらについて詳しく説明したいと思います。
Our Starsが考えるフォーメーションフライトを用いた通信衛星
宙畑 :ずばり、Our Starsの超々小型衛星によるデータ伝送サービスを一言で言い表すとしたら、どうなるのでしょうか?
野田 :我々が考えているのは、10~20m相当の大型パラボラアンテナを、フォーメーションフライトによって超々小型衛星で実現し、大型パラボラアンテナと同様の効果を出すというものです。
宙畑 :なるほど、より具体的に教えてください。
野田 :衛星側のアンテナが大きくなれば、ゲイン(受信した電波に対して出力できる大きさ)を高めることができ、データレートを落とすことなく地上側のアンテナを小さくできます。衛星通信をスマホを介して行うことを目指し、我々は現在実験を行っている最中です。
宙畑メモ:データレート
ビットレートともいう。いわゆるデータの伝送速度(一秒あたりに伝送可能なビット数)を表すもの。単位はbps(bit per second)。
宙畑 :スマホで直接衛星通信ができるとしたら、非常に便利になりそうですね!
ここがすごい!!Our Starsが取り組む衛星通信の仕組み
宙畑 :では、具体的に衛星通信の仕組みはどう実現しているのでしょうか?
野田 :通信対象をスマホやPCなどのデバイスにした場合、多対多通信になることは避けられません。その中で、あるデバイスAから送信されたデータを送信したいデバイスA’に漏れなく送りたいわけです。
これだけ聞くと複雑な回路をそれぞれの衛星に搭載しないと実現しないように感じますが、非常に単純な方法で解消できます。
簡単に言うと、受信した電波を少しずつ遅らせて再送するだけの装置として衛星を使えばよいのです。
ある地上の端末から衛星群に到達した電波を、各衛星ごとに異なる遅延量で再送信します。遅延量を調整すると、再送信された電波は互いに干渉し、ある一定方向に強めあって強い指向性を持ちます。
地上の端末が複数あった時、それぞれの地上端末に合わせた遅延量が必要になります。 そこで各衛星は地上の端末の数に相当するだけの電波のディレイ時間(遅延時間)を覚えておきます。例えば、1万個のデバイスがあれば、1万通りのディレイ時間があります。
大量の衛星がそれぞれの地上の端末に対応したディレイ時間で電波を再送信して、それらを重ね合わせて地上に送信すれば、送りたい相手に漏れなくデータを送信することができるようになります。
出力については、大量の衛星が同時に電波を出すので、数に比例したデータ伝送量が送信されることになります。
宙畑 :……なかなか難しいですね。何かイメージできそうな例えはあるでしょうか。
野田 :そうですねぇ、私が天文台の先生に説明するときは、プリズムとか屈折レンズで屈折率を自由に利用できるもの、という例えを使います。
極端に言えば、電波の反射角度を自由に決められるミラーがあって、変調方式とかそういったものに関係なく、ある周波数の電波を出したらその周波数に対応した角度で地上に送信するイメージですね。
つまり、衛星に送られてきたデータの中身を理解(復調・変調)しなくても、リレーションして集めておけばよいだけなんだ。ということに気づいたわけです。
宙畑 :なるほど!受信した電波を反射するだけのシンプルな通信方式なのですね。
野田 :そういうことです!
通信の規模はどのくらい?何ができるの?
宙畑 :衛星通信は範囲によって強度によって変わるかと思いますが、どのような範囲に対してどの程度の通信速度が得られるのでしょうか。
野田 :関東圏の図を示します。例えば他社の衛星通信サービスだと図の最も大きい円よりも広いところが通信範囲ですが、我々が想定する大人数にブロードバンドの通信を提供をするとなると範囲をある程度限定する必要があります。
もちろん、データレートを下げればより広い範囲に通信を提供できますが、高いデータレートを維持したまま提供する場合はそうはいきません。
そこで我々は、個々の衛星が信号の重ね合わせを計算して適切な送信信号を出力することで、一つの衛星群で図に示す領域の円を複数または全て網羅させることを考えています。
宙畑 :それは凄いですね!!運営のバリエーションに柔軟性が持てそうですね。
野田 :それだけでなく、電波を反射する方向も分けることができます。例えば、混信しないようにするとか、コーン角をどのように絞るのかについても衛星の配置間隔や広さの程度を調整することで、対応出来ます。
大量の衛星によるフォーメーションフライトの制御はどうやって行う?
宙畑 :衛星の仕組みは分かりましたが、衛星コンステレーションを維持するには何かしらの軌道制御が必要だと思います。一体、どのようにしているのでしょうか。
野田 :これもまた仕組みは非常に単純です。普通の電磁石を使って前後・縦横の位置制御から姿勢制御までこなすことを考えています。
宙畑 :もっと複雑な制御方式があるものだと思ってました。
野田 :小さな衛星で大きなパラボラアンテナを作るにあたって、使用する波長に対して最低限波長の半分くらいの距離を保つことを考えた時に、数十cmの距離が限界だとしてもそれだけの距離で制御できれば、それで十分です。
加えて言うと、仮に一部の衛星が故障しても相対的に衛星の位置関係はコントロールできるので、壊れたものは配列から外して、残った衛星が後で整列すれば、そのまま使うこともできます。
宙畑 :ありがとうございます。原理自体は非常にシンプルなんですね。姿勢制御のホイールやスラスタなどを想像していたので、少し予想と違った回答でびっくりしています(笑)
野田 :原理自体は非常にシンプルなので、その分回路もシンプルになります。衛星は現在100g以下のものを想定していますが、回路の規模だけで言えば電磁石のアクチュエータくらいなので、非常に簡単になる。
例えるなら、Wi-Fiやスマートウォッチ程度の規模で十分実現できることが分かりました。
(4)Our Starsの持つ技術と検証内容
これまで、通信衛星の仕組みや衛星の位置制御の話について触れてきました。ではこれらの技術はどこまで実証されているのでしょうか。
どこまでゲームチェンジは現実に近づいてきているのか
宙畑 :非常に小さな衛星を開発する上での技術的課題はなんでしょうか。
野田 :いかに小さくしていくか、に尽きます。現状、衛星の大きさはピンポン玉サイズと話すことが多いですが、あくまで開発した結果たまたまそうなっただけです。技術的な流れとしては、これよりも小さなものになっていくのは自然だと思います。
稲川 :後は実装性の問題です。今、意味のある電子機器を作るとなると一番小さくてイヤホン・スマートウォッチくらいだと思っています。
実際どうなるかは、周波数・電磁力の制御関係・電力の問題がネックになると思います。ここは今後詰めていく必要のある部分ですね。
宙畑 :ありがとうございます。意味のある電子機器とありましたが、それはミッションとして何をするか、どんな機器が必要か、それらのサイズがどの程度か、によって決まると思います。
そういったところも踏まえて、このフォーメーションフライトの通信ミッションがどのような場所を狙って開発しているのか教えてください。
稲川 :やるべき市場の大きさでいうと、スマートフォンへの直接通信でブロードバンドというところの4Gくらいの速度を出せるところに大きなマーケットがあると思っています。
一方でそれに対するユーザーの数、必要な通信速度、その部分の回線設計というところまで行くと、いろんな仮定とかまともな計算をしないと、大きさ・個数・フォーメーションフライト自体の機数や一つのフォーメーションが何個のコンステレーションなるのかという所を決めなくてはならない。この辺りが今後詳細検討の必要なポイントです。
マーケットとしては4Gやデバイスに直接通信のようなものを考えると、緊急通信用やM2M(Machine to Machine)などの IoT 通信のマーケットもありますが、マーケットによってシステムが全く変わってくるので、今はっきりとこのマーケットに絶対行きますと明言はできないです。
あくまで、技術のデモンストレーションの段階で、アプリケーションとかビジネスの展開を考えているという状況です。そういう意味でミッションが決まりきっていないのが現状です。
宙畑 :ありがとうございます。まずは、技術をしっかり確立させる段階ということですね。
Our Starsが進めている実証内容や保有する技術
宙畑 :現在、技術を確立させる段階ということですが、実際に行った試験や技術実証といったことはあるでしょうか。
野田 :実は2月くらいにアンテナアレイ電波干渉試験を行いまして、現在は軌道上シミュレーションと先の実験を並行して進めています。
また、目途がついてきたので、7月にOur Starsから特許を出願しました。特許の内容については、第66回宇宙科学技術連合講演会で発表させていただきました。
(5)Our Starsが求める人材像 / Our Starsが見据える未来
Our Starsが求める人材像
宙畑 :これからを見据えて、どのような技術・知識を持つ人を採用したいかなどがあれば教えてください。
野田 :自分の頭で考えて、それを実現するためのものを作って、ちゃんとこれができるんだよっていうのを言える人です。片方だけではだめです。
勉強はよくできるけど、単なる机上の空論から出ないものづくりできない人は山ほどいますし、ものづくりはできるけど、人に言われないとできないような自分の頭で考えられない人もダメですね。
宙畑 :ありがとうございます。それでは、ビジネス的な観点で見た時、どのような人材を欲しているでしょうか。
稲川 :実現させるためには世界的な大きなビジネスとして、視野の高さと広さ、加えて他社も巻き込む力を持つ人を求めています。
宙畑 :なるほど、それはまさにゲームチェンジャーを担うためには必須の条件になりますね。
Our Starsが見据える未来
宙畑 :最後にお二方から、今後の展望など一言いただければと思います。
野田 :今までの話から、我々は小さな衛星と小さなロケットで小さくまとまった会社を作ると思われてるかもしれませんが、我々は全くそんなつもりはありません。
より小さな衛星を打ち上げ、それらが宇宙空間で増殖して、さらに大きなものを宇宙の工場で作っていく。そこから惑星間を超えて、インターステラーつまり恒星間飛行を本当に行うような大きな夢を抱いています。
稲川 :現在、ロケットの企業各社は人工衛星とロケットの価値を上げていくような事を考えていますが、我々も本事業はそういう活動の一環として行っています。
その中で、とにかく革新的で大きなマーケットを取りに行くことが大事だと思っています。日本からリモートセンシングの企業とか出てきてますが、通信事業で大きなところって、まだ実現できていないので、ここが取るべき領域かなと思っています。
なので、我々はそのようなブルーオーシャンな部分を新しい技術で獲得していく野望のもと、大きなマーケットにしていくという想いを持ちながら取り組んでいます。
宙畑 :ありがとうございます。我々としても、ゲームチェンジによって通信含めた様々な領域によい変化をもたらしてくれることを期待しております。本日はありがとうございました。
ここまで、Our Starsの垂直統合ビジネスにおける立ち位置やゲームチェンジに必要なコア技術に触れてきました。特許出願や試験実施などが進んできており着実に進んでいるように思えます。
現在、外部資金調達も進行しており、今後の動向に注目したいところです。ゲームチェンジが起きた時、世界はどのように変化しているのでしょう。それを直接見届けたい方はOur Starsの門を叩いてみてはいかがでしょうか。