AWSが拓く未来の宇宙ビジネス~AWSと宇宙ベンチャー3社が語るAWSの強みとは~
2023年7月5日に「AWSが支援する宇宙ビジネスに関する勉強会」が実施され、AWS(Amazon Web Services)と宇宙ベンチャー3社による利活用事例の紹介およびAWSの見据えるこれからについて伺いました。
(1)宇宙市場拡大に対するAWSの動向
2023年7月5日に「AWSが支援する宇宙ビジネスに関する勉強会」が実施され、AWSの宇宙産業における事例紹介およびWarpspace、Space Shift、InfostellarのAWS製品の活用形態について伺いました。
米Amazon Web Services 航空宇宙・衛星部門Directorのクリント・クロージャー氏は、冒頭2040年の宇宙産業の市場規模が100兆円規模であるという見込みや現在の日本の宇宙産業の市場規模が約1兆2000億円であることを指摘し、アポロ計画以来のワクワクする時代が来ていると期待を寄せています。
さらに、昨今の宇宙事業者や衛星の打ち上げ数の増加に対し、クラウド×宇宙が新規事業を創出すると注目をしており、AWSはここ10年でアーリーステージの宇宙企業に多額の投資を実施したと強調しました。
主な活用事例として説明があったのは、山火事検知、工場のメタン排出解析など衛星データによる解析やクラウドベースの地上局、海上油田などの僻地利用など地上産業への活用です。
加えて、デブリ関連の事業、宇宙用の産業用ロボット、商用宇宙ステーション、宇宙望遠鏡、アルテミス計画への活用など宇宙利用にも幅広く提供していると説明しています。
また、宇宙で取得し、地球に伝送するデータ量が増加傾向にあり、100TB/日にも上るそう。QPS 研究所の大西 俊輔 氏は同社の衛星コンステレーション36機の運用体制が確立した際のデータ取得量が数百TB/日に上るとも見込んでいます。
このように宇宙産業におけるクラウドの重要度の高さが表れているとクロージャー氏は指摘します。
AWSが多くの利用実績を創出している理由として、クロージャー氏は「宇宙への情熱と宇宙事業従事者の知見が詰まっているのがAWSであり、各企業を支援できることが大きい」と述べました。
(2)各企業のAWSの活用事例と採用した理由
続いて、Warpspace. Inc CSO / USA CEO 森裕和氏、Space Shift CEO ⾦本成⽣氏、Infostellar CEO 倉原直美氏より各社の取り組みとAWSの採用理由について説明がありました。
Warpspaceの活用事例
Warpspaceは、中軌道上に光通信機器を搭載した3基の中継衛星を打ち上げ、地上と常時接続できるネットワークシステム「WarpHub InterSat」の構築に向けて開発を行っています。
これにより従来の電波通信では達成できない、高速かつ大容量のデータ送信、広範囲のカバレッジ、高いセキュリティの実現を目標としています。
現在、2025年に初号機、2026年に2号機3号機の打ち上げに向け開発中です。
同社のエンドツーエンド通信サービスのうち、WarpHub InterSat経由で転送された観測データをS3やCloudFrontを通じてユーザーが取得するような形でAWSを利用しています。
AWSの採用理由として、AWSが観測衛星事業に使用するフロントエンドをAPIで公開していること、データの蓄積の多さを挙げました。
Space Shiftの活用事例
Space Shiftは、SAR衛星データ処理を用いた浸水域の判定や建物の消失検知など災害・農業・都市開発・海洋など幅広い分野での解析を行っています。
さらにAIを用いた自動解析によりリアルタイムの変化検知に取り組んでおり、2025年は超⼩型SAR衛星150〜200機体制のバーチャルコンステレーションによる全世界のリアルタイム観測が期待されています。
同社はSAR衛星画像のAIを⽤いた解析をAWS上で実⾏しており、ウクライナ情勢の解析として車両検知やダム決壊による浸水被害の評価を実施した事例を紹介しました。
また、AWS Marketplaceにて新規建物検知のアルゴリズムを公開しており、アルゴリズムとAWS上のSentinel1データを組み合わせて動作が可能になっています。
その他、AWS IoT Greengrassとの連携も行い、地上データをデータ解析の精度向上に役立てています。
AWSの採用理由として、AWSのIT人材の高い習熟度やデータがポスティングされていることが大きいとしています。
Infostellarの活用事例
Infostellarは、StellarStationと呼ばれるクラウドベースの地上局プラットフォームを開発しており、StellarStationにインテグレーションを一度行うだけで、プラットフォーム上のすべての地上局を共通のインタフェースで利用することができます。
地上局サービスの増加に対して衛星通信の標準化がされておらず、異なるインターフェースでもわずかなコストで利用するために、同製品をミドルウェアとして予約などを一本化する方針を説明しました。
同社はAWS Ground Stationを利用しており、ネットワークのカバレッジ増加に寄与したと説明しました。
また、AWS上で動作するアプリケーションなどに衛星データを取り込み、自身の地上インフラを構築・管理することに伴う負担なしに、運用を拡大可能になりました。
AWSの採用理由として、データ通信におけるインフラとしての存在感が大きくなっていること、AWSの戦略が魅力的であることを挙げています。
(3)今後の宇宙産業におけるAWSの立ち位置
以上の事例を踏まえてクロージャー氏は、「クラウド事業が宇宙事業の発展と捉え、将来の宇宙事業のイノベーションに向けてAWSがサポートする」と意気込みました。
また、「AWSはエッジコンピューティングのパイオニアとして、クラウドを顧客のデータに近づけることが大事」と同氏は述べており、AWS Snowconeをエッジコンピューティングの例として挙げました。
AWS Snowconeは、データの収集、処理、AWSへの転送に利用されるデバイスで、Axiom SpaceとNASAのISS滞在ミッション「Axiom Mission 1」で遠隔通信の実験を行いました。
宇宙ミッションに限らず、通信環境の乏しい山間部などでの使用を想定しています。
AWSがAxiom Spaceと協力しISS上で小型端末AWS Snowconeの遠隔通信に成功。宇宙空間でのクラウド機能の提供に期待【宇宙ビジネスニュース】
その他、AWSのエッジコンピューティングの事例として、2022年にD-OrbitおよびUnibapと共同で地球観測画像の軌道上リアルタイムデータ解析を行っています。
AWSのソフトウェアペイロードをD-Orbit衛星に搭載し、AWSが開発したAIとMLモデルを用いることで画像サイズを最大42%削減と処理速度の向上につながり、軌道上でリアルタイムの推論を可能にしました。
クロージャ―氏は今後の方針として、「AWS Snowconeのようなハードも開発はするが、AWSとしてソフトの需要に対してソフトウェアディファインドに比重を置いた設計支援を行う」と述べました。
最後に、「AWSは顧客の声を起点にサービスを提供している。グローバルなインターネットはみんなで構築するものであり、顧客とともにキャパシティの大きいコンピュートを作っていく」と締めくくりました。