宙畑 Sorabatake

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各国の災害に世界の衛星が総結集! センチネルアジアと国際災害チャータの概要と活躍する衛星一覧

地球観測衛星を活用した防災活動支援を目的としている国際的な協力枠組み「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」について、発動事例と活躍する衛星などを整理しました。

(1)激甚化する自然災害と地球観測衛星を活用した国際的な防災協力枠組み

私たちの生活は、台風や大雨、地震などの自然災害と隣り合わせであるとともに、近年これらの災害は、地球温暖化などの影響によって激甚化しています。このような自然災害による被害を可能な限り軽減するためには、早期かつ迅速に被害の状況を把握し行動に繋げることが重要です。

しかし、発災時に地上から被害状況を把握することは容易なことではありません。そんな時に活躍するのが、宇宙からの目で我々に災害の状況を伝えてくれる地球観測衛星です。

また、火山噴火などの災害の種類によっては、地球観測衛星で定期的なモニタリングをすることにより、災害の予兆を捉え、被害を未然に防ぐことも期待することができます。

今回は、地球観測衛星を活用した防災活動支援を目的としている国際的な協力枠組み「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」についてご紹介します。

(2)「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」とは

2-1-1. センチネルアジアの仕組み

「センチネルアジア(Sentinel Asia)」は、アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF:Asia-Pacific Regional Space Agency Forum)の取り組みとして2006 年に発足した、アジア太平洋地域における防災活動を、宇宙技術を活用して支援すること目的とした国際的な協力枠組みです。

地球観測衛星の観測画像やその解析結果などをインターネット上で共有し、自然災害による被害の軽減を目指しています。

2-1-2. センチネルアジアの加盟機関

センチネルアジアには2023年10月時点で、合計114の機関が加盟しています。加盟機関は大きく分けて、下記の3つのグループに分かれます。

1.緊急観測(通常の地球観測衛星の観測とは異なり、被災地域を観測を最速で実施すること)を実施し、衛星画像を提供する宇宙機関
2.衛星データを解析し、被害状況などの情報化を行う解析支援機関
3.提供された情報を利用する防災機関や国際機関等

Credit : JAXA

センチネルアジアには、下図の8つの宇宙機関が参加をしており、平均して1年間に30回以上の観測要求に対応し、緊急観測の実施及び観測した画像を提供しています。

Credit : JAXA

また、2の解析支援機関は大学や研究所などで構成されており、リモートセンシングや地理空間情報の専門家が衛星画像を解析することで、浸水地図、建物被害地図などの解析プロダクトを作成し、3の防災関係機関に提供しています。センチネルアジアの発動要請は、加盟機関であれば誰でも実施することができます。

2-1-3. センチネルアジアの発動の流れ

センチネルアジアの発動の流れは下記の通りです。
1.自然災害の発生時もしくは発生が見込まれる場合(台風などの襲来が予想される場合)、加盟機関よりセンチネルアジアの発動が要請される。
2.申請が受理され次第、センチネルアジアが正式に発動され、宇宙機関と解析支援機関にそれぞれ観測と解析が要請される。
3.地球観測衛星を保有する宇宙機関が緊急観測を実施し、衛星データを基に解析機関が被害想定域を抽出した解析プロダクトを作成する。
4.要請元に情報が提供される。

また、要請者の希望に基づき、センチネルアジアだけでなく、国際災害チャータ(後述)の発動も実施しています。

2-1-4.センチネルアジアの発動例

洪水

・ミャンマー サイクロン「MOCHA」による洪水
2023年5月に東南アジアに上陸し、猛威を奮ったサイクロン「MOCHA」について、ミャンマーを対象にASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)の要請よりセンチネルアジアが発動されました。下記は、洪水前後におけるJAXA ALOS-2データを、シンガポールの南洋理工大学が解析したプロダクトです。青色が洪水の推定箇所を示しています。この解析結果は、発動元であるAHAセンターのレポートにもまとめられました。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:Earth Observatory of Singapore (EOS)

下記は、同じく、洪水発生前後におけるJAXA ALOS-2データを、アジア工科大学院(AIT: Asian Institute of Technology)が解析したプロダクトです。青色が洪水の推定箇所を示しています。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:Geoinformatics Center – Asian Institute of Technology (GIC-AIT)

地震

トルコ地震
2023年2月6日に発生した地震について、同日トルコの災害緊急事態対策庁(AFAD: Disaster & Emergency Management Presidency of Turkey)の要請によりセンチネルアジアが発動されました。

下記は、発災前後のJAXA ALOS-2データを、シンガポールの南洋理工大学が解析したプロダクトです。黄色から赤色に変化するにつれて、想定される被害が大きくなっていることが示されています。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:Earth Observatory of Singapore (EOS)

下記は、JAXA ALOS-2データを、千葉大学と防災科学技術研究所のチームが解析したプロダクトです。青色の箇所は建物の被害が推定される箇所を示しています。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:千葉大学・防災科学技術研究所

火山噴火

トンガ火山噴火
2022年1月に発生したトンガでの火山噴火について、アジア防災センターの要請によりセンチネルアジアが発動されました。下記は、発災前後のJAXA ALOS-2データを、シンガポールの南洋理工大学が解析したプロダクトです。黄色から赤色に変化するにつれて、想定される被害が大きくなっていることが示されています。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:Earth Observatory of Singapore (EOS)

油流出事故

フィリピン油流出事故

2023年2月に、フィリピンミンドロ島沖でオイルタンカーが転覆・沈没し、油が流出した事故を受け、フィリピン宇宙庁(PhilSA: Philippine Space Agency)の要請により、センチネルアジアが発動されました。

下記は、JAXA ALOS-2のデータをPhilSAが解析したプロダクトです。赤色は、油の流出が推定される箇所を示しています。

Credit : 衛星画像提供機関:JAXA(ALOS-2) 解析機関:Philippine Space Agency (PhilSA)

下記は、台湾の国家宇宙センター(TASA: Taiwan Space Agency)の光学衛星 FORMOSAT-5により観測され、解析されたプロダクトです。オレンジ色で示されている箇所が、油流出が推定されるエリアです。

Credit : 衛星画像提供機関:TASA(FORMOSAT-5) 解析機関:TASA

2-2-1国際災害チャータの仕組み

国際災害チャータは、災害発生時に地球観測衛星の画像を提供し合う国際的協力の枠組みです。正式名称は「自然または技術的な災害時における宇宙施設の調和された利用を達成するための協力に関する憲章」といいます。

1999年にフランス宇宙センター(CNES)と欧州宇宙機関(ESA)により提唱され、2000年にカナダ宇宙庁(CSA)の署名をもって発足し、JAXAは2005年に加盟しました。

2-2-2.国際災害チャータの加盟機関

国際災害チャータには、現在17の宇宙機関が加盟しており、観測データを提供できる衛星数は60機以上にもなります。

・ボリバル宇宙活動庁:ベネズエラ(ABAE)
・フランス国立宇宙センター(CNES)
・中国国家航天局(CNSA)
・アルゼンチン国家宇宙活動機関(CONAE)
・カナダ宇宙庁(CSA)
・ドイツ航空宇宙センター(DLR)
・欧州宇宙機関(ESA)
・欧州気象衛星機構(EUMETSAT)
・ブラジル宇宙研究所(INPE)
・インド宇宙研究機関(ISRO)
・宇宙航空研究開発機構(JAXA)
・韓国航空宇宙研究院(KARI)
・アメリカ海洋大気庁(NOAA)
・ロシア国営ロスコスモス社(ROSCOSMOS)
・アラブ首長国連邦宇宙庁(UAESA)/ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)
・英国宇宙庁(UKSA)/DMCインターナショナル・イメージング社(DMCii)
・米国地質調査所(USGS)

2-2-3.国際災害チャータの発動の流れ

チャータの発動を直接要請できるのは、認定ユーザ(AU:Authorized User)と国際連合やセンチネルアジア・国際連合などの協力機関(CB: Cooperating Body)です。発動要請が受理されると、各宇宙機関へ緊急観測やアーカイブ画像の提供が要請されます。

また、発動案件毎にプロジェクトマネージャ(PM)が指名されるという点は、国際災害チャータの特徴の一つです。PMは自身で衛星データを解析し、プロダクトを生成することに加え、ユーザや他のプロダクト生成者との調整や、追加の観測要請などを行います。

2-2-4.国際災害チャータの発動例

洪水

ブラジル洪水
2023年9月、サイクロンの影響によりブラジルで発生した洪水について、ブラジルの国家災害リスク管理センターの要請により、国際災害チャータが発動されました。

下記は、欧州宇宙機関(ESA: European Space Agency) のSentinel-2のデータを、ブラジル宇宙研究所(INPE: National Institute for Space Research)が解析したプロダクトです。水色で囲まれている箇所が、浸水が推定される都市域(建物があるエリア)を示しています。

Credit : 衛星画像提供機関:ESA(Sentinel-2) 解析機関:National Institute for Space Research (Brazil) (INPE)

地震

モロッコ地震
2023年9月に発生したモロッコでの地震について、国際赤十字の代理で国際連合訓練調査研究所(UNITAR: United Nations Institute for Training and Research) の要請により国際災害チャータが発動されました。下記のプロダクトは、フランス国立宇宙センター (CNES)のPleiadesのデータを基に、UNITAR/UNOSAT(国連衛星センター)が解析したプロダクトです。赤いドットが建物被害がある箇所、黄色いドットが建物被害が推定される箇所を示しています。

Credit : Includes Pleiades material © CNES (2023), Distribution Airbus DS. Map produced by UNITAR/UNOSAT.

森林火災

チュニジア森林火災
2023年7月に発生したチュニジア森林火災について、チュニジアの国家住民保護局からの要請により国際災害チャータが発動されました。
下記は、欧州宇宙機関(ESA) のSentinel-2およびフランス国立宇宙センター(CNES)のPleiadesのデータを解析し、UNITAR/UNOSATが作成したプロダクトです。黄色のエリアは、火災による被害が推定される箇所を示しています。

Credit : 衛星画像提供機関:CNES(Pleiades)、ESA(Sentinel-2) 解析機関:United Nations Institute for Training and Research/ United Nations Operational Satellite Applications Programme (UNITAR/UNOSAT)

(3)「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」の発動実績

3-1. 「センチネルアジア」の発動実績

センチネルアジアの緊急観測が開始された2007年の2月から2023年9月までの間、累計422件の発動がなされました。

国別の発動件数を見てみると、インドネシア、フィリピン、ベトナムの順で発動が多いことが分かります。

センチネルアジア 地域別発動数(2023年9月時点) Credit : JAXA

災害種類別の発動内訳は下記の通りです(2007年から2021年末まで)。洪水での発動が過半数を占めており、追って地震、台風、地滑りが続きます。火山噴火や森林火災、海上の油流出事故による発動も見られます。

Sentinel Asia Annual Report 2021より Credit : JAXA

下記は、2007年から2021年末までの年ごとの発動の推移を表しています。ここ最近は、年間30件前後発動されていることが分かります。

Sentinel Asia Annual Report 2021より Credit : JAXA

3-2. 「国際災害チャータ」の発動実績

2000年11月に国際災害チャータが初めて発動されてから、2023年2月に発動件数が合計800件を超えました。下記は、2022年末までの年ごとの発動件数をまとめたグラフです。最近は、平均で年間40~50件前後の発動なされています。

Credit : The International Charter Space and Major Disasters

2022年における災害種類別の発動内訳は下記の通りです。洪水が3割以上を占め、次いで台風やサイクロンなどのストーム(洪水・地滑り・建物被害などの複数災害)、火山噴火、地震が続きます。

Credit : The International Charter Space and Major Disasters

下記は、災害種別の発動内訳を年単位で表したグラフです。いずれの年も、洪水による発動が1番多いことが分かります。

Credit : The International Charter Space and Major Disasters

(4)「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」で活躍する衛星一覧

4-1.センチネルアジアで活躍する衛星

センチネルアジアで活躍する衛星は以下の通りです。

SAR衛星はJAXAのALOS-2とPhilSAのNovaSARで、それ以外は全て光学衛星です。SAR衛星は雨天時や夜間でも観測ができるメリットを生かし、災害対応で活躍をしています。

一方、光学衛星は、上手く雲の切れ間などに観測ができると一目で土砂崩落箇所などを確認できるため、説得力のある情報を提供することができます。中でも、MBRSCのKhalifaSatは分解能が70cmほどであり、数多くの解析プロダクトが提供されています。

4-2. 国際災害チャータで活躍する衛星

国際災害チャータで活躍する衛星は以下の通りです。

宇宙機関だけでなく、民間データ提供者も協力し、衛星画像の無償提供を行っている点も特徴です。2018年より、小型光学観測衛星群を運用する米国Planet Labs社が民間データ提供者となり、2020年には小型レーダ観測衛星群を運用するフィンランドICEYE社、2021年には米国Satellogic社、2022年には米国BlackSky社が参加をしています。

また、米国からは、宇宙機関であるアメリカ航空宇宙局(NASA)ではなく、アメリカ海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)とアメリカ地質調査所(USGS:U.S. Geological Survey)がそれぞれ地球観測衛星を保有・運用していることから、その2機関が加盟をしています。

(5)「センチネルアジア」と「国際災害チャータ」の今後の展望

センチネルアジア・国際災害チャータ共に、加盟機関数や衛星数の増加により、活躍する衛星の種類(センサ・分解能等宇)が多様化していることから、災害の種類や被災地域の範囲、ユーザが求める情報に基づき、地球観測衛星データの組み合わせや使い分けが重要になってくると思われます。

解析技術についても、さらなる精度の向上や迅速なプロダクト提供がユーザに評価されることで、地球観測衛星の活用がより広まることが期待されます。

また、センチネルアジアでは災害時の緊急観測のみならず、ハザードマップの作成などの「予防・減災」、各国における災害対応手順書の作成やトレーニングの実施などの「事前準備」、発災後の「復興・復旧」といった防災サイクル全体への支援を目指していることから、地球観測衛星がより広く世界の防災活動に利用されていくことが期待されます。

(6)まとめ

センチネルアジア・国際災害チャータは、地球観測衛星を活用した防災活動支援を目的としている国際的な協力枠組みです。どちらの枠組みも設立から15年以上が経過し、毎年様々な国・地域で発生する自然災害に対して、衛星による緊急観測や解析プロダクトの提供が行っています。

近年では、各宇宙機関の保有衛星の増加に加え、人工衛星を開発、運用する民間企業も著しく増加しています。地球観測衛星のセンサや分解能等の種類の多様化に加え、解析技術のさらなる向上や自動化が進むことにより、より多くの国・地域で、災害発生時の緊急観測のみならず防災サイクル全体に対して、地球観測衛星が活用されていくことが期待されます。

【参考(英語サイト)】
センチネルアジア:https://sentinel-asia.org/
国際災害チャータ:https://disasterscharter.org/web/guest/home