宙畑 Sorabatake

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PESTで振り返る2023年の宇宙ビジネスニュースと2024年の注目イベントまとめ

2023年、宇宙ビジネス業界で起きたニュースをPEST形式でまとめ、2024年の注目ポイントを紹介しています。

2023年、宙畑では230本の国内外の宇宙ビジネスニュースを公開してきました。

前半はこれらのニュースをPEST(Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術))の4種類に分類し、それぞれの観点で宇宙ビジネスの動向を解説していきます。後半は2024年に予定されている注目トピックを解説していきます。

Politics(政治)

「スタートアップ育成5か年計画」による宇宙企業支援が本格始動

国内では、岸田内閣が掲げる経済政策の目玉のひとつ「スタートアップ育成5か年計画」の一環で行う、文部科学省と経済産業省による「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に宇宙スタートアップ16社が採択、最大で総額387.6億円が交付されることが話題になりました。

なかでも最も大きな額である120億円の交付が決まったispaceは、補助金を活用して新たに100kg以上のペイロードを月面に輸送する「シリーズ3ランダー(仮称)」を日本本社主導で開発する計画を発表しました。

10年間で総額1兆円規模。民間や大学の研究開発を支援する「宇宙戦略基金」創設

政府はJAXAに、民間企業や大学の研究開発、技術実証、商業化を支援する「宇宙戦略基金」を設け、10年間で総額1兆円規模の支援を行う方針を固めました。この宇宙戦略基金の実現によって、民間企業や大学が複数年度にわたる予見可能性を持って研究開発に取り組めるようになることが期待されます。

一方、9月29日に開催された定例記者会見でJAXAの山川宏理事長は、基金を運用する人材の確保が課題であることを説明しました。JAXAは基金事業の企画推進・運営業務に従事する職員3〜5人を募集しています。(※応募期限は2024年1月14日17時)

Credit : 内閣府 Source : https://www8.cao.go.jp/space/comittee/dai108/siryou3.pdf

中国主導の月面基地建設プロジェクトへの参加国が続々と登場

世界に目を向けると、中国が主導する月面基地の建設プロジェクト(International Lunar Research Station,通称ILRS)へ新たに参画する国の発表が目立ちました。中国は以前から、月探査に関心を持つ国や国際機関にILRSへの参画を呼びかけていました。

2021年に覚書に署名したロシアに加えて、2023年はアジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)、アラブ首長国連邦(UAE)、ベネズエラ、南アフリカ、アゼルバイジャン、パキスタン、ベラルーシ、エジプトが参画を発表しました。建設が順調に進めば、ILRSは中国がパートナー国との協力関係を築き、国際関係で優位に立つための資産になるのではないかと見られます。

Economy(経済)

業界に激震、Virgin Orbitが経営破綻

2023年は宇宙ベンチャーの明暗が分かれた1年でした。小型ロケットを専用の航空機から空中発射して打ち上げる輸送サービスを行っていたVirgin Orbitは、2023年1月に実施した打ち上げに失敗した後、経営難に陥り、経営破綻しました。なお、2017年に分社化されたグループ会社で、サブオービタル旅行を提供するVirgin Galacticは6月に初の商業飛行を成功させて以来、2カ月ごとに商業飛行を実施しています。

小型ロケットを開発するアメリカのベンチャーAstra Spaceは、打ち上げの失敗が続き、経営不振に陥り、2023年8月には従業員の解雇に踏み切りました。11月には初期の投資家の関連企業2社から1,340万ドル(約20.3億円)を調達し、経営の再建を目指しています。

手広い宇宙インフラ開発に取り組むベンチャーが大規模な資金調達の傾向

経営難に陥ったり、資金調達に難航したりする企業が出てきているなか、多額の資金調達に成功している企業もあります。宇宙往還機の開発や商業宇宙ステーションの構築に取り組むSierra Spaceは2億9,000万ドル(約412億円)を調達しました。

ISSへの商業宇宙飛行サービスの提供や商業宇宙ステーションの構築、アルテミス計画で使用する船外活動服の開発を手掛けるAxiom Spaceは、8月にシリーズCラウンドで3億5,000万ドル(約513億円)を調達したことを発表しました。これは2023年に民間宇宙企業が調達した資金額でSpaceXに次いで大きい額だと見られます。資金調達の発表と同時に、顧客との契約金の総額は22億ドル(約3222億円)以上に上っていることも発表されました。

ispace・Ridge-i・QPS研究所、国内の宇宙ベンチャー3社が上場

国内では4月にispaceが東京証券取引所グロース市場へ上場したのを皮切りに、衛星データを活用したAI解析ソリューションの提供などを手掛けるRidge-i、小型SAR衛星コンステレーションを構築するQPS研究所が上場を果たしました。

ispaceの上場記者会見で、代表取締役CEOの袴田武史さんは「宇宙で事業をやっていくことは簡単なことではありません。ただ、不可能ではなくて、(宇宙ベンチャーが)我々のようにしっかりと事業を築き始められていることは、世の中に対しても非常に良いメッセージになると考えています」と語りました。

Society(社会)

H3ロケット試験機1号機の打ち上げが失敗。だいち3号が喪失

H3ロケット試験機1号機

JAXAは、3月7日に実施したH3ロケット試験機1号機の打ち上げに失敗。搭載されていた先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」を喪失しました。試験機である初号機の打ち上げが成功する前提で、発災時の状況把握などを担うはずであった、だいち3号を搭載した判断の妥当性にも疑問の声が上がりました。2024年2月15日に予定されているH3ロケット試験機2号機の打ち上げでは、当初予定されていた、先進レーダ衛星「だいち4号」の搭載を見送り、ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)などが搭載されます。

また、H3ロケットでの打ち上げが計画されているミッションのひとつであるJAXAの火星衛星探査計画(MMX)の探査機を打ち上げる時期を、当初予定されていた2024年度から2026年度に変更することが決まるなどの影響も出ています。

Starlinkの活用例が続々登場。ソフトバンクとNTTドコモグループも再販事業者に

SpaceXによる衛星通信サービス「Starlink」は、2022年秋に日本に上陸して以来、瞬く間に広がり生活に浸透し始めています。電波の届きにくい山小屋の通信環境の改善を図る「山小屋Wi-Fi」や「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023」など音楽フェスでのWi-Fi提供に活用されるなど、利用ケースが増えています。

SpaceXと2021年に提携したKDDIに加えて、7月にはソフトバンク、10月にはNTTドコモグループがサービスの提供を行う再販事業者となりました。

インドの月探査機「チャンドラヤーン3号」が月面着陸。史上4カ国目

Credit : 在日インド大使館で行われた、チャンドラヤーン3号の月面着陸成功を祝うイベントの様子

インドの月探査機「チャンドラヤーン3号」が8月23日に月面着陸に成功しました。インド宇宙研究機関(ISRO)によると、チャンドラヤーン3号に搭載されていた観測機器を搭載したローバー(探査車)は、正常に動作していて、約8mの走行に成功したといいます。月面着陸を成功させたのは旧ソ連、アメリカ、中国に続く4カ国目。インドのナレンドラ・モディ首相は「(月面着陸が確認された)その瞬間は、今世紀で最もインスピレーションを与えた瞬間の一つです」と喜びの言葉を述べました。

Technology(技術)

SpaceXの次世代ロケット「Starship」の飛行試験が実施

2023年はロケットの初打ち上げが目立った1年でした。SpaceXが次世代ロケット「Starship」の初の飛行試験を4月20日、2回目の飛行試験を11月18日に実施しました。Starshipは100トン以上のペイロードの搭載または乗員乗客が最大で100人の搭乗が可能な輸送能力があり、商業打ち上げが実現すると輸送コストを大きく変動させるゲームチェンジャーになると見られています。

Starship Credit : SpaceX

SpaceX によると、2回目の試験では、第一段エンジンの回収には至らなかったものの、第二段エンジンは高度150kmまで上昇する間、数分間燃焼したといいます。商業打ち上げに向けて前進した1年だったと言えるでしょう。

勢いを増す中国のロケットベンチャー。世界初のメタンロケットの打ち上げに成功

中国のロケット開発企業LandSpace Technologyが7月12日、朱雀2号(Zhuque-2)の打ち上げに初めて成功したことを発表しました。液化メタンと液体酸素を燃料とするロケットが軌道に到達したのは世界初です。メタンは安全性が高いほか、タンクの小型化にもつながる等のメリットもあります。

中国では打ち上げを成功させたり、大型の資金調達を実施したりするロケット開発ベンチャーが複数社出てきていて注目が集まっています。

Amazonの「プロジェクト・カイパー」試験機が打ち上げ。NTTグループとの提携も

Amazonは、通信衛星コンステレーション計画「プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)」を通じて、高速かつ手頃な価格のブロードバンドの提供を目指しています。2029年までに約3200機を低軌道に打ち上げ、衛星コンステレーションを構築する計画です。

10月6日に試験衛星2機が打ち上げられ、11月17日には同衛星のミッション成功率100%を達成したと発表しました。試験では、衛星コンステレーションのアーキテクチャと設計を検証し、ネットワークを介した4Kビデオストリーミングと双方向ビデオ通話のデモンストレーションを行なったといい、大容量かつ高速な通信を実現する衛星の技術面にも注目が集まっています。

11月28日には、NTT、 NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、スカパーJSATとの提携が発表されました。 サービスの利用例として「これまでは通信環境の確保が難しかったエリアにおいて、一次産業におけるIoT活用、建設機械の遠隔操作等の高度なソリューションの導入が可能になります。加えて、お客さまはKuiperを利用してAWSのクラウドサービスにアクセスし、AIや機械学習などの最先端のテクノロジーを利用できるようになります」と紹介されています。

2024年の注目トピック5選

最後に、2024年に予定されている注目トピックを5つ紹介します。

ピンポイント着陸技術を実証する小型月着陸実証機「SLIM」、いよいよ着陸へ

9月7日にH-IIAロケット47号機が打ち上げられた小型月着陸実証機「SLIM」と搭載された小型ロボット2機が、いよいよ1月20日に月面に着陸する予定です。

SLIMは、月へのピンポイント着陸技術の実証を目指しています。従来の月着陸の精度は数km〜十数kmでしたが、SLIMは100mオーダーの着陸精度が実現すれば、クレーターへの落下を防ぐことができ、月極域で水資源の探査を行う場合にも、太陽光が当たる限られた区域に着陸できるようになると期待されています。

H3ロケット試験機2号機、2月15日に打ち上げへ

Society(社会)でも紹介した通り、H3ロケット試験機2号機の打ち上げが2月15日に実施される予定です。

宇宙技術の開発ロードマップ「宇宙技術戦略」が2023年度内に策定へ。

日本が開発を進めるべき技術を見極め、その開発のタイムラインを示した技術ロードマップ「宇宙技術戦略」が2023年度内に策定される予定です。この宇宙技術戦略は2024年度以降の技術開発予算の執行で参照される見込みであるほか、選定された分野には民間からの投資の促進にもつながるのではないかと期待されます。

アメリカ大統領選挙、「もしトラ」の宇宙業界への影響は?

2024年はアメリカ、ロシア、台湾、EU(欧州連合)などで選挙が行われる世界的な「選挙イヤー」です。なかでも、アメリカの宇宙開発計画は政権の方針に影響を受けることが多く、11月に予定されているアメリカ大統領選の行方は宇宙業界からの注目度も高いでしょう。

現時点(1月)で共和党の候補者として根強い支持を集めているドナルド・トランプ前大統領の任期中は、1993年から休止していた国家宇宙会議(NSpC)の復活やアルテミス計画の策定、宇宙軍の創設、商業宇宙活動の活性化のための規制調整をはじめ、アメリカの宇宙計画に勢いをつけました。一方、ドナルド・トランプ前大統領が再選した場合には、気候変動対策関連の取り組みの停滞などが懸念されます。

以上、2023年に起きた宇宙ビジネスの話題と2024年の注目ポイントを紹介しました。

各国が官民連携で宇宙ビジネスに総力をあげて取り組んでいることが国内でも話題になり、2024年以降の宇宙ビジネス動向にも注目が集まる機運が高まった1年だったように思います。

宙畑は、国内外の宇宙ビジネスニュースをもれなくお届けできるよう本年も記事を公開してまいります。