宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

デジタル庁のアナログ規制から考える衛星データ利用の可能性

アナログ規制の見直しについて、活動の概要から衛星データ活用の可能性まで、新たな付加価値を生み出しやすい社会を創るアナログ規制見直しの今に迫ります。

「アナログ規制の見直し」という言葉を聞いたことがありますか?

デジタル庁が推し進める政府のDXの一環で、従来アナログ的な対応を定めていた法令を見直し、新しくデジタル技術を利用した手法で代替できるようにしていこうという取り組みです。
国の法令ということで、広く国土を見るためのものも多く、「これは衛星データの出番では!?」と考えた宙畑編集部は、実際にアナログ規制の見直しを担当されているデジタル庁の担当者にお話をうかがいました。
アナログ規制の見直しについて、活動の概要から衛星データ活用の可能性まで、新たな付加価値を生み出しやすい社会を創るアナログ規制見直しの今に迫ります。

【インタビューを受けてくださった方】

デジタル庁 平野貴也 参事官補佐
テクノロジーマップ等のご担当として、テクノロジーマップの整備・更新や技術検証の実施に関する取組を推進

デジタル庁 石井友梨 参事官補佐
アナログ規制の見直し担当として、「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表」に沿って各省庁の見直し状況フォローアップを担う

(1) デジタル庁が推進するアナログ規制の見直し全体像

はじめに、アナログ規制見直しの取り組み経緯についてご紹介します。

本取り組みの背景には、アナログ的手法を前提とした現在の法令や制度が、デジタル化を阻害する要因の1つになっていることがあります。具体的なアナログ的手法とは、目視確認が必要な検査や実地監査、特定の書類のオフィス保管、特定の技術者の常駐を定める法令などが該当し、種類は多岐に渡ります。アナログ規制見直しでは、デジタル社会の実現を目指すと共に、デジタル活用による人手不足の解消や業務における生産性向上、行政の在り方改革による利便性や質の向上が見込まれています。

これまでの具体的な取り組みについて、石井氏からご説明いただきました。

法令約1万条項の見直しの道のり

(出典:第6回デジタル臨時行政調査会(令和4年12月21日)資料1:デジタル原則を踏まえた工程表の確定 とデジタル規制改革推進のための一括法案について

石井氏:デジタル庁では法令等に含まれるアナログ規制の洗い出し作業を行い、令和4年の12月に法令約1万条項の見直しに向けた工程表を策定し、デジタル臨時行政調査会で決定しています。また令和5年5月には、通知通達等の約2500条項の見直し方針を策定し、現在各規制所管省庁が行程表や見直し方針に沿って見直し作業を進めています。

デジタル庁では各規制所管省庁が工程表や見直し方針に沿って作業を行っているかフォローアップを実施しており、現在は予定通りに進んでいる状況です。令和4年6月から令和6年6月までを集中改革期間として設定しており、この期間に見直しが完了できるよう関係省庁と連携をしています。

規制見直しについては、デジタル原則(宙畑メモ参照)に照らした規制の一括見直しプランに基づいて、各フェーズごとに目標が設定されています。目標に沿ってアナログ規制の見直しが進んでいるか、見直し内容をデジタル庁で確認し、各省庁の担当者と会話をしながら進めています。

宙畑メモ:デジタル原則とは
デジタル社会の実現に向けた構造改革のため、政府が設置したデジタル臨時行政調査会(会長:内閣総理大臣)の中で、アナログ規制見直しの取り組み方針として5つの原則が定められました。

(出典:構造改革のためのデジタル原則の全体像

全てをデジタルに置き換えるわけではない

宙畑:各省庁の現業がある中で、規制の見直しや、デジタル化をどこまで進められるのか、調整は難しいと推測していますが、進めるに当たっての課題や調整で大事にしているポイントを教えて下さい。

石井氏:今回のアナログ規制の見直しでは、全てをデジタル技術に置き換えようとは考えておりません。客観的にはデジタルに置き換えられると思えるようなものも、どうしてアナログ手法を用いているのかを正しく理解する必要があると考えております。その上で気をつけていることは、デジタル技術を導入するに当たって特定の技術を持ち出さないことです。衛星データや、ドローンなど特定の技術を指定するのではなく技術中立的な立場でアナログ規制の見直しを推進できるようフォローアップしております。

宙畑:技術中立性や、デジタル技術による確らしさはどのように担保しているのでしょうか。

石井氏:必要なものについては代替技術の調査や検証等を行い、それらの結果を踏まえた見直しを行っています。アナログ規制の見直しと、規制目的を達成するための代替技術の調査・検証は同時並行で進めている状況なので、一部の条項については技術検証の結果を踏まえてアナログ規制の見直しが進められるものもございます。また検証などは不要で、既存の技術を用いて規制見直しが可能なものもあります。

インタビューの中では、アナログ規制の見直しに該当する1万条項のフォローアップをデジタル庁職員約15名の体制で進めているというお話もあり、少人数精鋭のデジタル庁の取り組みに興味が尽きない宙畑編集部でした。次の章では、アナログ規制見直しに向けた具体的な技術検証について紹介します。

(2)アナログ見直しに関するデジタル技術の検証

デジタル庁では、アナログ規制の見直しに関して、令和5年から技術検証事業に取り組んでいます。規制所管省庁と連携しながら、デジタル技術を保有する企業や事業者を募集し、安全性と実効性の観点から技術検証を進めています。

2024年7月1日に今年度の技術検証事業の公募予告がデジタル庁のWEBページに公開されましたが、
昨年度までの技術検証について、平野氏からご説明いただきました。

デジタル技術の安全性・実効性の検証

平野氏:アナログ規制見直しと共にデジタル庁主体で技術検証を実施するに至った背景ですが、アナログ規制の見直しに向けた工程表のとりまとめに向けて各省庁と会話する中で、一部の規制についてはデジタル技術を使用した時の安全性や実効性の確保について確認が必要であることがわかりました。

規制所管省庁で検証・確認いただいているものもありますが、省庁横断的に検証することで効率的に実施できるものはデジタル庁が主体となって、各省庁とも連携しながら令和5年に技術検証事業を実施しています。具体的にはこれまでの規制をデジタルに置き換えた時の安全性や実効性の技術検証を目的に、技術検証事業を実施頂ける事業者を公募して、検証を行いました。

宙畑メモ:技術検証事業の具体例
①火薬類取締法に基づく火薬類関連施設の土堤等の完成検査・保安検査
本技術検証では株式会社パスコが技術検証を行う事業者として採択されています。技術検証の内容は、火薬を取り扱う関連施設がそれ以外の施設と十分な距離をとれているかを確認する現地検査について、衛星画像で代替可能かを実証するものです。施設周辺の衛星画像を取得し解析結果と地図データの比較や、IoTセンサーを用いた土堤の変状の検出を実施。報告書では、今回の技術実証において一定の適用可能性を確認することができたとまとめられています。

(出典:https://www.digital.go.jp/policies/digital-extraordinary-administrative-research-committee/technology-verification/type7

②鉱山保安法に基づく鉱山における作業監督業務
本技術検証ではKDDIスマートドローン株式会社が技術検証を行う事業者として採択されています。技術検証の内容は、監督者が現場に専任で当たることとされている管理・監督業務について、ドローンを自動巡回させ、画像を遠隔地に伝送し、遠隔実施が可能かの実証となります。報告書では、遠隔化による「作業時間の短縮」、「作業の省力化」だけでなく、「安全性の向上」により従事者の罹災防止や鉱山災害防止に寄与すると総括されています。


(出典:類型11:センサー、カメラ等を活用した施設等の管理・監督業務の実証

平野氏:技術検証が必要と整理された条項は1万条項のうち約1割程度にあたる1043条項ありました。その約半分にあたる400〜500条項についてデジタル庁で技術検証を実施しています。400〜500条項の規制の趣旨・目的とそれに対して活用できそうな技術を整理し、14の類型に分類して技術検証事業の公募を行いました

14類型の技術検証については、デジタル庁と各規制所管省庁やコンサルタントにもご参加頂き、研究調査を進めてきました。技術検証結果を踏まえた最終的な見直し可否については、アナログ規制を所管している各省庁で現在検討されている状況です。

宙畑:技術検証に取り組む中で、今から活用可能な技術と、今は難しいものの将来活用できそうな技術の比率はどの様な結果だったのでしょうか。

平野氏:具体的な比率は整理していませんが、現在のデジタル技術で全てをカバーできなくても、一定の水準で活用できると報告頂いたものはそれなりにあったと認識しています。ただアナログ規制で求めている点検項目が例えば100個ある中で、今回の検証の中では10〜15個程度であれば活用可能と確認されたものもありました。

また、現在人間が実施している検査に対して、デジタル技術を活用することで検査の精度が上り緻密な検査が可能となるケースや、人間が危険な場所に立ち入り不要となることで安全性向上に寄与するケースなどプラスの効果が得られたという報告も聞いています。

一方で、活用できそうであることは検証できたものの、現場でデジタル技術を利用するにあたって別の課題が顕在化するような報告もありました。

平野氏より具体的な検証内容と、アナログ規制見直しまでの検証プロセスについてご説明頂き、デジタル庁だけではなく規制所管省庁や技術を保有する事業者を巻き込んだ横断的な取り組みであることを学びました。次の章では、検証したデジタル技術をまとめたテクノロジーマップ・技術カタログについて紹介します。

(3)デジタル庁謹製!テクノロジーマップ・技術カタログとは

テクノロジーマップ・技術カタログに関する取組

デジタル庁では、アナログ規制の見直しを各規制所管省庁と進めていくと共に、見直しに活用可能な企業の技術や活用事例などの情報を整理したテクノロジーマップ・技術カタログの整備を進めています。

各企業・事業者が、どの様なデジタル技術を保有し、それがどの様に活用されているのかを一覧化することで、今後のデジタル導入に向けた〇〇に関する情報が明確になることが大きなメリットとなっており、それによって、各規制所管省庁が、自律的に所管規制における事業者等の取組のデジタル実装や規制見直しを推進できる環境を目指しています。

本章ではテクノロジーマップ・技術カタログ整備について、平野さんが今後どのようにアップデートをしていこうとされているのか伺った内容を紹介します。

ビジネス利用できるデジタル技術とは

宙畑:衛星データの利活用の場面では技術検証やPOCが完了しても、実際に事業化する際に上手く技術を利用できないことがあり、検証フェーズと事業化フェーズにはギャップがあると考えています。ビジネスで使われる技術と、ビジネスでの利用が難しい技術の特徴などは、これまで技術検証に取り組む中でありましたか。

平野氏:デジタル庁でも非常に頭を悩ませているポイントになっています。

例えば、技術検証は成功しても、従来、人力で実施していたもの以上にコストがかかるケースでは、ビジネスチャンスに繋がりにくいという話もあります。また技術を保有する事業者と意見交換する中では、営業にあたって現場での活用実績や導入事例がないことの難しさがあるといいます。

技術カタログの一例(広域な利用状況・被害等の把握のデジタル化を実現する製品・サービス一覧)2024年7月13日宙畑編集部がコピー

今回技術カタログを整備することで、事業者の環境も変わる可能性があると考えています。一方で、技術カタログに掲載されているからといって全てのケースで利用できるわけではなく規制の趣旨・目的にも影響されるため、業務での技術活用に当たっては規制所管省庁、自治体と事業者間で確認しながら進めて頂くことが必要と考えております。

ビジネスでの利用が難しいという観点では検査の精度について、従来は人間が検査するから良しとされていたこともあるように感じています。人間が目視確認していたものに対して、デジタル技術に置き換える場合には、求められる水準を定量的に示す必要があります。人間が行うことで検査の有効性が担保されているとしていたものが、技術水準や性能基準に照らして検査する際に、どこまでを安全とするかの基準を数値で表すのは難しく、この点は私も業務を行いながら、悩ましい課題と感じています。

宙畑:衛星データの利用でも、現場で使用するに当たっては、今まで人間の目で見ていたものを、宇宙からデータ収集するイメージが持てないなど、気持ちの面での情報や技術の信頼性にハードルを感じる場面もあります。信頼できる技術や、人間に代わっても問題ないと気持ちの面でも感じられる技術はどの様に浸透していくべきなのでしょうか。

平野氏:例えば、目で見ているものをカメラに置き換えることは、誰でもイメージできますが、衛星データになると想像がつかない部分も多いように感じます。ユーザーにとっては技術代替のイメージのしやすさが一つ重要になると考えていますが、一方で、規制が求める検査の目的に立ち返ることも技術を中立的に見てもらうために大切であると考えております。

宙畑:現在、テクノロジーが進化するスピードが早くなっているように感じています。今後のテクノロジー進化に対するテクノロジーマップ・技術カタログの見直しフローは、現時点でどのような検討がされているのでしょうか。

平野氏:現時点では、技術の成熟度合いを踏まえた規制の見直し内容になってしまうのは仕方ないと考えていますが、仰る通り技術進展に応じた見直しも必要であると考えており、規制の見直しの一括プランにおいて、テクノロジーベースの規制改革という考え方が述べられています。

デジタル原則に照らした規制の一括見直しプランで述べられているアジャイル型の見直しアプローチ

具体的にはテクノロジーマップ・技術カタログを利用して、規制の見直しに活用可能な技術と、規制等で活用可能な技術を整理をして、情報公開していくことで規制を所管する省庁に技術情報の知識をアップデートしていただきながら、規制の見直しに活かしていただきたいと考えています。

デジタル庁が運営するコミュニティ『RegTechコンソーシアム』

宙畑:テクノロジーマップ・技術カタログのアップデートをするにあたっても、目まぐるしい技術の発展を追い続けるのは難しいと考えております。何か工夫されていることなどはあるのでしょうか。

平野氏:現在のテクノロジーマップに掲載されている要素技術は、令和5年10月時点までのものになります。まずはそこまでのデジタル技術を基に技術カタログとして整備しているのが今の状況ですが、先ほどもお伝えしたように今後全体を見直していく必要はあると認識しております。

工夫の1つとして、テクノロジーマップ・技術カタログの取り組みの中で、RegTech*コンソーシアムというSlack上のコミュニティを運営しております。コミュニティには、アナログ規制見直しに資する技術を保有する事業者や自治体、あるいは他方で、規制の下で業務を行っているような事業者が参加しています。このコミュニティを、各関係者間での情報共有及びアナログ規制見直しに資するマッチングの場として位置づけようとしており、その中で、技術情報の交換も円滑に進めていくことを目指しておりますので、コンソーシアム内でのデジタル技術情報も含めてカタログに反映していきたいと考えています。
*RegTech(レグテック)は規制(Regulation)と技術(Technology)を組み合わせた造語

将来的なデジタル技術の情報更新の理想として、事業者などから技術の情報提供を受けて、それらをテクノロジーマップに反映できる自律的なスキームを構築したいと考えています。

また、新たな技術の実現可能性を計る技術検証事業は、今年度も継続して実施する予定ですので、検証で得られた結果もテクノロジーマップ・技術カタログに反映させていくことで情報の陳腐化を防ぎたいと考えています。

宙畑メモ:RegTechコンソーシアムの様子をご紹介
宙畑もRegTechコンソーシアムに参加させて頂きました。週1回以上の情報発信や、月1回のオンラインイベント「RegTechミート」が開催されており、デジタル活用に向けたネットワークが構築されています。2024年6月の「RegTechミート」では、農業における衛星データ活用が取り上げられていました。参加はこちらの登録フォームよりお申し込みください。

デジタル庁が目指すテクノロジーマップ・技術カタログのあるべき姿

宙畑:テクノロジーマップ・技術カタログの見直しも含めて取り組まれていくとのことですが、今時点で思われている課題や、課題を踏まえた今後の方向性・将来のイメージを教えて下さい。

平野氏:目的に立ち返ると、各規制所管省庁及び規制対象の事業者・自治体の皆様にとって、見やすいテクノロジーマップ・技術カタログにしていかなければならないと考えています。

現在テクノロジーマップ・技術カタログに関する情報は試行版サイトとして情報公開されていますが、継続して使いやすく、得たい情報がすぐに得られるようなものにしていきたいと考えております。

サイトでは活用可能な技術を記載しておりますが、ある技術が、ある規制においては一定程度利用できるが、別の規制においては使用するのであれば、その検討に当たって、もう少し精度が高いものが必要になるなど、関連した情報を今後公表できれば、より利用しやすいテクノロジーマップ・技術カタログになると考えています。

まず着手しようとしているものとしては、各規制所管省庁のアナログ規制が該当する箇所を見つけやすくすることです。活用可能な技術を見つけてもらうための第一歩として、現在の規制が該当する箇所を特定する必要があります。委託事業者と連携しながら、徐々にUIの向上をしていきたいと考えております。

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平野氏から使いやすいテクノロジーマップ・技術カタログにしていきたいというお話もありましたが、既に公開されているテクノロジーマップは規制の判断・対応内容に着目した表と、規制に基づいて実施する業務内容に着目した表の2種類を確認することができます。今回のインタビューでは、使いやすさにこだわるデジタル庁の皆様の思いを伺うことができました。将来的には検索のINDEX化やchat GPTのようなLLM(大規模言語モデル)なども利用することで、最適なデジタル技術とのマッチングが可能になるのではないでしょうか。

次の章では衛星データが使われた技術検証例や、テクノロジーマップ上の衛星データの領域についてご紹介します。

(4)技術検証を通じて見えてきた衛星データの利活用の可能性

宙畑読者の皆様は、今回の技術検証での衛星データがどのようなケースで利用されたのか気になっていたのではないでしょうか。

デジタル庁が整理したテクノロジーマップ上の衛星データの位置付けについて、規制の判断・対応内容(パターン1表)では「自然・環境の適格性」「人工物・製品・食品・家畜等の適格性」「行政手続き・民間サービス・教育に係る情報伝達」に記載があります。また規制に基づく業務類型(パターン2表)では「検査・点検・監査」「監視・見張り・監督」「書面・情報等」に該当する技術として整理されています。

今回は衛星データを使用した技術検証の事例と共に、デジタル庁のご担当者が感じる衛星データのポテンシャルについてお伺いしました。

テクノロジーマップの中でも赤枠で囲った部分が衛星データが活用できそうな領域(赤枠は宙畑編集部で追記)
(出典:テクノロジーマップ・技術カタログに関する取組)

広域なデータから対象範囲を絞り込む衛星データの強み

石井氏:衛星データを利用した事例については、今まさにフォローアップしている条項になりますが、固定資産の実地調査に関する調査結果及び先進事例が挙げられます。

現在地方税法に基づいて固定費資産の現況調査を各市町村が実施をしていますが、現況調査にどのような技術が投入されているかを調査したものになります。

調査結果では、現在9割程度の市町村で航空写真が活用されていることを確認しています。加えて近年では衛星やドローンを用いたデータ活用や、画像データのAI分析などの先進事例を確認することができ、業務効率向上に寄与する先進事例として自治体に対して横展開しています。

(出典:固定資産の現況調査に係る実態調査の調査結果及び先進事例について)

宙畑:技術検証をする中で、衛星データを活用できた分野と、現時点での活用が難しいと感じた分野がございましたら教えてください。

平野氏:実際に技術カタログで、衛星データ活用している事業分野を確認してみたのですが、衛星データの特徴として、広い範囲の情報を一度に得ることができることが大きな強みの1つであると捉えています。技術カタログでは、「広域な利用状況・被害等の把握のデジタル化を実現する製品・サービス一覧」に該当します。特に広域的な状況把握は、先ほどの固定資産税の調査や災害対策基本法の内容なども含まれています。

一方衛星データ活用が難しい点としては、限られた範囲の詳細情報を取得する難しさがあるように感じております。現地に赴いて確認する方が簡単なケースが多いように考えております。従って、衛星データの用途として使いやすいのは、現地に赴く前段階として、現地に赴かなくてはならない対象範囲を絞り込む際に活用できると捉えております。

衛星データを解析して詳細な点検が必要な箇所と、人間の確認が不要な箇所を見分けるように、データ取得から判断までがパッケージとなった判断支援ツールがあると利用しやすいように感じています。加えて、その前段として衛星データで対象を絞り込む時に、必要な情報が明確化され、特定されていくことでより広い分野で利用できると考えております。

宙畑:検査を行う前段階として対象を絞り込むために衛星データを利用して、最終的な検査や確認を現地で行う際には別のデジタル技術を活用するなど、技術を組み合わせることで解決できることもあるのでしょうか。

人間とデジタル技術の融合

平野氏:先ほどもお伝えしたとおり、アナログ規制見直しはデジタル技術の利用を押し付けたいわけではありません。人間が実施する方が効率的な業務もあると認識しておりますので、人間が実施する作業とデジタル技術の活用を上手く組み合わせることが重要と考えております。

これまで取り組みを進める上で、デジタル技術の活用に直結させること以上に、技術を保有する事業者の持つ知見について意見交換することが大切であると感じています。併せてニーズの掘り起こしも必要であると認識しており、運営するコミュニティでもニーズとテクノロジーとを繋げるような取り組みもしていきたいと考えております。

インタビューを踏まえて、衛星データの利活用の現状を改めて理解すると共に、編集部として多くの宇宙分野の事業者に技術検証に参画いただきたいと強く感じました。アナログ規制見直しやRegTechコンソーシアムを通して、技術をもつ事業者と、課題を抱える事業者のマッチングが活発化されていくと考えております。

(5) 編集部が独自調査!衛星データで代替できそうなアナログ規制は100件以上!?

今回インタビューに当たり実際に宙畑編集部でも、衛星データに置き換えできそうなアナログ規制について独自調査を実施しました!各規制所管省庁の条項を確認し、もしかしたら将来的には衛星データで置き換えられるのではないか!?という規制を約150件ほど見つけたのでここで少しご紹介します。

具体的な方法としては、デジタル庁が公開している7項目のアナログ規制というExcelファイルをダウンロードし、一行ずつ該当する条文を調査した上で、これまでの衛星データ利活用の実績を踏まえて、現時点での市販の衛星データのスペックでは無理なものも将来的には可能性がある物まで含めて衛星データ利用の余地があるか、宙畑編集部が独自に抽出したものになっています。

詳細は、以下のスプレッドシートをご覧ください。
【公開用】アナログ規制_衛星データ活用可能性調査結果

省庁別に見てみると、環境省や国土交通省、農林水産省が多い結果となりました。

具体的には、環境省の大気汚染、水質汚染、温泉などの調査や、国交省の港湾設備点検・鉄道設備点検、農林水産省の森林の立ち入り調査などに該当する規制に活用できる可能性があることが見えてきました。

ここでは、2つの規制の例について紹介できればと思います。

環境省 温泉法施行規則

例えば、環境省が所管する「温泉法施行規則」の第1条の2第8号には目視規制として以下のような記載があります。

温泉法施行規則 第1条の2第8号

湧出路の洗浄を行うに当っては、常時、可燃性天然ガスの噴出の兆候の有無を目視により点検すること。

衛星データを利用して可燃性天然ガスを検出する例としては、可燃性天然ガスの一種であるメタンガスについて、カナダのGHGSat社が衛星データや航空機センサーを利用して施設レベルでメタンガスの排出量を測定しています。GHGSat社は地球温暖化の抑制を目的に直接メタンガスを計測しておりますが、本規制の可燃性天然ガスの噴出兆候の点検についても活用できるのではないかと感じました。

また法令とは少し異なりますが、宙畑でも過去に衛星画像の地質データより温泉地を探すような記事もございますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

農林水産省 国有林野の管理経営に関する法律

続いての例として、農林水産省が所管する「国有林野の管理経営に関する法律」の第6条第2項第2号には以下のような記載があります。

国有林野の管理経営に関する法律 第6条第2項第2号

2 地域管理経営計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
二 巡視、森林病害虫の駆除又はそのまん延の防止その他国有林野の維持及び保存に関する事項

森林における病害を衛星データで検出する例としては、衛星データを用いた森林のナラ菌感染被害域の抽出や、パーム油農園の病害検知などが挙げられます。

森林のナラ菌感染被害域の抽出では、マルチスペクトル画像を使用して感染前後の植生指数NDVIを比較し、衛星データから植生の活力や状態を把握することができます。

(出典:SENTINEL-2A/B 衛星による自然教育園のナラ枯れ観測

宙畑で紹介した株式会社ポーラスタースペースのパーム油農園における病害検知事例では、ハイパースペクトルセンサの画像を活用しています。マルチスペクトル画像よりもさらに細かい波長を見分けることで、病害の初期症状の把握を可能とし、早期に病原検知することで被害範囲も最小限に留めることができるといいます。ご興味のある方は、ぜひ過去の記事もぜひご覧ください。

衛星データが活用可能なアナログ規制の領域については、テクノロジーマップの規制に基づく業務類型(パターン2表)でも「検査・点検・監査」を得意とすることが記載されていますが、私たちも調査をする中で答え合わせをすることができました。

またインタビューの際に平野氏からご発言もありましたが、人間の目では隅々まで追いきれないような広域な情報の把握などに衛星データを活用することで、デジタル庁が目指す生産性向上につながることが期待されます。

現在公開されている技術検証の報告書では、衛星データが記載されているものとして固定資産税の事例がありましたが、今回の調査を踏まえてさらなる活用の余地があると感じています。今後さらに広い分野で検証されていくことを願っています。

(6)まとめ

インタビューを通して、アナログ規制見直しの最前線を知ることができました。
今回ご協力いただいた平野氏と石井氏は、他省庁からのデジタル庁への出向という形でアナログ規制見直しに着手されているといい、今や業種や業界関係なく全ての領域でDXが求められているように感じています。

産業や仕事のあり方自体が変わっていく今だからこそ、衛星データの利活用を広げていきたいと考えています。一方で衛星データ利活用ジレンマとして、導入コストのハードルからデジタル活用に至れないケースも存在していると認識しています。アナログ規制見直しの中で技術の信頼性の検証と共に、技術を必要とする各事業者が短期的な導入コストだけでなく、長期的なデジタル活用による効果を正しく計れるよう検証し、導入をサポートしていくことも重要であると考えています。

またデジタル庁が運営するコンソーシアムでは、企業の枠を超えたコミュニケーションが取りやすくなることで、企業が持つアナログ的な課題やそれに対応する可能性のある技術が明らかになり、規制所管省庁とともにそれらについてやり取りを深めることで、これまで以上に活発なコラボレーションが生まれることを期待しています。事業者同士の出会いのチャンスは、確実に増えると考えておりますので、改めてご興味のある方はぜひご参加ください。

「RegTechコンソーシアム ~アナログ規制の見直しで新たな経済成長を~」はこちらから参加いただけます。